第8話 ぼく、へんなゆめをみる
最近、へんなゆめをみる。
まっしろで、
ぴかぴかしてて、
なんか……ぴ、ぴ……って音がして。
だれかの声が聞こえるような気がするのに、
言ってることはぜんぜんわからない。
「……あれは……
なんだったっけ……?」
目がさめたぼくは、
ぼんやり天井を見つめた。
ギルドの寝床はいつも通りで、
火のにおいと、金属の匂いが残っている。
(……ゆめ……だったよね?)
思い出そうとすると、
胸の奥がすこしズキッとする。
でも——
もう、うまく思い出せない。
◆
「レン、おはようさん」
おとちゃがぼくの頭をわしゃわしゃ撫でてくれる。
その大きい手があったかくて、
ゆめのことを聞こうとしたのに、
口が動かなかった。
(……もう……いいや……)
ぼくはぎゅっとおとちゃにしがみつく。
「おとちゃー」
「おーよしよし。今日も鍛冶場行くか?」
「いくー!」
ゆめより、
こっちのほうがずっと楽しい。
◆
ギルドでは、
いつものようにみんなが騒いでいた。
「親方ー!火加減強すぎッス!」
「お前が弱すぎなんだろ!!」
「レン坊、おはようー!」
「今日も可愛いなぁ!」
ぼく(心)
(声おっきい……いつも……)
鉄の音がカンカン響く。
その音を聞いた瞬間——
頭の奥で、またぴかっと白い線が走った。
——カン。
——ひかり。
——線が……
——どこかで……これ……見て……
ぼく
「……ん……?」
おとちゃ
「どうした、レン?」
ぼく
「……わかんない」
心の声:
(なんか……思い出しそうなのに……
ぜんぜん……つかめない……)
おとちゃが体を支えてくれると、
白い線はまた霧みたいに消えていった。
(……やっぱり……思い出せない……)
◆
昼ごろになって、
ぼくは眠くなっておとちゃの膝に乗った。
「ほらほら、寝てもいいぞ」
「……ねむい……」
目を閉じると、
また、あの夢が始まった。
——まっしろ。
——まあるい光。
——ぴ、ぴ……ぴ…………
——だれかが、
“……あと……すこし……で……終わる……”
って言ってる声。
ぼく(心)
(……この声……しってる……
でも……だれ……?
なんで……しって……)
——光がだんだん暗くなる。
——声も聞こえなくなる。
——ぼくはそこに立ってる。
——なにかを持ってる……?
(……これ……なに……?
なんで……しって……)
——手の中の赤い布みたいなものが
すっと消えた瞬間、
夢も全部、溶けてしまった。
◆
「レン。……おいレン?」
おとちゃの声で、ぼくは目を開けた。
ぼく
「……ん……?」
「なんかうなされてたぞ」
ぼく
「……ゆめ……」
「どんな夢だった?」
ぼくはしばらく考えて、
でもやっぱり言えなかった。
「……わすれた……」
おとちゃは何も聞かず、
ぎゅっとぼくを抱きしめた。
「夢なんてのはな……
忘れるからいいんだよ。
覚えてたら眠れねぇ。
忘れりゃ、また眠れる」
ぼく
「……そうなの……?」
「そうだ。お前は今ここで生きてりゃいい」
ぼくは胸に顔をうずめながら思った。
(……ほんとだ……
おとちゃのにおいすると……
ゆめ、どうでもよくなる……)
さっき見た白い光も、
赤いなにかも、
声も、
ぜんぶ消えてしまう。
ぼく
「おとちゃ……すき……」
おとちゃ
「おー、俺も好きだ」
ぼくは思った。
——ゆめ、なくてもいいや。
——だってぼくは、こっちで生きてるから。
ゆっくり消えていく記憶のかわりに、
いまの世界がしっかりぼくの中に広がっていった。




