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陰謀を暴いた聖女は皇太子の花嫁になる  作者: こもれびの空


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龍の赤子

 山の中だというから、どのような洞窟かと思えば、中は人の館と変わらない。

 それどころか、龍化しても良いような大広間まであるので、セーラは目を丸くしている。


「こちらだ」


 龍は伴侶すら人間に見せるのを嫌う。

 それなのに、クラウスは少しもためらうことなく、寝室へと案内した。


 何人も眠れるような、恐ろしく巨大なベッドに座っているのは、青い髪と青い瞳の少女のような女性であった。

 黒龍の番が、神龍様の娘であることは聞いていたけれど、聡明な瞳をしたこの少女が龍の娘なのだろう。

 人間と言うよりは、少し精霊に似ているのは、長く人間界から遠ざかっていたからだろうか?



「ステラさま。このようなところまで押しかけてきて申し訳ございません」


 ノアが深々と頭を下げた。

 動物でも子育て中に巣穴に入ることは許さない。

 人間だって、産後の女性には配慮するものだ。

 それなのに、ことのほか伴侶や子供を大切にする龍の巣穴に、ずかずかと入り込んだのだ。

 ノアとしても、いくら頭を下げても足りないと思っているのだろう。


「ノア様。そんな風に頭など下げないでください。

 お手紙は読ませて頂いて、大体の事情は把握しているつもりです」


 ステラはそう言ってにっこりと笑った。


「貴女が、私と一緒にこの子を育ててくれるセーラ様ね。

 近くに寄って、この子を見て下さらない?」


 そう言われてセーラは、恐る恐るステラ様に近づく。

 よく見るとステラ様は、自分の心臓のちかくに、とても小さな生き物を抱え込んでいた。

 そっと、柔らかな布に包まれたそれを、ステラ様が見せてくれる。


 小さい。

 セーラの手のひらに乗るくらいの小さな龍。

 それでもかろうじて龍だと判る姿をしていた。

 爬虫類と言うよりは鳥のひなに似ているとセーラは思った。

 ぽわぽわとした綿毛に包まれている小さな龍。

 なんと愛らしいんだろう。

 セーラは思わず呟いた。


「なんて可愛らしいのでしょう」


 そして慌てて口を噤む。

 不敬だったかも知れない。

 けれどステラ様は、にっこりと笑っておっしゃった。


「そうでしょう?

 私も、初めて龍の子を見た時にはそう思ったわ。

 ふわふわした綿毛に包まれて、とても龍の子だとは信じられなかったのよ」


「百聞は一見に如かずというわ。

 これで理解してもらえたと思うけれども、龍の子は、24時間ずっと魔力を与え続けなければ死んでしまうの。

 それが100年も続くのよ。

 龍を産むというのは、そういうことなの。

 クラウスが巣穴にいない間、セーラは12時間、この子に魔力を送らなければならない。

 出来るかしら?」


「はい、この命に代えましても幼龍さまをお守りします」


「貴女は魔力量は十分にあるから、死ぬなんてことは心配しなくて大丈夫なのよ。

 ただ、恐ろしく退屈だと思うわよ。

 魔力を注ぐ以外には、食べて寝るだけの生活になるから」


「そんな!これ程名誉ある役目はございませんわ。

 退屈なんて、とんでもないことです」


 ステラ様はクスクスと笑った。


「貴方はそういうけれどね。

 いくら可愛い我が子でも、この生活が100年も続くと思えば退屈もするわよ。

 この子の名前は、ナイト。これからは名前で呼んであげてね」


「畏まりました、ステラ様」


「ステラと呼んで。私もセーラと呼ぶから。

 これからしばらく二人きりなのよ。

 気楽にすごしたいわ」


「はい。ステラ」


 セーラはあえて名前を呼び捨てにした。

 敬語がステラによそよそしさを感じさせるなら、やめた方がよい。

 ステラに必要なのは、憂いなく過ごすのんびりとした時間なのだ。

 それなのに、私達が青龍を死地に送る。

 ステラが望むことは、何でも叶えてあげたいセーラだった。


「女たちは、うまくやっていけそうだ。

 ノア。私たちは、隣でこれからの作戦を練ろう」


 そう言ってノアとクラウスは部屋を出て行ってしまった。


「セーラ、服を着替えて。

 幼龍の為に、肌触りよい、柔らかい素材の寝間着を選んでいるの。


 見たところ、私の服が使えそうだから、今着ているものは、全部始末して、こちらで用意しているものだけ身に着けて欲しいの。

 隣がフィッティングルームになっているわ。

 いらない服は焼却してね」


 セーラは急いで着替えた。

 幼龍にとって、何が障りになるか分からない。

 のこのこと幼龍に近づいた自分が情けなかった。


 セーラが着替えて戻るとステラは、セーラをベッドに入るように促した。

 セーラがおずおずとベッドに潜りこむと、セーラの右胸にナイトをすっぽりと放り込んだ。


「その体勢が一番楽だと思うわ。

 そうやって寝転んでいると、寝てしまうかもしれないけれど、気にしないで。

 貴方は何もしなくても、龍が貴方の魔力を吸いこむから。

 どう!感じられる?」


「はい、ナイトがしっかりと魔力を吸っているのが判ります。

 でも量はそれほどではありませんね。

 これなら12時間でも、私の魔力量は減りそうもありません」



「だから言ったでしょ?

 貴方は魔力が多いって。

 普通の人間なら、魔力切れをおこすわよ」


「12時間交代って訳じゃないから安心して。

 私は、ナイトとぐっすり寝た後だから、食事でもしてくるわ。

 そしたら交代するから、貴方も食事にしてね」

 パントリーに、ありとあらゆる料理を、クラウスが詰め込んでいるから、好きに食べてちょうだい。

 それじゃぁ、よろしくね」


 セーラは少し驚いた。

 初めて出会った人間に、大切な幼龍を預けて、しかも目を離すなんて!

 信頼されているのだろうけれど……。

 セーラとしては、かなり悲壮感を持ってやって来たので拍子抜けした気分だった。


 幼龍の体温は、セーラよりも温かい。

 胸にナイトの温かさを感じながら、寝転んでいると、セーラはいつの間にか眠ってしまった。

 幼龍の寝息が、絶妙な子守歌の役割を果たしたし、とにかくセーラはとても緊張してあまり寝ていなかったのだ。


 セーラがぐっすりと眠ったのをみて、ステラも安堵していた。

 人間の娘が龍の子守り?

 ステラは不安で堪らなかったのだ。

 けれど、セーラはナイトと眠った。


 セーラには言わなかったけれど、幼龍は相手を眠らせて魔力を吸いだす。

 眠っている時が、一番自然で安定した魔力だから。

 起きていても、魔力を与えられはするが、幼龍が落ち着かなくなってしまう。


 龍と共に眠ることの出来る娘。

 なんとも貴重な娘が現れたものだ。

 もしかすると、この娘はナイトの番かも知れない。


 今世は皇太子の花嫁になるらしいが、ナイトが番を求めるのは100年以上も先の話。

 その時にはセーラも転生している筈だ。


 その時が楽しみだ。

 セーラには記憶は残らないだろうが、ステラはきっと一目見ればセーラだと判るだろう。

 ステラはナイトが自慢そうにセーラを連れてくる未来が見える気がした。


 ステラが隣室に入っていくと、クラウスが一瞬だけ戸惑いを見せた。

 だからステラは教えてあげた。


「セーラは幼龍と眠っているわ」


 クラウスが安堵の息を吐いた。


「さすがに老公の見立ては正確だな」



「しかし今回は女神が相手だ。

 分が悪すぎるやもしれぬ」



「ほほぅ。ノアが弱音を吐くところを見ることができるとはね。

 女神と言っても神様ではない。

 人間が、力のある精霊を女神と呼ぶだけのことだ。

 天地創造神とは全くの別ものだ」


「つまり、女神と大精霊は同じものだと?」



「馬鹿を言うな!

 大精霊など、龍が何匹いても敵うものか!

 あれは次元が違う化け物だ」


「では、女神なら勝てるか?」


「勝つしかないだろう。

 人の魔力の根源は龍だ。

 だとしたら、敵は龍の殲滅を目指しているはず。

 お前に力を貸す訳じゃない。降りかかる火の粉を払いに行くのだ」


「すまない。魔力量なら神龍なのだが」


「あぁ、あいつなら楽勝なんだが、戦う前に言葉に縛られて身動きできなくなる未来しか見えないな。

 時の女神は、悪知恵が働く」


「残念ながらその通りだ。

 セーラのような者が、あと一人いれば……。

 お前とニルヴァが揃えば無敵なのだがな」


「言っても仕方がない。

 神龍にはおよばないが、これでも龍だ。

 少しは期待してくれ」



「ハハハ、期待どころか魔法使いの命運をかけておりますぞ」


「まぁ。任せてもらおう」


 クラウスは大きく頷いた。

 

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