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サポートキャラに悪役令嬢の魅了は効かない  作者: 宇和マチカ
番外編

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番外編そのごの7 お似合いのお互いさま

急に第三者視点になりましてすみません。

食後は庭にテーブルを設えて、お茶をすることになった。

その豪華さにドリーがテンションを上げ過ぎて騒ぎ、

ルーロに石板で頭をグリグリギリギリされていたのはまあ、お約束である。

裏側のへこみがめり込んでとても痛いと

彼の妻からは評判である。



「それで、どうして我々をこの時期にお呼びになられたんですか?若様」


ルーロの問いに彼の主はシンプルに答えた。


「王城がキナ臭い」

「…やはりですか」

「隣の国もキナ臭い」


隣の国の事を思い出し、ルーロは眉間に皺を寄せた。


「ああ、正義の旗の…」

「流石に神官だね、神殿関係は詳しいね」

「まああれはちょっと分野は違いますけどね、

一応恋を愛する女神像の兄弟神なので」

「あのひょろい全身鎧があの女神像の兄弟なの?」

「そうらしいですよ」

「変だね」

「…まあ、それに関してはそう思います」


あまり和やかでない話をする二人の見守る先では、

アローディエンヌとドリーが語り合っている。

花がどうの、木がどうの…と主にドリーの方が喋っている。

草木が美しいどうのではなく、金銭に繋がる話であろう。

アローディエンヌは疑問符を浮かべながらも

うんうんと頷いているようだ。

そんな『彼』にアレッキアはウットリする。



「何と言うか…アローディエンヌがああしているのって和むね。

ドートリッシュ夫人に感謝だな」

「えっ、そう…ですかね」


寧ろ妻がしょうもない事を吹き込んでいないか心配なルーロだった。


「あれ、ルーロ焼きもち?」

「ち、違います…」


否定しつつも、ルーロの顔は冴えない。

男になったアローディエンヌはドリーより少し背が高い。

令嬢とは思えない足捌きは普通の男の様だった。

流石に令嬢のように優雅では無いが。

それにしても彼女は何処で歩き方を身に着けたのだろうか。

ズボンに慣れたにしては、時間がかかっていない。



「まあ身長なら伸びるよ」

「…そうですね」


だが、アレッキアは細かい事を気にしていないらしい。

アローディエンヌなら何でもいいと

日頃大っぴらに豪語しているだけある。

そしてルーロは結局はドリーとの身長差を

地味に気にしているのも事実だった。



「…まあかく言う私も…

アローディエンヌはもっと年上みたいに感じる時がある」

「落ち着いた方ですからね」

「まあ、アローディエンヌなら何でもいいんだけど…

そうは思わない輩も彷徨いてるね」


気にしていないが、色々あるらしい。

少しアレッキアは苛ついたらしく、

炎がパチパチと彼女の周りを舞った。

負の感情が昂るとこうなるらしい。

アローディエンヌの見ている前ではならないのだが。

因みに学園内では8割の確率でバチバチ火の粉が飛んでいた。

彼女にとっての学園生活は余程のものだったらしい。

よく大災害を出さずに居れたものだ。

因みにボヤは多々有った。物から人までそれは多々有った。

学園側が具体的にも抽象的にも揉み消して

大事になっていないだけである。



「仰せのものはもう少し調整が必要ですが」

「そうだなあ、一週間くらいで?」

「可能です」

「意外と早くなりそうだな…」


アレッキアは垂れて来たフワフワの長い髪を鬱陶しそうに払った。

そんな様さえ絵になるが、本人は不愉快そうである。


「自分の髪は鬱陶しいな」

「お似合いですが」

「単に便宜上だよ、知ってるだろ」

「存じていますところで若様」

「何」

「義妹姫様の今のお姿ですが、

『単なるお楽しみ』の為では無いですよね?」

「…勿論私の為だけにだけど」

「万が一の為では?」

「……まあ、手数は多い方がいいだろ」

「ですが、……若様…呪いはどうかと思いますよ」


にや、とアレッキアは悪い微笑みを浮かべた。

アローディエンヌの前では絶対にしない笑い方である。

多分したとしても『うわ悪役令嬢だ』位しか思われないだろうが、

アレッキアはそれを知らない。


「余計な事は言うなよ」

「ドリーは気付きそうですが」

「君の奥方は『異性』の服の中を覗き込むような不躾をするのか?」

「……致しません」


流石に…やらないだろう、とルーロは思ったが、

万が一が有るので妻から目を離さなかった。

やらないとも限らないが信じたい。そんな心の葛藤がルーロを襲った。

彼の妻は常識人の感性は持っているが、

ふとろくでもない事をしでかす名人だったので。

そして結局目を離さないまま、ルーロは話を変えた。



「宜しい」

「しかし一日とはいえ…よくもまああんな魔術紋様を掛けましたね。

細密画のようでしたよ」

「もう少し練習しないと何日かにはならない。流石古代の呪いだな」

「書けただけでもすごいと思いますが」


ルーロは普通に賛辞を主に向けた。

特に返答が無いと言うのもいつも通りだったが。


「昔には私のような男女どっちにもなれる一族が居たって事が面白いよな。

それで恋人を変化させて楽しんだ…いい趣味だよ」

「まあ今は若様だけですけどね…何処の国を探しても居ませんし」

「だから今は私しか使えない。謂わば私専用の術…。実に楽しいよ。

アローディエンヌう、楽しい?」


アレッキアは掛け値なしの邪気の無い笑顔でアローディエンヌに手を振った。

名前を呼ばれて背後を振り返った義妹…

今は義弟は何かを感じ取ったらしく、身を竦めた。


「…何か寒気がする」

「えっ、義妹姫様、まさかのお風邪!?」

「流石にそれは無いと思いたいのだけれど…

義姉さまがろくでもない事を企んでいる気がする」

「凄い、以心伝心ですのね」

「いやそれは何か意味合いが違う」

「そうですか?」

「義姉さまは何時でも笑顔だけど、今凄く変な気配がする」

「え、笑顔ですか…?初めて見ましたけど、

流石義妹姫様にはお優しいんですのね」

「…嫌だあの人…対外的には全てに喧嘩売って生きてるのね…」


アローディエンヌは色々吹き飛ばすかのように首を振った。


「いや、考えても無駄か。あの二人…何て言うか、

見た目はお似合いだと思わない?」

「えっ、アレッキア様とルーロさまですか!?」


変えられた話題について行こうと、

ドリーは少し離れたテーブルの二人に目を凝らし、逸らした。

其処には悪そうに微笑みあう砂色の髪の目線の鋭い美少年と赤い髪の耽美な美女。

賢い者同士の会話なのか、息もぴったり。

穏やかな関係が…確かにお似合いに見えた。


「何と言うか、美少年と美女ですものね。

キラキラ?いや何て言うか、暗い系の魅力?加減が…」

「そうそれ。ここから観察するくらいは…目の保養に」

「えええええ…何か複雑ですけど…そうですよねえ」


ドリーの凹んだ様子に、アローディエンヌは眉を寄せた。

何時もとあまり変わらないが、

これでも本人はとても慌てているのである。


「ああ、御免なさい。あなた方は大変お似合い。

大事な旦那様なのに」

「いやあ…そうですか?

何か私釣り合ってない気がメッチャするんですよねえ」

「どうして?」

「ルーロさま何でも出来るし…

実は隠れモテなんじゃないかと思うんですよねえ」

「貴方みたいな綺麗な奥様が自信が無いの?」

「えっ、初めて言われましたそんな事!

有難うございます義妹姫様!!」


ドリーはアローディエンヌに抱き着こうと…して踏みとどまった。

地面から何かが…土の出っ張りがせり出そうとしている。

まるで意志を持っているかのように、にょきにょきと。

それはアローディエンヌとドリーを隔てる1メートルはあろうかと言う…

謂わばちょっとした土の滑り台のような大きさまで成長した。


「っ!!」

「えっ何!?何これ!?」


ドリーは感覚だけで反射的に感じ取り、何歩かのバックステップで躱した。

そして体制を立て直し、周りを見回した。

何処にも危険が無いのを確認し、目線を只一人にやると、叫んだ。



「もうルーロさまでしょこれえ!!何するんですの!!」


どうやら土壁を出現させたのはルーロらしい。

反射的にアローディエンヌが目を遣ると、

彼の手元の石板が鈍く光っている。

何が起こったのかさっぱり分からないようだ。



「……バカ。抱き着こうとするからだ」

「……え?」

「何でもない。バカドリー」



ルーロは膨れて顔を妻から背けると、石板に手を翳した。

その途端、せりあがった土は綺麗にならされた地面に戻っていく。

草さえ無事なら、今何事も無かったかのように。


「折角の芝生が、申し訳ありません」

「まあ木属性も居ないからな…別にいい」

「え、…ドートリッシュ?何で?て言うか運動神経いいな…?

て言うか何この壁…魔法?」


アローディエンヌのみが突然の土の壁出現と復元について行けず、

ポカンとしていた。


「もうルーロさまったら義妹姫様に当たったらどうするの!」

「そんなへまはしない。だから君の方にせり出させただろ」

「だからってどういうこと!!痛っ!」


ルーロは二人に近寄って、ドリーを小突く。

そして深くアローディエンヌにお辞儀をした。


「すみません、姫様。ドリーがご無礼を致しました」

「え、ご無礼?…ええ?あ、御免なさい私ったら!!

殿方に抱き着くだなんて…」


物凄く素早くドリーもお辞儀をする。

しかし連続で繰り返され、アローディエンヌは引いた。


「…おい、俺の時とは違うな、ドリー」

「えっ何が?お辞儀足りない?義妹姫様、どれくらいお辞儀したら宜しいですか?」

「いや要らない。それに抱き着くのも別に構わないけど…元々は女だし…

て言うか、何度もしなくていい。

と言うか謝られるようなことではないし」


寧ろそんな事くらいで焼きもちを妬く人間が居るのだろうか…

と思ったアローディエンヌだったが残念ながらちゃんと居た。

しかも何時の間にか音を立てずに背後を取られていた。


「ねーえアローディエンヌぅ?」

「……何ですか、義姉さま」

「折角の機会なんだよお?私とイチャイチャしようよお」

「……」


アレッキアは両腕を広げて構って構ってと近寄ってきた。

それを見て、アローディエンヌは眉間に僅かな皺を寄せる。

何時も無表情気味だが、

珍しく誰が見ても『こいつマジ面倒臭い』と書いてあった。


「何で」

「だって私構ってほしいの」


うぜえ、と目が語っていたが、アレッキアはニコニコと引かない。

長い見つめ合いに先に折れたのはアローディエンヌだった。


「はあ…サービスですからね」

「さあびす?」


こて、と首を傾げるアレッキアの前髪をアローディエンヌは乱暴に梳いた。

途端に義姉の顔が朱色に染まる。


「……アレッキア」

「っ!はあい!?」


低い低い声が義姉の名前を呼ぶ。

無表情に近いが、声はイライラを隠していない。

ドスが益々効いていた。


「私を元に、戻せ」


一言一言、その迫力ある声は一段と低い。


「ええー」

「ええじゃない。戻せ」


青い瞳が細められ、少し骨ばった手がアレッキアの顎を掬い上げる。

彼女はされるがままだった。

うっとりと、アローディエンヌを見つめたまま、微動だにしない。


「元に戻してくれたら、何時もの姿でなら遊んであげますから、戻せ」



そしてアローディエンヌのされるがままだったアレッキアは…

にこ、と笑って…そっと彼の手に自らの手を当て…。

逆に彼の頭を掴んで唇をかっ喰らったのであった。


「……!!…んんーーーーーーー?!」

「えへへえ、カッコいい、カッコいいよアローディエンヌ」


こうなったら離さない。

アローディエンヌがどれだけもがいても、逃げられない。

人前だろうと部下の前だろうとお構いなしだった。

だって彼女は悪役令嬢である。


「……情熱的だわあ」

「……まあ、若様だしな。少しは恥じらったらどうだ、ドリー」

「何て言うか…堂々としすぎて逆に恥じらったらダメと言う気がするのよね…」

「自称普通は何処に行った」

「こんな素敵なラブシーン中々見れないわよ…物語の様ね」

「デバガメじゃないか…」


因みにルーロとドリーは結局二人を見守っていた。

ルーロは気を利かせて立ち去ろうとしたのだが、

ドリーが全く動かなかったのである。

ドリーはガン見しているが、一応彼は目を逸らして気を遣っていた。



そして数分後。

やっと抜け出せたというか、アレッキアに解放されたアローディエンヌは

人に見られた恥ずかしさと酸欠とで青息吐息であった。


「アローディエンヌは粗野風な貴公子でも素敵だね!!」

「……おい!!」



結構頑張ったアローディエンヌは返り討ちの事実に加え、

義姉の喜びっぷりにがくっと来た。

そんな彼を見て、アレッキアは口に両手を当てて、上品に微笑む。

それがまたアローディエンヌのイライラに火を点ける。


「えへえ、グラグラ来ちゃったあ」

「どうして!?……全力で怖い人を演じたのに…!!

全然怯えやしないなんて……」


豹変したのはどうやら脅かすための演技だったらしい。

悪役令嬢が相手では無意味どころか喜ばす結果に終わったが。


「怖い人?義妹姫様、外野から見てもチョイ悪イケメンでしたわ」

「チョイ悪…しかもイケメンじゃないし…」


全く悪気の無いドリーの言葉にアローディエンヌは落ち込んだ。


「ドリー、要らんことを言うな。大丈夫でしょうか、義妹姫様」

「ルーロ君、有難う。君は私の最後の砦だ」

「もおー、ルーロを頼っていいけど私を構わなきゃやだあ」

「ふざけんな義姉さま!!」

「でもでもお、明日も遊んでくれるんだよね?」

「は?」

「『何時もの姿で遊んであげますから』って言ったもんね?」

「其処だけ切るな義姉さま!!」


きゃあきゃあと頬を染めて抱き着くアレッキアを

アローディエンヌは剥がそうと試みた。

無駄に終わったようだが、抵抗はまだ続いている。



「……男の姿の方が感情豊かになるのか、義妹姫様…」

「あれ?どしたのルーロさま」

「いや…何て言うか…ご本人にはお気の毒だが…

『またの機会』有るかもな…」


ルーロは石板を叩き、『彼』の無事を祈るのだった。

これで番外編そのごは終わりです。

次は魔法使いが出てくる予定。

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登場人物紹介
矢鱈多くなって来たので、確認にどうぞ。とてもネタバレ気味です。
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