それぞれの想い
プロイセンの王宮に飛ばされたノアだが、現れた先にはソル王とマールス王子がいた。
二人はいきなり現れたノアに眉一つ動かさなかった。
「ノア老公。ご苦労だったな。
書簡は読ませて貰った。
残念ながら、貴公の読みは当たっていたようだな。
まさか実際に時の女神が、姿を現すとはな」
「最悪の想定でしたが、事実だったようです。
王が過去の事件を全て調べて下さったおかげで、このように早く事件の本質に辿りつくことが出来ました。
ありがとうございます」
「いや、それを調べたのはマールスだ。
我が息子ながら、一度食いついたら離さないスッポンのような男でな」
「初めて御目文字いたします。マールス王子。
私はノア・フォン・フィクトス。お見知りおきを」
「ノア老公。あなたの勇名は轟いている。
若輩ではあるが、私なりに手を尽くしている。
新たに分かったことがいくつかあるのだ」
「それはありがたい。どのような事ですかな」
「我が王家には醜聞でしかない。
その為に厳重に秘匿されていたのだが」
「その秘密が、今回のオズワルド・クレイの一件と関係があると?」
「そうだ。
クレイ商会の人間が行方不明になっていた件だが、実はオズワルド以外の人間の足取りはつかめていたのだ」
「では逃げたのはオズワルドだけだったのですね」
「そうだ。
そして胸糞悪いことなのだが、オズワルドの妻と娘は、娼館に送られたらしい。
女たちは平民には珍しく、高い魔力を持っていたそうだ。
魔力封じをされた女たちは、平民にとって最高の娯楽となったようだ。
知っての通り魔力持ちは、例え魔力を封じられても、自身の身体を癒すことが出来る」
「あぁ、知っている。
助け出した娘たちが、どんな目にあっていたのかも。
高い魔力を持っているがために、娘たちは、決して孕むこともない。
あまりに惨い扱いに、腸が煮えくり返る思いをしたのだが。
そうか、あれは我が妻。我が娘の復讐だったのか!」
「だが、何故こうも魔法使いを憎む。
プロイセン王国ではなく、アストラル皇国を最初のターゲットに選んだ理由は?」
「クレイ商会の従業員たちは、それぞれが旅先で不慮の事故にあっている。
船が沈没し、がけ崩れに巻き込まれ、あるいは強盗に惨殺された。
調べによると、これらを行ったのは魔法使いたちらしい。
どの現場にも、濃厚な魔力の残滓があった。
しかしその記録は全て抹消されたようだ。
その記録を掘り起こし、王宮に提出したのがカール王子だった。
カール王子は気候変動を起こす魔道具で、大金を稼いでいたのだが、その罪を王妃に全て背負わせるために、王妃の関わった全ての犯罪の記録を保持していたらしい」
「なるほど、オズワルドの執念の理由は理解したが、それではオズワルドは弱みを持たないことになる。
オズワルドは本来とても情が深い人間なのだろう。
妻や娘。自分に仕えた人々の復讐に15年もかける人間だ。
深い情愛がなければ出来ないこと。
そこまで過去に囚われているなら、新たに情愛の対象は持たないだろう」
「そのようです。
彼はこの15年、ずっと独り身を貫いています。
オズワルドの半生は、復讐の為だけにあるようだ」
「そして、なぜアストラルを選んだのか?
の問ですが」
「オズワルドの部下たちを皆殺しにした魔法使いは、全員アストラル皇国の貴族たちだったのだな?」
「おっしゃる通りです。
正直アストラル皇国に責任があるといえなくもないのです。
彼らは素行不良で、国外追放処分を受けた者たちだったのですから」
「そうか。
せめて命は救ってやろうとしたのに。
そのせいで他国の人々が惨殺されてしまうとは……。
確かに追放するというのは、邪心のある悪人を他国に放つ行為でもあったのだな」
「正直に申して、例え魔封じをして放逐したとしても、魔法使いです。
犯罪組織の人間にとっては、得難い人材でしょう。
魔封じを外すことが出来ないわけではないのですから」
「そうか。
我らは人間の善性を信じすぎていたのだな。
魔封じは、いわば入れ墨。犯罪者の証だ。
まともに相手にする者もいないと思っていたが、もろ手を挙げて受け入れる組織があったのだな」
「はい。それともう一つ。
復讐する時、最も憎い相手は最後に廻すものではございませんか?」
「それでは、オズワルドの最後の標的はそなた達だというのか?」
「オズワルドの立ち位置から考えると、そう結論づけるしかありませんでした」
「何と!ソル王よ。そなたは実に優秀な後継者を得ていたのだな。
年の頃は皇国の皇太子と同じにみえるが」
「いや、お恥ずかしい。
老公に褒められるほどの者ではございませんが、少しは役に立つようでございます」
「王子を皇太子の所に送りたいのだが、どうだろう?」
「ありがたいことです。
時の女神が関係している。
なるべく早く、オズワルドを拘束したい。
実行部隊は、若者たちに任せましょう。
マールス王子。助力頂けますか?」
「無論だ。
今すぐにでも!」
「そう逸るな。老公はお疲れだ。
私は、老公と食事を共にする。
その間に、精鋭部隊を選抜しておけ。
今回は、秘密裏に素早く動ける者たちが必要だ。
分かっているな!」
「はい、父上。
準備いたしますので、御前失礼します」
そう言うなりマールス王子は、老公に目をくれる事もなく、部屋を飛び出してしまった。
「あ奴め!客人に礼もせずに。
ノア老公。せがれが大変失礼を!
誰か、次の間に食事の準備を頼む。
準備出来たら、誰も部屋に入れるでないぞ」
「いやいや。
ソル王も覚悟を決めておられるのでしょう?
どう考えても、時の女神が見逃してくれることはないと」
「あぁ、既に密かに軍を王都に集めている。
総力戦になるだろうなぁ。
民達に被害を与えたくない。
主戦場は、鉱山辺りにしたいのだが」
「同意です。
何とかその方向で動きましょう。
何、女神も我らが足搔くのは許容しているようです。
民を巻き込んで困るのは、あちらも同じ。
人間界を好きにできるなら、とっくにそうしていたはず。
女神も理に支配されているのでしょう」
「そうか。
最悪、我らの命で済むならたやすいことだ。
民達だけは守ってやりたい」
「御意」
ノア老公は深々と頭を下げた。
心を許せる友との食事は楽しいものだ。
ソル王とノア老公は、お互いに何も言わなかったが、深い友誼が結ばれたことを知っていた。
マールス王子が、5名の精鋭を連れてきたので、ノアは全員を連れて転移する。
「申し訳ない。マールス王子。
年は取りたくないが、魔力が足りない。
座標は私が示しますから、魔力をお貸し願えますか?」
「心得た」
マールス王子が快諾したので、次の瞬間一同は王宮から姿を消した。
それを見送ったソル王は、宰相を呼んだ。
準備を始めるために。




