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星の欠片と老公爵ノアの最後の冒険  作者: こもれびの空


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先輩

 あと1日。

 明日には、法王が到着し大精霊の召喚が行われる。

 つまり皇帝とノア老公の命も、明日には消える。


 皆がそれを知っているから、元の皇子宮、現在の廃宮を訪れる人はいない。

 なるべく静かに、夫婦だけで過ごさせてあげたい。

 皆がそう思うから、警備も外からのみになったし、侍女たちも必要な手配をすると、黙って宮を出ていった。


 ある意味、空宮。

 今なら暗殺も簡単だろう。

 もちろん、そんな馬鹿馬鹿しいことを考える者はいない。

 明日には、黙って命を投げ出す。

 そんな人間を、わざわざ危険を冒して殺す必要がどこにあるだろう?


 そんな静かな廃宮に、いる筈のない人物が一人。

 武器を携帯した軍装姿。

 宮内での武器の携帯は禁止されているのだが、その人物はお構いなしに堂々と宮を歩く。


「ノア、久しぶりだな」


「お久しぶりです。どうなさったのです。

 アーサーの国葬ですら出席せずに、辺境を守ってきたあなたが、わざわざ皇都にいらっしゃるとは」


「理由なら知っているのだろう?

 こうやって宮を空にしてまで誘っていたのだから」


「おや?僕が誘ったと?」


「ふん!どうせ自分亡きあとの皇国が不安なのだろう。

 わしに何をせよと言うのだ。

 俺はもう年だ。

 いまさら宮仕えなど出来るか!」


「わかってらっしゃるじゃありませんか。

 少なくとも、皇都までは来た。

 そうでしょう?先輩」


「その先輩呼びはやめろ。

 お前が、俺を先輩と呼ぶたびに難題を引き受けさせられた。

 あのアストラル学院での、俺の平穏な学生生活を奪ったくせに。

 お前が先輩と言うと、ぞっとする」


「それは失礼しました。先輩。

 それにしても重装備だ。

 重くないのですか?」


「あぁ、俺は鍛えているからな。

 クッソ、これも学院でのいつものやり取りじゃないか?

 おまえどうあっても、俺にあの坊やのお守りをさせるつもりなのだな」


「だってとっくに代替わりしているじゃないですか。

 辺境は息子さんが立派に守っている。

 時の女神と戦うために老兵まで集めてくれた。

 さすがにプロイセン王にだけ、任せる訳にはいきませんでしたからね。

 そこまで手伝っておいて、いまさら知らない振りはありませんよ」


「俺はなぁ、ノア。

 お前を殺しに来たのだ」


「ええ、先輩は情が深いから」


「情なんかじゃない。

 理不尽だからだ。 

 何故お前が輪廻の輪から外されなければならない?

 お前ほどの男が!

 どうしてお前が、無限の地獄に落ちなければならぬ。


 理解できないのだ。

 おまえの取った行動の意味は分かる。

 そうせねばフィクトス公爵家は、滅亡していただろう。

 仕事も出来ないくせに、権威ばかり欲しがる輩は多いからな。


 だがな。

 たかが一商人が起こした事件じゃないか。

 そんなものに、皇帝や公爵家まで巻き込んで潰そうとする。

 あ奴らは自分の利益しか見ていない。


 民のことも、皇国のこともなんとも思っていない。

 そんな奴らに、命どころか未来を全て奪わせて、それで良いはずは無いだろう?


 ノア、お前の魂が必要な時がきっと来る。

 いや、いつだってお前は必要なのだ。

 だから俺はお前を殺す。


 輪廻の輪に戻してやる。

 罪は俺一人が被ればよい。

 昔の遺恨で暗殺した。

 幸いにも宮に人の気配が無かったからな。

 それで済むはずなのだ」


「相変わらず短慮ですねぇ。先輩は。

 いいですか?

 法王が来るのですよ。

 罪人が殺されましたで済む訳がない。


 一族郎党が、貴方のせいで罪を負うことになる。

 辺境伯家を滅亡させて、どうする気なのです。

 それこそ皇国の鉾でしょう。

 辺境伯家は!


 フィクトス公爵家は皇国の盾。

 盾と鉾。

 どちらも必要なのですよ。

 アストラル皇国には。


 だから先輩を、わざわざ呼んだのです。

 放置しておくと、本当に馬鹿をやりそうでしたから。

 例えば式典の最中に、公衆の面前で僕を殺すとかね

 ご理解頂けましたか?先輩」


 前辺境伯は、ぐったりとソファーに沈み込んだ。


「あー、くっそー。知っているよ!

 お前に口では、敵わないことぐらい。

 でもさぁ。

 あんまりじゃねぇか?


 お前を助けようとしたのだよ。俺は!

 だと言うのに、いつの間にか宮仕えをさせられる。

 どうしたら、こうなるっていうのだよ」


「おやおや、とうとう宮仕えを了承してくださいましたね。

 ありがとうございます。

 さすがは先輩です。

 あぁ、先輩。

 ついでにもう一つ頼まれてくれませんか?」


「止めろ!

 いいか。何も言うなよ。

 俺はここに来たことを猛烈に後悔しているのだ。

 もうこれ以上、一言だって喋るな!」


 ノアはわざとらしく大きくため息をついた。

 そしてわざとらしくチラチラと老辺境伯を見る。

 そして又ため息をつく。


 ノアのため息が4回目になると、とうとう老辺境伯は聞いてしまった。


「ノア、お前。

 いったい何を頼みたいのだ?」


「先輩。さすがは先輩だ。

 後輩思いですからね。


 何、別にたいしたことじゃない。

 皇帝陛下のお守りのついでで良いのです。

 時々は、サトリを気にかけてやって欲しいのです。


 戦神とも呼ばれる老元帥が、聖女の後ろ盾になってくれたら、安心ですからね。

 何しろ、あれは無邪気なままですから。

 今までは、私がいたから軽んじる人も居ませんでしたが、御存じのように宮廷人は陰険です。

 庇護が無ければ、サトリでは追い詰められている事にも気がつかない内に、病みはててしまうでしょう」


「お前は!信じられんよ。

 そこまでわかっているくせに。

 あんな奴ら、守ってやる価値もない」


「僕が守るのは民ですよ。

 まぁ、奴らが民に寄生していますからね。

 どうしても奴らも守ることになってしまうだけのことです」


「ふん!相変わらずの毒舌家だ。

 それが無ければ、ここまで追い詰められたりしなかったろうに」


「毒舌じゃなくて、事実を指摘しているだけだ」


 憮然とした顔でノアは反論した。


「あのなぁ、昔も教えてやったと思うが、事実が人を傷つけるのだよ。

 いい年をして、いい加減に覚えたらどうだ」


「分かりましたよ。先輩。

 もう事実の指摘は、やめておきましょう。

 丁度お迎えがきましたしね」


 いつの間にか、シーフが老元帥の横に立っていたのだ。


「元帥閣下。皇帝陛下がお呼びでございます」


「成る程。ずっと居たのだな。

 そして軍神と呼ばれる俺は、それに気がつかなかった」


「閣下。戦と暗殺は全く別物です。

 私は暗殺者では、ありませんが似たような技をつかうのです」


「いくら何でも、ノア。

 言えば良かっただろう?

 暗殺なんて無理だぞ!と」


「うーん。言おうと思ったけれど、事実の指摘になるからねぇ」


「あーもう、全く!

 シーフ。お前よくこんな親父がいて、ぐれなかったな。

 尊敬するよ」


「どうも。

 親はえらべないもので」


 とうとう、老元帥は大笑いしながら、シーフに連れ去られてしまった。


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