30.四分の一が守れたものは
お読み頂き有難うございます。
前話でぶっ倒れたアローディエンヌが意外と早く目覚めます。
例によって例の如く、義兄さまは…まあ、暴走してるようですね。
人が増えて来たので人物紹介を近日更新します。
案外多いなあ。
……眠いわ。
それなのに、ガコガコ音が聞こえる……。
何かこう、缶製のゴミ箱を蹴っ飛ばすような音みたいな…?
しかもしつこい…凄く耳障り……。
誰だそんなことしてんの!
此処何処だっけ。
何だか滅茶苦茶焦げ臭いし……。
「煩ぇええええええ!!!アレキちゃんいい加減にしろボケええええ!!
お前が暴れたせいで、犯人逃げたんだろうがあああああ!!」
「煩いのはお前だ声がデカい!!俺をよくもこんな所にいいい!!鳥番絶対殺す!!殺してやる!!!」
「頼むから落ち着けアレッキオ卿!!」
う、煩いっ……。レルミッド様のお声は確かに滅茶苦茶大きいけど、義兄さまだって滅茶苦茶煩いわ!!
って言うか、この頃大人になったから大声を聞かなかったけど、喚き方が子供の頃とおんなじよ!!
ああ、煩い!!
今度は何の癇癪なのよ!?
「はわわああああ!!落ち着いて下さいアレッキオさあん!!アロンさんが!!アロンさんがあ!!」
「えっ、アローディエンヌ!?」
私は、周りに迷惑を掛けまくっているであろう義兄さまを止める為、開きにくい目を根性で……開けた!!
「……んあ!」
「あ、あああア…アローディエンヌううううう!!!」
義兄さまが私の名前を絶叫する声と共に、ガタガタガコガコってさっきの喧しすぎる音がする。
両方マジ煩いな!!何の音だよコレ!!不愉快な音過ぎる!!
くそおおお!!もう何なのよ一体!!
あーもう何でかしら、こういう時に限って目の焦点が合わない……!!
早く義兄さまを叱らないと!!
「……アロンさあん!!よくぞお気づきでえ!!」
「…………フォーナ?」
この声はフォーナか。何かボケっとした声しか出ないわ!!
……あ、私を抱えてくれてるのかな。
顔の真上に、彼女の紺色の髪の毛がボヤっと見える…まだしっかり見えない!!
あーもう苛々するわね!!
「そうです、フォーナです!!ああ良かった、流石アロンさん、神のご加護が」
「アローディエンヌ!!アローディエンヌったらああ!!」
フォーナの声が聞きにくいだろうが!!ガタガタガタガタ煩いな!!
後義兄さま声デカい!!久々に叫ばないで欲しいわ!!
「……義兄さま、滅茶苦茶煩いですわよ!」
「!?」
「ア…アローディエン……ヌ?」
「ブギュウ!!」
……?
何だ?私の顔に何かついてるの?
何か滅茶苦茶見られてる気がするんだけど…駄目だ、目の焦点が……あ、ぼんやり合って来た。
横の方に茶色の塊が浮いてるな…フロプシー?
フォーナと仲悪いのに…近くに居てくれたのね。心配かけて御免ね…優しいウサギ?だわ……。
「……おい義妹……」
「そのお声はレルミッド様。戻られましたのね」
「いやそれよかお前」
「アローディエンヌう!!アローディエンヌったらあ!!」
またガタゴトガタゴト煩いな!!
さっきから何の音だよコレ!!
「義兄さま、だから煩いんですけれど……!!」
私が戻ってきた視力をそっちに向けると、滅茶苦茶デカい籠のようなものが有った。何か動いてるように見えるけど。
その中に、見慣れた赤毛が入っていた。
………え?何で?
と言うか何処から出したの、この籠。何で義兄さまが中に入ってんの?異世界テイストの座敷牢?
よく分からんが、義兄さまのことだから、入れられるような悪いことをしたって事よね。
……誰が入れたのか分かんないけど、義兄さまをひっ捕まえて?
よく入れられたな。
「……義兄さま?」
「そうだよお!!君のアレッキオだよ!!」
「……いや知ってますし、要らない自己紹介は結構です。何だか目が見えにくくて……」
周りの人が息を飲んだのが聞こえた。
あ、要らん心配をかけてしまったわ。
と思ったら義兄さまが悲愴な声で騒ぎだした。
しまった!!折角落ち着いたかと思ったのに!!
「アローディエンヌが怪我!!あのガキ楽には死なせないいいいい!!!!」
「いや、地味に見えてきましたから……いい加減落ち着いて下さいな」
「絶対殺す!!大陸燃やしてでも探しだして裂いてやる!!殺し尽くす!!」
「だから物騒な事は止めて…あ、見えて来た」
「ホント!?」
靄が掛かったような視界がやっとクリアになってきた。
……本の読み過ぎで目ヤニでも溜まってたのかしら。嫌ね。
私がパチパチと瞬きすると……またバタバタガタガタ鳴り出した。
本当煩いな!!何だよ誰だよ!!いい加減止んでくれよ!!
私が目を凝らすと、そこには、人の身長位有る紫色の鳥籠が鎮座しており…その中に絶世の美青年が大人しく…しておらず、鉄格子をガタガタ揺らしているのが見えた。
え、何で鳥籠?
あ、周りに…あの色合いは多分サジュ様ね。必死に鳥籠を押さえていらっしゃる……。
……あ、音の正体コレかって、発生源義兄さまかよ!!何してんだよ!!
「アローディエンヌううう!!」
中には、涙目の義兄さま……。その薄くて青い、涙で濡れた相変わらず綺麗な目といつものように目が合った瞬間……。
ごと、と重い何かが動く音が体の中からした。
私の中…何かしら、胸の中のような、背中側に有るような…取り敢えず何かがゴトゴトゴトゴト音を立てて……顔に体に熱が奔り……。
「……がはっ!?」
背中に激痛が弾けた。
「ハァ!?」
「あああああああ!!アローディエンヌうううううううううう!!!!」
「アロンさあああああん!!!」
「煩っ!!ちょ、アレッキオ卿もフォーナも落ち着けえええええ!!鳥籠が壊れる!!義妹殿落とすな!!」
……それからまた私は再び、ぶっ倒れたのだった。
……義兄さま……煩い。
サジュ様、すみません……。義兄さまが滅茶苦茶迷惑を掛けてるのは…分かります……。
後程ドートリッシュと一緒に…お菓子を……。
「……あらー気が付いたー?」
「……此処は……」
「ブギュウウウウ!!」
大人の女性の柔らかいのんびりした声と、膝をたしたし叩く衝撃がする。
……フロプシー?
「アレッキオちゃんを動かすのがー大変だからーちょっとー離したのー。覚えてるかしらー?」
「左様で御座いますか、大変ご迷惑をお掛け致しました」
「いいのよー取り敢えずー私の名前覚えてるー?」
「…ええと、マデル様……」
私は彼女の名前を告げた。
あんな大人美女はお目にかかったこと無いからな。忘れもしないわ………。
「良かったわー。記憶障害はないみたいー。ほかに覚えてることはあるー?」
……何だっけ?
ああそうだ、ルディ様とダンスをして……義兄さまとルディ様がモメて摘まみだされて…。
……長椅子か?コレ。あ、寝てる私に誰かがコートを掛けて下さったみたい。マデル様かな。
しかしさっきは床だったけど、鮮やかな黄緑色の刺繍が美しい、白い長椅子に寝かされていたみたいだ…。
手触りいいな、コレ。
ってそうじゃない。さっき…さっきね。
私が身を起こそうとすると、フロプシーは私の上から一旦浮き、膝の上にもふっと鎮座した。
マイペースなウサギ?よね。でもその重みがホッとするわ。
「フォーナを義兄さまとマデル様とサジュ様とが尋問してて……
メイドさんに背中を撫でられたかと思ったら……義兄さまの顔を見て倒れたんでしたしら」
「滅茶苦茶冷静ねー。取り敢えずー良かったわーこれどうぞー」
白い手が…凝った模様の、上に摺りガラスが填め込まれた衝立の後ろから出てくる。その手には薄い黄色の飲み物が入ったティーカップ。
カップには野草のような…ラベンダーの模様かな、カップ可愛いな。
……ん?衝立?
何でマデル様、衝立の後ろからコレくれたの?
気になるけど……取り敢えず頂こう。
……旨いなコレ。レモンとショウガと蜂蜜かしら。熱すぎなくて美味しいわ。染みるわ。
喉が地味に乾いていたのかしらね。結局お茶飲めなかったからな……。
「……あの、コレは一体?」
「飲みながらでいいけどー驚かないで聞いてねー。雨のお花ちゃんー」
「は、はあ……何で御座いましょう、マデル様」
「貴方のースキルがー割られたの」
「……割られた?」
「ブギギ」
その変な厨二呼び名も気になるが、割られたってどう言う事?
……スキルって割れるの?
どう言う事?サッパリ分からない。どうしてさっきは皆様居たのに、マデル様だけなのとか疑問は湧くけど……順次お話を聞こう。
「その前にー、聞きたいのー。あのお茶を運んできたー男の子ー、あの子をー知ってるのねー?」
「街中でお会いしました。お姉さんと一緒に居て……」
「サジュちゃんもー同じ事言ってたわー。コレで確信が持てたわねー」
マデル様はどうやら衝立の裏におられるようだ。
かすかにシルエットが摺りガラス越しに見える。
……何でそんな所にお出でなんだろう。
「あのねー、あの子なんだけどー、ソーレミタイナのフェレギウス皇太子なのー」
「……はい?」
こうたいし?
後退し?交替し?交代し?
……いや、フェレギウスって名前よね。
……話の流れ的に、名前の後ろに付けるもんじゃなかったわよね。
「……あの、メイドの少年が?」
「メイドの格好で忍び込んだだけでー、いつもはー女装じゃないと思うわよー」
「そ、そうですわね……。って、皇太子!?皇太子ですか!?」
あの子がぁ!?
あ、あの子……ドートリッシュと行ったカフェでお姉さんが絡まれてた子……よね。
お姉さんにレギ君って呼ばれてたっけ。
あんな変わった色の目、見たこと無いし……。
って、マジで!?皇太子なの!?
皇太子があんな気軽に街中に居ていいの!?
……ルディ様もその場で見たけど、継承権持ちの王族がフラフラしてていいの!?
この世界の王族の危機管理はどうなっているのよ!?
「…そうなのー、信じられないけどー。
それでねー、あのガキはー雨のお花ちゃんをー襲ったのよー」
「お、襲った……背中撫でたことですか!?」
「そうよー。体の中心がー変な感じしたでしょー」
私はマデル様の言葉を受けて、さっぱり肉気が足りない胸に手を当てた。
……何か場所違う気がする。
背中かな?うーん、背中のその辺に触ろうとすると…手、手が攣る……。
……運動不足が極まってるな。しょうもないことは止めよう。多分背中だ。
「……はい。背中にしました」
「音はしたー?」
「……堅いお菓子を、バキッと割るような」
よし、ちゃんと言えた!
流石に色々世界観おかしいけど、流石にお煎餅は無いだろうしな……。
だがあの音は間違いなく、滅茶苦茶堅めのお煎餅を割る音だわ……。
「……間違いないわねー。あのねー、雨のお花ちゃんー」
「何でしょう」
「もう一度言うわね。貴方のスキル、『魅了無効』がフェレギウス皇太子によって、割られたの」
…語尾を伸ばさない喋り方も出来るのね、マデル様。
シリアスに喋られると、また声の甘さが出来る女性らしく素晴らしい……。ってそれどころじゃ無かった。
……私のスキルが、『魅了無効』が割られた?
割るって…割るって……。どうやってなの?
話題になってたスキル剥がし……剥がすんじゃなくて?
「……『魅了無効』って割れるんですの?」
「普通はー割れないのよー。貴女のスキルは金色だからねー」
「金色?」
「今生きてる中で二つとないって意味ねー」
「え、……あのスキル、そんなに凄かったんですの?」
……そんな大層な。
騒がれるだけ騒がれたけど、義兄さまに塩対応出来るくらいで大して役に立ってないから放置してたスキルなのに……。
……あー、でも塩対応は、長年の苦労によって培われたもんかもしれないわね。
「昔ー新聞にー載ってたらしいじゃないのー。私はー覚えて無かったけどー、ルーニア…私の幼馴染がー覚えてたのよー。一夜漬けで頭に入れてきてー良かったわー」
「へ、へえ…そうなんですか」
幼馴染さんよく覚えてたもんだな。
10年ちょっと前に騒がれた割に、こんな役に立たないスキルの存在をご存知とは……。よっぽどスキルにお詳しいのね。
「それでねー、ちょっとこれを見て欲しいんだけど……」
また衝立の後ろから白い腕が伸びて来た。……よく手入れされた手だなあ。
その綺麗な手に握られているのは……銀で出来た花模様が彫られた手鏡だった。
私は飲み干したカップをサイドテーブルに置き、鏡を受け取る。
キラキラした意匠に見とれていると、膝の上のフロプシーがふんふん鼻を動かしている。
匂いを嗅いでいるのかしら。
「ギギブブ」
「素敵な手鏡ですわね」
「物への感想でなくてー表面で自分のお顔を見て欲しいのー」
顔?
あ、意識無くした時に顔面からぶっ倒れて鼻血塗れだとか?
今の所カピカピはしてないけど。
それともどっかぶつけてエグイ事になってるとか…なら困るなあ。
そう言えば、さっき義兄さまと他の方々も吃驚した顔してた。
……この歳で人相が変わるのか……。まあ、無事に此処まで生きて来れた事だし、生きてるだけ素晴らしい事だけど。
「……二目と見れないぐらい人相が変わっているのですか?
ですが元が大したこと無いので、グロくなっていたら…少々悲しいですわね」
「……そんな事になってたらー、流石に意識ない間に治してから見せるわよー。
流石蝶々ちゃんのお花ちゃん、発想が変わってるわねー」
しまった……マデル様に呆れられてしまった。
戯言を言ってないで早く見よう。
私は慌てて鏡をひっくり返した。
そして私は……絶句した。自分の顔に。
「…………は?」
「……自覚はー無かったみたいねー」
其処には……見慣れた私の顔が有った。
灰色がかった黄色の髪の毛…灰汁色だっけ?は解かれていて、被っていたヘッドドレスは無い。
寝るのに邪魔だったから誰か取ってくれたのか、外れたのかは不明だけど。
アクセサリーはまだ付いてるな。動くとシャリシャリ音がする。よく外れないもんね。
で、目は何時ものように死んで……無い。
死んでない!?
え?って顔を………している…だと!?
顔の筋肉が…目に見えて、動いている!!
「私の……表情が、ある……」
「本人が吃驚してるのねー……。『魅了無効』って無表情がスキルの副作用なのねー。知らなかったわー。流石レアスキル中のレアスキルねー。全く詳細な文献がー残ってないんだものー」
え。無表情ってサポートキャラの呪いじゃ無かったんだ。
『魅了無効』のせいなのかよ!!
全く気付かなかった!!誰も教えてくれなかったし!!
「こ、これは…わ、私に表情が!!表情が有りますわマデル様!!」
「ええー。そうねー、有るようねー。ちょっと目の当たりにはー出来ないのだけれどー」
「え?何故ですの?」
滅茶苦茶いいじゃないの、コレ!!滅茶苦茶表情が動くわ!!口も頬も目も!!マジか!!
いや、そりゃ無表情も…色々妄想しててもニヤケてんのがバレないとか役に立つことは有ったけど、不愛想にしか見えないじゃない!!
これからの社会生活にマイナスしかないし!!
私はにやける頬をガシガシ触ってしまった。
……あ、頬紅が歪んで白粉が取れたわ。しまった、化粧直しの白粉持って無いのに。……横の方の白粉を伸ばして誤魔化して擦っておこう。
「あのねー、私も専門家じゃないから仮定だけどーそんなにハズレでもないだろうからー聞いてくれるー?」
「は、はい」
「雨のお花ちゃんはー、パラメータのー魅了耐性がー殆んど無くてー『魅了無効』が代わりに担ってるようなのー」
「…耐性ですか?」
へーそんなもんあるのかー。益々RPGっぽいなあ。
「そうなのー。本来のパラメータはゼロに近いのー」
「そ、そうなんですか……」
ゼロに近いの…流石私ってモブだな。
……ん?ちょっと待て。
魅了の耐性が、ゼロ?
ちょっと待てよ。魅了の耐性が無いぃ!?
魅了って…魅了って……滅茶苦茶近しい関係に、抑え付けてるとはいえ、『無差別魅了』が居るんだけど!!
「……マデル様、まさか今の私は……『魅了無効』に頼り切っていた為に……大半が無くなった途端魅了に掛かり放題って事でしょうか」
「違うわー」
あ、良かった!!其処までは無いのか!!
良かったあ!惚れ放題の花畑体質みたいな変な事になるのかと思った!!
……まあ、モブにそんなイベントは無いわよね。可愛い子がやるべきよね、そういうのは。
「……今の雨のお花ちゃんはー、四分の一しかー『魅了無効』が残ってないのー」
「は、はい」
四分の一…四分の三も取られたのか。
い、いやでも残ってるだけマシだな。全部剥ぎ取られて道端に転がされた人も居るっていう話だし。
そんな方々に比べれば、義兄さまは居たし、皆様も居たし…不幸中の幸いよね。
何であの子が…フェレギウス皇太子がメイドっ子の女装までして、私を狙ったのか…レアスキルだからだろうけど。
……普通にお姉さん思いのいい子そうだったのに。
「一定以上の魅力持ちと目を合わすとねー、残った四分の一がー過剰に働いてー気絶させるみたいー」
「……え」
気絶!?
……過剰に働く!?
「……だからー、私はー雨のお花ちゃんのー前にー出れないのー。念の為よー自意識過剰と思わないでー」
「……い、え?…マデル様はとてもとてもお美しいですわよね……」
「今はー喜べないわねー」
……ちょっと待って。……するってえと何か。
魅力に耐える力が無いから、残った『魅了無効』が安全装置になって、意識ごと無くすってこと!?
…一定以上の魅力持ちと…つまりイケメンか美女と目を合わすと、ぶっ倒れる体質になったって訳!?
ちょっと待って……。
……あかんやつじゃないか。
私の周り、自慢じゃないが身内や知己はイケメンと美女で溢れているのよ!?
殆どの人間と…義兄さまと顔を合わせることが出来なくなったって事なの!?
手が震えた。
鏡の中の私が、滅茶苦茶青ざめて、顔を引き攣らせているのが写っている。
……こういう表情が出来たとは……。
で、でも……。
義兄さまは?
無差別魅了持ちの義兄さまと顔を合わせたら、所構わずぶっ倒れるなんて……。
……嫌だ。
嫌よ!!
もう……顔を合わせなきゃいいやって関係じゃないのに。
義兄さまは…義兄さまは!!
あーもうよく分かんないけど、嫌よ!
義兄さまと見つめ合えないと考えるだけで、鏡の中の顔が、泣きそうに歪んでいる……。
ああ、自分の顔ながら、何て見慣れない……。
「あの、マデル様……」
「アレッキオちゃんの事ー?」
「は、はい……義兄さまは今…どうしているのでしょうか」
「暴れまわってー煩いからーレルミッドちゃんにー鳥籠にー捕獲してー入れて貰ったのー」
……何だと。
暴れまわって、レルミッド様に捕まっただと?レルミッド様、義兄さまと渡り合えるの!?
あっ、そう言えば王城内なら最強だって義兄さまが言ってたけど、まさかそれ!?
凄いなレルミッド様!!義兄さまをお止め頂いて後でお礼を言わなきゃ!!
でも何で鳥籠!?鳥番って渾名と何か関係有るの?
「……あの鳥籠、レルミッド様が!?」
「魔術で出来てるのよー。流石王様ー…あー、それもお話ししてないことねー」
「は、はあ……」
……ちょいちょい出てくる『王様』って何なんだろう。
それも物凄く気になるけど……。
でも、義兄さまが…義兄さまに会いたい。
……顔は合わせられないとしても…会いたいわ。
「動けるかしらー?じゃあー、移動しましょうかー。貴女のお義兄さまがお待ちのー焦げてるお部屋へー」
「歩けます、歩けますが……こ、焦げてるお部屋……?」
「壁とー後色々がー風通し良くなったのよねー。真冬でなくてー良かったわー」
マジかよ。
……義兄さまが壊したんだな!?何しとんだ義兄さま!!
お城の方々に多大なるご迷惑を掛けてええええ!!
それ聞いて若干会いたい気が失せたんだけど!
……しっかし、王城をぶっ壊しただなんて……賠償とか大丈夫なのかな。
別に体は何とも無いし、寝てたから結構体軽いけど、気が滅茶苦茶重いわ……。陛下に何とお詫びすれば……私みたいな無位無冠の無職がお会いできる訳無いけど。
「所でー、アレッキオちゃんからーお膝のー外套を頭にー被ってー来てってー言われたけどー」
「……義兄さまのですか?」
あ、さっき退けたやつか。…どっかでと言うかさっきまで見てたバーガンディのコート。……今着てるドレスとそっくりなやつ……。
………え、何で?
義兄さまは何で上着脱いでマデル様に預けてんの?
別に寒くも何とも無いんだけど。
「誰か変なのとー視線が合ったらー危ないしー、私がー手を引くけどー」
「あ、有り難う御座います」
「でもー、護送中の犯人みたいだからー止めた方がいいとー思ったのだけどーどうするー?」
「…………全くですわね」
コレを頭から被ってマデル様に手を引かれる私か………。
うん、滅茶苦茶凶悪犯の護送中っぽいな。こっちでもそうなのね……。
全くそうとしか思えないな。多分何方か突っ込んで頂いたわよね……。聞かなかったんだろうな、義兄さまは。
何考えて寄越してんだよ義兄さま。
見どころは紫色の鳥籠に囚われてガッタンガッタン暴れる『燃え落とす紅の蝶々』義兄さまです。
……笑う所ですが、笑ったら燃やされる感じですね。
最後がギャグ調で終わって何ですが、大事な人の顔を見つめることができないのは、辛いのではないでしょうか。




