第15話 パーティ
シャッド = ニシン科の魚 春に海から河に遡上します。
――スパイク視点――
リーダーが……バードが死んだ?
「馬鹿言え」
スパイクは声を荒らげた。
「リーダーは絶対に一人で行動しねえ。用心深くて頭がいい。間違っても、チンピラに殺されたりなどするものか」
「頭のいい人だったんだね。なればこそ残念だ」
暗い部屋の中で、アレックスの足音が聞こえる。
「バードさんとは、いい商売をしていた。でも、彼は契約を守れなかった――自ら死を選んでしまったんだ」
「そんなわけねぇ。リーダーは俺たちを見捨てたりはしねぇ」
くぐもった笑い声が聞こえた。
「バードさんは僕たち"アビス”と業務提携を結んでたんだけど、知ってるかい? 君たちバード・レッグの売上の数パーセントを、僕たちに支払っていたんだ」
そんなはずは、ない。
それでは裏切りではないか。
「その代わりに僕たち"アビス”は、この街をバードさんに任せていた。でも、大方バードさんは、君たちにはアビスと敵対している風を装ってたんじゃないかな?」
「なんで、そんな事」
「わかるさ。彼はとても体面を気にするタイプだったからね」
スパイクは暗闇の中で、男の気配を掴み始めていた。
慣れ親しんだアジトの中だ。
どこに何が置いているかは、大体わかっている。
家具の配置と男の声の位置から、大体の間合いを把握できそうだ。
銃を握った手に、力を込める。
装弾数は六発だ。ここだと思うところに撃ち込めば、一発は当たるだろう。
「リーダーが自ら死を選ぶはずがねえ。お前が殺したんだろ。何故だ?」
話しかける。
会話を続けるために。
位置を探るために。
アレックスの声が聞こえた。
「――ガヴラを使うチンピラが現れたらしいじゃないか」
スパイクは眉を上げた。
あの女の事だ。
ボコボコにされた全身の傷が、ジンジン痛む。
「それが……どうした?」
「君たちはそのガヴラ使いに負けたんだろ? あれは危険な力だからね。早急に排除するか、管理しないといけない。僕たちの管轄にないチンピラが持ってるのは、よろしくない」
「ガヴラが厄介ってのは賛成だぜ。泣くしかできねぇ小娘を、怪物に変えちまうからな」
あの赤髪の女は、気に食わないことがあっても、じっと耐えるしかできない奴だった。
しかし今は、街のギャングを一網打尽にしながら暴れているという。
スパイクの情報網によると、随分調子に乗っているようだった。密造酒ビジネスを始め、そしてガヴラに目覚めて喧嘩三昧。
まったく、可愛い女である。
「で、それがどうした? それとリーダーになんの関係がある?」
「リーダーは、ガヴラ使いの情報を僕たちに共有することを"拒んだ”」
「――なに?」
「彼は言っていた。身内の大切な人だから、正体は言えないってね。ははっ……ガヴラ関係の事で僕たちに逆らう事の意味を、バードさんは知ってたはずなのにね」
スパイクは戦意を維持しようとした。
今は――心を折っている状況ではない。
しかし、頭に戦場での思い出が蘇る。
常に自分達を守ってくれた、バードの頼れる背中が、思い起こされる。
……どうでも良くなった。
自分の命すらも。
スパイクは銃を取り落とし、その場に崩れ落ちた。
肩を震わせ、嗚咽を漏らし、涙を流す。
――俺のせいだ。
リーダーは、俺の好きな女を守ろうとして殺されたのだ。
確かに嘘をついてでも体面を気にする人だった。
でも、戦争の時からずっと部下であるスパイクを守ろうとしてくれた。
あの男気は本物だった。
俺が、リーダーにあんな話をしなければ。
「あら、その反応。もしかして、君がバードさんの"身内”かな?」
その瞬間である。
何かに、物凄い力で足を捕まれ、スパイクは天井に吊るし上げられた。
上下が逆さまになり、頭に血が上る。
人の手の感覚では、ない。
何かもっと紐状の「ムチ」のような何かに掴まれている感覚である。
スパイクは悟った。
今までの時間は、事情聴取だったのだ。
答えがわかったから、アレックスは容赦しないだろう。
「さあ、色々聞きたいことがある。教えてくれるかな?」
――ガートルード視点――
メイリーの彼氏が経営するバー「モント・メリー」は、会員制の高級酒場である。
元々は高級ホテルだったものが、経営難で潰れ、スピークイージーに生まれ変わったという。その遍歴を示すように、まるでお城のような広いホールが、まるまる酒場として活用されていた。
ホールの端にバーカウンターがあり、中央にダンススペース。それを囲うように、壁際には食事をするテーブルが備え付けられている。店内にはジャズの演奏隊がいて、実際に演奏を行っている。
それに合わせて歌手が歌を歌い、店内はリズミカルな音楽が常に流れていた。
バーとは言うが、大きな庭も、休憩室もあるし、ビリヤードをする場所もある。様々な娯楽の複合施設だった。
「皆さん歓迎いたします。今日は是非お客様として楽しんでください」
メイリーの彼氏がにこやかにメガネを上げる。
この人はずっとこんな感じだが、メイリーと付き合っていて怒ったりする事はあるのだろうか?
私たちは彼氏さんに席を用意してもらった。ホールの隅の方に、カーテンで中が半分くらい隠れたテーブル席がいくつも並んでいる。
そのうちの一つを私たちで使う事にして、そこに料理やお酒を運んでもらった。
「やはりこういう煌びやかな場所は、テンションが上がるな。活力で溢れている」
スーツ姿のセオドアは、優雅にグラスを傾けた。
身長が高く、顔がいいセオドアは、スーツ姿が大層似合っている。
カッコイイというより、もはや色気を醸し出しており、席の前を通り過ぎる女性たちは、セオドアの事をチラチラ見ては振り返っていた。
「それお酒?」
セオドアが持っているグラスについて尋ねると、「桃のジュースだ」と彼は答える。
「俺は雰囲気だけで酔えるから大丈夫だ」
マザーズ・マーシーにしか酔わないと言っていたが、この男、やはり普通に酒が弱いのだろう。
「音楽も凄いし、みんな楽しそうだよねぇ。ここに来ている人たち、若い人が多いのは何でだろう」
まるで水のように勢いよくカクテルを飲みながら、ルアンは疑問を呈した。
ルアンもセオドアに紹介してもらった店で、スーツを購入している。彼はセオドアと違って小柄だが、スマートで肩幅があるので、本人が言うほど変ではなかった。
むしろよく似合っている。
初めて会った時、ゴミ袋みたいなボロを身にまとっていたことを考えれば、天地の差である。
「まあ、ちょっと派手すぎるのかもね。年寄りが来ると疲れるんじゃない?」
ロレッタはグリーンのドレスで、ごくごくビールを飲んでいた。
割とお酒に強いロレッタだが、運転する前後に飲むのは嫌らしく、こうしてゆったりと飲んでいる姿を見るのは、実は珍しい。
お酒に酔うとすぐ人に抱きつくので、隣に座ったルアンはその度にドキドキしていた。そりゃ、あの格好じゃなぁ。
「こんな所で夕食なんて初めてだから、何だか緊張するわ」
私はそう言いながら、カクテルウイスキーを口に含む。
私はあまりお酒に強くなくて、一、二杯ですぐ顔が赤くなってしまう。
でも理性が緩む前に先に気持ち悪くなるので、酔っぱらって人に抱きついたりなどは、したことが無かった。
「セオドア君はこういう場所慣れてるのかい?」
ルアンが話題をセオドアに向ける。
セオドアは物憂げにグラスを傾けた。
「まあ、それなりには来ていたな。——勘当される前は」
「そもそもセオドアってどこの家の出身? 相当金持ちっぽいけど」
ロレッタが尋ねるが、セオドアは気まずそうに首を振る。
「悪いが教えられない。ちょっと"色々”あってな。一応父上を倒すことが目的なんだが……どこから情報が漏れるとも限らないから、実家は明かせない」
「どうして勘当されたの?」
私が尋ねる。
セオドアはおどけながら答えた。
「ま、考え方の違いってやつさ」
ルアンはうんうんうん、と頷いた。
「分かる……分かるよ、セオドア君。親との確執っていうのは、なんとも言い難いよね。育ててもらった恩も愛情もあるから、文句を言いたくはない。でも、考え方の違いっていうのはどうしてもあるから。すれ違いやぶつかり合いっていうのは、避けられないんだよね」
それを聞いて、セオドアは顔をほころばせた。
「そうだ。わかってくれるか、ルアン。親と子は別々の違った人間だ。それを分からずに自分の価値観を押し付ける親のなんと愚かな事か。彼らの若い頃とは時代も文化も変わっていると言うのにな。……例えば、俺は冒険小説が好きで、よくパルプ・マガジンを買っていたんだが……それを父上に見つかると折檻されたものさ。低俗なもの読むんじゃない、ってな」
パルプ・マガジンとは、宇宙人や怪物のイラストが表紙の雑誌で、色々な小説が連載されているものだ。
そういえば、兄も好きだった。
ルアンが嬉しそうな顔でチキンをかじった。
「おお、酷いお父さんだとは思うけど、セオドア君が冒険小説好きなのが知れて嬉しいよ。どんな雑誌読んでた?」
セオドアは丁寧な所作で、ステーキを切り分けながら言う。
「一番有名なやつだ。【アーゴシー】とか、【オール・ストーリー】とか」
「僕と一緒だ! 猿に育てられた男の物語とか、荒野のガンマンの話とか、大好きだよ」
「本当か! 気が合うな。ルアン」
ルアンとセオドアは二人してはしゃいだ。
そこからは私とロレッタには意味の分からない、小説の感想で盛り上がる。
セオドアは、普段冷静沈着な彼にしては意外なほど、顔を紅潮させて生き生きと話している。
ルアンは、普段気づかいのできる彼にしては意外なほど話に熱中し、私やロレッタに話題を振ることを忘れている。
私はストームヘイブン名産のニシン「シャッド」を食べながら、そんな二人のやり取りを見ていた。
この二人は、同じ戦場帰りという共通点から、最初から仲がいい。
しかしそれだけでなく、性格や趣味的にも相性がいいようで、気づけばこうして二人だけで盛り上がる事が多かった。
「——なんか、男の子って感じだね」
ロレッタが私にささやいた。
私は黙って頷いた。
幼稚だ。でも、何故か見ていて嫌じゃない。
むしろ微笑ましい。
初めてこのチームを結成してから、既に三ヶ月が経過しようとしていた。皆、それぞれに、仲間との関わり方を見つけているようだった。
それが何だか、嬉しかった。
食後も私たちはモント・メリーを楽しんだ。
遊技場でトランプやビリヤードに興じ、ラウンジで軽食をつまみ、中庭に出て夜風を浴びる。そうして訪れるあちこちで、見慣れたオレンジ色の液体を飲んでいるお客さんを多く見かけ、私は誇らしくなった。
マザーズ・マーシーは、既にこの場所に受け入れられている最高のお酒になっていた。
仕事の達成感を感じながら、同時に歳の近いグループで騒ぐ楽しさを知る。
私たちは浮かれながら、フラフラとホール内を移動する。
するとホールの中央で多くの人々が踊っているのに気づいた。私たちは四人とも同じ結論に達したようで、それぞれ音楽に気を取られて立ち止まる。
そのタイミングがあまりにも同時だったので、私たちは吹き出した。
「いい音楽だね」
ルアンがホールの中心を見て気づいた。
「あ、みんな踊ってる。ダンスの曲だったのか〜」
「いいじゃん。踊ろうよ」
ロレッタの提案に、私たちは頷いた。
せっかくオシャレな格好してきたのだから、楽しまなければ。
だが、そうなると一つ問題がある。
「そうだな。しかし、どの組み合わせで踊る? 歳若い、男二人、女二人か。思えば中々際どい組み合わせだな、俺たちは」
みんなが薄々思っていたことを、セオドアはハッキリ言った。
犯罪組織の集まりで、仲間内恋愛は御法度だろう。
だが、構造として、あまりにも私たちは仲良くなりやすすぎる組み合わせだった。
「まあ、仲間だけど、今夜は仮初のパートナーでいいじゃん」
ロレッタはその辺、切り替えが上手い。
「じゃあルアン! 踊ろうよ!」
それはたまたま近くにいたから、他意なく選んだのだろうか?
ロレッタがルアンの手を掴んだので、私は「あっ」と声を上げた。
「どうしたの? ガートルード」
ロレッタがハスキーな声で聞いてくるが、そこに込められた気持ちはよくわからない。
そして、私も自分がどういう気持ちなのか、よくわからなかった。
何となくモヤモヤした。
……あれ?
「い、いや、組み合わせはくじ引きで決めない? そっちの方が面白そうだし」
私はそう言った。
そしてくじ引きの結果、私とルアン、ロレッタとセオドアの組み合わせで踊ることとなった。
なんとなく……ホッとした。
ダンスは身体を密着させて揺れるので、ルアンの顔が目の前にある。私は彼の顔をチラチラ見ながら、音楽に合わせて身体を動かした。
「……結構上手いのね。経験あるの?」
「ないない。必死だよ。でもみんなのダンス見たら、それっぽい雰囲気で揺れてるだけみたいだからね。真似して揺れてるよ」
ルアンはロレッタ達の方を見て、顔をしかめた。
「うわっ、あのレベルは無理だ。ガートルードと同じ組み合わせでよかったな」
ロレッタとセオドアはまるでプロダンサーのように激しく踊って、右に左に大回転している。エスカレートしたら空中にぶん投げたりしそうだ。
明らかに上流階級出身のセオドアと、運動神経の良いロレッタの組み合わせは、ダンスを競技化してしまっていた。
私はニヤリと笑う。
「あれは、やり過ぎね」
ルアンと同じ組み合わせで、私はウキウキしていた。
この組み合わせでよかった。やっぱりルアンとは色々な感覚が、合う。
それに——ルアンは兄が死んで以降、孤独な世界で生きてきた私に現れた、初めて心から頼れる人だった。
強くて、とても優しい。空気が読めなくて変な所もあるが、そんなこと全く気にならないくらい、優しい。
そして、これは初めて会った時は、恥ずかしくてあまり認めたくない事であったが——。
普通に、一目惚れでもあった。
あの違法酒場で助けてくれた時からずっと。
……それが問題だった。
「ねえ……ルアン。あんたはどこの出身なの?」
「東の方の田舎町だよ。馬ばかりがいて、大して発展してないタイプの町だね」
「お父さんとお母さんは?」
「いるよ。生きてる。でも、僕もセオドア君と一緒であまり家族と上手くいってなくて。……ほとんど家出みたいにして、家を飛び出しちゃったんだ」
「好きな食べ物なに?」
「ハンバーグ……ってどうしたの? なんでそんなに質問攻めなんだい?」
……何でだろう?
急に青年のことが、もっと知りたくなったのだ。
でも、そんなに質問ばかり繰り返すのは、確かに変だ。私は溢れる好奇心を抑えて、ルアンに寄りかかった。
いつしかホールの音楽は、静かでムーディなものへ変わっていた。
それに合わせて、照明も青を基調とした、幻想的なものへと変わってゆく。
セオドアとロレッタは急にローテンポになった曲に減速しきれず、周りの人を数人はね飛ばしていた。ルアンはぎこちない手つきで、私の腰に手を回した。
「ガートルード。そういえば前から思ってた事を言いたいんだけど、君は強い人だね」
音楽に紛れて、ルアンがささやいた。
「ま、大分ガヴラの使い方も慣れてきたしね」
私が答えると、ルアンはくぐもった声で笑う。
「ちがうよ。ガヴラだけの話じゃない。そんなもの無くても、君の生き方は変わらなかっただろう。家族の思い出の場所を守る、その生き方が強いって思うんだ」
ルアンの息が、私の耳にかかる。
「人は誰しも、大切な人のためなら戦うことができる。でも、大切な人が亡くなって、その人が大切にしてた物まで守れる人は少ないよ。君にはそれができる。それを尊敬してるんだ」
これは、まずい。
これ以上私が喜ぶ言葉を吐かれると、まずい。
私は顔を真っ赤にして、言った。
「何よそれ、口説いてるの?」
「――まさかぁ」
ルアンは言った。
「君はシェイマスの妹だからね。僕が手を出せるわけないよ」
その言葉に、私は気持ちが一気に沈むのを感じた。
桃色に湯だった頭が、冷静になってゆく。
青年の複雑な立場を、心から実感することは難しい。
でも、今の一言は、ルアンが普段どういう目で私を見ているか、その一端を垣間見ることのできる言葉だった。
私からすれば、ルアンは仲間で友人だと思っている。
でも、ルアンがそう思っている保証は何もないのだ。
——もし好きになっても、その恋は実らない。
「あれ? どうしたのガートルード」
「…………何でもないわ」
私は再び彼に体重を預けた。
私はこれから彼とどうなりたいのだろう?
今から進もうとしている、犯罪の世界の先で。
パーティを楽しんだ私たちは、タクシーで近場の広場まで送迎され、そこからグレイディ・スピリッツに歩いていた。
「いやぁ楽しかった。また行こうまた行こう」
ロレッタがうーんと伸びをして言った。
「少し調子に乗ってしまった。俺としたことがあそこまで本気になってしまうとはな。……ロレッタ、お前やるな。俺の本気について来れる女は少ないぞ」
セオドアも満足そうに肩を回している。
ルアンもニコニコしながら、テクテク歩いていた。
「あんなパーティ初めてだけど、面白いね。今スピークイージーが凄い流行ってるらしいんだけど、その理由がよくわかるよ」
私は黙って青年の横顔をチラチラ見ていた。
楽しかったというのは同感だ。
そして素敵な夜だった。
こういう夜を繰り返すためにも、密造酒ビジネスは続けないといけない。
「そういえばさっきのバーで小耳に挟んだんだが、グレイディ・スピリッツの事が噂になってるらしい」
セオドアが思い出したように言った。
私は急に、気が引き締まった。
「――なんて言ってたの?」
私が聞くと、セオドアは
「新手のギャング組織"グレイディ・スピリッツ”が、最近バード・レッグにとって変わろうとしてるってさ」
と答えた。
不愉快な噂だ。
私は自分の目が、釣り上がるのを感じた。
「私達がギャングですって? そんな根も葉もない……。私達は密造酒を売るくらいしか、罪を犯してないわ。あんな乱暴な奴らと一緒にされるなんて!」
「いやいや、あんたギャングをボコボコにしてんじゃん。ぼーこー罪だよ、ぼーこー罪」
ロレッタは意地悪く笑う。
それは一理あった。
でも、納得し難い。
「私がどれだけ、ギャングに虐げられて苦しんできたか……。この世でいちばん嫌いなのがギャングなのに」
「人はイメージで他人をラベリングしてくるからな」
セオドアは落ち着いて言った。
「俺もギャングのような低脳な連中は嫌いだ。しかし組織的に暴力をふるう集団、という意味では俺たちもギャングと変わりない。少なくともギャングや市民はそう思ってるみたいだ。どうするか、決めないといけないかもな」
「どうするかって、どういう意味だい?」
ルアンが聞く。
セオドアは腕を組んだ。
「――俺たちは何になろうとしている? 何を目的にして、何をなそうとする集団だ? 密造酒ビジネスだけやるはずが、今や武力組織だ」
私も腕を組んだ。
セオドアの言わんとする所が、何となくわかってきた。
「あなた。グレイディ・スピリッツをギャングにするつもり?」
ロレッタとルアンが目を見開いた。
例えば本屋さんが「俺ら今日からギャングだぜ」なんて言い始めたら、社員は度肝を抜かれるだろう。二人が驚くのも、もっともだった。
しかし、セオドアも悩んでいる様子だ。
「うーん、それなんだよなぁ。俺たちは犯罪組織ではある。だが、ギャングを名乗るほどの覚悟は無い。それが問題じゃないだろうか? 中途半端で目的意識の不透明なビジネスは、成功しない」
私たちは何者だ?
それを分類する言葉が存在しない。
それが問題なのだった。
「ガートルード。あんたが決めてくれ。俺にもまだ覚悟がない」
セオドアはそう締めくくった。
私は黙って頷いた。
どうするのか、考えなければ。
グレイディ・スピリッツは、古い店が立ち並ぶ楓通りの端にある。
その通りに入った時、である。
「ちょっと待って、なんか燃えてない?」
ロレッタが気づいた。
その言葉に、他のメンバーも遠くを見る。
――燃えていた。
火が、上がっていた。
パチパチと木が弾け、煌々と炎が輝いていた。
周囲の人が集まり、遠巻きにその建物を見ている。
どこか遠くで消防車の音が鳴っているような気がした。
何が燃えているのか?
何が炎を上げているのか?
私は全力で駆け出していた。
嘘、嘘、嘘!
嘘でしょ?
走りながら、私は半泣きになっていた。
せっかく上手く行き始めたのに。
せっかくこんないい夜なのに。
全てが、全てが台無しになる。
だから、別の場所であってほしい。
自己中心的な考え方だが、別のどこかであってほしい。
それは刹那で抱いた私の無意味な願望であったが、それが叶えられることはなかった。
人々が集まる中心で、炎が燃え上がる。
――グレイディ・スピリッツが、真っ赤な炎を上げて燃えていた。
パルプ・マガジンとは、当時の週刊少年ジャンプみたいなものです。




