第15話 ぼく、5さいになります
朝のギルドは、なんだかいつもよりそわそわしていた。
ハンマーの音も、声も、笑い声も、ぜんぶきらきらしてる気がする。
ぼく
「……ふあ、よく寝た……」
階段をとん、とん、とおりると、大きな背中がくるっと振り向いた。
おとうちゃん
「お、おお……おはよう、レン……!」
あれ……?
なんか、おとうちゃんの目が赤い。
ぼく
「おとうちゃん、もしかして寝不足? 目が赤いよ?」
ギルド員A
「親方、ついに言われたな……“おとうちゃん”って……」
「ほら泣くぞ、泣くぞ……」
おとうちゃん
「う、うるせぇ……泣いてねぇ……!」
ほんとはちょっと泣いてた。
ぼくはクスッと笑って、おとうちゃんの手をぎゅっと握る。
ぼく
「ねえ、おとうちゃん。ぼく、今日で本当に5歳になるんだよね?」
おとうちゃん
「ああ。五年前の今日、お前は俺の息子になったんだ」
ぼく
「……ん?」
その言い方、なんだかすごく温かくて胸がぎゅってなる。
フローリア先生が隣に来て、すこし大人っぽい優しい笑顔をした。
フローリア
「レン、お誕生日おめでとう」
ぼく
「ありがとうございます、フローリア先生!」
フローリア
「あなたに、この魔法の本を贈るわ。“初級魔力制御入門”よ。今のあなたの理解力なら、すぐに読めるはずよ」
ぼく
「わあ、嬉しい! 絶対に読みます。ありがとう!」
ギルドの大人たちが、大きな箱をどんっと机に置いた。
ギルド員A
「ほらよレン坊! 新作の難関木のパズルだ!」
ギルド員B
「こっちからは革手袋! まだちょっと大きいけどな!」
ギルド員C
「俺からはこれ……あまり激しくは叩けないけど、子供用の小さな金槌だ!」
ぼく
「みんな、本当にありがとうーー!!」
おとうちゃんは、みんなの後ろで、なんだかずっと照れくさそうにモジモジしている。
ぼく
「おとうちゃん? どうしたの?」
おとうちゃん
「……レン。ちょっとこっち来い」
大きな手に引っ張られて、工房の奥に連れていかれた。
そこは、炉の明かりがほんのり赤くて、鉄の温かい匂いがする、ぼくの大好きな場所。
おとうちゃんは、棚の奥から小さな包みを持ってきた。
おとうちゃん
「……これはな、お前を拾ったときに体に巻かれてた布だ」
ぼく
「……え、あの時の……?」
おとうちゃん
「ずっとお前に返したかった。だけどボロボロでよ……。だから、俺が不器用なりに縫い直したんだ」
包みが開かれて、手のひらサイズの綺麗な赤いマフラーが出てきた。
ぼく
「……これ……」
おとうちゃん
「お前の本当の誕生日は、計算上は三ヶ月前だ。でもな……」
おとうちゃんはゆっくりと、ぼくの首にマフラーを優しく巻いた。
「俺は……“今日”のほうが大事なんだ。五年前の今日、お前は俺の前に現れて……俺はその瞬間から、お前の父親になった。だから今日が、俺たち親子の記念日だ」
ぼく
「……おとうちゃん……」
おとうちゃん
「レン。5歳の誕生日、おめでとう。生まれてきて……俺の息子になってくれて、ありがとな」
胸がぎゅーっと熱くなって、視界が涙で一気ににじんだ。
ぼく
「……ぼく……。ぼくね、おとうちゃんの子供になれて……本当によかった……っ!」
おとうちゃん
「……! お、おう……っ!」
ギルドのほうから、どわーっと誰かが大号泣する声が聞こえてきた。
ギルド員一同
「親方ぁぁぁ……! 強引だけどいい話すぎるだろぉぉ!!」
フローリア
「まったく……男ってすぐ泣くのね……」
そう言いながらも、フローリア先生も少し目を潤ませて微笑んでいる。
ぼくはおとうちゃんの胸元で、赤いマフラーをぎゅっと握りしめた。
(やっぱり……世界で一番温かいな……)
ぼくの5歳の誕生日は、たくさんの“ありがとう”でいっぱいになった。
そして今日からぼくは、心からの親愛を込めて、ちゃんと“おとうちゃん”と呼ぶんだ。




