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星の欠片と老公爵ノアの最後の冒険  作者: こもれびの空


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出生の秘密

 その日の朝もセーラは、本日の朝食を食べてから、井戸の水くみを開始した。

 けれども、本当に自分は魔法を学べるのか?

 そればかり考えて少しも落ち着かない。


 水くみの後、エリーゼに呼ばれて行ってみると、エリーゼはご機嫌だった。


「お前、昨夜も星の欠片を探しに言ったの?」


「はい、お嬢様。参りました」


「見つけたら隠しては駄目よ」


「そんな。ちゃんとお持ちいたします」


 セーラが大慌てでそう言うと、エリーゼはげらげらと笑い出した。

「あぁ可笑しい。そんなに慌てるなんて。

 お前は、本当に星の欠片が見つかると思っているみたいだね?

 まぁいいわ。今夜も雪がふりそうだわ。

 星の欠片探しができて良かったわね」


「はい、お嬢様。仰る通りでございます」


 何を言っても、仰せごもっともと返すセーラに、エリーゼは飽きてきたらしい。


「何やっているのよ。さっさと刺繍を始めなさい。

 もうすぐ聖夜だわ。

 想い人に告白するには、美しい刺繍のハンカチが必要なのよ」


 セーラは恐る恐る尋ねた。


「お嬢様に、想い人が出来たので?」


「馬鹿ね、そんな人はいないわ。

 でも聖夜に素敵な殿方に出会うかも知れないでしょう?

 持っておかないと、チャンスを逃すじゃないの」


 こんな事すら分からない愚鈍なのか?

 とでも言いたげなエリーゼにセーラはただ黙って頭を下げた。


 刺繍をしていても、水くみをしていても、何も起きそうにない。

 とうとう夜になってセーラは、雪が降る外に出て行った。


 とぼとぼと歩きながらセーラは気が気ではなかった。

 お昼ご飯も、夕食すらきちんと届いている。

 でも、待てど暮らせど吉報というものは届かなかった。


 セーラは楡の木までひと息に転移した。

 そうして楡の木の前で祈りを捧げた。


「神様、私は高望みをしてしまったようです。

 申し訳ありません。

 もう二度と、身分不相応な事は考えませんから、どうか主さまをお守りください」


 セーラが静かに祈りを捧げていると、後ろから声を掛けるものがいた。


「こんなところで油を売っていたのか。

 雪の降る夜は隠れ家で、温かくしているようにと申しつけたのに」


 まさか。まさか。そんなことがおこる訳ない。

 そう思いながら振り返ると主様がほほ笑みながら立っていた。


「さぁ、帰ろう。君の家に」


 主さまはセーラを抱き上げて秘密の家に転移した。


 そこで待っていたセバスチャンは、もう執事の服装はしていなかった。

 高位貴族のような出で立ちでセーラと主様を出迎えた。


「おかえりなさい。ジークフリート殿下。

 連れていくと言ったのに、待ても出来ないのか。あなたは!」


「そんなに叱らないでくれ。

 番と出会った気持ちは、ノア。貴方だってわかるはずだ」


「セーラ。この人はノア・フォン・フィクトス前公爵。

 今は息子のアレクに爵位を譲って引退生活を送っている」


「少しものんびりできないけれどな。どこぞの皇太子のせいで!」


「そう言うなよ。もとはと言えばお前の息子、シーフがしでかしたことだ」


「違うね。元々はブルーノ父上の異世界人の血のせいだ。

 僕も、父上も妻ひとりを愛したというのに、シーフは恋ばかりして本気でひとりを愛さない」


「それを異世界では浮気性と言うのだろう?

 治らないなら仕方ない」


「仕方ないで済むか!

 今回は子供まで作って、しかも放置だ!」


「そう言っても、シーフは漫遊詩人を気取って世界中を旅しているから、捕まらないし、捕まえたところですぐに逃げ出す。

 性分というものはそう言うものさ」


「こいつは君のおじいさんなんだ。

 君の手首の痣は、血筋をたどるためのものだったのさ。

 君にはブルーノという異世界人の血と、ノアの結婚相手である聖女の血が流れている」


「ノア、どちらの血にも反応したのだから、お前の孫に間違いないだろう?

 何故すぐに教えてやらなかった?」


「はん!どうせお前が出張ってくると踏んでいたからだよ。

 実際、わざわざやって来たくせに」


「あぁ、大叔父様が残してくれた転移門が大いに役立ったよ」


 ふたりでそんなやり取りをしていたが、やがてセーラの気持ちを置いてけぼりにしていたことに気がついたらしい。


「セーラ。

 大体のところは今のやり取りで察したろうが、お前は私の息子シーフの娘。

 つまりは、私の孫娘だ。

 息子の居所を探っていた時に、息子が君の母上としばらくこの家で過ごしていたことを突き止めた。

 保存の魔法までかけて、この家を守っていたところをみると、息子は君の母上を愛していたらしい。

 調べたところ、シーフと君の母、シャルロッテの婚姻記録が確認された。

 君は庶子なんかではない。

 我が息子。シーク・フォン・フィクトス公子とシャルロッテ・フォン・ロイヤー子爵令嬢の娘。

 セーラ・フォン・フィクトス公女だ」


 セーラは涙をぼろぼろと流し始めた。

 庶子と蔑まれてきたことが、どれほど辛かったか?

 その涙を見て、二人はそれを思い知った。


「シーフの野郎!一体何があったら、妻と娘を捨てられるのだ!」


「それには僕も同意するけれどね。

 それよりも今後のことだ。

 セーラをロイヤー家から正式に貰い受けるか?

 それともこのまま連れ去るか?」


「このまま連れ去ろう。

 セーラの扱いには目に余るものがある。

 正式にロイヤー家の娘と認めたら、ロイヤー家はいずれ皇帝の親族になる。

 そんな旨味は渡したくないからな」


「僕も完全に同意だ。

 それではこのまま」


 そう皇太子が言いかけたところで、素早くノアがセーラを取り上げた。

 とても老人とは思えない素早い動きだ。


「きちんと順番を守ってもらいましょうか!殿下。

 ひとまず孫はフィクトス家の籍にいれて、アストラル学院に通わせます。

 卒業は3年後だ。

 結婚は3年後になりますな。

 それまでに、ご両親や貴族会議を説得して了承を取り付けて下さい」


「わかった。

 だけど先ずはセーラ。貴方にお許しを頂かなければ」


 ジークフリートは跪いて正式に求婚した。


「セーラ・フォン・ロイヤー子爵令嬢。

 どうかこの私、ジークフリート・フォン・アストラルの婚約者になって下さい」


「はい」


 セーラは頷くことしかできなかった。

 私なんかが。

 皇太子殿下なんて身分違いすぎるわ。

 断る理由は山ほどあったのに、セーラには断れなかった。

 この人の側にいたい!

 その気持ちが大きすぎたので。


 ジークフリートはセーラの気持ちなんてお見通しの様にほほ笑んだ。

 そして顔に手を伸ばすと、両耳にブラックダイヤモンドのイヤリングを嵌めてしまった。


「これは、僕に番が出来たら使いなさいと、リゼおばあさまに頂いたのだ。

 ほら、僕の耳にも嵌っているだろう?

 これには古龍さまの守護が掛かっているらしい。

 大昔、ルーナという皇后陛下がいらしたのだって。

 これはルーナ陛下の遺品だそうだよ」


「そんな貴重なものを」


「僕の最も貴重なものは、君なんだセーラ」


 セーラの頬は真っ赤にそまったが、ノア前公爵はそんなことには一切構わず、フィクトス公爵家に転移してしまった。



 

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