33.その存在は知っていたけれど
お読み頂き有難うございます。
前回では何のこっちゃ分からん所で切りましてすみません。
そして謎の人物を探しに行くところはもうちょっと後になりました。
王様はメンタルをガリガリ削られた上に退場するようです。気の毒。
陛下の勅命が何故か私に申し付けられ、ボケっとしている内に陛下はお戻りになってしまわれた。
勿論近衛のお偉いさんであられるチェネレ様とアルヴィエ様もね。
「……また壁が…」
「何時もの事じゃないですか」
「何で壁が壊れるのが何時も起こるんだ…我が国は異常だ!!」
「……すんません、ウチの甥っ子も込みで。
叔父上様は仕事に行ってくるからよ、レルミッド…もう暴れんなよ。
暴れたら結構多目にブン殴るからな」
「人を何だと思ってんだよ!理由も無く暴れねえよ!!」
理由有ったら…暴れられるのね。
…いや、ウチに義兄さまが居る以上何か言える立場ではないわね。
……そうよね、異常よね。普通夜会で石造りのお城が2箇所も崩れないわよね。
ひとつは襲撃でも、ふたつめは身内の仕業ってさあ……。
嘆かれる声が聞こえたから、滅茶苦茶申し訳ないわ……。
やったの義兄さまとはいえ、私のせいだし。
この時間までで2箇所も派手に壊れるなんてね……。
「……ああどうしよう、どうお詫びしましょう」
「何があ?慌ててる顔も可愛いねえアローディエンヌう」
膝からのんびりした声が!
何を呑気な!!義兄さまのせいじゃないの!!
「義兄さまが壊した壁その他色々の事に決まってるでしょうが」
「ああ、あんなの?」
「あんなの!?」
あんなのってレベルじゃない位壊れてるけど!?
壁だけじゃ無くて、其処の床とか!!
「いいんだよ、僕に無茶振りしてくる時点で被害予算計上してあるから」
「何でや!!国家予算をそんな事に使ってはいけません!!!」
「えーだったら呼ばなきゃいいんだよお。ちゃんと補填出来て回収できるから大丈夫だよお」
「……本当ですか?」
「うんうん」
「……胡散臭いお返事ですわねえ」
「ひどいよおアローディエンヌったらあ」
「ブギュ」
ヴェール越しにモフっとすり寄って来たのはフロプシー。
やべえアニマルセラピーってやつ?
……ささくれた心が癒えるわ。
……取り敢えず、私にはお城の修復には何も出来ん。
……事が終わったら陛下に念入りにお詫びするとして、私に出来ることを申し出よう。
義兄さまを婿に出せとか私が嫁に行けとかは勘弁だけど。
で、状況を整理しよう。
この場にお出でになるのは、マデル様、バルトロイズ様、レルミッド様、サジュ様に、フォーナ。
あ、後膝の上に義兄さま。肩の上にフロプシー。
……私の周りだけスゲー密度が濃いな。……キャラも濃いし。
まあ、このお部屋でキャラ薄いのって私だけだけどな。
…冷静に考えると虚しいな。
……しかし、一方通行とはいえ、何で義兄さまに顔見られても今は平気なんだろう。
もしかして、レルミッド様と散々喧嘩なさって義兄さまが弱っているからだろうか。
弱ったら……無差別魅了も薄れるの?……仮定だから分からんけど。
もしそうだとしたら、明日になったら…回復したらこんな接近するなんて真似は出来ないわね。
……無意識に撫でる手が強張ってしまった。
うーん、別れる訳でもあるまいに、モヤモヤするわ。
嫌ね……。ベタベタされるの苦手なのに、何でかしら。
って考えが逸れたわ。
えーと、バルトロイズ様は、結局お許しが頂けなかったから王都におられる事になったのよね。
だから、その他全員が近日中にソーレミタイナ入りが決定している。
何でや。
……私以外の他の面子は良いわよ。問題は私よ。
足も遅いし、魔法も使えない。オマケに世間知らずの引き籠り。
囮役もド下手くそだと言う事が判明したし、魅了無効も四分の一だし、顔も能力もモブ。
おお、考えれば考える程、価値もへったくれもないではないの…。
……私ってば何の役にも立てないわ……。
あ、前世の記憶を掘り出して皆様のお世話を…家事に勤しむか?
この人生では遠ざけられていたけど、知識はある!!
しかしなあ、文明の利器が無いこの世界でどれだけ通用するか…。うん、通用しなさそうだよ………。
あーーー!!こんな事なら桶の水をグルグル回して…洗濯に利用するとか、練習を頑張れば良かった!!
そんな程度でレベル上がるのか知らないけど!!
「あの……お二人は兎も角、私も行かなきゃなりませんの?」
「寧ろー雨のお花ちゃんはー行かないと無理よー」
「あのですねえ、アロンさん…。アロンさんは行って下さらないと…その、レギちゃ…皇太子から奪い返してもスキルを填められませんので……」
「スキルってナマモノらしくってさ、持ち帰る内に劣化しても困るんだよ」
「……そうなのですか」
……初めて知ったわ。スキルってナマモノだったのか。
パラメータが体内?に有るから内臓みたいな扱いなんだろうか。
…生体移植みたいな?
……そう考えるとグロイわね。
保管場所は魔法で動く的な冷蔵庫だろうか?有るのかどうか知らないけど。
「レギちゃんって呼んでたのー?」
「え、ええとですね。レギちゃん…皇太子は、ニック…私の幼馴染の、弟子なんです」
「え?」
「あの変態蝋燭野郎かよ!!アイツ他の王子も弟子とやらにしてたんだろうが!
王族を侍らす趣味でもあんのか!?」
「え、何それ先輩。名前だけ聞いてもキモい奴そうだな」
おお、また話に出たオルガニックさん!!
そうよ、レルミッド様の仰る通り、この間のフォーナの話ではどっかの王子様も弟子にしてなかった!?
うん、まあ……思い出したくないけど。
……何だかよく分からない程凄そうだけど、話の仕方が超怖かったし!!
「……あ、はい。ええと」
「綿毛神官」
「ブギギ!!」
「はいい!!アレッキオさん何でしょう!!」
義兄さま、フォーナを条件反射でビビらすなよ!!
何でフロプシーも唸るのよ!!
「その王子の名前は?」
「え?え?」
ん?
突然どうしたのかしら、義兄さま。
「その幼馴染にへばりついた王子の名前だよ。思い出せないの?
要らない脳味噌なら炭化して空っぽにして浮きやすくしてやろうか」
「アレキちゃん、テメエ滅茶苦茶悪趣味だな」
「義兄さまフォーナを脅さないでくださいな!」
「ひいいいい!!し、知ってます!!知ってますううう!!」
「……ああーもしかしてー」
え、マデル様のお声、義兄さまの狙いに納得なさったような感じね。
何なんだ。
うーん、……さっぱり分からん。
頭いい人って、別次元だわー。
「えっとえっとえっと、ティミーちゃんですよ!!」
「何だと!?」
「ひゃあ!」
「まあーびっくりー」
今まで黙っておられたバルトロイズ様が大きい声を出された。
す、凄く響く重低音!!良く響く!!カッコいいけど!!それどころじゃ無いわよね!?
「フォーナ嬢、本当か!?ティミー王子、と言ったのか!?」
「そそそそうです!!何処のお国かは存じ上げませんが、器用な可愛い子で……」
「え?それ誰だよ。知ってっかサジュ」
「いや…知らねえなあ」
私も知らないな……。
もしかして近隣の王国の王子様だろうか。
近隣の国をそんなに知らないけど。
「何ィ!?お前は知っていろサジュ!!ウチの国の第二王子ティム様だ!!」
「……ハアアアアア!?」
「ええええええええ!?」
「ふええええ!?」
うおおおえええええ!?
私も知らなかったああああああ!!
ああっ!!
そう言えば、設定資料集!!
何の役にも立たなかったと思っていた、設定の中に、ショーン王子様…ルディ様には弟がいるって書いてある!!
……ゲーム中にも出て来てないし、現実にも出て来ない…。名前は書いてなくて、存在だけ…。
お会いしないから、サッパリ忘れていたけど!!
ルディ様の弟君ってティム王子って言うのか!!
……どうでもいいけれど、羊の…って付けるとショーンにティミー……。
また……本当にどうでもいいのに、こういうことは思い出す!!!
しかし存在されてたのか。
って、そりゃ現実なんだから居られるわよね!!
何でソーレミタイナに居るかは知らないけど!!
……待てよ?
前に聞いたフォーナの話……。纏めると、確か…。
『外国からやって来た攻略対象の王子様には彼女が出来た』
だったわよね。
フォーナの攻略相手は攻略出来なくなった…つまりルートが潰えた、と言う以外はどうでもいい情報だったように思えるけど。
んー何か引っかかる。……ひっかかるけど。
しかし義兄さま何が言いたいの?
……それに何の関係が?
「……オーフェン様ー結局ー喚き蝙蝠達はー見つかりましたかー?」
「い、いや。未だだ」
「とっととー国外へー出たのだとー思いますわー。
多分ーウチのーミーリヤとー甥御様のルディちゃん付きでー」
「……馬鹿な」
「そんな…マデル様流石に無理ですよ!!」
「は?どーゆーことだよ。抜け道なんて人目に付かねーところにゴロゴロ有るモンだろうが」
「そうか、お前は辺境に居たから知らんのだな、レルミッド」
すみません、私も存じ上げない。
何が何やらサッパリだわ。
警備が厳しいってのはとても良い事だけど、人が遣る事には限界がある筈。
こんなに広い王都だもの。壁の崩れとか、目の行き届かないところが…。
でも、そんな感じじゃ無かったのよね、騎士様親子が仰ることは。
「すみません、出来れば私とフォーナにもご説明を……」
「はうう、有難うございます。貴女が居て下さって良かったですアロンさあん…」
「調子に乗るなよ綿毛神官」
「はうう!!はいい!!」
「一々脅さないでくれますか義兄さま!!話の腰を折らないで!」
「はいはいお子様達ーお静かにー。今からオーフェン様のお話がー始まり始まりーなのよー」
紙芝居でも始まりそうなのんびりさだわ…。
多分お話はそんな呑気じゃないのだろうけど。
「…まあ、他国にも知られているが…この王都には結界が張り巡らされている」
「……まあ!!」
「……それは知ってっけどよ」
あら、レルミッド様のお声が苦いわ。
何か有ったのかしら……。滅茶苦茶お嫌そうな声ね。
結界に何か痛い目に遭わされたのかしら…。
でも、レルミッド様は王家のお血筋なのよね?玉座にお座りになれるくらいなのだから。
「ドゥッカーノの国民であれば、行き来は自由だ。だが……国外の人間で有れば、そうはいかない」
「そうはいかねえってのは?」
「勝手にー入るのはいいけどー許可が無いとー出られないのー」
「はい?」
「ええ!?」
「だってーフォーナちゃんはー勝手に入って来たでしょー。
此処に住んでる人のーご招待無しにー」
「は、はいい」
「だからー結界に阻まれてーこのままだとー出られないわよー」
「ええええええ!!」
嘘、そんなもんあるの!?初めて知ったわそのシステム!!
マジかああああ!!
この王都、そんなもんが張り巡らされていたの!?
全然知らねえわああああ!!
「はわ、はわああああ!!どどどどどうしましょう!!
ニック、ニックも一緒、ああああ!!」
「落ち着いてー単にー出られないだけだからー」
「困りますよおおおお!!」
「どうしてー?」
「マ、マデル様……。普通は国から出られないと困るんですよ……」
「不法侵入者はー罰をー受けるべきでしょーサジュちゃんー」
「そ、その通りですけど」
「不法侵入者を捕らえるその為に張ってあるからな」
……マデル様の仰る通りだけど案外厳しいんだなこの国。
滅茶苦茶緩そうだと思っていたけれど…結構物騒な事も多いようだし。
うーん、勝手な思い込みっていけないわね……。
「はうううう!!どうしましょうー!!」
「取り敢えず変態蝋燭野郎の事は忘れとけや」
「今の所そうするしかありませんわね」
「レルミッドさんもアロンさんも酷いですよおお!!」
フォーナがえぐえぐ泣いている声が聞こえるけど…見つからない人の話をしても建設的じゃ無いしなあ。
見つかってから考えるしかない。冷たいかもしれないけどさあ。
……まあ、オルガニックさんは…個人的には、あまり会いたくないのだけれど。
あのハアハアされるのを目の当たりにするの嫌だし怖いしなあ。
「義兄さま、それでどうしてティム王子様が関係有りますの?」
「あのねえ、アローディエンヌ。
結界は強固だけど、ある程度の地位の人間が許可を出せば出れるの」
「ブギギ」
地位が有る人間…。例えば、貴族…王族?
許可を出せる方…ルディ様は攫われたのなら、お体を拘束されている可能性が高いよな。
脅されて無理矢理許可を出させた可能性も有るけど……義兄さまの考えはそうじゃないみたいな風だし。
そのティム王子様…ソーレミタイナにおられる王子様を脅して連れてきて、許可を出させたってこと!?
「でもよ、『許可は正式な同意の上』で無いと出れない筈だろアレッキオ卿。
口約束じゃ無くて、署名入りの。
犯罪者に脅されての許可では出れない筈だぜ、何でか知らねーけど」
そ、そうなのか…。結構ちゃんと作ってあるんだな。
もっといい加減にされてるのかと。
「……サジュ、事が終わったら勉強しなおしだな」
「うっ!!」
「貴方達姉弟はー相変わらずーお勉強がー嫌いなのねー」
ドートリッシュもお勉強苦手なのか。
……確かに、あの姉弟は体を動かす方がお好きそうね。
納得してしまったわ、御免なさいドートリッシュ…。
「今頃門にティミーの書いた許可状が保管されてるんじゃないの。
存在感無くても未だ王子だし、印章くらいは持ち歩いてるだろうし」
「待て公爵……ティム王子が、ソーレミタイナに加担していると!?」
「フェレギウス皇太子とティミーが変態蝋燭野郎を介して知り合いって線を考えたら有りでしょ。あの卑屈王子も全く見てないし」
……義兄さままでオルガニックさんの事を変態蝋燭野郎って言い出したわ。
会った事も無いのに……。仲いいんだか悪いんだか分からないわね。
そして卑屈王子って……まだ犯人と組んでると決まってる訳でもないのに相変わらず酷い言い種ね。
「直ぐ確認させる」
「はう、はう…!?そんなあ!!」
「お前、弟が義妹にあんなんしたのに、未だ信じらんねーのかよフォーナ」
「だ、だ…だってえ!!レルミッドさあん!!」
「…ちょ、ハア!?」
「なあ御養父殿、……アレッキオ卿は知ってるけど、何で先輩が恋愛小説みたいな事になってんだ?」
「……俺に聞かれてもな……」
うおおおおおお!?え、何なの!?何が起こってるの!?
恋愛小説みたいな光景がこの衝立の後ろで繰り広げられているだと!?
レルミッド様とフォーナが!!マジかあ!!
スゲエ見たいいいいい!!
「……アローディエンヌ、スキルが戻ったら滅茶苦茶イチャイチャしようねえ。楽しみにしてるから」
「……何ですの急に止めて下さい。藪から棒に」
人が妄想に萌えていたら膝の上からすっごく恨みがましい低い声が!!
何なのよ義兄さま!!何でか寒気がするんだけど!!
くそう!!下からとは言え顔見られてるの忘れてた!
妄想が駄々漏れだったか!?こんな所でスキル剥がされた弊害が!!
「話がー逸れ捲りでー困るわねー。
で、アレッキオちゃんはーどうしたいのー?
そうだとしたらー、犯人御一行様はーもうとっくの昔にー出て帰路へ着いちゃってるわよねー」
す、すみません……。
義兄さまが絡むから!!
「関係者で、王都から出られない人間を燻し出して知っていることを吐かせるしかありませんね」
「…出られない人間?」
え、誰だそれ。
……関係者で出られない人間。
それって……ああもう関係者が多すぎるわよ!!
この夜会で初めてお会いしただけでも人多いのに!!
「勿論、ファーレン・カリメラ・ソーレミタイナとオルガニック・キュリナの事ですよ」
「……ファーレン姉さまと、ニックを!?」
「どっちかが見つかれば、どっちかが共犯者かもね」
いやそんなシレッと言う事なの義兄さま!!
もっと重々しく言うべきじゃないの!?
………フォーナのお姉さんか、幼馴染オルガニックさんも……犯罪に関わってる可能性が有るって事なの!?
ええええええ!?
この事件に…ルディ様の弟君に加えて、転生者が絡んでるかもしれないってことなのおおおお!?
や、ややこしすぎるわよおおおお!!
話がダダ長いのでお忘れの方もいらっしゃると思われますが、『ショーン王子』には『弟』がおります。
本編その1でアローディエンヌがチラッと触れてて、番外編そのろくで名前が出てました。
見た目とか血縁関係は…その内。4作目主人公フォーナの攻略対象キャラだったようですね。
とまあ……ショーンとティミー。これを書きたかったのです。
あ、羊の方は他所んちの羊で兄弟じゃありませんし名作です。




