番外編そのごの4 傅く少年伯爵
悪役令嬢(いつも通り)とサポートキャラ(現モブ男に本人の意志無視で変化中)
神官商人(現伯爵)と崖っぷち夫人(今はそんなに崖っぷちじゃない)
が一堂に集まりました。
話し声は近づいて来る。
それにしてもデカくて良く通る声ね…。丸聞こえだわ…。
「アレッキア様の妹様にお会い出来るの?
きっとすっごい美人さんなんじゃないかしら?」
「血縁関係は無いって説明しただろ?」
「でも深窓の令嬢なのよね?あのアレッキア様が大事になさるくらいだから」
「まあ、深窓のご令嬢には違いないんだが…」
「あ、それとも可愛い系かしら?小動物的な」
…もしかしなくても私の話!?
え、美人さん?可愛い系?
誰が?私が?小動物!?
えっ、全然!!何処に出してもモブなんですけど?!小者系の間違いでは!?
ゲーム中なら背景に紛れて探せないくらいのモブですよ!!
誰か知らない私を噂する人よ、こんなモブ面でごめんなさい!!
て言うかいやいやいや!!
今私、人様に見せられる格好…はしてるけど、姿か!?
いや、本来の姿でも人様に自慢できないモブだけど…!!
「あ、来たんだ」
「は?」
「あのねえ、アローディエンヌに見せたいひとがいてね?」
「よりによってこんな時に!?」
何でこんな時に人を呼ぶの!?
て言うか、あの冬から来客が有った事なんて無かったし…。
この貧相なモブ男に変えられた私に誰を紹介しようって言うんだ義姉さま!?
気は確かかさっきから!!
「若様、ルーロ・ノロットイ参りました」
「ドリー・モブニカも一緒ですわ、アレッキア様」
「ドリー、どっちのお姿か分からないのに…気軽にお呼びするな」
あ、この謎の来訪者は義兄さまが義姉さまで有ることを知ってるんだ…。
いや、それよりも…
「いいよ、入って?」
「ちょ、待って義姉さま…!?」
返事したよ義姉さま!!
ちょちょちょちょっと…!!?
この状況でドアを開けさせるの!?
「はーい!どうぞお入りになってルーロさま!」
「何で君がドアを開けるんだ!!普通は男の俺が開けるの!!逆なんだよ!!」
「いいじゃない、大して変わらないわ」
「変わるんだよ!!」
ばあん、とダイナミックに義姉さまの部屋の重厚な扉が開いた。
…分厚い木製で、鉄みたいな黒い金属で縁取りがしてあって…結構重たいんだけど、このドア。
何時も開けるのに苦労するから、私は入らないようにしている、…が!よく連れ込まれるのは…まあいいわ。今はそれどころじゃない。
そんな軽くばあんって…。凄い力ね…。
しかも話の流れからして…ドアを女性の方が開けて入るの?
マナー習ったのって結構前だけど、欧州のレディファーストみたいなのだった気が…。
私が引き籠ってる間に変わってるのかしら?
そして現れたのは、同年代の男女だった。
くすんだ金髪…砂色って言うのかしら、目つきが鋭いめの美少年。
この頃使ってないゲーム知識を思い返しても…見たこと無いわね。
新キャラ?まさか私の知らない追加ディスクとかの攻略キャラ?うーん、全く分からないわね。
こんな美少年居たら絶対攻略してるわあ。
美少年の方は年下よね、どう見ても。
まだ成長期って感じが凄くする…。ちょっと背が低いし。
成長したら美青年コースよねえ、いいわねえ。
黙ってると人を寄せ付けないオーラが出てるような高潔な感じ?
年下枠は無かったからなあ、あのゲーム。
まあ、年下枠っつーか散々義姉さまの面倒見せられたから…ある意味年下て言うか、ガチの子供は相手にしてたわね…。
そんな特殊体験は普通に望んでなかったんだけど…。
まあ、もうどうしようもないからいいんだけど…。
そして一緒に居たのは…多分こっちがドアを開けたんでしょうね。
美少年よりちょっとばかし背の高い薄紫の髪の美人系の…恰好からして何処かの令嬢みたいね。
ちょっと吊り目気味の…よく表情が動く令嬢ね…。
私にその表情筋を分けて欲しいわ…。
そして背丈も有るし、健康的美人さんて言うのかしらね。
彼女は私と同い年か或いは年上みたいね…。
あ、もしかして義姉さまのご学友か何かかしら?
タイプが全く違うけど…義姉さまはこう、気だるげな退廃的で耽美というか…こっちの令嬢はひなたのオーラ満載って言うか…。
何処に接点が…それにしても…義姉さまに居たのね、友達。
4歳からほぼ引き籠りの私に言われたくは無いでしょうけど…。
そしてこの二人どういう関係なんだろう…あ、似ていない姉弟とか?
それにしては雰囲気が何か違うけど…あ、カレカノかしら?
良いわねー、年下彼氏とか可愛いなー。
出来れば…この恋物語を愛するサポートキャラに恋の経緯とかに熱く語って欲しいわ。
彼らの恋物語、実に聞きたい!
うん、ゲーム終わってからこういう機会が有るとは思わなかったわね。
こんなイベントが待っているならゲーム終わって良かったわね!!
……うん、スッゴイ見られてるけど、ね…。え、何で?何が!?みたいな視線を…ね。
そうよね…。こんなモブにべったりな悪役令嬢なんて…おかしいわよね。
とても不健全よね!!
こんな意味の分からん光景、普通度肝を抜かれるわよね!?
私なら即回れ右だわ。
「………あのアレッキア様が…男の子と…いちゃついてる…!?」
「ばっ!!し、失礼致しました!!」
美人さんの方がドン引いたみたいで、美少年に怒られている。
いや、令嬢のほうが正しいわよ。
そんなにぐいぐい頭を小突かないであげて、美少年…。見てるだけで痛そうよ。
どう見ても異常なのは私だから…。この場の違和感は私が独り占めっ!?
うわあ、逃げたーい…。
義姉さま離してー。
「ドートリッシュ夫人、この子は私の義妹」
「ばっ、ちょ、え、義姉さま!!」
私は目の前の見知らぬ人達に勝手に紹介されてしまった。
モブ男の格好のまま。
モブで男の格好のまま、だ。
しん、と今までの空気が一掃されて静まり返った。
おお、……退路が断たれた。
いや、義兄さま…義姉さまの部屋で逃げられる訳ないけどね。
でも人間希望を捨てちゃ駄目じゃない?
…逃げたーいマジ逃げたーい。
「え、え?…ねえさま?え、ねえさまって…ええ!?ううん!?」
ああ、案の定薄紫の令嬢の顔が青くなったり白くなったりと百面相している。
気持ちはよく分かるわ、ご令嬢…。
私も自分の事じゃなきゃそう…顔には出ないんだっけ。
脳内で大騒ぎよ。今でもだけど!!
「ドリー、ちょっと黙って」
「だだだだって、え?アレッキア様の義妹様ってお姫様でしょ?殿方がお姫様なの!?」
「は?だ、誰がお姫様…?」
殿方がお姫様…いもうとさま?何時何処で誰がお姫様?
…義妹、って言ったわよね。
まさか、つい最近知らされた公爵家の猶子ですらなかった私の事か?
全然資格無いんですけど!!
「…差し支えなければ、若様…ご挨拶をさせて頂いても?」
「いいよ、その為に呼んだから」
何でそんなに偉そうなの、義姉さま…。
この美少年と令嬢は誰なの。
さっきから名乗って貰ってたり呼ばれてた気はするけど、自分の異常さが際立って全く頭に入らないわ。
モブさも気になるが、声が怖すぎる。
そして全て分かったようにしているのは、義姉さまと美少年。
ハテナマークを飛ばしまくっているのは私と薄紫の令嬢。
何よこの蚊帳の外感は。
説明しろや、義姉さま!!
「では改めまして、アローディエンヌ姫様。
俺はカイジュ・ルーロ・ノロットイ。
他国で伯爵位は頂いていますが、国内ですのでこの名で名乗らせて頂いてます。
どうぞルーロとお呼びください」
美少年…ルーロ君から滅茶苦茶きちんとした最高礼をされてしまった…。
すげえ、この礼教本とマナーを教わった以外で初めて見た。
やった事は有るけど使わないからサッパリ今まで記憶の彼方だったわ。
しかしこの礼を受けていいの私?全然高位じゃないわよ、私。勿論姫でもない。
王族の血混じってる義姉さまが受ける奴じゃないの?
もしくはショーン王子か王弟いや、現国王ウォレム陛下に…。
何故こんなモブに…滅相も無い気持ちで一杯だわ。
いや、いけないわ。ここはきちんとしなきゃ。
……他国の貴族って言ってたしね。
いい加減きちんとした令嬢…いや、義兄さまの夫人?立場は何だ?貴婦人?らしくしなきゃ。
「義姉さま、いい加減退いて下さい!」
「ええー」
私は義姉さまを押しのけて美少年ルーロ君に向き直った。
…それにしても美少年だな。瞳も綺麗な黄色だし。
実はやっぱり隠し攻略キャラとかなの?
ああでも彼女(仮)の令嬢がいるもんな…。
「……ええと、私は…アローディエンヌ・ユールです…。ユールと名乗っていいのか…姫では有りませんが…」
寧ろ前の家の名前何だっけ…。どうしよう、そっちで名乗るべきなのかもしれないけど…。
全然思い出せないと言うか、知らねえ…。
と言うか結婚?したんだっけ?じゃあユール?
でも義兄さまが堂々と文書偽造したし受け付けられてんのか疑問だわ。
「深い深い青の瞳…」
「え?」
ルーロ君が私の目を見つめたままボソッと呟いた。
…そのフレーズ、どこかで聞いたな。
何だっけ、最近読んだ本?
えーと、童話だっけ?何か秋頃に読んだロクデナシな姫の童話に出てきたような。
「いえ、瞳の色がお美しいですね、姫様」
にっこり、とルーロ君が私を見上げて笑った。
うっわー、美少年の邪気の無いスマイル頂きましたーーー!!
すみませんモブに対してアザアアアッス!!
この子本当に攻略対象じゃないの!?いや、攻略対象じゃなくていいや!!
だってロージアの毒牙に引っかかったら気の毒だし!!
それにしても綺麗な透き通った目だこと。光のような宝石のような…。
「…有難う、貴方の目も夏の光のようですね」
「勿体無いお言葉」
…こんなノリで言ってしまった気障な台詞にも鼻で笑わないなんて…。
何て出来た美少年なのかしらルーロ君。
しかも傅かれてしまった。
姫様とか呼ばれて申し訳ない気分で一杯だったけど、何この高揚感。
テンション上がるなあ!
見た目がモブで本当に御免なさいね…。しかもこんな声の怖すぎるモブ男に…。
ああ、傍から見たら絶対イケてない光景…。残念過ぎる。
「……アローディエンヌ、何でそんなに分かりやすくデレデレするのお?」
「ごぐはっ!!」
義姉に遠慮なく後ろから抱き着かれた。
何かゴスッて背骨が鳴った気がするんだけど!?
そして思いっきり胃の上を手で押さえ…いや、抉られる勢いでぎゅっと絞められた。
痛気持ち悪っ!!
空腹なんだけどおおお!?
義姉さま加減しろよ!?加減んんん!!!
手が払えねえええ!!!
「……ルーロさま、私にもたまにあんな感じで喋ってみたりしません?」
「何の理由が有ってだよ?どうして君に遜らなきゃならないんだ」
あっちは可愛い感じで揉めてるんだけど…!!
超イベント感満載!!目の保養…っ!!
ああすげえ見たいけど、気持ち悪うううう!!
ぐえっ、気持ち悪い…。
さっきから振り払おうと努力しているのに、力が全く緩まない!!
唸れ今殿方である私の腕力っ…!!
動かねえええ!!!全力で力込めてるのに動かない!!運動不足のせいか!!
あああ必死で唸り過ぎてプルプル痙攣しつつある!!
何故なの…義姉さまの姿でも力加減が全く変わらないってどういうことなの!?
世の中モブに厳しすぎやしない!?チートに甘過ぎよ!!
まだ朝食は食べられていない…。
アローディエンヌがそろそろイライラしだします。




