17.悪役令嬢は強請り集る
お読み頂き有難うございます。
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嬉しいです有難うございます!!テンション上がります。
あ、三人称に語り手が変わります。すみません。
義兄さまのターンです。被害者は叔父上こと国王ウォレム様です。
気の毒。
「あの方が新しい筆頭公爵様…」
「アレッキア様にソックリだよな…何と麗しい」
「流石お血筋と言うか…」
「一体何処に隠されていたのだろう……」
アレッキオが城の中を歩く度、ひそひそと話し声が聞こえる。
噂する者は身分も様々で、総じて口さがない者達ばかりだった。
あの大火事からもう直ぐ1年。
王子ショーンの婚約者アレッキア・ユールは姿を消し、筆頭公爵として現れたのは同じ顔をした青年。
双子の兄では。いや、前公爵、もしくは王姉の隠し子では。
様々な噂が水面上でも下でも動く中、彼はどの話題にも何の反応も示さなかった。
今でもその薄い青の目は何の感情も浮かべていない。
公になってはいないが、大火事を巻き起こしたのは前公爵だと言われている。
その責任を取る為、跡を継いだ後も暫く蟄居していたと言う。
彼は誰なのか。
隠されていたのか。
隠されていたとしたら何故なのか。
そして、何故公爵令嬢アレッキアに生き写しと言っていい程そっくりなのか。
アレッキアは何処へ姿を消したのか。
暫くの間潜んでいた噂も、彼の姿が見えた途端、浮上する。
社交も全く行わない。
会話を交わすのはごく僅か。
視線を交わした者すらごく僅か。
だが彼は…遊び惚けていた前公爵よりも物凄く仕事が出来た。
彼の領地は以前は毒にも薬にもならなかったそうだが、最近新たな産業が興っていると聞く。
その手腕とその美貌に付け入らんとする者はとても多かった。
だが、彼は…どんな立場や美貌を誇る老若男女誰が言い寄ろうとも、何の反応も示さない。
靴音も経てず、すり抜けて行く。
アレッキアですら、控えめに社交の場には立っていたと言うのに。
その態度にやっかむ者も現れている。
失脚させてやろうと手薬煉引いている者も。
だが彼は何の誘いにも掛からず罠にも嵌まらなかったのだ。
「……ユール公爵様」
「……」
恐る恐る掛けられた言葉に赤毛の頭は振り向かない。
何の反応も示さない彼に怯えながらも、侍従は更に声を張り上げた。
「ユール新公爵様、陛下からお召しが掛かっております」
「……」
視線も言葉も無く、アレッキオは踵だけ返した。
慌てて伝言を持ってきた侍従が先導しようとするが、彼の足は滑るように進んでいく。
侍従は小走りに成らざるを得なかった。
王城は広い。先導が無いと迷う貴族も多々居る。
しかし、新たに筆頭公爵となったアレッキオは行く先を全く躊躇わなかった。
まるで昔から隅々を知っているかのように、
足取りに迷いがない。
何人も入れない、奥まった先。
幾つかの騎士達の守る扉を抜けないと入れない場所。
先導も無しにどうやって抜けていったのか。
彼が足を向けた先は、王の私室だった。
「ゆ、ユール公爵様お召しにより…参上なさいました」
扉を守る騎士達に、直前まで追いついた侍従がゼエゼエと息を整えながら声を張り上げる。
「……お待ちしておりました」
「どうぞ、中へ」
長身の騎士達よりも大きな扉が開くのをアレッキオは興味無さそうに見やり、滑るように中に入っていった。
そのさりげなさに呆気に取られ、侍従はギョッとする。
「へ、陛下!!お召しによりユール公爵様が…」
「……よい。下がれ」
国王、ウォレム。
つい最近まで王弟だった男が座っていた。
その後ろには影のように近衛騎士団隊長が付き従っていた。
「で、ですが…」
「下がれ」
「は…」
何も感想を示さない公爵と王を交互に見やり、侍従は下がっていった。
中に3人の男が残される。
「……久しぶりだな、アレッキア」
王が彼に告げた挨拶と同時に、ばち、と火花が散る。
あ、間違えた。
そうウォレムが思った時は、自室がフワフワと火花に満ちていた。
炎を発生させた人物、アレッキオは薄い青い目を僅かに歪める。
「陛下におきましてはご機嫌麗しゅう。
お目に掛かれて恐悦至極。
では帰ります」
「……待て、待つんだ間違っただけだアレッキオ。私が悪かったから火を仕舞うんだ」
「……」
「アレッキオ。頼むから燃やすな。私が後始末に駆り出されてどれだけ眠れなかったか!!」
「そうですか。王の責務は大変ですね」
「……大変だとも。多少は責任を感じてもいいだろう」
「そうですね。両親の件は心が痛みます」
シレッと言い放つ甥っ子に、ウォレムは頭を抱えた。
「それで、俺に何か御用ですか、叔父上」
「……近い内に夜会が有るな」
「聞いてます。何でも王妃を選定なさるとか。
おめでとうございます。更なる国の発展と陛下のご多幸をお祈り申し上げます」
「……お前は本当に昔から心にも無い事を……」
「昔から心にも無い事を言わないと生き残れなかったので、しょうがないですね」
「……」
チクチクと昔の事を責め立てられるような言い方に、ウォレムは眉間を抑えた。
「それで、どなたを王妃にお召しになるんですか。
コレッデモンの悪魔騎士ですか?
それともソーレミタイナの喚き蝙蝠ですか?
アレカイナの落書き案山子でしょうか?」
「悪意しかない言い方は止めろ…」
「よくもまあコレだけ悪名高いのが集りますよね…面白い、いやお気の毒ですね叔父上」
「……アレッキオ、頼みがある」
「嫌です」
「……国王として、勅命がある」
勅許と言う言葉に、少しだけアレッキオは目を細めた。
チカチカと火花が彼の周りに散るのを、国王は見ないふりをして続ける。
「…場合に依ります」
「……お前が、たった1人を…
昔から愛している者が居るのは知っている。
だが……」
「知ってるなら話は終わりでいいですか」
「最後まで聞いてくれ……。
この夜会は、実はショーンの為のものだった」
「へえ」
「お前と言う婚約者が居るのは勿論分かっていた。
だが、お前らは…水と油以上に仲が悪いだろう」
「そうですね。俺の婚約を勝手に決めた者は怨んでますし、
ショーンは一刻も早く死んだらいいと思ってます」
歩み寄りの余地もなく、さらりと言い放たれる。
彼と元甥っ子の致命的な仲の悪さに、
ウォリムは密かに胃が差し込む痛みを覚えた。
「……真剣に破綻する前に、手を打とうと言う事で…
決められたそうだ」
「最初から真剣に破綻していたんですが、
やっと気付いたんですね」
「…しかし、ショーンは…」
「魔法使いの王様のお陰で王位を逃れた、でしたっけ。
それで叔父上が主役に抜擢されたんですね」
「……そうだ。それでだな…。
仮に…仮に私に相手が見つかったにしても、
独身の貴族や王族も居なければ…箔が付かんと…
宰相を含め臣下から」
「ああ成程分かりました」
アレッキオの柔らかい声が話を遮る。
思いのほかの好反応に、ウォレムは顔を上げる。
「分かってくれたか?」
「……陛下、お喜びになるのはお早いかと」
今まで一言も口を開かなかった近衛騎士の声に、
ウォレムはきょとんとする。
そして目の前の甥に目をやると…
「そんな理由で、俺とアローディエンヌの結婚を認めてもらえなかったんですね」
ふわ、と自分の髪が舞い上がるのが分かる。
どうやら魔力が渦巻いて物理的に空気が動いたようだった。
稀有な程の華やかな美貌が微笑んでいる。
そして…火花は、増えていた。
「……待て、アレッキオ」
「そんなくだらない理由で、
俺とアローディエンヌは結婚できなかったんですね。
そうか、そんなくだらない理由で。
くだらなさ過ぎて思いもよらなかった」
アレッキオの周りにふわふわ、ふわふわと火花は煌めく。
燃え上がるほどの勢いはない。
しかし確実に数を増していた。
ウォレムは自分が更に間違った事に気が付いた。
「……話し合おう、アレッキオ」
「他所の国に売り込んで出奔すれば良かったかな。
領地無しで一から稼ぐ当ては…
アローディエンヌに苦労をさせる訳にはいかないし…。
ああ、領地を独立させるって言う手も有るか」
「待ってくれ悪かったからアレッキオ!!」
「……ユール公爵」
「誰」
「其処の陛下の学友で、デイン・チェネレ」
「だから?」
「うら若き公爵に年長者のオッサンとして
一言悪知恵を付けて差し上げようかと」
「……」
彼の悪友は、無感動が昔から染みついた、繊細そうに見えない男だった。
随分前の事になるが、あの『王様』の言を実は気にしていたのだろうか、
とウォレムは声に出さずに悪友を見た。
勿論彼も忘れてはいない。しっかりと胸に突き刺さった事を覚えている。
彼は王族の中では繊細な方だった。
「客寄せになってやる代わりに、おねだりでもなさればいいかと」
「デインんんん!?」
思わぬ身内からの反乱にウォレムは目を剥いた。
彼は近衛である。近衛騎士団の隊長である。
そして国王ウォレムの学友だった。
だがしかし、彼は悪友でも有った。
「……成程、勅命なんだから俺の立場では拒否は出来ない。
でも愛するひとが居る身で
お達しを引き受けるのは大変心苦しい…。
涙を呑んで引き受けた…
そして宴が終われば婚礼を上げる許可をと」
「察しが宜しくて助かります。頭のいい年少者は好ましい」
「ついでに国費で挙げてもいいですか」
「いいんじゃないですか?一年間の慰謝料に」
アレッキオはつらつらと自分に都合のいいように論い、
デインはやる気無さげに安請け合いしている。
「おま…お前…!!デイン!!
だ、大体アレッキオ、
お前の公爵領は豊かも豊かだろうが!!」
「最近とある伯爵夫人から教えて貰いました。
人の奢りで食べたり祝われたりするって最高らしいですよ」
「誰だあああああ!!そんな事を教えたのはああああ!!」
勿論、アレッキオに無邪気に吹き込んだ
薄紫色の髪の崖っぷち夫人の事をウォレムは知らない。
「後もう一つ有るんですが」
「何ぃ!?」
アレッキオはにこり、と笑ってもう一つの望みを口にした。
その望みに、ウォレムは目を剥く。
「引き受けてくれますよね?叔父上」
「いやそれは…流石に」
「俺、当日アローディエンヌ以外に
有象無象に囲まれる羽目になるんですよね?
ベタベタと意味の無い言葉を聞かされても
突っ立ってないといけないんですよね?
アローディエンヌ以外傍に寄られたら
気持ち悪くなるんですよね。
恋だの愛だの関係を以って俺に触れるのは
アローディエンヌのみしか許せないんですよね」
「……デイン……」
ウォレムは助けを求めて悪友を見たが、
彼の表情は全く変わらなかった。
「陛下、諦められては?」
「お前が余計な事を言うから…っ!!」
「仲良しですね、叔父上と近衛騎士団隊長殿」
「うむむむむむ…」
「お断りされてもいいんですよ。
夜会やら茶会やら偏屈な公爵が出なくても
何の話題にも上りませんしね」
「上がるから言ってるんだろうが…っ!!
よりによってどうしてそんなややこしい事をっ!!」
「叔父上の感想は聞いてません」
そうして、国王から署名入りの承諾書を得るまで
アレッキオの笑顔は続いたのだった。
国王の居室。
以前は派手な色合いの調度品が多かったが、
現国王の趣味で落ち着いた色に整えられている。
先程迄火花が散って派手な色彩になっていたが、
原因が去ったせいで穏やかな空気が流れていた。
「ディマ、差し出がましいながらも
火消しに義妹姫もお呼びした方が良かったのでは」
「やめろ。
世間知らずを丸め込んで連れ出す自信は有るが、
甥を苦しめたい訳じゃ無い」
「中途半端過ぎる優しさは微妙だな」
「煩い。お前も変な入れ知恵しやがって」
「助かっただろ」
「余計問題が積みあがっただけにも見えるがな…」
国王陛下はその重責の重さに溜息を吐いた。
「ああ…森の中で天幕暮らししたい…川で自炊してえ…
演習に連れて行けよ…」
「俺は家が好きだ。
演習で森の中で苦しんでいる間、
植木と噴水でも眺めて茶でも飲んでてくれ」
そして、国王の自室から出て来たアレッキオは歩いていた。
角からぶつかってこようとする者、柱の陰に隠れている者…。
大声で呼び留めようとする者。
見知った者も居たが、彼は全く反応しなかった。
全て置き去りにしてアレッキオは廊下を歩く。
「……ぶは…」
すると何かが頭にぶつかってきた。
特に衝撃は無い。
苛々し過ぎてぼうっとしていたのだろうか。
アレッキオは頭に張り付いたそれを摘まみ上げた。
「……何これ」
「きゅう」
アレッキオの頭にぶつかって来たのは…
掌に乗る大きさの薄い茶色のウサギのような
フワフワした生き物だった。
パッと見は愛らしい、普通のウサギに見えたのだったが…
「ウサギ蝙蝠?…蝙蝠ウサギ?」
しかし、その背中には…蝙蝠のような羽が有った。
コレで飛んできたのだろうか。
体重もまあまあ有ると言うのに、
どうやったらこんな薄い羽根で自重を支えられるのか。
「キュウウ」
「変な生き物。突然変異?」
「ブキュウウ」
生き物は鼻を鳴らす。
そしてアレッキオの手から飛び去ろうとしない。
黒に近い紫色の目がアレッキオを見つめる。
「……変な魔力……」
それ自体が纏う、紫色の魔力にアレッキオは首を傾げた。
謎のお願いを強請り集った悪役令嬢にして筆頭公爵義兄さま、動物?と出会う。
動物嫌いでは無いですが、彼はケモナーではないようです。
義兄さまとアローディエンヌが結婚できない理由がやっと出てきましたね…展開ゆっくりめ。




