第14話 ぼく、ただ足しただけだよ?
ぼくはギルドの隅で、お気に入りの複雑な木の立体パズルを組み立てていた。
そこへ、おとちゃんが大きな紙の束を机にドンと置いた。
「よし……今月のギルドの帳簿集計終わりっと……。
フローリアが後で確認するはずだけど、計算はバッチリなはずだ」
ぼく(心):
(おとちゃん、今月の収支報告書かな……。何が書いてあるんだろ……)
ぼくは気になって、椅子から身を乗り出して机の上の紙を覗き込んだ。
数字が綺麗に並んでいる。
1、2、3、4……。
大人の手書きだから少し崩れているけれど、規則正しく並ぶ数字の列を見ているのは、パズルみたいで面白い。
ぼく
「おとちゃん」
バルカン
「ん?なんだ、レン」
ぼく
「ここの計算、合計が合ってないよ?」
おとちゃん
「……は?」
ぼくは数字の列を指先でトントンとなぞった。
「ここの支出を全部足すと、合計は“1238”になるはずなのに……こっちの帳尻合わせの欄が“1236”になってる。二つ、足りないよ」
親方
「……おい……ちょっと待て……」
おとちゃんは顔色を変えて、もの凄い形相で帳簿に食い入った。
何度も何度も指で数え直して……
バルカン
「……ほんとだ!! 二つ、確実に足りてねぇ!!!」
ギルド員A
「えっ!? 二つ!? どこですか親方!?
俺が昨日、一時間以上かけて電卓叩いて確認したはずなのに!!?」
ギルド員B
「レン坊、一瞬見ただけなのに、なんでそんなこと分かるんだよ!!?」
ぼく
「えっと……なんて言うか、この数字の並びを見たときに、ここだけパズルのピースが抜けてるみたいに“スカスカ”して違和感があったんだ。だから頭の中で足してみたら、やっぱり違ってた」
ギルド員A
「“スカスカ”って何だよその超感覚派の天才みたいなセリフは!!?」
おとちゃん
「レン、お前……一瞬で四桁の暗算を終わらせたのか!?」
ぼく
「うん。こことここと……ここの数字を順番に組み立てていったら、全然違ったからさ」
ギルド員B
「5歳児が“四桁の合計チェック”を普通にサラッとやるなぁあああ!!?」
ぼく(心):
(そんなに大騒ぎすることかな……。ただの算数なのに……)
◆
そこにフローリア先生が現れた。
いつも通り、静かで冷涼な空気をまとって近づいてくる。
フローリア
「騒がしいわね。……今度は何があったの?」
ギルド員A
「フ、フローリア様……レン坊が……レン坊が……」
「帳簿の計算ミスを一瞬で見抜いたんです……!」
「僕が徹夜でチェックしても気づけなかったのに……!」
フローリア
「……帳簿のミス?」
ぼく
「フローリア先生。ここの合計、足し算が2つ足りないんです」
フローリア先生は数字の場所をちらっと見て、数秒で脳内計算を終えた。
「……本当ね。確かに二つ抜けているわ」
親方
「なぁフローリア……これって……また魔力とか関係あるのか……?」
フローリア先生はぼくをじっと見つめた。
その目は、魔法を見たときとは違う、もっと深い、学学者としての驚愕の色だった。
「……いいえ。これは魔力じゃないわ。純粋な“数理の才能”よ」
親方
「…………」
フローリア
「四桁の複雑な集計のズレに即座に気づくなんて、普通は大人でも苦手よ。まして、まだ5歳の子どもが誰に教わるでもなく自然にやってのけるなんて——」
ぼく
「だって、ここだけ形が歪で、スカスカだったから」
フローリア
「スカスカ、ね……」
フローリア先生はゆっくり膝を折り、ぼくの目を真正面から見つめた。
「レン。あなたは、魔法だけじゃなく……数字の世界の“構造”までも、その目で掴んでしまうのね」
ぼく
「……?」
フローリア
「この子は、ただの『規格外の魔法使い』という枠には収まらないわ。論理、数字、魔力……どれをとっても、“構造を理解する感覚”が異常に早すぎる」
親方
「おいおい……またおとちゃんの心臓に悪いことばっかり言いやがる……!」
ギルド員A
「レン坊……もう凄いとか通り越して、なんか……将来がいろいろと恐ろしいぞ……」
ぼく
「ぼく、そんなに怖い子に見える……?」
親方
「怖くねぇ!! すげぇだけだ!! ちょっとすごすぎるだけだ!! いや、だいぶすごすぎるけど!!」
ぼく
「ふふ。おとちゃん、ありがとう」
フローリア先生は深いため息をついた。
「……バルカン。レンの教育方針、さらに前倒しで急ぎましょう。魔法の制御だけじゃない。数学も、論理学も……この子は“全部”際限なく伸びていくわよ」
親方
「全部ってなんだよ!!? どんなバケモノに育つんだよ!!?」
フローリア
「才能が多すぎるのよ、この子は」
ぼく
「おとちゃん。ぼく、こうやって数字を綺麗にパズルみたいに足していくの、すごく好きだよ」
親方
「……おう。お前が好きならおとちゃんは全力で応援するけどよ……。ほんと、すげぇな……」
ぼくは帳簿を見ながら、また数字を頭の中で並べ替えたりして遊んだ。
(なんか……ぐちゃぐちゃだったものが綺麗に整うと、すごく気持ちいいんだよね……)
それはぼくが、ただの魔法使いではなく、世界のあらゆる“構造”を解析する存在になる——その最初の証明だった。




