第14話 いつでも殺せる
当時(1921)の100ドル=25万円くらい
ストームヘイブンのギャングチームは「バード・レッグ」が最大手だが、他の組織も数え切れないほどいた。港町なので人の往来が激しく、船乗りのように気の強い人種が多いからだ。
奴らは厳密な縄張り管理によって棲み分けを行い、それぞれのシノギを守っている。
その均衡が崩れようとしていた。
二ヶ月前のあの夜。私が、バード・レッグの主要メンバーを、病院送りにしたせいだ。バード・レッグの構成員はまだまだ沢山いるが、幹部クラスの指示がなければ組織は機能しない。街一番のギャング組織は事実上、休止状態に陥っていた。
おかげで、思わぬ所でガラの悪い奴と出くわす確率は上がってしまった。
新たに開拓したバー「ベンブローク」の裏手にお酒を納品しようとすると、ゾロゾロと男たちが車に集まってきた。
何かしらのギャング組織らしかった。
彼らは銃を持っており、それで私たちを脅す。
「お前らが最近ここいらで酒を売ってる奴らだな? 車から降りろ。中身ごと俺らのもんだ」
運転席のロレッタは、「へーん」と言って、ドアに鍵をかけた。
「あ、おい小娘! 開けなきゃ撃つぞ」
男たちがドアをガチャガチャ揺らすが、ロレッタは平然としている。
「おーおー、やってみな。ピカピカの防弾仕様に変えたばかりだからねぇ。耐久力を試してみたかったんだよ」
「あんまり挑発するな。こういう知性がない連中は言葉が通じない。本当に頭悪いから、何してくるかわからないぞ」
セオドアは助手席で忠告した。
その言い回しの方が挑発的だと思うが。
「どうする?」
荷台に乗ったルアンは、お酒を一口飲みながら私に困ったような顔を向けた。
「――やる?」
私は頷き、荷台の上で立ち上がる。
より高い位置から、脅してくる男たちの顔を見下ろす。
「あんた達がどこの誰かはどうでもいい。でも、この車は私たちのものよ。中身もね。そしてそれをどう扱うかについて、あんた達にあれこれ言われるいわれはないわ」
男たちはどよめいた。
「ふざけんな! ここは俺たちの縄張りだ! 密造酒を作り始めてから、ずっとそうだ!」
銃口がこちらを向いている。
何人もの銃口。そのどれか一つでも引き金を引かれたら、私は無事ではすまない。
でも、私は笑った。
「じゃあ、ハッキリ言うわね」
ポケットにスキットルをしまう。
もう、お酒を飲んでいた。
十秒前の出来事だ。
「この店はもう私たちの縄張りよ。私たち、"グレイディ・スピリッツ”のね」
私の首から、大蛇のように大きな花が咲いた。
闇夜の路地裏に、銃声が鳴り響く。
ムチを振るうような音。
空気とともに何かが発射される音。
そして沸き起こる、男たちの悲鳴。
負ける気はしなかった。
これでもう、三回目の乱闘である。
そろそろ慣れてきていた。
初めに私の思い描いていた密造酒ビジネスは、もっと密やかで地味なものだった。
そこには自分が無力な一市民で、喧嘩もしたことない女であるという前提が多分に含まれていた。
警察にバレないようにこっそりお酒を作って、ギャングにバレないようにこっそりお酒を売る。
あくまで、雑貨屋の損失の補填として。
作る量も、稼げるお金もささやかに、少しでも家計の足しになればいいと考えていたのだ。
しかし、ルアンを仲間にし、セオドアにお金を出してもらい、ロレッタも手伝ってくれることになって話は変わった。
個人でやる副業レベルの話ではなく、もっと大規模なチームとしてのプロジェクトへと、変わった。
そして何より、兄が私に残してくれた遺産のガヴラに目覚め、私は戦えない女ではなくなった。武闘派のギャングすら制圧する力を手に入れた。
きっかけは、あの夜のことだ。
バード・レッグの連中を一瞬で制圧し、スパイクをボコボコにした。殺せはしなかったが、気の済むまで痛めつけ、ナイフまで突き刺してやった。
あれで、私の中の何かが変わった。
リスクをとることに恐れが無くなった。
より治安の悪い、別のギャングが支配している違法酒場であっても、積極的にお酒を売りこんだ。年上の大柄な男性が相手であっても、萎縮することが無くなった。
なぜなら、その気になれば、いつでも殺せるとわかったからだ。
流石に殺すのは嫌なので、半殺し程度に痛めつけるだけだが。
人間の耐久力は、大したことない。ガヴラでもナイフでも、黙らせることができる。
もちろん誰彼構わず、暴力を振るうことはしない。私が戦うのは、私に理不尽を強いて来る輩に対してだ。お酒の味や価格で正々堂々争う分には、私も文句はない。自分達が暴力で何でも解決できると思って、か弱い市民たちに偉そうな態度をとる、無礼者たち。そういう奴らに、私はガヴラで立ち向かうことにした。
――あの夜の後日、たまたま、無関係の悪人に囲まれた。
「ほら、大人しく渡しな。儲けてるんだろ?」
ヘラヘラ笑ってお金を要求する輩に、私は思わずガヴラを使った。スパイクとの一戦で、歯止めが利かなくなっていたのだ。
薄雪草を振り回して相手を殴りつけ、種弾を発射して身体の自由を奪う。
男たちは地面に倒れ、痛みに転がった。
悲鳴と苦悶の声が響く。
まずい、やり過ぎた! これがきっかけで、キレて銃を出してきたら、もう殺し合いしかない。
そう思って慌てる私をよそに、男たちは悲鳴をあげ、哀願した。
「ゆ、許してくれ。命だけは!」
怒りではなく、恐怖の感情が、男たちの目には浮かんでいた。
「なーんだ。……こんな程度なのね」
私は肩透かしを食った気分で、許しを乞う男たちを蹴っ飛ばした。
ドカッ、ドカッ、ドカッ。
チンピラ達は痛みに叫ぶが、それを無視して何度も、何度も蹴りつける。
自分達は暴力を背景にデカい顔しておいて、いざやられる時に優しくして欲しいなど、都合がよすぎる。
路地裏に、男たちの苦しむ声が響き渡る。
虐げられてきたこれまでの恨みを晴らすように、私は朗らかな笑みを浮かべていた。
これが決定的な実感となった。
犯罪者と話し合う必要なんてない。さっさとガヴラを使えば、相手は泣きわめいて降参してくれるのだ。
なんてシンプルで、なんてスカッとする事だろう。
私はもう理不尽に怯えることは無くなった。間違っているのは、向こうなのだから。
その時の私はそう思っていた。
その考えの危うさには、気づくことがなく。
私たちグレイディ・スピリッツは、より大きな儲けを得るため、武闘派組織へと姿を変えてゆく。
駅前のブティック通りに着くと、私は真っ先に一番安そうな店に向かった。
そんな私の首根っこを、ロレッタはがっしりと掴んだ。
「いやいやいや、せっかく大金をゲットしたのに、どこ行こうとしてんの? ガートルード」
「だ、だって……これまでオシャレのための服なんて買ったことないもの。実用的なエプロンとか、変装用のコートとか、そういうのばっかりで」
服にお金を使うのが、怖い。私のエプロンと同じような布を使っているのに、どうしてあんなにも高いのだ。
ロレッタは周りを適当に見回して、いちばん高そうな店に足を向けた。
「ほらほら、せっかくなら、あーゆーブランド物買おう。こういうのは、最初にバーンと揃えちゃった方が、かえって得をするもんだよ」
「ロレッタ……あんたは買い物慣れてるわよね? オシャレな革ジャンとか持ってるし」
「アハハハ! 逆にあたしがあの服と作業着以外着てるの見た事ある? あれはレース用に買った一張羅だよ。あれ以外服持ってない」
不安な事を言いながら、何故か奴は堂々としていた。
――折角なので服を買いに行こう。
そうロレッタに誘われた時、私の胸は踊った。これまで自由になるお金で、無意味なものを買った事はほとんどない。
メイリーが着ていたみたいな、豪華絢爛なドレスとか、正直憧れていた。
思春期のオシャレになりたいという欲求を満たされずに育ったので、私の服に対する意識は大分歪んでいる。なんならお姫様のドレスとかピンクピンクしたやつ着たい。
だが、それは流石にいい歳した大人が着るべきではないとわかっている。人には年齢に応じた相応の格好というのがあるのだ。
で、今私はその年相応の格好というのを、していない。
ツギハギだらけで、オンボロのエプロン姿だ。ルアンがアンティークと言ってくれてからは、それなりに引け目なく着れるようになったが、それでも可愛い服を着たいという欲求は強かった。
ロレッタと服を買いに行くのが、楽しみだった。
「ねえ、あたし達服がダサすぎるんだよ。いい感じのコーディネートを見繕ってくれない?」
ロレッタは店にすっと入店し、すすすすっと、音もなく店員に近づいて言った。
私でも知るブランド高級店の店員は、見るからに薄汚い女二人の来店に、明らかに警戒していた。
「か、かしこまりました」
黒い制服姿の中年の女性が、私とロレッタの寸法を測りながら、恐る恐る尋ねてくる。
「あの――ちなみに予算はいかほどでお考えですか?」
「えーっと、とりあえず100ドルくらいで」
ロレッタは財布を取り出し、100ドル札を店員に見せた。
店員は一瞬ギョッとしたようだったが、流石プロといったところで、すぐに態度を改めて頭を下げた。
「これはおみそれしました。少々お待ちください。在庫を確認して参りますので」
立ち去る店員を見ながら、ロレッタはこちらに目配せした。
「あんた100ドルも使うつもり?」
「それはわからないけど、最初にカマしておかないとね。あのおばさん、あたしらの事絶対冷やかしだと思って、まともに相手してくれなかったよ」
それもそうか。
「と言うか、ロレッタあんたレースで優勝した賞金とかあったでしょ? それで服買えばよかったのに」
なにせストームヘイブン・ドランクレース三連続優勝のスピードキングなのだ。
しかしロレッタは肩をすくめる。
「そんなもん、愛車の改造に全部突っ込んだよ」
「ええっ!? 優勝するくらい凄い車なんだから、それ以上改造する必要無いんじゃないの?」
「これだから素人は困るなぁ。あんな激しいレース、一回出るだけでボロボロになるよ。それに、勝つ事に警戒されて、レース中の敵からのアタックも激しくなる。結局、三回目のレースが終わった後、愛車は廃車になっちゃったもん」
ロレッタはどこか遠い目をした。
「ああ、私のフォード"ライジング”……最高の車だった。今でも廃車になったパーツは工場に置いてるよ」
密造酒ビジネスを誘いに行った時、昼寝してたあのスクラップだろうか?
「新しい車は買わないの?」
「何言ってんの? 今の愛車は、グレイディ・スピリッツ号じゃん」
ロレッタは飄々と言う。
私は型落ちでボロボロの、おじいちゃんが使っていた車を思い起こした。
「あれは相当年代物よ? あんたがレースで使ってた最新機とは比べ物にならないと思うけど」
「分かってないなー、ガートルード。あたしは車に乗るのが好きなんだ。自分の車を改造して、そいつにできる限りの限界を極めるのが好きなんだ。単に、性能がいい車に乗りたいわけじゃないんだよ」
よくわからない拘りだった。いいガンマンは銃を選ばない、みたいなものだろうか?
話していると、店員が戻ってきて尋ねた。
「お二人で100ドルですか? それとも一人100ドルですか?」
「……どーすんの?」
ロレッタがニヤリとこちらを見る。
私は財布の中身をじっくりと見た。
必要な経費は、別でとりわけてある。
借金分も積み立てているし、これは私が使っていい金額だ。
でも――
「パーッと使おうよ。ガートルード。あんたはこれまで色々苦労したんだ。そのくらいは許されるよ」
ロレッタがささやいた。
私は諦めたように、必死に抑えていた笑顔を解放した。
今日くらいは、いいか。
「――一人100ドルで、お願いします」
それから私とロレッタは、店の人が出す様々な服を試着し、アクセサリーを試し、数え切れない帽子を被った。
化粧をしてもらい、香水や、口紅の様々な商品も勧められた。
ピンクの可愛いマニキュアをしてもらう。
ついでに試着だけならいいかと、長年の夢であったお姫様のようなピンクのフリフリ服も着させてもらった。
感動で思わず泣いたら、ロレッタはギョッとしていた。
試着した中から普段使いしやすそうな物や、特別なパーティに使うものなど、色々チョイスして購入を決めていく。
100ドルは大金だが、高級店なので、無限に何でも買えるわけではなかった。
やがて気になるものを大半試着し終わった時、移動式の服掛けにかかる地味な服を見つける。
それは闇に溶け込むように黒いスーツだった。
「あれ、男性用が紛れてるよ」
ロレッタがそのスーツを見て言った。
確かにワイシャツの上からビシッと着るような形状をしており、襟元は尖っている。これは一般的に男性の着るものだった。
「いえ、最近は女性の方でもスーツを着られますよ」
店員がにこやかに言う。
「ほら、ちょっと前に女性も選挙権を得たでしょう? それで公的な場で仕事をする女性も増えましてね。今では働く女性や戦う女性の象徴なんですよ」
戦う女性の象徴。
その言葉は、妙に私の心に引っかかるものだった。
まさに今の私にピッタリではないだろうか?
「えー買うの? ガートルード。ちょっと目立つし、いつ使うんだって話じゃない?」
ロレッタは呆れたように言うが、私は聞き入れなかった。
欲しいものを欲しいだけ買って、何が悪い。
こうして、二時間以上私とロレッタは試着を繰り返し、本当に一人100ドル使い切ってしまった。三ヶ月前の私に言ったら、驚いて失神するかもしれない。
ロレッタと一緒にくだらないことを言いながら、互いにズレたセンスで相手の服装を指摘し合う。
本当に楽しい時間だった。
「ねえ、やっぱり、またにしない? いきなりこんな格好、びっくりするだろうし。笑われたら恥ずかしいわ」
雑貨屋の入り口で、私はロレッタを振り返る。
ロレッタは真っ赤な口紅を塗ったナイトドレス姿で、首をかしげた。
ボディラインのくっきり出るスカートタイプで、色はロレッタの目の色とおなじ緑色だ。
首元はパッカリ開き、豊かな胸元には、金のネックレスが垂れ下がっている。
金色の髪は、複雑に編み込まれて、たくしあげられていた。
「何で? あたしの格好、何か変?」
いや、変じゃないが。可愛すぎるだろう。
テンション上がりすぎて思わずオシャレしたまま帰ってきてしまった我々だったが、家の扉を見て、急に我に帰ってしまっていた。
凄く、恥ずかしい。
「大丈夫大丈夫。あんたも似合ってるからさ」
ロレッタは間延びした声で言う。
いや、うん。似合ってるであろうことは、嬉しい。
私の格好も、同じくドレス姿だった。
ピッタリとしたスカートタイプで、私の髪の色と同じ赤色をしている。スカートの部分には白いヒラヒラしたひだが着いていて、よく見るとそれがハート型をしているのが、とても可愛いのだ。
胸元はロレッタと同じくパッカリ空いていたが、金ではなく銀のネックレスをつけている。
口紅は、お姫様みたいなピンク色だ。
……なぜ、こんな、格好をしたまま帰ってきてしまったのだろう。
私はグレイディ・スピリッツのドアが開けられずに、カチコチと固まった。
こんな蠱惑的な格好をして、誰に見せたかったのだ?
犯罪チームなのだから風俗を乱すな。というのは、私がロレッタに言ってたことなのに。
「もー早く開けてよ。どいたどいたー」
私が悶々と悩んでいると、ロレッタが痺れを切らして開けてしまった。
ガチャリ。店内へ、入るしかなくなる。
ロレッタの奴は本当に、人目を気にしないというか、無頓着である。今はそれが大変羨ましい。
「やあやあ、二人ともおかえり。二人、とも……えっ。二人……二人? ……う、うわぁあああ! せ、セオドア君!! 早く、早く来てぇええええ!」
店内で店番をしていたルアンが、こちらを見て叫んだ。
どんなリアクションよ!
ドタドタとセオドアが地下室から現れる。
そして、私を見て、ロレッタを見て、フッと頭を抑えた。
「やられたよお二人さん。ハートを撃ち抜かれるっていうのはこういう事だな」
「アハハハ! 可愛いでしょー」
ロレッタは胸を張る。
私は恥ずかしくて、その後ろに身体を隠した。
「何だいその格好? まるで映画の中に出てくる女優さんみたいだね」
ルアンは目線を不審にキョロキョロさせながら、話しかけてきた。
「おーおー、ルアン。あんた何キョドキョドしてるんだよ。あたし達の格好がそんなに眩しいか。ほら、ハッキリこっちを見ろ」
ロレッタが近づくと、ルアンは顔を真っ赤にした。
「む、無理だよ。エッチ過ぎてどこを見ればいいのかわからないよ。どうしたんだい? ガートルードもロレッタも、綺麗すぎるよ」
おお、褒められた。
私はホッとした。少なくとも、変な格好をからかう雰囲気ではなさそうだ。
セオドアは顎を触りながら、私とロレッタを交互に見る。
「いやぁ甲乙つけ難いな。どちらにも素晴らしい魅力がある。例えるならガートルードは燃えたぎる不死鳥の女王。そしてロレッタは緑の森の王ってところか」
「スピードキングにひっぱられて、王になってるじゃん」
ロレッタが呆れて言った。
私は恐る恐るルアンに話しかけた。
「似合う?」
ルアンは何度も頷いた。
「凄く似合ってるよ。ちょっと――可愛すぎるくらい」
「へへっ、それなら良かった」
ここで私は、やっと気を楽にして自分に自信を持つことができた。変な格好をした私をイジる場ではない。明らかに、美しい格好をした私とロレッタをチヤホヤする流れになっていたからだ。
これなら、服を買ってよかった。
お金を使って、よかった。
「さあ、どうせなら街に繰り出そうか」
セオドアが思いついたように言った。
「そんなに美しい格好をしているんだからな。ドレスコードの関係で中々行くことのできない高級バーも、今日なら自由に出入りできるだろう」
私はメイリーの彼氏のバーを思い出した。
ああいう所にいるお客は、確かに今の私たちのような格好をしていた。
「なるほど……パーティへ洒落込むわけね。いいじゃない」
私は乗り気になって同意した。
ルアンはモジモジと言う。
「あの――でも僕、皆みたいな素敵な格好持ってないよ。セオドア君みたいにカッコよくないし。三人で行ってきてよ」
セオドアは優しい顔でルアンの肩を叩く。
「何を言っているんだ。お前が来ないなら、俺も行かないさ。服は買いに行こう。何、俺の行きつけの店がある。すぐに着れる分を仕立ててくれるだろう」
そういう事になった。
夜の街へ、私たちは繰り出して行く。
生まれて初めての、パーティだった。
――スパイク視点――
まだ痛む身体を押して、スパイクはアジトへ集まっていた。
リーダーからの呼び出しがあったからだ。
本名、バード・フィングル。
戦争中は同じ部隊に所属していた、スパイクの上司だ。戦後、スパイクに声をかけて、一緒にギャングビジネスを始めようと言ってくれた恩人でもある。
彼のカリスマに惹かれ、計画性に救われた男たち。それがバード・レッグのメンバーの正体だ。
団員はリーダーを尊敬し、忠誠を誓い、心から思っていた。
自分たちは「バード(リーダー)」の「レッグ(足)」でいいと。
それがギャング組織バード・レッグの成り立ちである。
アジトの中は奇妙に暗闇で、スパイクは警戒心を強めた。
呼び出しておいて、なぜランプもついていない?
何か、イレギュラーがあったのだろうか?
警察の裏切りか。
はたまた、敵の襲来か。
「君が、スパイクか」
突然、暗闇の中で話しかけてくる者があった。
呑気そうな、楽しそうな声音。
こちらをからかうような話し方は、リーダーと似ている。
だが、別人だ。
声の温度が、明らかに違う。
「誰だ!」
スパイクは声の方に叫び、懐から銃を取り出す。
すると、闇の中から男は答えた。
「僕は、アレックス。アレックス・レイン。隣町の犯罪組織"アビス”のメンバーだ」
思いがけない発言に、スパイクの目は見開かれる。
アビス?
隣町の大都市には、アメリカ有数の大悪党達が、ギャング組織を組んでいるという。
最強で最悪な連中だ。
そのメンバーだと?
戦慄していたが、スパイクは虚勢を張った。
「アビスだと? 信じられねぇな。そんな大きい組織の奴が、こんな田舎の港町に何の用だ?」
「まず謝らないといけないことがある」
男は、本当に申し訳なさそうに言った。
「君たちのリーダーは死んでしまったよ。バード・レッグは、今日で解散だ」
闇が、スパイクの周囲を覆っていた。
暗闇の中で、男の茶色い目だけが静かに光っていた。
港町のギャングは、大抵港にアジトを構えます。




