13.距離感は何時も通りに
お読み頂き有難う御座います。
アローディエンヌの目線に戻ります。
まあまあ殺伐としてたので、当社比結構甘い回です。
結局あの後、雨は止まず……。
泊まっては?と提案するも物凄い勢いで断られたので、ドートリッシュとサジュ様はウチから馬車を出して帰って頂く事に…しようとしたのだけれど。
「……オレ、こんな馬車で詰所に送られたら先輩達に絞められそうな気ィすんな。いや、絞められるわ確実に」
「あのお……ウチの前って馬車停まりが無いので、送って頂くなんてそんな」
「でも凄い大雨よ……」
傘も一応有るけれど…役に立たなさそうな大雨だし…。
先に帰ってしまったお二人は大丈夫だったのかしら。
幾らフードでも限度が有ると思うし…。
お風邪を引かれていないといいけれど。心配だわ。
「1人ならフツーに走って帰るんだけどなー……。
流石に姉さんスカートだし…」
「別にアンタだけ先に行ってくれていいわよ?
私も走るし」
いや、ドートリッシュ……伯爵夫人が豪雨の中走っちゃ駄目よ……。
傘忘れて自棄になった女子高生じゃないんだから………。
でもやりそうだし出来そうって思ってしまうわ…。
そして雨の中走る制服姉弟までサラッと妄想出来てしまうわね。
サジュ様は学ランで、ドートリッシュはセーラー服似合いそう。
是非そんな青春っぽい姉弟をお近くで見物させて頂きたいわ。
下足箱の後ろ辺りから観たいわー。
「……流石に、こんな雨の中姉さん放置したら、ノロットイ…いや、義兄さんに怒られる」
「……ルーロさま、アンタに義兄さんって呼ばれたくないみたいよ。凄く嫌そうだったわ……」
「マジかよ」
あっ!!しょーもない妄想してる場合じゃないオイシイ話が!!
そっかそうよね!
ルーロ君とサジュ様って義理の兄弟になるのね。
……こんな所に親戚関係が発生しているなんて…。
うーむ、分からんもんね。現実は小説より奇なりね。予想もつかないわ。
あの美少年の義理の弟…年上ででっかいサジュ様かあ。
うん、有りだな萌えだわ。
……でもルーロ君の嫌そうな表情も分からんでもないわね。
サジュ様に義兄さんって……彼の性格からすると、嫌がりそう。
「……まあ、分からんでもねーけど……しょーがねえじゃん。
姉さんの旦那だろ」
「そーなのよおおお!!ルーロさまってば私の旦那さまで、私ってばルーロさまの奥さんなのおおおおお!!!
嬉しいわあああ!!もっと言ってサジュ!!」
「痛え痛え!!痛えって姉さん!!」
ドートリッシュの照れ隠しにサジュ様がバンバン背中を叩かれているわ……。
おお、音からして結構威力が有りそうね……。
何というか……仲がいい姉弟……で済ませていいのかしら。
かなり痛そうだしな。
新婚さんっていいわね……。新婚さんよね?
何時結婚したのか聞いてないなそういや。また聞いとこう。
「でも、走るにしても滑ったら危ないですし……騎士様のお仕事にも差し支えますわ。
ドートリッシュもルーロ君が心配すると思うし。
どうぞ、我が家の馬車をご利用くださいませ」
「……んー……其処迄言われたらなあ」
「つべこべ言わずに早く帰ったら。仕事中なんでしょ」
……いつの間に。
て言うか真後ろに立たんで欲しいわ義兄さま。
何で私にまで気配を消すんだよ!!素なの!?有り得るけど!!
嫌だわ、マジで悪役っぽいな!!って悪役令嬢だったわ……。
「いや、その通りだけど……相変わらずシスコンだな……」
「……」
「ちょ!!何て失礼なのサジュ!!
すみません若様!!ウチの弟ったらバカで!!」
「イタイタ痛え!!姉さん!!痛いって!!」
……義兄さま、ドートリッシュが青ざめるような顔をしないで欲しいのだけれど。サジュ様を小突くのは止めないのね……。
冷静なんだかそうじゃないんだか分からないわ。
健全な姉弟関係ってこんな感じなのかしら……。
比較対象が居ないから分からない……。
あ、私と義兄さまは全く健全じゃないのは、勿論痛いほどに理解しているわよ……。
「義兄さま、サジュ様はお仕事でいらしたんですのよ。もっと和やかに出来ませんの」
「仕事ならもっと厳しく規律を守るべきだよ。仕事で来て歓待されてどうするの」
……他の人に相変わらず厳しいわよね……。
まあ、義兄さまが仕事してる所あんまり見ないけどさ……。
見に行く必要が無かったし……。
見に行ったが最後、部屋に引きずり込まれそうだし。
君子じゃないけど、危うきと言うか面倒には近寄りたかないわ。
「うっ、正論だが耳が痛え」
「えええええっと!!すみません若様!!ウチの弟が!!」
「……お茶は私がお勧めしたんですのよ、義兄さま」
「……そうだけどお」
……義兄さまやたらトゲトゲしいな……。
そんなにルディ様とのやり取りが……嫌だったのかしら。
幼少期から嫌い合ってるとは聞いたけど……結構筋金入りみたいね。
「いや、確かにアレッキオ卿の言う通りオレが悪ぃわ……。義妹殿、いい加減ですまん」
「そんな…とんでもないことですわ」
おお、何と私に謝って頂いてしまったわ……。
寧ろ温情ある対応をして頂いて私の方が感謝なんだけどな。
もっと騎士様としては色々あるだろうに…。
「ドートリッシュ夫人は、多分ルーロが来るよ」
「え!?ルーロさまが!?何故ですの!?」
「さっき連絡したから」
……え?一体どうやって……。この世界観で……メールとか、はないわよね。
辛うじて電話?とか有るの?
通信手段、少なさそう。
思い返しても……普通に手紙だけのような気もするんだけど。
……魔法?魔法で呼び出しちゃうとか?
……出来そうだな、普通に。チートだもんなあ、義兄さま。
此処は普通に聞いてみるか……。妄想してても世間知らずは直らん。
最早、私の世間知らずは知れ渡っている……。
聞くことに恥は無いわ……。聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥……。
「あの、ドートリッシュ……?」
「何でしょうか義妹姫様」
「……どうして離れた所に居るルーロ君と義兄さまが連絡を取れるの?
手紙はこんなに早く届かないわよね?」
「何か、謎手段を使っているのは見ますけど…分かりませんわね……」
「謎手段……」
そうか、謎なのか……。
サジュ様に目線をやったが、分からんと首を捻られた。
うーん、……どうなってんだ、一体。
常識外の事が起こっていることは確かみたいだけれど。
何のチート力が働いているの。
相変わらず分からんな、義兄さまのやることは。
「……遅くなりまして、若様」
「いや、思ったより早かったよルーロ」
……玄関の方からルーロ君がやって来た。
何時も持ってる石板がまた重そうね……ってアレ?
ルーロ君……濡れて無いわよ?
この大雨だったら……絶対濡れるのに。
何で?
レインコート?
それとも…凄いでっかい機能的な傘でも差してきた?
いや、それでも濡れそうか……。
それとも何かハイテクそうな魔法?あ、バリアーでも張れるとか!?
うーん、雨避けのバリアーか。
カッコ良さそうな厨二病っぽいような……。
でも生活に則した魔法みたいな感じで……でも皆が使えなきゃ意味無いわね。現に私は全く使えないし。
「何で濡れて無いんだ?ノロットイ……いや、義兄さん」
「……ルーロで結構です、サジュ殿……」
あ、やっぱり無いみたい、雨避けバリアー。
しょーもないこと言わなくて良かった……。
途端に恥ずかしさが襲ってきたわ。
しかし、ルーロ君ったら本当にサジュ様の義兄さん呼び、
嫌そうだわ……。
サジュ様の呼び慣れない感じがまた可愛いけれど……いやあ、眼福だなあ。
「いや、救世主なんだからちゃんと呼べって親父が煩いんだよ……」
「尚更名前で結構です。そして俺は世の中は救ってません。
そして義父殿と義母殿に平伏されないようにお口添え頂けませんか。
行く度に申し訳なさ過ぎるんですが」
義理のご両親が平伏……しかも救世主呼び。
そりゃ申し訳ないわ……。
私なら……きっと耐えられんな。逃げるわ。
ルーロ君気の毒……一体何が有ったの……。
変わった親戚関係よね……。
……一体ドートリッシュの家で何が起こっているのかしら。
ご家族のご事情に嘴を挟むのはどうかと思うけど
凄い気になるわ……。
ってボケッとしてたら話がいつの間にか進んでた。
しまったわ。
「……成程、兎に角公爵家の馬車が嫌なんですか」
「いや、嫌っつーか……目立つし後汚したら怖えし」
「そうなのよねえ」
……そんな気を遣ってくれんでもいいんだけどなあ。
単なる自家用車……扱いには無理か。
自分ちの車みたいな軽いノリでは使って貰えないみたい。
御者さんにはもうお話つけてあるんだけれど。
「じゃあ俺が送ります。それでいいですかね」
「……え、馬車に乗って来たのか?」
「まあルーロさまってば王都に馬車持ってたの!?
維持はどうやって!?お高いのよね!?」
「煩いし違うし持ってない。
ドリー、俺の手とサジュ殿の手を握って」
「え?え?」
ドートリッシュが戸惑いながらも、ルーロ君の指示に従う。
私は頭にクエスチョンマークをやたら飛ばしつつ、
ルーロ君を見た。
サジュ様とドートリッシュも同じようなお顔ね……。
「では若様、何か有りましたらまたお呼び出しを」
「またね、ルーロ」
……またねって何だよ。
何処でも行ける感じのドアでも準備してんの?
持ってそうだけど、義兄さまが使うと何だかメルヘンさがなくなりそうよね。
悪役令嬢だからかしら?
……悪事に使われそうな予感しかしない。
と下らない事をボンヤリ思っていたら……。
「きゃあ眩しっ!!」
「眩しっ!!」
姉弟の大声と共に、何だか家の中に……光が巻き起こったような気がして……!?
「!?」
「ルーロは教え甲斐が有るね。優秀だ」
え、居ない!?
目を擦ってみたけど、居ないわよ!?
何で!?
今さっき私……ドートリッシュとサジュ様と途中で来たルーロ君と喋ってたわよね!?
何で何で!?誰も居なくなってんの!?
「え、皆様が何で居ないの!?
白昼夢ですか!?何の魔法?」
「まほう……?
ふふ、びっくりした顔可愛いねえ、アローディエンヌ」
呆然とする私を、ぼふっと後ろから何かが……いや、義兄さまだな。
誰も居なくなったから更に遠慮が無くなったみたい。
……多少は私の言うこと聞いてくれたかしら?
「義兄さま、どういうことですの」
「んー、アローディエンヌう……」
返事しろよとイラッとしたが、義兄さまは私を抱きしめたまま動かない。
……暫く抵抗したが、びくともしない。……動かないな。
アレ?ちょっと放っといたら少しは動くんだけど。いつもは。
………え?何か有ったのかしら?
ルディ様と一体何のお話合いを……。
一応そのまま大人しくしていたら、思いっきり後頭部に頭を擦り付けられた。
って痛いだろうが!!
チートとモブの力量差考えろ義兄さま!!
「ちょ、痛い!頭をグリグリなさらないで!!」
「僕の癒し……僕の好きなひとの匂いがする……」
首に顔を埋ないで!!
息がくすぐったい!!
抜け出せないの判っててやるだろもう!!
「ちょ、義兄さまァ!?」
「アローディエンヌう」
「はい!?」
「……僕ねえ、アローディエンヌが大好き」
「……は、はあ?」
な、何だよ!?何なのよ義兄さま!?
「アローディエンヌが、だあいすき」
耳に響く義兄さまの声は柔らくて甘い。
ななな?お、おう?
有り体に照れるんですけど。
急に何だよ……。
何度も言わんでいいんだけど。恥ずかしさが、ヤバイし。
「ど、ど……どうも」
何だどうもって。
アレか、私もです義兄さまとか言えば良いのかしら?
でも此処、滅茶苦茶廊下なんだけど……。
使用人の目とかさぁ!!!
「君の為なら何でも手に入れたいし、してあげたいんだあ。
何か欲しいものは無いかな」
「……と、特に何も思い付かないのですけど」
声が裏返ってしまった……。平常心平常心。
よく物をねだれと義兄さまは言うけど、別に無いんだよなあ。
と言うか、義兄さまの扶養に入ってる時点で買って貰ってるばっかだしなぁ。
買いすぎに注意だよ寧ろ……。
買い物でストレス解消する趣味も私には無いようだし。
あ、そう言えばあの変な貨幣価値……ぜ、ゼニゼロに驚きすぎて結局何も買ってないな。
……マトモに買い物出来たとは…思えないわね。
服屋で吹く気しかしない。ダジャレじゃなくて。
クールに買い物するには……心の準備とか慣れが必要な気がするわ。
「もおー、甘やかされてよお……」
「……何がありましたの義兄さま」
「ショーンに虐められたあ。鳥番煩いし…」
虐められた…いやいやいや嘘よね。
昔なら兎も角、絶対にそんなことさせない癖に。
嬉々として燃やして回る癖にさあ。寧ろ虐めて無いんだろうか心配よ。
特にレルミッド様を。
「………」
いやどうしたんだ。
何か弱ってるな、義兄さま。何で?
一体あの扉の中で何が……。
家が揺れた位だからさぞかしヒートアップしたんだと血の気引いたけれど……。
家が無事で良かったわ……。
流石にどしゃ降りなのに身内の喧嘩で、屋根が吹っ飛ぶのは非常識すぎだしね……。
「お顔を見せてくださいな、義兄さま」
「今ちょっと……ダメ」
いや、ダメって何だよ。
今更どんな顔を見ても別に引かないわよ。
ま、まあ幼少期からの反射的な反応で、ウンザリはするかもしれないが。
そういうの義兄さまやたら敏感だからな……。
子供の頃は大変苦労した。
って今もだな……。おお、何と言うことだ。
「義兄さま、何でもしてくださるんではないんですの」
「……やだあ」
「やだあじゃなくて」
「何か、悔しいんだもん……」
「何が悔しいんですの」
「わかんなーい……」
義兄さまの言うことは意味不明かつ不安定だった。
……ぐりぐり首にすり寄ってくるだけ。
何なのよ……。
地味に痛いし髪がフワフワくすぐったいんだけど。
「困った方ですわね……いい歳して」
「アローディエンヌう」
「何ですか。何か子供の頃に戻ったみたいですわね…」
あの頃は大変だった……。
時々記憶が飛んでる位大変だった……。
思い出すと思わず半目になるわ。
鏡無いし顔動いてるかどうか不明だけど。
「子供の頃かあ。
アローディエンヌは出会ったときからずっと可愛いね。
君を見る度嬉しくってさあ……。
腹が立とうが苛つこうが消えちゃうんだよ?
凄いよねえアローディエンヌ大好き」
「……いや、私以外にも何か有るでしょう」
て言うか義兄さま、小さい頃からそんなイライラして生きてたの?
相当体に悪いな……。
いや、当時の環境からして、分からんでもないけれど………。
「他?アローディエンヌ以外に?思い出したいような思い出は無いよお」
おい。
バッサリが過ぎるだろ。
「み、魅了を抑えられるようになってからは、多少マシでしたでしょ!?」
「あの頃からショーンはウザくて死なないかなと思ってたしねえ……」
「……が、学園とか」
「……得られるものが有ったとは思えない」
散々だな、おい。
「やっぱりアローディエンヌ以外に無いねえ」
「ルーロ君とか!!」
「いい臣下だよね」
臣下……。他所の伯爵様を個人的な臣下にしていいのか。
せめてお友達……って雰囲気でもないのが……またなあ。
「アローディエンヌも学園に通えたら当時の僕は……ああでも駄目だ。
アローディエンヌが万が一、屑に近寄られたら……」
「いやもう結構ですわよ!!」
どうせ通えないシステムだったし!!多分!
仮に通えたとしても、どうせ義兄さまが…義姉さまがべったりな気がするわ。
……妄想ですら離れてくれる気配がない。
義兄はやっぱり義兄だな。
「今日は夕食を食べてから、明日中もずっと僕の部屋に籠ってようね」
「は?」
おんぶお化けよりべったりな義兄さまから、とんでもない世迷い言が聞こえた気がする。
「だって僕は君がいないと死んじゃう」
「いや死ぬ訳ない」
「だってえ、今日はアローディエンヌが足りないよー」
「お疲れならお早めに食事でも摂ってお早く寝たら如何ですか」
「?何で?お疲れだから今日から明日までずっと一緒なんだって約束したじゃない。
早く寝るの勿体無いよ。イチャイチャしようよー」
「……こんな廊下で話す話題ですか!?首を撫でない!襟に手を入れないでください義兄さま!!」
物凄く前言撤回。
全く子供らしく無かったわ!!
何だよその謎理論はあ!!
次はフォーナが出てくる予定。彼女の謎がちょっと明らかに…?




