第1話:地蔵とオッサンと高校生活二周目
ICU内で看護師たちがあわただしく動いている。
ベッドに寝かされているのは、50絡みのガッシリした男性で、仕事場で急に意識を失って運ばれてきたのだ。
「松井さん!聞こえますかー」
なんだかやかましいなぁ。
聞こえてるよ。
ん? あれ、なんか体動かないわ。
仕事場で目の前が暗くなったまでは覚えてるんだけど。
「アドレナリン! 至急で投与して」
あら、先生たち頑張ってくれてるなあ。
でもね、自分で血圧下がっていってるの分かるのよ。
俺死ぬんだな。
死ぬ時ってこうなるんだなあ。
嫁は先に行ってる、子供は育て上げた、孫も抱いた。
うん、ちょっと早いけど、松井善造52歳、良い人生だったわ。
「……で、何であんたが居るんだよ?」
気が付くと遠くに雪を頂いた山が見え、大きな木が伸びてる、何やらありがたい雰囲気の丘があった。
そこにいたのは、俺の家の横に有った見慣れた地蔵さんだ。
家を建てた時に、端っこの方に壊れた『祠』があることに気が付いて、中の地蔵も風神像も直して、それ以来ずっとお世話してきたから見間違える事はない。
特に信心深いわけでは無いが、大きな不幸も無く過ごせたのはコイツのおかげかなあと。
不敬な俺だったのだが、ここで会えるとは。
「ま、最後に会えてよかった! いつも見守ってくれてありがとう。俺は行くけど、孫たちも頼むな!」
俺は、丘にのてっぺんにある祠に手を合わせながらった。
「お前は相変わらずだね。我は菩薩よ? 実は偉いさんよ?」
地蔵は呆れた顔をした気はするが、石なのでわからん
「そうなの? その割に見つけた時は汚かったけどな!」
「まあ、あの頃はな……。それでな、我はお前への感謝になにかしたいと思っとるんだが何か希望有るか?」
俺は顎に手を当てて考えてみたのだが
「有難いけど、 8何か期待してやってた事じゃないしな。あの道を通学するガキどもを、守ってくれって頼むくらい?」
地蔵は苦笑い(だと思われる、石だし)で、
「そりゃお前に言われんでもやるわ。何かないか?」
善造は考えてみた。
特に人生に不満はない。嫁には満足、子供も孫も可愛い。
趣味も自由にさせてもらった。
仕事も、良い縁に恵まれ、起業もできた。
ちょっと早い寿命だけど、別に不満はないのだ。
だが、ふと思ったのは、高校生をやり直したいなと……。
虐められてた訳では無い、楽しかった思い出も沢山ある。
しかし、俺のいた高校は工業高校で9割がヤンキーで、共学なのに入学した女子は二人だけ。
二人もあっという間にヤンキーになり、退学していった。
当時の工業高校に、甘酸っぱい青春などなかった。
甘酸っぱいのは、洗わない柔道着の匂いしかない青春など、俺は本当は欲しくなかったんだ。
そう、もう一度高校生に戻れたら、きっとバスケ部か軽音に入って女子にキャーキャー言われたいな。
間違っても柔道部なんぞで、骨折ったり、気絶したり、耳が潰れてカミソリで切って血を押し出すか、冷やして「ギョーザ耳」にするかなんてことを、笑って選ぶ青春などゴメンなのだ……。
俺がそんなことを言うと、地蔵は石のような顔で考えこむ。
まあ地蔵だから石で問題ないのだが。
「なあお前さん、ちょっと相談があるのだけど……」
なんでも、昔から通りかかったら手を合わせてくれてた高校生がいたらしい。
その子が事故って事にはなってるが、虐めで川に放り込まれ心肺停止から重体になってるそうだ。
地蔵はその子助けたかったんだけど、虐めを受けてた心は死んでいて、魂の大部分はあの世に行ってしまったそうだ。
なんて非道い話だよ、孫がそんな目に遭ったら、本人だけじゃなくて、親兄弟まで死にたくなるまで追い込んでやるわ。
いま生きてるのは令和の医療のおかげと、地蔵が少しでも魂をつなぎとめてるだけで、生き返る見込みはない。
なぜ地蔵がそんなことをしているのかというと、この子にはガンで余命いくばくもない母がいて、死んだら後を追いかねないので、その子を死なすことはできないし、未練を遺した魂は悪霊になってしまうからなのだという。
そこで地蔵は、
「どうだいお前さん、この子に代わって未練断ち切って母親を看取ってくれ。そのあとは好きに青春とやらを生きるってのはどうだい」
「しかし、勝手に人の人生に乗っかるってのはなぁ。その辺は本人に聞けたりしないのかい?」
「ああ、聞いてみたが魂はほとんど残って無くて、想いみたいなものだけだが、『アイツラに復讐できなくて悔しい』『母さんをお願いします』ってよ」
「子供に先立たれちゃ、お袋さんも死んでも死に切れんわな。……ヨシッ分かった! やるよ、精一杯親孝行するわ」
「おお、頼むぞ。あの子はな、季節季節の花を供えてくれた優しい子なんだ。何とか想いを叶えてくれ」
「任せろ。あとこの子を殺したガキどもは普通に潰す。これは殺人だぜ?虐めって言葉ではすまさん。復讐は被害者には権利と希望だと思ってるから止めるなよ?」
「うむ、構わん。死んだらキツイ地獄に入れるだけよ」
こうして俺は17歳の高校生、『本条玲央』になることになったのだった。
俺の体はみるみる本条玲央に変わっていく。
50を過ぎたジジイが、175センチで中肉中背の高校生くらいに変わる。しかし、随分と筋肉質で重い気がするが気のせいか?
さらに脳に玲央の記憶が入ってくる。
玲央が受けた虐めや、死んだ時の驚きと、逃げていく奴等の姿とその時の絶望感と苦しみ、そして諦め。そうか、コイツはこんな目に遭ってたのか。
絶対に許さん。キッチリと俺が落とし前つけてやる。
こういう奴らは、自分が痛い目を見ないと、仮に警察に捕まっても懲りないし、またやるんだよ。
社会的だけじゃだめだ、絶対に肉体的にけじめとってやる。
他に普段の生活や玲央の知識だけや母についてなども入ってはきたのだが、ダイジェストの映画見てるような感じだ。
例えば、知ってる映画のダイジェスト見たなら、「ああそうだ、そうだった」となるだろうが、知らない映画のダイジェスト見て「あー、あれっていい映画だよね」と言えないだろ?
こりゃ、結構苦労しそうだなあ……。
そして地蔵は額から俺に光を当てる。
「苦労かけるからな。我からは、一日一回の劣化の天眼通の神通力を授けて進ぜる。風神よ、ヌシも何か授けんか」
黙っていた風神が、風を吹かせて風は俺の周りに収まる。
「……全ての『風』は主の味方だ。どのようにでも動かせる」
「あと、玲央は虐められてたから、筋肉や反射神経をその体で最適化しておいた。筋トレでもしないと見た目は変わらん。虐めた奴等の骨くらい折ってやれ」
こうして、意外に武闘派の地蔵によって作られた高スペックの体と、善造が高校でやってた柔道で戦闘力が高くなった玲央は、目を覚ますこととなったのだ。




