第2話:「ただいま、母さん」、そして始める合法的『害虫駆除』
「よいしょっ……と」
その日、溺水(溺れたこと)で意識不明のまま、ICUで治療を受けている本条玲央の点滴を変えていた二階堂海未は、玲央の優し気な顔を見る。
玲央の顔を見ると、ステージ4のすい臓がんで同じ病院に入院していて、息子が水難事故で運ばれてきてから、病を押し、許される限り毎日この部屋にやって来る彼の母親、本条玲那さんを思い出してしまうのだ。
母子二人だけの家族に、運命はなんと残酷なのだろうか。
ナースになってから、何度もこういう場面を見てきたのだ。
また、救いのない結末で終わるんだろう。
「神も仏もいやしないわね……」
海未は呟き、病室を出て行こうとした時だ。
「神も仏も見たことないけど、地蔵はいるみたい」
海未はビクッとして、恐る恐る振り返ると、そこには上半身を起こして、目を開けてサムズアップしてる玲央がいた。
「あ、あ、あ、」
「看護師さん、『あ』しか言ってないけどw」
「先生ー! 誰か先生呼んで! 本条さんが、本条さんが!」
一気に騒がしくなるICU。
色んな先生が来て玲央の診察をする。
病院としても、目を覚ます可能性はかなり低いと思っていて、人工呼吸器をどうするかを母親と話し合う段階だったのだ。
そこに、知らせを受けて自分の病室から駆け付けた玲那。
会うなり玲央の事をポカポカと叩き、ぽろぽろと泣く。
玲央の記憶の底から、母親への気持ちが溢れてくる。
「ゴメン、心配かけたね。ただいま《《母さん》》」
玲那は玲央の顔をじっと見ると、
「おかえり」
と言ったのだった。
そして、医師たちからの検査や、体調についての聞き取りが一通り終わり、落ちついた数日後。
担任と主任が、お見舞いと学校としての事故の調査に来た。
ちょうど事故の調書をとりに警察が来てたが、調書が時間かかるので、先に学校の関係者からにすることとなった。
今回の事故は、玲央が授業をさぼって、転落した事故で学校には責任はない。どうやらそういった話をしに来たらしい。
玲央(善造)はおもわず笑ってしまい、教師たちに言った。
「先生、そんな暢気な話じゃないですよ」と。
担任は何を言われてるのか分からず、玲央に聞く。
「本条、お前何言ってるんだ? まだ調子悪いのか?」
「アンタは知ってるはずだろ? クラスの中で、木元たちが虐め、いや傷害や強盗繰り返して、俺含めて被害者がアンタに申し出てたのに、『遊びだろ』で見過ごしてたよな」
「主任、アンタには録音も聞かせたけど『だれか特定できない』とかで、なあなあにして木元たちには何もしなかった」
「結果、アイツらは『遊び』で『特定できない』なら、何をしても良いと思い込んで、今回の犯罪に走ったんだよ」
「本条、お前一体何を……」
「今回のは俺が落ちたんじゃない。木元、坂本、木村に田淵。この4人が俺の財布とって、返せと言ったら4人がかりで海に放り込んだんだよ。しかも石投げたり置いてあった梯子で沈めながら『死ねよ』だの『死ねばいいのに』と殺人をにおわせる言葉を言いながら溺れさせた『強盗殺人未遂』だ」
突然の玲央の暴露に、担任と主任は固まっている。
ICUにいた病院関係者は驚き、玲那は教師たちを睨み、近づいていくが、警察が玲央に、
「本条君、詳しく聞かせてもらえるかな」
「はい、すべてお話しますし、今までの虐めの証拠もあります」
と言ったのを聞き、玲央が笑って見せると椅子に座った。
警察は教師たちに、被疑者の生徒たちに無駄に接触して、検察の捜査を邪魔しないように言ってからICUから出す。
玲央は帰ろうとする教師たちを呼び止め、
「こんなんで終わらないよ。俺の人生はアイツラとアンタらに壊されそうになったんだ。絶対にけじめ取ってやる」
調書を取りに来てた警察官の一人が、
「気持ちは分かるけど犯罪はしないように」
と言うので、玲央(善造)は、
「お巡りさん、合法で人を潰す手段なんて、百じゃきかないですよ? 本人だけ上司ごと会社ごと、なんなら家族ごとだってね……。じゃあね先生たち、学校で会えるのを楽しみにね」
そして玲央は警察に、
「では当日の事を、最初からお話しますね。あれは……」
と、事情を説明していったのだ。
善造が玲央になって知った事だが、玲央はせめて証拠を残そうと、いつも古いスマホを記録用に持っていて、音声や動画を集めてクラウドに保存していたし、どこかに連れていかれる時は、防犯カメラが見えたら記憶していたのだ。
その中には木元たちと玲央が写ってる動画もあるはずで、木元たちがあの日一緒にいなかったと否定しても無駄だろう。
あの日も木元たちは、財布と一緒に玲央のスマホも奪ったと思っていたようだが、忍ばせていた記録用のスマホには気が付かなかったようで、病室の引き出しに入っていた。
完全防水で落ちて間もなく救助されていたために、壊れていなかったことが幸いして、証拠として当日海に落とされるまでの音声データも渡すことができた。
(まあ、ここまでは玲央のおかげが大きい。お前も自分ができることして抗っていたんだな。見てろよ、あいつらも捕まったからと終わらせるつもりはない。教師やクラスの連中もな)
そして、玲央はニッコリ笑ってこういったのだ。
「先生、明日退院していいですか?」




