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星の欠片  作者: こもれびの空


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決闘

 主不在の皇后宮を実質取り仕切っている侍女長は、朗報を宰相閣下に伝えようと意気揚々と皇城の宰相が使用している外宮へと急いだ。


 外宮には、高官が皇帝から賜っている宮が点在している。 

 ここは皇城とは言いながら、外部に開かれている部分で、公共機関が点在しており、民に公開されている。


 しかし部屋に招かれて驚いた。 

 部屋にはご機嫌の宰相と、同じくにこにこしているシーフ公爵が居たのだ。


「ああエミーリア。良い所へ来たな。シーフ卿。これが今は仮初に皇后宮を取り仕切らせている、エミーリア侍女長だ。確か一度会った事があると思うが」


「はい、宰相閣下。娘セーラが侍女長のお手配で、恐れ多くも皇帝陛下のお傍に侍っております」


「そうだったな。エミーリア。何の用だ」


「じつはダンテ元帥のことでお耳に入れておきたいことがございます。お人払いをお願いいたします」


「何と。そなたもか。わしも今シーフ卿から面白い話を聞いたばかりだ」


「そなたは、誰からその話を聞いたのだ」


「はい、私は皇帝陛下とお会いした後は、必ず私に委細漏らさず報告するようにセーラをしつけておりまして、今日の午後、皇帝陛下がセーラに漏らした話でございます」


「なんと!シーフ卿。そなたは良い娘を持ったものだ。これからもエミーリアに従うように、娘によくよく言い聞かせておきなさい。まあ随分素直な娘らしいが。どうだなエミーリア」


「はい、宰相閣下。臆病で頭も少し弱いようですが、その方が皇帝も安心するのでしょう。セーラには何でも話しているようでございます」


「そうか、そうか。おなごは少し抜けている方が愛らしいものだ。これからも分を弁えれば、娘が皇后に立っても、悪いようにはせぬ。側女として宮の一つも与えてやる。シーフ卿も異存はないな」


「勿論でございます。セーラも喜びましょう。エミーリア侍女長。くれぐれも娘をよろしくお願いいたします。あれは少しばかり過敏でございまして、なるべく優しくしてやって下さい」


「勿論ですとも。セーラ様の事は私にお任せ下さい。怯えさせたりは致しませんわ」


 シーフは二人に深々と礼をして帰って行った。


「ふん、あわれなものよのう。なまじ父親が剛毅だと、あのような軟弱な輩が生まれるのだ。孫に至っては、まともに私も顔を見ることも出来ぬ」


「仕方が無いことですが、ではシーフはダンテが嗅ぎつけた賭博場の件を宰相閣下に報告に来られたのですね」


「ああ、場合によってはシーフの奴、ダンテ元帥に殺されるかもしれんぞ。相手はあの戦神ダンテだからなぁ。裏切り者は許さぬだろう」


「そんな事にでもなれば、フィクトス公爵家とお終いですね」


「それだけではないぞ。クリスト辺境伯家もただでは済まさぬ。この私がな」  

 そう言って宰相は嫌な目つきでエミーリア侍女長を見たから、侍女長はぞくりとした。


 たった今、宰相はシーフ卿に庇護を約束した。 

 だというのに、宰相はあっさりとそれを覆して見せたのだ。 

 侍女長の背中には冷たい汗が流れた。 

 明日は我が身かも知れないのだ。 


 宰相は宮廷生活が長い。 

 好機と見て取ると、一気呵成に首を取る。 

 皇国の鉾と盾と言われた名門も儚く没落する運命なのだろうか?



(数日後 外宮)


 その日、皇城の外宮は異様な熱気に包まれていた。


 図書館や美術館。民の相談窓口や警邏隊のある一角には、神殿ほどではないにしても、そぞろ歩きが出来る程度の庭園と、普段警邏隊が訓練などに使っている石畳の練兵場がある。 


この練兵場は休日には、大道芸や出店で賑わう場所でもあるのだが。


 そこで運悪いことに、自分の宮に向かうシーフ公爵と、兵士の訓練を依頼されたダンテ元帥がばったりと鉢合わせしてしまったのだ。


 ダンテ元帥はシーフ公爵に掴みかからん勢いで罵倒した。


「貴様、いくら軟弱なお前でも、まさか父親を殺した仇に尻尾を振るほどの臆病者だとは、さすがの俺も思いもせなんだぞ。お前の父に代わって親友の俺が成敗してくれる!」


 そう言って剣を抜いたから堪らない。 

 シーフ公爵は慌てて逃げ出そうとしたのだが、それを許すダンテ元帥ではない。 

 凄まじい剣風が、シーフの髪を一筋切り取っていた。


「あぶねぇ」 

 シーフは防御魔法と転移魔法を器用に使い、ダンテの剣を躱していく。


 ついでにお返しとばかりに防御の盾を、ダンテの足もとに器用にぶつけたり、風魔法で庭の砂で目つぶしをしかけるものだから、さしものダンテの剣の冴えを見せるどころではなくなった。


「おのれ、小賢しい。こういった小技で翻弄するところは親父そっくりだな。面白い」


 ダンテ元帥は愉快気に笑うと、次からは剣風の勢いがどんどん増していき、剣風がシーフの頬を切り裂いた。


 やべえなぁ。ダンテの野郎、剣術に夢中になって手加減を忘れている。 

 父上だって過去に何度もひどい目に遭ったと言っていたからな。と、シーフは内心で焦燥を感じていた。


 シーフは、そうなると予想していたから手は打っていたのだが。


 シーフも本気を出しているのだが、小賢しいと言われた方法もダンテはノアで経験済みだ。

 少しずつ追い詰められていく。


「小僧、ちょこまかと逃げ回っていたが、これで最後だ」


 ダンテが渾身の一撃を見舞おうとしたとき鋭い声が掛かった。


「その方ら、一体何をしておるのだ!」 

 ジークフリート皇帝がなんと外宮に姿を現したのだ。


 ダンテとシーフの争いは、瞬く間に内宮にも広がった。 

 そこで父を心配するセーラの願いで、ジークフリート皇帝が自ら姿を現したのだ。 

 その証拠に皇帝の隣には、如何にもか弱そうな姿をしたセーラが、ジークフリートに縋るように立っている。


 その場にいた人々が一斉に跪いた。 

 喧嘩を物見高く見物していた民たちや警邏隊も同じだ。


 ダンテは言上した。


「陛下。我らは剣の稽古をしていたのでございます」


「稽古とな?私は、果し合いをしていると聞いているぞ?」


「そう見えても仕方がございますまい。何しろこのシーフ。友の子息とは思えぬ軟弱ぶり。友に代わって指導していただけにございます」


「成る程。ダンテはこう言っているがシーフ。そちはどうじゃ」


「ダンテ閣下の言葉に偽りのあろうはずはございません。ですが」

 そう言ってシーフはダンテを睨みつけた。


「これ以降、余計なお世話はご遠慮申し上げる。フィクトス公爵家は、今後一切クリスト辺境伯家と親交を結ぶつもりはない」そうきっぱりと言ってのけた。


「陛下。今のシーフ公の意見に、大いに賛同いたします」そう言うとダンテもシーフをギロリと睨み、きっぱりと言い切った。


「ダンテ辺境伯家も今後一切の親交を拒絶する。もはや先代との友愛の情も切れた。もう二度と関わらぬからそう思え!」


 こうして公衆の面前で、フィクトス公爵家とクリスト辺境伯家の断絶は宣言された。


「あい分かった。その方達は単に稽古をしていただけ。それに相違はないのだな」


 皇帝はさっさと幕引きをしたいらしい。


 ダンテとシーフは声をそろえた。


「相違ございません」


「ならばよい。だがその方らは皇城を騒がせた。ひと月の登城停止を申し渡す」


「ははぁ」 

 二人は平伏してそれを受け入れた。 

 だからこの件はこれで収束となった。


 宰相の、上手くいけば両家の滅亡という目論見はあっさりと消えてしまったが、両家の対立が表面化したことで、貴族派としては十分すぎる成果であった。


 二人の断絶宣言を聞いた宰相はほくそ笑んでいた。 

 これで宰相の野望を阻む者は誰もいない。


 その後、セーラが父親に駆け寄り、その頬の傷に治癒をかけるという小さなハプニングがあった。


 民衆は騒めいた。


「あの、小さな姫さまは治癒を使っただろう? 聖女さまではないのか?」


「聖女さまなら、神殿にお出ましになるはず。そうではないなら力は弱いのではないか。今だって小さな傷を癒しただけだ」


「そうかもしれないなぁ」


 ざわめきはすぐに収まったが、民衆の心には小さな疑義が残された。


 ただ、今日の話題はやはり戦神ダンテとそれを嘲弄したシーフの話で持ち切りになった。 

 だが、あのまま続けていたら、きっとダンテが勝っただろうというのが大方の予想であった。


 民のなかには、あの二人の仲たがいが、皇国に不利益をもたらすのではないかと心配する者もいたが、それは大きな声にはならなかった。



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