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陰謀を暴いた聖女は皇太子の花嫁になる  作者: こもれびの空


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決意

 精霊が本当にこの件に関わっているのなら、とても人間の力では敵わないだろう。


「もしも精霊がオズワルド・クレイに力を貸したというのなら、その精霊は?」


「時を司る力を持っているのだろう」


「そんな!もしもそうなら成すすべなど御座いませんわ」


「だからと言って、このような所業を許しておく訳にも行くまい。

 どうしてもオズワルド・クレイを捕らえないと、精霊の力で、また別の時間軸に飛んでしまうかも知れない」


「ノア、貴方は本当に、そのような精霊がいると信じているのですね」


「あぁ。オズワルド・クレイという名前。

 星の書。星の欠片。星の娘

 全てを繋ぎ合わせれば、結論は他に見当たらない。

 しかも、娘たちの擬態は親、兄弟すらも欺いたのだ。

 人間の力ではない。

 そして龍は単純だ。

 このような複雑な絵は描かない。

 だとしたら、精霊しか残らないではないか!」


「えぇ、貴方がそうおっしゃるならば、それが事実でしょう。

 でも、どうすれば良いのです。

 シーフと皇太子たちは既にオズワルド・クレイを捕まえるためにプロイセン王国に潜入しているのですよ」


「子供達の命は守ってみせるさ。

 それでサトリ。可哀そうな娘たちはお前ひとりに任せてもよいだろうか?」


「セーラの力が必要ならば、お連れ下さい。

 私はひとりでも大丈夫です。

 こちらの仕事は、若い娘には過酷ですから、かえってその方が良いかも知れません」


「すまない。苦労をかけるな」


「何を仰っているのです。

 私達は夫婦でしょう?

 それにこの国と子供達を守る為なのですから、御存分に働いて下さいませ」


「ありがとう。

 セーラにも苦労を掛けると思うが、頼めるか?」


「はい、おじい様。何でも仰ってください。

 私は何をすれば良いのですか?」


「これから黒龍の住処に向かう。

 私の予想が正しければ、黒龍は小竜を育てている最中だと思われる。

 龍の子が人化できるまでには100年ほどかかるらしい。

 その間、龍は自分の魔力を小竜に与え続けるから、巣穴から出てこれない」


「判りました。

 私のお役目は、子龍さまに龍に成り代わって魔力を与えることなのですね」


「その通りだ。

 セーラ。そなたの魔力は温かい陽だまりのような力だ。

 きっと小竜さまも受け入れてくれるだろう。

 ただ、膨大な魔力を与え続けることになる。

 小竜は容赦なくそなたから魔力を吸い取るだろう。

 場合によっては、そなたの命すらも投げ出すことになるかもしれない。

 それでも、受けてはくれないだろうか?

 頼む。私には他に方法を思い付けなかったのだ」


「何という事を頼むのです。

 それならば、私がその役目を引き受けましょう。

 私たちは老いた。

 セーラは若い。未来があるのですよ」


「サトリ。そなたならそう言うと思っていた。

 しかし無理なのだ。

 そなたは老いた。私も……」


「私達では、小竜に魔力を与えられないのですか?」


「出来るものならばセーラに頼むものか。

 自分の命を投げ出すことを、この私が厭うとは思わぬだろう?」


「お任せ下さい。おじい様、おばあ様。

 私なら大丈夫です。

 体力には自信があるのです。

 ちゃんと小竜さまの命をお守りして、自分も生き残ります。

 死んだりなんか致しませんから、ご安心下さい」



 おばあ様はぎゅっとセーラを抱きしめた。


「ありがとう。

 強い子ね。セーラは。

 小竜さまをお願いするわね」


「良い娘だな。皇太子なんぞには勿体ない娘だ」


 おじいさまの目が少し潤んでいるようだったが、セーラは見ない振りをした。


「さぁ、もう行くぞ。

 セーラは私の手を離さぬように。

 時間がないから、転移を重ねることになる。

 すこし酔うかも知れぬ。気分が悪くなったら我慢せずにそう言ってくれ。

 無理だけはするな。

 セーラにはお役目がある。

 休息を取ることも仕事だと思ってくれ」


「判りました。おじい様。

 辛くなったらすぐに言います。

 おじい様も無理はなさらないでくださいね」


「いくらなんでも、セーラと一緒にされても困るな。

 私は鍛えているのだから」


「ええ、ええ。そうでしょうとも。

 けれどもおじいさまは、お年なのですから」


「こいつめ。言わせておけば。

 私を年寄り扱いするつもりなのか?」


「はい!」


 元気よくセーラはそう返事をしたので、さしものノア前公爵もがくりと肩を落とした。

 そうして小さい声で呟いた。


「存外肝の据わった娘なのかも知れぬ」


 セーラは聞こえていたけれども、黙っていた。

 転移が始まった。

 1回、2回、3回目に、とうとうセーラは根をあげた。


「おじい様、少し辛いです。休息をお願いいたします」


「よく頑張ったな。今夜の宿はここにするつもりだったのだ。

 セーラの体力は、鍛えた兵士並みだな」


 地面が揺れている。

 塩の香り、すこし湿った空気。


「おじい様、まさかここは!」


「正解だよ。さすがにデルマー大商会だ。

 ピッタリ座標通りだ」


「お待ちいたしておりました。ノア老公」


「助かった。さすがに転移で大海原は越えられぬわ。

 若い頃とは、何もかも違うなぁ」


「アハハハ。若者でも海原を越えられる者など、

 まさか漆黒の梟には、そのような者までおるのですか?」


「さて、どうだろうなぁ」


 ノアが悪戯っ子のように目を煌めかせていたから、きっとそのような者がいるのだと、その場にいた者たちは納得してしまった。


「こちらがシーフ殿の?」


「あぁ、シーフの娘。セーラだ。

 今回はセーラがいるゆえに打てる策だ。

 まさかの事はあるまいが、船の到着までしっかり警護してくれ。

 まだ先が長い。

 私も今夜は眠らねばならん」


「畏まりました。お任せ下さい。

 デルマー商会は請け負った仕事はきっちりこなします」


「判っているとも。

 デルマー商会が、跡取りまで遣わしてくれたのだ。

 この礼は後日きっちりと」


「不要ですよ。

 既に代金は頂いております。

 我等は自分たちの仕事をするだけ。

 感謝される程のことではありません」


「ほぅ、羨ましいことだ。

 デルマー商会は、跡取りに恵まれたとみえる」


 ノアの手放しの賛辞に、さすがのデルマーの若頭も少し照れたようだ。


「お前ら、何をしている。さっさと老公をご案内しろ」


「姫様は私がご案内いたします。

 どうぞこちらへ」


 セーラはおじいさまの顔を見た。

 おじいさまが頷いたので、セーラは若頭の後に続く。


「姫は、随分用心深いのですね」


「セーラとお呼び下さい。

 私は、言われる程のものを持ち合わせてはおりませんから」


「さぁてね。それはいかがでしょう?

 私には十分に姫君として立たれているように見えますがね」


「ありがとうございます。

 若君にもご苦労をお掛けいたしますが、よろしくお願いします」


「ライトですよ。

 若君なんて呼ばれると、くすぐったくていけない。

 ライトとお呼び下さい」


「セーラと呼んでくださるなら」


 ライトはにこりとして言った。


「判りました。セーラ。交渉成立だ」


 ライトは部屋に案内すると、すまなそうな顔をした。


「商船なので、侍女のご用意は致しておりません。

 風呂の用意はございますが、全て自分でやって頂かないといけないのです」


「ありがとうライト。

 お風呂が頂けるなんて嬉しいわ。

 船では真水は貴重品でしょうに。

 気を使わせてしまったわね」


 今度こそライトは破顔一笑した。

 そして黙って礼をして部屋から離れた。


「居るか?」


「ヘイ!」


 影の中から声がした。


「万全の態勢をとれ。決して気を抜くなよ」


「判っていますよ。しかし若も随分あの娘が気に入ったようだ」


「馬鹿を言うな。あの娘は皇太子の想い人だ」


「成る程。

 諦めるほどの想いなら、さっさと諦めるのが吉ってもんだ」


 そう言ってそのまま沈黙してしまったが、ライトは考え込んだ。

 俺は諦めるつもりがあるのだろうか?

 もしも、諦めなければ、大海原を探すことになる。

 皇太子でも追いきれないだろう。


 そこまで考えて老公の顔が浮かんだ。

 無理だな。

 俺にはあの爺とやり合う勇気はない。

 つまりは其処までの気持ちなのだ。

 そう考えてライトはすっきりした。


 俺は恋を知ると同時に失恋したわけだ。

 親父どのが聞いたら笑うだろうなぁ。

 そう思うと、もっと強くなりたいとライトは願った。

 初めて腹を括った瞬間だったが、ライトはまだ気づいていない。

 己の顔がようやく大人の男の顔になったことを。



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