第4話:盤上の害虫たち――踊らされ、砕かれ、そして『合法』に処理される
「待てよコラ」
教室を出ようとした俺に、木元が声をかけてきた。
周りを見てみると、坂本に木村、田淵が囲うようにいて、他にもそいつらに指示されて、俺を囲んでる奴らがいる。
「フーン、なんか面倒そうだから待たない、じゃあな」
教室から出ようとする俺を、さっきの女生徒が邪魔する。
なるほどねえ、俺が粋がってるだけで、今までのように殴れば、俺が言うこと聞くとか思ってやがるのかな。
もう事件化してるのに、バカすぎるだろ。
俺はレコーダーのスイッチを入れて、女生徒に言ってみた。
「き、木元が来るからそこをどいてくれ!」
そいつはこっちを嗤って手を広げてこういった。
「アンタなんか死んでればよかったのよ」
そして俺は木元に背中を掴まれた。
これを待ってたんだよ。
俺は木元に構わずに、つま先を上に向けて、女生徒の股間を手加減なく蹴りあげた。
つま先が柔らかい肉を押しのけて、その奥の骨に突き刺さる。
女生徒は白目を剥き痙攣して、股間からは何か漏れてきた。
「わー、木元に捕まったー、怖いー」
俺は棒読みの台詞とは裏腹に、笑いながら振り返る。
振り返りながら取った手を、逆一本背負いで折りながら投げていく。落とすときにはワザと肘が肋骨を折る様にして、思いっきり体重をかけると、奴は何か言ったきり動かなくなった。
肘関節から折ったし、右腕は動かなくなるかもな。
まあ、普通の刑務所より医療刑務所の方が楽だろ。
教室では誰もがその場から動けずにいた。
玲央は坂本と木村に向かい、芝居がかった様にこういった。
「そこどけてくれよ! また殴るのかい! 嫌だよ!」
そういいながら、坂本の顔に左手を振るように出す。
反射的に坂本が手を振り払った時、玲央は真正面から伸びきっていた右膝に前蹴りを入れて折る、さらに倒れる振りで、内側から足裏で踏み抜き靭帯を切る。
響く叫び声、玲央は木村に嗤いながら近づく。
木村は田淵に助けを求めるように小走りで近寄るが、お互いに玲央が怖くて隠れあう始末だ。
玲央は田淵に向かって嗤って言う。
「今日もナイフ出すのか? 怖いからやめてくれよ」
コイツはいつもポケットナイフを持ち歩き、玲央の前で猫などを殺しては脅かしていたのだ。
いつもと違う玲央の態度に恐怖を感じた田淵は、ナイフを出して玲央に向けてくる。
木村も何処からか手に入れたハサミを握りしめている。
玲央が無造作に間合いを詰めていくと、田淵は引きつった顔で玲央にナイフで突きかかる。
しかし、まるで途中に風船があるかのように田淵は止まった。
ナイフを握ったまま、突き出されて止まった腕を捕まえ、そのまま勢い付けた立ち脇固めで肘と肩をへし折り、倒れた所を顔面を踏みつけて鼻と上あごを潰したら、靴の形に顔が凹んだけど、あれくらいじゃ人間って死なないからセーフ(笑)
残っているのは木村だけだ。
俺は、ゆっくりと木村の方を見て近寄っていくが、その時木村がそばにいた女生徒を捕まえてハサミを向ける。
「きゃああああ、瀬里奈!」
「本条! こっち来るんじゃねえ!」
人質の香川と、その友人らしい女がうるさくてイラっとした。
「来るもなにも、お前らが邪魔してるだけで、俺は売店に行くって言ってるだろうが。そこどけよ出ていけないだろうが」
木村が出口に向かう方向を開けたので、俺は横を通り過ぎながらスマホを取り出すと俺の事件を担当してる刑事に電話する。
「ああ、本条です。実は今日から登校してまして。はい、早速襲われまして、怖かったです。そして木村ってのが居ましたよね? そいつが教室で女生徒を捕まえてハサミを向けてるんです!。大至急パトカーおねがいします」
そして失禁してる人質の香川にも言う。
「おい香川、誰も助けてくれないなあ、ザマァwww」
「まじめで良い娘? 虐め見て笑ってたクソ女がいい子ぶるな」
俺はスマホを振りながら木村に聞いてみた。
「お前、強盗殺人未遂の容疑かかってるときに、教室で刃物で女生徒を人質にとるって……無期懲役狙いか?」
木村はそう言われ、熱いものを触っていたかのようにハサミを投げ捨てて、香川を放して座りこみ、子供のように号泣した。
4人が半死半生で倒れており、人質にされた香川は失禁して泣いている、犯人の木村は、行く末を悲観して号泣している。
そんな中で玲央は、とても楽しそうに笑っていう。
「ハハッ、まずは害虫が《《勝手にいなくなった》》なあ」
「さて、そこのお漏らし女とかお前らはどうなのかな?」
そういって教室を見回す玲央。
自分に先が無いことを理解した木村が、泣きはらした眼に憎悪をみなぎらせて、田淵が落としていたナイフを拾い立ち上がる。
(よしよし、お前だけ怪我無いんじゃ不公平だったしな)
「もう止めようよ、木村君、争いは何も産まないよ?」
などと、全く思ってない事言ってみたら、木村が怒った。
「本条ー!どうせ無期ならテメエ殺してやる!」
そう言って木村はナイフを突き出してくる。
スピードも無く、覚悟も足りない刃物なんて、風をつかうまでもないのだが、風を体に纏わせて重要な部分は守りつつ、脇腹の皮だけワザと斬らせてから、がっちりと脇で腕をホールドする。
その時、警察官が教室に飛び込んできた。
チッ、いたぶってる暇は無くなったようだ。俺は左わきで腕を抱えたまま、全身のバネを使って右に回転して背中側に腕を畳みながら背中に乗って腕と肩を折る。
肘じゃなく上腕を折ってしまったが、戻るかは厳しいだろ。
俺は斬られた脇腹を大げさに押さえながら、警察官に保護してもらい、救急車で病院に逆戻りした。
それからは大変な騒ぎになり、マスコミも大勢やって来て、高校どころか俺が入院してる病院まで空撮されていた。
それはそうだろう。
水難事故だと思っていたのが、高校のクラスメイトによる虐めからの強盗殺人未遂で、しかも高校は虐めを隠蔽してた。
更に逮捕前とはいえ被疑者が学校に通い、《《事件を乗り越えて》》登校した被害者を、集団で凶器迄使って襲い、加害者の一人は何故か刃物使って女生徒人質取るわ、最終的には被害者が斬られるわで、どこをとっても《《美味しい事件》》なのだから。
そして、警察も事実関係の把握に頭を抱えていた。
未成年で逮捕前とはいえ、強盗殺人未遂の被疑者を学校に行かせている間に、被疑者と被害者が接触して起こった事件である。
被疑者の勾留についても、玲央の退院を把握してなかったのも、警察が悪いとの批判は避けられないだろう。
だが、それ以上に警察は、玲央があの程度の傷で、集団で襲撃した木元たちが大怪我をしたという事が信じられなかった。
確かに玲央の言う通りの音声データもあるし、見ていた目撃者たちも「玲央は襲われたから仕方なく反撃してた」と証言しているが、相手の怪我が酷すぎるし、手並みも鮮やか過ぎる。
玲央は暴力的ではなく、むしろ常に被害者であり、抵抗する術があれば、そもそも強盗殺人に遭ってはいないのだ。
だが、教室に突入した警官は、腕を抱えた玲央が、こちらを見ながらワザと折った様に見えたと言っていた。
彼は柔道の有段者だが、「あれは町道場の裏技で教えるような技ですよ」と言うのだが、本条玲央に格闘技経験はない。
警察は疑問を抱えながらも、被疑者が被害者を校内で集団で襲い、刃物で怪我をさせており、さらに犯人の一味が、他の生徒にも刃物を向けて人質に取ってる事などから、正当防衛だとの意見が多く被害者を擁護の世論もあり、上層部もそう判断するに至り、それに沿って《《事件は作られていった》》。
戻った病院で調書を取っている途中、休憩して自販機で飲み物を飲んでいた玲央を見つけた警察官が近寄って来た。
「気持ちは分かるけど犯罪はしないように」
と言ってきた警察官だった。
「これが君が言ってた、合法で人を潰す手段のひとつかい?」
「いやね、正直煽ったりはしましたけど、あいつらがバカ過ぎて。俺襲うのも頭悪いなあと思いましたが、女生徒を捕まえて刃物突きつけるとか……、ヘタすりゃ無期ですよ?」
玲央は病院の喧騒を人ごとのように見ながら、ポツリと言う。
「やっぱり、《《ゴミは全部》》捨てるべきだよな」
玲央はジュースを飲み干し、ゴミ箱に捨てた。




