番外編そのろくの5 色々がすり抜けていく
お読みいただき有難う御座います。
シリアスパートその2ですね。
「ルディが!?……王子?なのか…」
「ああ、そうだよ」
「……何でこんな田舎に?」
「大人の事情だ。…て言うか、確信出来ちまったってのがまた…」
「?」
親父は俺を見たが、話を続けた。
何だよ気になんな!!
言いたいことがあんなら言えよクソボケ!!
って言おうと思ったらばあちゃんが体を起こして俺に寄り掛かった。
「……ばあちゃん!?」
「もう大丈夫だからね」
「ばあちゃん…寝てた方が」
「……ルディ坊やがいなけりゃ、平気なんだ」
「……は?」
「あのクソ坊主が居なきゃ、母ちゃんだって苦しまずに済んだって事だよ」
さっき背中を押さえつけられたのよりガツンと来た気がする。
親父の吐き捨てるように言った言葉が信じられなかった。
クソ坊主?
……ルディがか?
……何でそんな事言われなきゃなんねー?
「……何で、そんな言い方すんだよ」
「レルミッド?」
「ルディは、ばあちゃんの事本気で心配してたんだぞ?」
「……」
「王子だか何だか知らねーけど、ルディは真剣にばあちゃんを心配して、助けるって言ったのに何で…」
鼻水止まらねえ。
目から何か落ちてくるけど、涙じゃねえ。
決して泣いてねえ。
でもな、おかしいだろ。ルディは何も悪いことしてねえよ。
それなのに何で親父はそんな事言うんだ?
ふざけんじゃねえよ悔しすぎんだけどよ!?
くっそ!!止まれ鼻水!!
「……レルミッドに謝んな、サクィド」
俺が鼻啜りまくってたら、ごんって音がした。
目線上げたら親父が脛を抱えてやがる…。
…ばあちゃんにドツかれたみてーだ。
病み上がり?なのに……何時ものばあちゃんだ。
「っつー!!母ちゃん!!」
「あんたが言った事は間違いなく八つ当たりだよこの馬鹿もんが!!」
「……悪かったよ、父ちゃんもちょっと気ィ立ってた。
そうだな、ルディ坊やには関係ねーもんな……」
「お前は本当にバカ息子だね。レルミッドの方がよっぽどちゃんとしてるよ。
見習いな」
「……悪かったって」
「……」
親父の手が俺の頭を撫でる。
俺に攻撃を仕掛けた手で…。
その事実を無視して気安く撫でてきやがって……!!
ムカつくから親父の手を払い除けてやった。
「反抗期か…」
「さっきの行動を反省しろクソボケ親父」
「へいへい。どっから話すかな…取り合えず、ルカリウム草原の話からすっかな」
ルカリウム草原。
それは俺たちが住んでいる、ド田舎の草原だ。
王都から駅馬車で20駅。
田舎に住んでる奴なら大体分かんだろーが、田舎の1駅は都会の5~10駅くらいの距離だ。
クソ遠い。
オマケに駅馬車の停留所まで馬で行かなきゃならねえと言う不便さ。
……何でこんな不便なド田舎に住んでんだろうな。
まあ昔から住んでるしそー言うもんだとしか思ってなかった…。
ついでに言うなら俺らの名字もルカリウムだ。
…手抜きじゃねーかと思ってたけど…何か意味があんだな…。
「俺らは元々ドゥッカーノ王国の国民じゃねー訳。知ってたか?」
「……全然知らねえ」
何だその新情報。
て言うかそんな大事な事何で話さねーんだよ。
もっとガキの時に教えとけよ。
いや、聞いても頭に入ってねーかもな…俺勉強嫌いだし。
「まあ、サクッと言うと元々定住してねーんだ、俺らの一族は」
「だから民族衣装がダサくて時代遅れなのか…」
「いや、それは普通に関係ねえ」
……えー違ったのか。
俺、この民族衣装っつーダセえ普段着大嫌いなんだけど。
「まあパッと言うと何代か前に、王国が俺らの一族とドンパチやった訳だ」
「お前ねえ端折りすぎだよね…」
ばあちゃんが親父を小突いてるが、確かに親父…パッと言いすぎだろ。
まあ歴史とか興味ねーからいいけどよ。
眠い話は聞きたくねえ。
「んで、負けた。ここまではいいか?」
「……負けたのか」
まあ、どうなるか…っては予想付く。
戦争したら皆殺し、もしくは臣従しろってやつだろ?
でも俺らは生きてる。だから先祖は王国に仕えたって事なんだろーな。
でも何でか…今まで流れから言って、すげー嫌な予感がすんだけど。
俺の予感、当たってしまいそうな気がすんぜ…。
「何されたと思う?」
何されたって言われてもな…。
「俺らの一族って気が荒い」
「おう」
「……結構強い方だよな?」
「他の民族に比べたら、風属性では負けねえな」
「……何で負けたんだ?」
「ルディ坊やのご先祖さんが超強かったからに決まってんだろ」
……。
あれか。
やはり、アレかよおおお!!
オバケ使って勝ったんだなド畜生!!
確かにアレなら負けるわあああああ!!俺の先祖のボケえええええ!!
「普通の騎士有り、死霊使われて物量作戦有りで負けたらしい」
「……」
叫びだしそうになったが、俺は頬の内側をメッチャ噛んだ。
想像するだけで危険な気しかしねえ。
て言うか想像したくねえ。超気持ち悪ぃ。
「まあタダでは負けなかったらしいんだけどねえ…」
ばあちゃんが補足したけど…。
何でか微妙な顔してんな。気になんだけどよ。
「んでまあ…平たく言えば、強制的に家臣っつーか、
言う事良く聞く手下にされちまったって訳だ。一族郎党な」
「……何で普通に手下じゃねーんだよ。
戦争終わって生き残ったんなら平和的に解決しろよ…。」
「まあ、手下になれとは平和的には言われたらしい。でも負けても暴れまくったからだってよ」
「普通に配下になるのを断ってね」
「それで業を煮やした王族に、隷属の徴を一族郎党に掛けられたっつー訳だ」
と言うと何だよ。
普通に家臣になっとくところを…祖先の血の気が多すぎて
しなくてもいい、要らねー枷…いや、隷属の徴を付けられたって事か!?
「それ……先祖が悪いんじゃねえのか!?」
「いやでも負けんのって嫌だもんな。死なば諸共って父ちゃんには分かるぜ」
「親父みてーなのが居るから子孫が困るんだろうがボケエエエエ!!」
「軟弱な事言うなよ」
「軟弱とかじゃねーよ!!なあそれ本当に改竄されてねー話なのか!?」
「普通に口伝だから改竄は無いね」
口伝って時点で改竄すげー在りそうだけどよ!!
あーでもウチ下手な改竄とか苦手だわ!!
多分大丈夫な気ィすんわ…。
「……それで、首が飛ぶってマジなのか?」
「ああ、マジだ。」
……何でそこはちゃんと肯定すんだよ…。
「どんな感じで発動するんだよ」
「まあ普通に王族に歯向かうとか、攻撃しようとするとか、ぞんざいな口を叩くとかだな」
おい待てや。
俺つい最近…何処かの誰かに最近攻撃もしたし、
ぞんざいな口も叩き放題だったんだぜ…?
「……おい、待てボケ親父。
俺、一か月前、ルディに風魔術喰らわしてんだけど」
「おお、アレは吃驚したぜ」
「……アイツ、オウジサマなんだよな?」
「そうだ」
「もう一度言う、親父。俺、出会い頭にルディに攻撃したけど」
「だから言っただろ、よく出来たなって」
「実の息子殺す気だったのかああああああ!!!ふざけんじゃねえ!!」
真剣に親父をぶっ飛ばしてえええええ!!!
荒れ狂う俺をばあちゃんが引っ張って止めなきゃぶっ放してた。
…ううクソボケ親父が!!
さすがに具合悪かったばあちゃん込みのテントで暴れらんねえ!!
此処出たら覚えてやがれ!!
「普通は『実行しようとすること』すら出来ないんだよ、レルミッド」
「…は?」
「救済措置…でもねーけど、予兆は有るんだよ。歯向かうのを止めてえ位にな」
「首が焼き切れそうなくらいに痛むんだよ。お前は無事だっただろう?」
俺は一か月ほど前の事を思い出す。
確かにルディをぶっ飛ばした時は…別に何ともなかったな。
普通だった。
其処らのガキ連中と喧嘩した時と一緒だ。
「……無かった」
「……そうか」
何かまたもの言いたげだな、クソボケ親父…。
アレか?またオトナノジジョーかよ!?
うぜえ…!!
「そんで、その徴だけどな」
「まだ何か有んのかよ…うぜえな」
「草原だとまだ離れてるからマシだが…王都に入ると矯正されんだよ」
「何が?」
「お前のそのボケだのクソだのの悪ぃ口調だよ」
「はあん?」
いや、矯正ってどうだよ。
確かに口は悪ぃけど、直す気もねーわ。
「サクィドの口調すら治るんだよ、従順なる囀りはね」
「…ジュウジュンナルサエズリ?」
何でまたそんな鳥みたいな名前なんだよ。
何処まで鳥が付き纏うんだよ…。
しつけーよ。どうせなら猫がいい。
「王都に入ったらお前の意志関係なしに丁寧語になるからね」
「……は?」
「謂わば強制猫かぶり…羽毛被りとも自虐してんな」
「……ハアアアア!?羽毛被り……!?それただの高え布団じゃねえか!!
「冗談じゃねえし上手い事言ってる場合じゃねえんだよ」
上手い事言ってねえよ!!
単なる猫被りでいいだろうが!!
あーでも猫付いてるけど嫌な単語だなクソボケ!!
「特に王族相手には建前一直線みたいな事しか言えねえからな」
「ハアアアアア!?自由に喋れないって事か!?」
「そういうこった」
「お前はルディ坊やには大丈夫みたいだけど、ルディ坊や以外の王族には歯向かえないからね。
覚えとくんだよ」
何だそのクソみたいな話!!
王都に行ったら強制的に丁寧語にさせられる!?
王族には歯向かえない!?
何なんだよそのアホみたいな…契約!?
何でそんなもんが俺に在んだよおおおお!!!
「じゃ、じゃあ王都なんか行かなきゃいいだろーが!!」
「行かないんじゃないんだよ。
ウチの一族の子供は一定の年齢で強制的に王都…今なら女神学園に放り込まれるから。
お前もその内放り込む」
「ハアアアアア!?」
「諦めろ」
おまっ…親父ィィィィ…!!
その顔マジムカつく!!
「いや諦めろじゃねーよ!!王族にこの隷属の徴とやら消させろよ!!」
「出来るもんならとっくにそうしてる」
「ルディ坊やは王家にしてはいい子だけれど…流石に現体制に逆らうのは無理だろうからねえ」
……マジかよ。
そんな大層な話とか聞いてねえよ。
……ルディは……大丈夫なのかよ。
「それこそ攻め入れば…あ、首飛ぶのか…駄目じゃねえか!!」
「まあ多分暫くはこのまんまだな、クソなことによ…」
「悔しくねえの!?」
「王の腸掻っ捌いてぶちまけても収まらん位に悔しいに決まってんだろ。
こんなクソみてえな隷属さえ無きゃあとっくに王宮を切り刻んでる」
親父の目は今まで見た事が無いくらいに暗かった…。
灯りがねーのも有るけど…俺と同じ紫の目がメッチャどす黒くて、黒く見える。
……何が有ったんだよ。
…俺は…ビビらねえ。
ちょっと反射的にばあちゃんの手を握っちまったけどな。
「じゃあさ、ばあちゃんの具合が悪いのはルディが……」
「隷属の徴とは…ちょっとだけ関係するがね…」
「居るだけで具合が悪くなるほどにか!?」
「あたし個人はあの坊ちゃんは好きだよ…ただ、王族の傍に居ると体力が低下するんだよ」
「万全の体力でなく大人しくさせる…隷属の徴は生かさず殺さずだからな」
「あたしもトシだねえ……。ルディ坊やに悪い事をしてしまったよ」
王族の傍に居ると体力を低下させる……。
何つうもんだよ、隷属の徴って奴は。
でもばあちゃんがルディがさっきまで撫でていた手を擦ってる。
その顔は優しい目をしてた。
「…ばあちゃんは、ルディが嫌いかよ?」
「いいや、もう一人孫が来たようだったよ」
「だよなあ…」
そんな目してたらな。
実の孫の俺よりも可愛がってたもんな。
多分隷属の徴とか関係なかったんだと思う。
…そう思いてえってのは俺の勝手だからな。
「母さんとレルミッドを絆すとはなあ……。
あの喚き散らし女の子供とは思えねえぜ」
「……誰だよ」
「ルディ坊やの夢見がちヒステリック女な母親だよ。勘違い女の典型だ」
……親父から聞いた単語だけでもろくでもねえ母ちゃんな気ィすんな。
ルディ、家帰って大丈夫かよ……。早速心配になって来たぜ。
そしてルディはもう草原には戻ってこなくて、鳥はウザくて、ばあちゃんはあのまま体調を崩して、半年寝込んでから亡くなった。
ばあちゃんの鳥と一緒に。
葬式は一族郎党集まってて、草原は泣き声が響いてて、親戚中の鳥が大空を飛んでた。
その中に俺の鳥もいた。
でもばあちゃんの鳥は居ない。
鳥の見分けなんかはつかねえ。でもいねえんだ。
ばあちゃんと一緒に焼けてしまったから。
ばあちゃんの荷物の片付けを言いつけられた俺は、ぼんやりと敷物の上に座っていた。
周りを見渡すと、俺以外誰も居ねえ空っぽのテント。
鳥の入ってた藁が積まれてる。
このテントは親戚の子供のとこに行くらしい。
俺が前にテントを貰ったように、引き継がれていく。
ほんの少し前には、この敷物の上にばあちゃんとルディが居たのに。
たった一か月一緒に居ただけなのになあ。
地味に色々有ったもんなあ…。
ルディ、どうしてんだろーな。
真面目に王子様やってんのかね。
お前が戻って来る前にばあちゃん死んじまったわ。
また家とか壊してねーといいけど。
手間掛かるしオバケは出すし常識ねーし…弟みてーだったけど…。
これからどうなんだろーな…。
王都とか行きたくねーなあ。
猫?羽毛?被ってルディに会いに行ったりすんのか…?
この俺が?
おジョーヒンに喋んの?ルディに?
……そっちの方がゾッとすんな。
あー、片付けたくねーわ。
まだ色々詰まってんだ、このテント……。
物とか思い出とか超重てー。
……。
何も力が出なくて、敷物の上に丸まってたら、鼻水と目から水が出てた。
……今日集まりまくってた鳥のせいだな。
上でばっさばっさしまくりやがったからな。大量だったからな。
鼻啜って目から垂れてくる水を擦ってたら、何時の間にか俺は眠り込んだみたいで、気が付いたら親父に抱えられてた。
「……起きたんなら自分で歩け、レルミッド」
「……」
「しゃーねー息子だな」
俺が黙ってたら親父が背中を優しく叩き出した。
何時もそんなガキ扱いしねーくせに。
何時の間にか日が暮れ始めかけている。
赤く染められた空の鳥は減っていた。
どうやら親戚は帰ったらしい。
でも何匹か居るって事は、誰かが今日は此処に泊まるのか。
…じゃあばあちゃんのテント片付けなくてもいいじゃねえか、ボケ。
無駄な事させやがって。
俺の鳥が何時の間にか寄って来て、ギャアギャア煩く鳴いている。
傍でバサバサ羽ばたきすんな。
また鼻水と涙が出てくるだろうが。
今の俺は体質的に繊細なんだよ。
「泣き虫レルミッド」
「鳥の羽のせいだ、ボケ親父」
空と草原は赤い。
多分鼻啜りまくった俺の顔も赤い。
親父と母ちゃんと、鳥は居るけど、ルディとばあちゃんは居ない。
多分親父ももう直ぐ王都に出稼ぎに向かう。
俺の周りがぽっかりと…本当に色々がすり抜けて行った年だった。
次は学園での話になりますかね。
ルディくんとの再会…になるでしょうか。




