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星の欠片  作者: こもれびの空


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32/46

理

 大精霊がノア達を連れて来たのは、静かな世界だった。


 一見すると野原のように見えていたそれは、全て美しい宝玉だったのである。


 花も草木も木々さえも、いくつもの宝玉の集合体でしかなかった。 


 空があるのか、それともないのか。


 ただ、遥か遠い世界に星々が瞬くのは感じられる。


 けれどノア達のいる場所には、柔らかい光が満ちているのだ。


 大精霊は何も言わない。


 ただ静かに歩いていく。


 その時。ノアは気がついた。


 自分たちが歩いている訳ではないことを。


 魂は自分を元の姿で認識している。


 けれど、実体がある訳ではないのだ。


 時々、ふわり、ふわりと真っ白な宝玉が、吸い込まれるように空に漂い、何かに導かれるように、消えていく。


 ふわり。ふわり。と浮き上がっては消えていく白い宝玉。


 ノアは尋ねずにはいられない。


「あれは、あの白い宝玉は人の魂なのでしょうか」


 そう尋ねた時、ライアン皇帝が嬉しそうに一つの宝玉を手に取っていた。  


 それはすこし奇妙な宝玉だった。 

 多くの宝玉が色合いは違っても一色であるのに、ライアン皇帝が手にした宝玉は、光があたるたびにその色を変化させているのだ。


 ライアンは、まるで探していたものを見つけたかのように、幸せそうに微笑んだ。


 そうしてそれを握りしめると、すぅっと宝玉の中に消えていった。


 ライアン皇帝を取り込んだ宝玉は、居場所を求めるかのようにしばらく浮かんでいたが、やがて大きな大樹の中に自分の居場所を見出したようだ。


 大樹の一部となって、キラキラと煌めいている。


「私たちは、働き手として連れて来られたわけではないのですね」


 そう言うノアの傍らで、サトリが可愛らしいピンクの花の一部となって消えた。


「そうだ。ここは魂の休息の場所。転生を決めるのは、それぞれの魂だ。」


「それでは何故、二百年という縛りに同意なさったのですか?

 ここは安息の地。そして再び生まれるのが自分次第だと言うのならば」


「ノア。そなたは何でも知りたがる。それがお前の本質だ。 

 責めてはいない。ただおまえのありようを伝えただけだ」


「ノア。そなたは既に決めていただろう?」


「私が、何を決めていたと仰せなのですか」


 真っ直ぐに大精霊を見つめて、ノアは再び問いを発する。


「アーサーを助けてやりたいと思ったのだろう? 

 あの小さな黒龍となったアーサーを」


 はじめてノアはたじろいだ。


「では、やはりあの黒龍の赤子はアーサーだったのですね。 

 だとすれば、私の孫娘セーラーはリゼだ」


「アーサーは執着が強すぎる。 

 龍となるのは、番への執着が強い者だ」


「アーサーが人間に戻ることはないのでしょうか」


「さぁな。執着を捨てられれば、やがては人として生きることもあるだろう」


 その時、真っ赤な宝玉が矢のように空に飛んでいった。


「通常ならば。過去を癒し、真っ白な無垢の魂となって、また旅立つものだ。

 だが時々、強い執着や、強すぎる恨みや想いゆえに、無垢になることを拒む者たちがいる。あのように」


 大精霊は飛び立った赤い宝玉を憐れむように見た。


 ノアもその赤い宝玉を静かに見送った。

 ノアの瞳には哀悼の気持ちがにじんでいた。


 ノアは大精霊にまた質問を始めた。 

 尋ねずにはいられない自分自身に苦笑しながら。 


「どうして仕事などと戯言を?」


「本来ならば、裁断を仰がれれば、理を乱していないものは、連れて帰れぬ規則だ。 

 私も神に仕える者でしかないのだ。 

 だが置いていけば、残酷な死が与えられる。 

 一介の精霊にそれを止める術もない」


「助けてくださったのですね。我らを」


「良い目をしておったからな。そなたも、あの者たちも」


 大精霊はそう言って大樹と花を見た。


「あのような戯言で神の目を欺くことなどできはせぬ。

 だがそなたたちはここに来た。  

 子供騙しの言い訳だが、理をすり抜けることくらいは出来たのだろう。  

 神が見逃してくださっただけの事だ」


「ノア。そなたは輪廻なぞ望んでいなかっただろう? 

 そうしたいと言うのなら、精霊としてここを管理するとよい。 

 穏やかな日が過ごせるだろう。 

 そして、それに飽きたら、この宇宙に溶け込むことも出来よう」


「はい、私は輪廻を望みません。 

 この大宇宙の一部になれるなら、そうしたい。 

 けれど……」


「アーサーか。 

 そなた程の者でも、執着は捨てきれぬか? 

 なんと人間と言うのは業の深い生き物じゃ」


「ひと時の安息の宝玉は見つけたのか?」


 ノアは手にした一つの宝玉を見せた。


 それは深い宇宙のように、どこまでも深い青色だった。


「そなたらしい。ではしばしの休息を取るがよい。 

 忠臣ノア」


 その声と共に、青い宝玉は、どこまでも高い山の頂にその場所を見出した。


 大精霊はしみじみと言った。


「惜しいことだ。あれほど平らに世界を見る者が、忠誠だけは捨てられぬとは」



 その時天がカラカラと面白そうに笑う声が聞こえた。


 大精霊は深く地面に額ずいた。  


 笑い声はゆっくりと遠ざかっていった。


 神の許しに感謝して大精霊は立ち上がった。 


その瞳は休息の時を過ごす魂たちを優しく見守っていた。



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