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陰謀を暴いた聖女は皇太子の花嫁になる  作者: こもれびの空


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時の女神

 宵闇の帳が深く降りるころ、セーラは上下に揺れるベッドの中で、うつらうつらと眠っていた。

 熟睡するには、あまりにも緊張していたから。

 だから気がついた。

 深い闇の中で、自分を見つめる者がいることを。


「誰?誰なの?」


「ほほぅ。わらわが感じ取れるのか?

 興味深い娘だ。

 なるほど、命の女神の加護持ちか?

 面倒なことだ。

 消してやろうかと思っていたのだが、女神の愛し子を飛ばす訳にもいくまい。

 人間ごときが、いかほどの事が出来るものか?

 あがいて見るも良かろう」


 その時、セーラの前に躍り出る人影があった。


「貴様は何者だ!

 どうやってこの船に入り込んだ。

 部下たちが軒並み倒れ込んでいる。

 貴様の仕業か?」


「ほほう、人間とはかくも面白い生き物なのか?

 わらわの息吹を受けて立っている者がいようとは!

 お前。お前に免じてそなたの部下たちは助けてやろう。

 永久の眠りを与えようと思っていたのだが」


「何を!」


 パチンと何かが切れた音がした。

 その瞬間、屈強な男たちが部屋に飛び込んできた。


「若!申し訳ない。不覚を取った」


「けなげな者よ。

 わらわに助けを乞いたければ、闇に問うがよい。

 時の女神の慈悲は乞えるかと。

 気分次第で耳を傾けるかも知れぬぞ」


 そして嘲笑するような笑い声と共に消えてしまった。


「若、一体今のは何だったんだ?」


「判らぬ。しかしここは乙女の部屋。

 むさくるしい野郎どもが、入り込むものではない。

 皆、外に出ろ!

 ノア様を呼んで来てくれ」


 ノアはすぐに駆け付けた。


「やはり時を司る者の仕業だったのか?

 推測が当たって、喜ぶべきか、悲しむべきか分からないね。

 神を自称するとは思わなかった」


「老公、まさか本当に女神さまでは?」


「わからぬ。

 過去の記録には神が降臨した事はないが……

 その辺りは古龍の記憶の継承者であるクラウスに聞くしかあるまい。

 どちらにしても、人間界への過干渉は戒められているはずだから、勝機が無いわけでもあるまい」


「凄いなぁ、神を前にしても戦うおつもりなのですか?」


「理と言うものがあろう。

 家族を攫って慰み者にし、偽の家族を潜りこませるなど、許して良いものではあるまい。

 たとえ神だとしてもな。

 私は精霊であろうと思っていたのだが」


「それにしても、オズワルド・クレイという男。

 どうしてここまで魔法使いを憎むのでしょうねぇ。

 何が彼をそこまで駆り立てたのか?」


「魔法使いを憎む。

 なるほど、それが目的であったのか。

 我らはアストラル皇国が標的と思っておったが、前提が違うのかもしれぬ。

 この世界から、魔法使いを消滅させる。

 その為に、魔法使いの国であるアストラル皇国を狙っていたのだ。

 プロイセン王国の商会とアストラル皇国には接点が無かったのが疑問だったが、それなら納得できる」


「魔法使いの消滅。

 それなら過去にも、ありましたね。

 もっと直接的な方法でしたが」


「あぁ、昔おきたことは宗教がらみだ。

 神の権能の一部分であろうとも、人間が使うことは許せなかったのだろう。

 しかし、今回は違うようだな。

 多分、不公平だと言うのだろう。

 一部の人間だけが魔力を持つことが」


「どちらにしろ、過激であることは間違いではないでしょう?

 龍が人間の娘を伴侶にするからには、人に魔力が流れることは阻止できない」


「そうだ。

 どうしても人間が魔力を持つことが許せないなら、龍を根絶するしかない。

 まさかそこまで狙っている訳ではないと信じたいが」


「どっちにしろ、大きすぎる敵だ。

 命がいくつあっても足りないかもしれませんね」


「あぁ、それでも大事な子供達の命は守ってみせるさ。

 このおいぼれの命にかけてもな」


「御老体なのだから、あまり無理しちゃいけませんぜ」


「そちまで、わしを老人扱いするのか?

 年は取りたくないものだ。

 まだ夜は深い。

 皆休むがよい。

 今夜はもう何事も起きないだろう

 明日に備えて眠っておけ。

 休むのも大事な仕事の一部だ。

 セーラ、驚いたろうが、少しでも眠っておきなさい」


 そう言ってノアは眠りの魔法をかけたから、セーラはすやすやと眠ってしまった。


「お優しいことで。

 老公。鳥を飛ばすなら、準備は出来ています」


「闇を飛ぶ鳥を持っているのか?」


「ここはデルマー商会ですからね」


「それならお願いしたい。行先は4か所だ」


「準備が出来たらお呼び下さい。

 こちらはいつでも結構です」


 ノアは頷いて部屋へ戻った。

 急いで書簡を書くのだろう。


 翌朝、昨日の出来事などなかったような美しい朝日が海から顔をのぞかせている。


「綺麗だわ。おばあ様にも見せてあげたいくらい」


「豪胆なお姫さまですね。

 今朝は怖がって部屋から出ないと思っていたのに」


「ライト、夕べはありがとう。

 守ってくれて。

 怖がっているより、自分の出来ることに目を向けるほうが建設的だわ。

 そうは思わないの?」


「おっしゃる通りですがね。

 こんな場合、悲劇のヒロインの様に怯えたり、嘆いたりするものではと思っただけさ」


「余裕があるのね。悲劇のヒロインには。

 私には、そんな余裕はないわ。

 がむしゃらに進むだけ。

 それが良いことばかりでは無いことは知っているけれど」


「余裕か。

 それが必要なのは判るけれど、がむしゃらに進むしかないときが多いですなぁ。

 俺らには」


「フフフ、ライトもなの?

 私もよ。生真面目すぎると言われるけれど、なかなかね。

 難しいわ。ずっとそう生きてきたから」


「あぁ、そうだなぁ。

 ただ頑張るだけでは周りが見えなくなる。

 時々は立ち止まって、人の気持ちを見てみると良いかもしれないね」


「はい。そうします。

 立ち止まる。深く呼吸する。そして周りを見る。

 大事ですよね」


「セーラ様は他人に頼らずに生きて来られたのですね。

 他人に助けを求めることも大切です。

 立ち止まったら、それも考えてみてください」


「はい、いつも私は自分しか見えていないから。

 こんなに守って頂いているのに」



「セーラこんなところにいたのか?

 転移を始めたいのだ。

 食事を済ませてしまおう」


「おじいさま。畏まりました。

 ご一緒に食事ができますか?」


「勿論だとも。孫娘と食事が出来る日が来るとは思わなかった。

 一緒に食べよう。ライトも一緒にどうだ?」


「残念だな。もう食っちまった。

 こうなると判ってたら食わなかったのに。

 お二人で食事をなさって下さい」


「そうか?

 では、セーラ行こうか?」


 朝食を済ませると、ノアはすぐにセーラを連れて転移した。


 1度。2度。3度。


「あと1回でクラウスの住まう山に着く。

 もう少し耐えられるか?


「はい、おじい様」


 セーラのそれは強がりだと分かっていたが、ノアは最後の転移をした。

 時の女神の出現が、ノアを焦らせたのだ。


「おじい様、おじい様。しっかりしてください」


 セーラの悲鳴が山懐に響き渡った。


「全く、何をやっているんだ。お前たちは?」


 ぼやきながら現れた青年を、セーラはクラウスだと信じた。


「黒龍さま、おじいさまをお助けください。

 おじいさまは4度転移を繰り返して、倒れてしまったのです」


「世話をやかせやがって」


 クラウスはぶつくさ言いながらも、丁寧にノアに魔力を送る。


「魔力切れを起こすなんて、ど素人でもあるまいに。

 何やっているんだ。お前は!」


 ノアが目を覚ますなり怒鳴りつけるから、セーラはびっくりしてしまう。

 されどもノアはケロっとした顔で、言い返した。


「お前がいるから大丈夫だと思ったんだよ。

 可哀そうに孫が怯えるだろう。大声を出すな」


「連絡は貰った。

 全く無茶ばかり言ってくるな。お前たちは。

 まぁいいさ。僕たちの小さな赤ん坊を見てくれ」


 そう言うとクラウスは、自分のねぐらにノア達を案内した。

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