表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/44

第35話 このSSR写真は絶対に転売しませんよ

本話は『文月(ふづき) 知世(ちせ)』視点で進みます。

 日本ダンジョン協会、東京支部。

 その通路に、ぱたぱたと駆けまわる足音が響いていた。


「もうっ、次から次へと……!」


 猪熊たちの解任騒動以降、協会内は大混乱だった。

 過去の書類の再確認に始まり、予算の洗い直しや悪事に絡んだ可能性のある職員への聞き取り……。

 やるべき仕事は無限に発生する。


「文月さん、代わりますよ。お昼休憩の時間ですよね? 何かご予定があるんじゃなかったですか?」

「お昼って……えっ、もうこんな時間!? た、助かります!」


 文月は若い職員に礼を言って、仕事を引き継いだ。

 それから急いで、併設の訓練場へと向かう。


「えーっと、先生は……」


 扉を開け、中を見回す。

 しかし、そこに肝心の仁の姿はなかった。


「おかしいですね……普段ならここにいるはずなのに」

「――文月さん、尋ね人ですか?」


 呼ばれ、文月は振り返る。

 そこには七瀬と緋見が立っていた。

 二人とも任務帰りらしく、服には土埃が残っている。

 そしてその首には、黒く硬質な資格証――Sランクダイバーであることの証がぶら下げられていた。


「先生を探しているんですが、見ませんでしたか?」

「私たちも任務の報告をしようと思って、一度宿舎の方にも行ってみたんですが……」


 緋見は肩をすくめつつ、首を傾げた。


 おかしい。

 仁は適当なように見えて、無断で仕事を休むような人間ではない。

 稀に二日酔いで遅刻することはあるが、その時も『すまん、10時』くらいの雑な連絡は寄越すはずだ。


「また何か事件に巻き込まれてるとか?」

「先生に限ってそれは……」


 あるかもしれない。

 少なくとも、指南役に赴任してからの仁の日々は、事件の連続だった。

 文月はスマートフォンを取り出し、連絡を入れようとした。

 そして、画面に表示された時刻を見る。


「あっ!? もう始まってしまいます!」

「始まる? ……あ、そうか。今日は発表会の日でしたね」


 その通り。

 政府から出された業務改善命令と、世間からの非難の声を受け、日本ダンジョン協会再建のための方針をメディア向けに発信する日だ。

 

 本当なら文月は、仁を捕まえて一緒に配信を見るつもりだった。

 ……一割くらいは、一緒にランチをしたいという想いもあったのだが。


「仕方ありませんね、ここで見ましょう」


 文月はスマホを横向きにし、配信サイトを開く。

 すると、七瀬と緋見も横から覗きこんできた。


「うあー……すっごい報道陣の数」

「これ、会長メンタルくるだろうなあ」


 多数の報道陣が集結した会見場。

 その壇上へ、会長が現れ、深く頭を下げた。


『このたび発覚した一連の不正により、国民の皆さま、そして現場で活動するダイバーの皆さまからの信頼を大きく損ねたことを、心よりお詫び申し上げます』


 そんな謝罪から始まった会見は、今後実施していく改革をひとつひとつ説明する流れで、淡々と進んでいった。


 一つ、不正に関与した役員の処分。

 一つ、ダンジョン危険度認定手続きの見直し。

 一つ、予算情報の透明化。

 一つ、外部監査機関の設置。

 ……などなど、その改革策は多岐に及ぶ。


「……本気で変えるつもりなんですね」


 緋見が呟く。


「当たり前だ。あんなこと、二度とあってたまるか」


 七瀬も真剣な顔で画面を見ていた。

 文月は小さく頷く。


 まだ発表しただけだ。

 もちろん、職員として本気で臨むつもりではある。

 しかし実際に変えられるかどうかは、やってみないと分からない、というのが本音だった。


『そして最後に、国際協力体制の再構築についてご説明いたします』


 会長が資料を置き、まっすぐ前を見る。


『今後、世界ダンジョン協会および各国関係機関との連携を強化し、国外で発生した高難度案件への迅速な対応を可能とするため――』


 一拍置いた。


『新たに、特別顧問の職を設置いたします』

「と、特別顧問……?」


 文月が首を傾げる。

 聞いていない。

 こんな重要な人事があるなら、自分の耳にも入っていてよさそうなものだが。


『特別顧問には、会長直属の特別派遣権限を付与します。国際会議への参加、各国からの救援要請への対応などを担当していただきます。つまるところ、より現場の運営に長けた、もう一人の会長職……と思っていただいて構いません』


 文月の隣の七瀬から、ごくりと唾をのむ音がした。


「か、かなり大きな権限すね……」

「そんな重要なポジション、誰が就くんですかね?」


 緋見の疑問に答えるように、会長が壇上の横へ視線を向けた。


『それでは、ご紹介いたします』


 その言葉とともに、一人の男が画面へ入ってきた。


「え゛っ゛……!?」

「ど、どういうこと……!?」

「あの人はホント……!」


 文月に緋見に七瀬が、三者三様に驚く。


 現れたのは、彼女たちのよく見知った男で。

 けれど、その雰囲気は普段と大違いだった。


 高級そうなスーツ。

 いつもの無精髭はすっかり整えられていて、長髪も後ろでまとめられている。

 そのまま彼は背筋を伸ばして歩き、壇上へやってくると、報道陣へ向かって自然に一礼をした。


『――特別顧問には、S級ダイバー・御影 仁氏が就任します』


 会長が語気を強めて言うと、会場中から一斉にフラッシュが焚かれる。

 そこでようやく、止まっていた文月の思考は再稼働し始めた。


(せ、先生の、スーツ……!!!!!)


 レア度SSRのその姿に胸が高鳴る。

 文月は魔力を流して指先の移動速度を最大限まで強化させ、超高速でスマホを最高画質設定へ変更、そして画面録画を開始をした。


『……あー、御影 仁です。どうも』


 画面の中で、仁がマイクの前へ立つ。

 明らかに面倒そうな顔で頭を掻いていた。


『よく分からんうちに、なんか偉そうな役職に就くことになりました。まあ、できる範囲で精いっぱい頑張ります』


 会見場からドッと笑いが起きる。


 文月は逆に笑えなかった。

 スーツスタイルのあまりの格好良さに脳がKOされてしまっていたが、冷静に考えると、これは超が付く大事件だ。


「――な、何してるんですか先生ぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 文月の絶叫が、訓練場いっぱいに響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ