第6話 きれいとかわいいと、鍛冶の火花
レンが一歳半になったころ。
夜泣きもほぼなくなり、
親方はようやく“朝まで寝られる生活”に戻っていた。
「……人間の子って成長早ぇな……」
朝日の中、親方がぼくの頭を撫でながらしみじみ言った。
ぼくは親方の髭をつまんで
「ふわふわ〜」
と言った。
親方は胸を押さえて倒れかけた。
「ふっ……ふわ……!?
ふわふわって……ぐぉおおおお!!
可愛い!! しんどい!!」
ギルド員:
「親方、朝からダメージ入ってるぞ!」
「髭ほめられて崩れる210歳って何!?」
レン(内心):
——いや、事実を言っただけなのに……。
◆
その日、親方は作業場で鉄を打っていた。
カン、カン、カン。
ぼくはその音に引き寄せられるように歩いた。
ギルド員A:
「お? レン坊が来たぞ」
ギルド員B:
「また火花ガン見だな……」
ぼくは火花の光をじっと見つめた。
揺れる光の線が、綺麗で、消えるのが惜しい。
「……きれー……」
親方はハンマーを落とした。
ガンッ!!
「き……きれぇぇぇ!?!?」
「レンが“綺麗”って言ったぁぁぁ!!」
ギルド員
「美的センスある!!」
「火花見て“綺麗”は天才だ!!」
レン(内心):
——いや光ってるのがいいなって思っただけ。
親方は涙目でぼくを抱きあげて言う。
「レン……お前……技術屋の目してるぞ……!
おとちゃん誇らしい……!!」
◆
その日の午後。
近所のドワーフの少女(親方の知り合い)がギルドに遊びに来た。
ぽてぽて歩いてきて、ぼくの前にしゃがむ。
少女:
「レン坊〜、おはよ〜」
ぼくは彼女の顔を見て、
にこーっと笑った。
「かわいいねぇ」
少女:
「!?!?!?
か、かかかかわいい!? 私が!?!?」
ギルド員:
「何ィィィ!?
相手によって“かわいい”と“きれい”を使い分けてるだと!!?」
「天才じゃねぇか!!」
「審美眼が出来上がってる!!」
親方:
「おいレン!!
何でフローリアには“きれい”で
ドワーフ娘には“かわいい”なんだ!!
基準はなんだ!!」
レン(内心):
——あるよ?雰囲気。
フローリア先生は“きれい”、
この子は“かわいい”。
人間の感覚で言うとそれだけ。
フローリアはその場に居合わせていて、
静かにレンの瞳を覗き込んだ。
「……色彩と形状の差を見て分類している……?
一歳半で……?」
親方:
「やめろ!!分析すんな!!
レンはただの可愛い息子だ!!」
フローリア:
「可愛いのは否定しないわ。でも異常よ。
この月齢で、対象を“美しい/可愛い/綺麗”で分類するなんて」
ギルド員:
「異常って褒めてるのか……?」
「フローリアの“異常”は誉め言葉だ!!」
「レン坊の才能、やべぇ!!」
親方はレンを抱きしめて震えた。
「……レン……
お前、世界で一番かわいくて、世界で一番すげぇよ……」
レン(内心):
——おとちゃ、落ち着いて……。
◆
その晩。
親方は酒のカップを傾けながら呟いた。
「……しかし、人間の子は成長が早いな……
気づけば歩いて、喋って、笑って……
どんどん大きくなっちまう……」
親方の横顔はちょっと寂しそうだった。
レンは親方の手に自分の手を重ねて言った。
「おとちゃ……すき」
親方は泣いた。
「……ずっと一緒にいような、レン……」
静かに火が揺れる夜。
ぼくは、
この腕の中がいちばん落ち着いた。
でも——
この時のぼくたちはまだ知らない。
レンの“見え方”はもうすでに、
ドワーフでもエルフでも理解できない領域に入っていたことを。




