第7話 魔法陣が光る日
ある日の午後。
ぼくはフローリアの研究室で遊んでいた。
研究室は静かで、冷たくて、
床には複雑な魔法陣が流れるように描かれている。
親方は護衛か何かのように後ろで腕を組んで立つ。
「……レン、あんまり動くなよ?
ここ危ねぇもんだらけだからな……」
レン(内心):
——危ないものは触らないようにしてるよ。
そんなことを考えながら、
ぼくは床に描かれた魔法陣をじっと見た。
光ってる。
いや、正確には——
魔力の流れが光の線みたいに見える。
線と線が交差して、
川みたいに動いていく。
「……ひかってる……」
ぽつりと呟いた瞬間。
親方:
「ひ゛っ!?!?!?」
「今なんつった!? 魔法陣が光ってる!?
光ってねぇぞ!?!?」
ギルド員:
「親方、落ち着いて!!
レン坊の“きれー”発言の延長じゃないですかね!?」
フローリアは静かに近寄ってきた。
「……レン。
どこが光って見えるの?」
ぼくは指をさした。
「ここ……ここ……ここ……」
魔法陣の“魔力の流路”を
正確に、迷いなく、
一本ずつなぞる。
親方:
「ァァァァァァァ!?!?!?
嘘だろ!?!?!?!?
なんでだ!?!?!」
フローリアの瞳が細く光った。
「……見えている……
魔力の“流れ”が視覚情報として成立している……
そんな馬鹿な……」
親方は完全にパニック。
「フローリア!!
こいつ魔法陣見えんのか!?
1歳半だぞ!?どういう目だよ!!?」
フローリアはゆっくりとぼくの頬に手を当てた。
「レン……
魔法陣のこの部分……
“流れが詰まってる”ように見えなくて?」
ぼくはこくんとうなずいた。
「つまってる……こっち……も……」
親方:
「詰まってる!?!?!?!?」
「なんで分かるんだよ!?!?!?」
フローリアは立ち上がり、
深く長いため息をついた。
「……この子の認識能力……
普通の魔法感知とは違うわ。
魔力を“情報”に変換して見ている……
それも、無意識に」
親方:
「なぁフローリア……
難しい話やめてくれ……
もっと簡単に言え……!!」
フローリア:
「この子は、
魔力の仕組みそのものを“読む”才能を持っているの」
親方は石像みたいに固まった。
ギルド員A:
「やべぇ理解できねぇ!!」
ギルド員B:
「つまり天才ってことだろ!?」
ギルド員C:
「うちのギルドに天才赤子が生まれたぁぁ!!」
フローリアはぼくを優しく抱き上げた。
「レン、あなたね……
これはとんでもない才能よ。
魔法の流路を視るなんて、
エルフの大賢者でもできる者は少ないの」
親方:
「や、やめろ……
そんな特別扱いされたら……
レンがこの先どうなるかわかんねぇだろ……
普通に育てたいんだよ……」
フローリアの声は静かだった。
「バルカン。
あなたの気持ちはわかるわ」
親方:
「だったら……」
フローリア:
「でも、この子は普通じゃない。
世界がその才能を放っておくことはない。」
親方の表情に、
不安と誇りが同時に揺れる。
「……この子は“人間”なんだ。
俺より先に……先に……」
フローリアは首を振る。
「未来のことはまだ話さない。
でも一つだけ言えるわ——
レンには“知識”が必要。
あなたと私で、この子を導きましょう。」
親方はぼくを抱きしめて、大きく息を吐いた。
「……わかった。
レン……お前が望むなら……
おとちゃんも一緒に歩くよ……
どんな未来でも……」
ぼくは親方の胸に手を当てた。
「おとちゃ……すき……」
親方は声にならない声を漏らした。
「……もう……
何があっても……離さねぇよ……」
レンが見えている光の線は、
誰にも見えないはずの未来への道だった。
——こうして、
ぼくの“魔力解析”の才能が、
世界に知られ始めた。




