番外編そのごの3 鏡の中の令息
サポートキャラ、未だ朝食が食べられない。
モブ令息になって自分の姿を見せられる強制イベント発生。
…ファンタジーです。
「楽しもうねえ、アローディエンヌ…。あ、男のお名前は考えとかなかったねえ。
アローディオンとかどうかな」
私を罠に嵌めた…本物!!真性!!の…悪役令嬢が笑っている!!
炎を背負っていないが、背負われて追い詰められている気すらする。
燃やされる!!前世の記憶が!!甦る!!
さっき恐怖を感じなかったけど、今とても命の危機!?
いや、貞操!?
どっちでもいいけど、迫るなあああ!!
「ひっ…!?」
「お洋服キツイよねえ、まずはお着替えしよ?アローディオン」
今にも服を剥ぎ取らんばかりに迫りくる義姉怖い!!
綺麗な顔で微笑むな!!
美女には…見るにはいいけど!!間近で見ても義姉さまメッチャ綺麗!!
ぐらつくな!!私!!
だがだがだが!!恐怖で失神しそう!!
で、でも、とりあえず…これだけは言わなくては。
私は気力を振り絞った。
「…ま、待って…」
「なあにい?」
「だ…、ださい」
「うん?」
「…名前がダサいのよ、義兄さま…いえ義姉さま!!」
どう転んでもアコーディオンじゃねえか!!
え、他にも気にすることあるって?
気にして戻してくれるとは思わないから、其処を主張するんだよ!!
だってあのチート悪役令嬢、義姉さまだぞ!?本物だぞ!!
今はぱちぱち瞬きして可愛いけど!!
アップで見ると睫毛めっちゃ長いな!!
いや義兄の時も長いけど!!
当たり前か同一人物なんだから!!
「…そこを気にするんだあ…。アローディエンヌってば可愛いね?」
何も可愛い事は無かったと思うが、…取り合えず手が止まって良かった。
女装のモブ男(中身私)を剥く義姉…何と言う拷問だ。
「いや、自分が今女装の男ってことも大分気絶したい事態で拷問ですけど!!」
「ええ?どうして?アローディエンヌなら何でも私はそそるよー?」
どうしてじゃねえええ!!
自分の姿の不気味さに慄けるわ。そそられる訳がない。
恐ろしい発言は止めてくれないっすか、義姉さま!!
「速攻着替えます」
「えーん、そんな変態さんを見るみたいな目はやだあ」
「諸悪の根元は貴方でしょうが!!」
私はブチ切れた。
…それで、とりあえず…。
渡された服は義姉を追い出してから自分の部屋に籠って着替えた。
脱ぐのは…大変困ったけど、気合で何とか…出来なかったので、コルセットは紐を切った。
この世界に有って良かった、鋏。
…これナイフなら絶対無理だわ…。
過保護な義兄…義姉が渡してくれる訳が無い。
もうこのコルセットもドレスも駄目だな。幼少期にも不可抗力で数多くの服を駄目にしてきたな。
…主に義姉のヨダレに鼻水に紅茶にクリームその他色々のせいで…。
子供らしく普通に外で遊んで泥汚れとかで汚した覚えが無いわ…。全く無いわ…。
おかしくね?
…まあ、中身が大人だったから、ガチで子供らしい遊びを楽しめたかと言えば、無理か…。
ああ、これなんかボタンは千切れ飛んでるし生地裂けてるし…。
そりゃそうよね、体格は男女差が有るもんね…。
逆ならダボダボで済むだろうけど…。
それにしても…男の足元に落ちるコルセットって…自分だと全然扇情的じゃないわね。
これを着ていた女装のモブ男が自分…。
ああ、気が遠くなりそう。
それに良かった前世の知識ありで。
紳士服なら普通に着られるわー。…着る気無かったけど。
貴族は男性でもお着替えに手伝いが要るとかだったら
死ぬところだった。羞恥心とか恥じらいの心とか人として大事な尊厳とかが!!
チョコレート色のジャケットに、白いシャツ…。ジャケットと同じ色のズボン。
…下着は、もう適当に着よう。見ない見ない…。
くすんだ赤のネクタイも普通に締められる…。
…これは前世で制服がブレザーだった…かしら?
セーラー服では無かった気がするわね。
うーん、前世知識まで唸らない…。益々駄目じゃねえの。
知識チート位…出来なかった…。
それにしても用意されたのが変な服じゃなくて良かったわ。
ド真赤とかド黄色のビラビラとか、芸人みたいなことになるかと思った。
其処ら辺は義姉さまが普通のセンスで良かった…。
いや、着替えさせられてんの義姉さまのせいなんだけど。
混乱から立ち直りなさい、私…。
そして出て行きたくなかったけど、若干空腹を抱えていたので出た。
そしたら義姉にべったり張り付かれそうになった。
…取り合えず男女差で身長差が有ったので、おでこを抑えてくっつかないようにガードしたらニコニコデレデレされた。
何でや。
あ、腕も長いわ。これだけは良かったな。
……足は別に長くないけど。
まあ、元から長くないからな…。
…伸びた身長は胴体か?胴体だな?
……いや、別に自分に夢見ちゃいないけど…なんか悲しい。
「ねえねえこっち来て来て?」
「…何ですか、義姉さま」
もう知らねえや…と自棄っぱちな気分になっていたら
義兄さまの部屋、いや今は義姉さまの部屋か、に引っ張り込まれた。
男女差が有ったとはいえ、モブ対チート。
やはり手加減されていたか。情けない。
「じゃっじゃあん!はーい、見て見てえ?カッコいいよお?アローディエンヌ」
いつも以上に目が死んだ私の前に、ウキウキして義姉が鏡を引き摺ってきた。
何この鏡可愛いな。何処から持ってきたの?
楕円の鏡に白い鉄製の縁取りがメルヘンチック…お姫様の姿見って感じ。
じゃなくて、それにしても…。
見ろと言われたので目を逸らしたかったが、現実を見据えることにする。
目の前には黄色掛かった灰色の長い髪に青い目の貴公子の格好をした男と、絶世の美女が映っていた。
絶世の美女の方に目が行きがちだが、とりあえず自分を観察する。
髪の長さはどうしようもないので、解いたまま肩に掛かっている。
服はさっき着る時に見た通り。
…目が死んでるモブだな。ローテンションなモブだ。何処をどう見ても何度見てもモブだな。
街を歩いていても紛れるレベルの立派なモブ貴族男(18)
庶民の格好をしても紛れそうなモブっぷり。
ただ…声すんごい怖いけど…そこだけね、変なのは。
背は義姉よりちょっと高いくらい。義兄よりは間違いなく低い。
もしかして攻略対象ですね!?って誤解するまでもない。
華やかさはない。目に光が無い。オーラは勿論無い。
…いかんな、イケメン好きが高じ過ぎた私には…無しだ。
男になった自分に心底興味が湧かないわ。
モブっぽいなあ!!って感想は湧くけど。
…それにしても、こんなモブをカッコいいって…義姉の趣味ってどうなってんの?
モブ専門の恋愛脳?
「とりあえず、どうして用意されていた服がぴったりなんですか」
「ちょっと夜中に術をかけたの。1ヶ月位前でー、アローディエンヌに溜まった僕の魔力」
「爛れてる予感がするからもう結構!!」
「だってえ、寸法測れるのってえ、寝台が一番だよ?」
おお、頭痛がしてきた。
…何を何処まで測ってんだ、義兄は。
人の寝込みを利用した変態行為の数々に身震いが止まらない。
「……私の許可なしに寸法を測ったと」
「え、えへ?測らないと服が作れないよ?」
「義姉さま?」
「ごめんなさい…」
「もうしませんね!?」
我ながら本当に声怖いな!!
喋ってる自分でも声怖いんだから、義姉は相当怯えてる。
プルプルしている…。
おお、悪役令嬢を怯えさせる怖い声かあ…。何と言うレア…。
魅了無効並みにレアなんじゃないか?これ。
本来の持ち物じゃないってのがまた微妙だけど。
私はアレッキアを刺激しないようにそっと覗き込んだ。
そして自分の考えを即座に否定した。せざるを得なかった。
めっちゃ喜んどるんですけど…。
顔赤くして目がうるうるキラキラしてる。
お花とかお星さまとか背後に飛びそう。
とっても派手な奴飛んでそう。
……何で?やっぱり義姉の趣味は相当おかしいな。
私ならこんな声で怒られたらひっくり返るわ。
そして失神して目が覚めても相手が去るまで待つわ。
身動ぎもしないで頑張るわ。
「……だってえ、仕立て屋が遠いからあ、寸法測るのに呼び出すの大変じゃない。
後、他の人間がアローディエンヌさわるのやだあ。引き裂きそう」
引き裂きそうじゃねーよ。
義姉の発言が怖すぎてぞぞっと怖気立つのが分かった。
おい。おかしくないか?
反省を促した筈なのに恐ろしいコメントが返って来たよ。
これ、私が選択肢誤ったら無益な殺生に繋がるパターンって奴じゃないか。
義姉は無益な殺生を好まないが…多分必要と判断すれば厭わないタイプだ…。
現場を見て無いから糾弾しようが無いけど…。
「…解りました。
必要があれば義姉さまが測っていいですから…。是非とも私の意識があるときにお願いします」
「やったあ」
……ドツボに嵌まったって?
そうでしょうね。
私が多分真っ昼間に義兄…いや、義姉?どっちかに体のサイズを測られるという…恥辱を我慢すりゃあ罪もない命が助かるんだから。
…取り合えず、私の心が摺り減るから服は着たまま測らせよう。
義兄さま…いや義姉さまのせいで他も色々摺り減ってる気がするけど。
「…それでどうやったら私は戻れるんですか?」
「魔法が解ける条件はねー。明日の朝に王子さまのキスだよ?」
……ふざけた条件だな、おい。
何の茶番だ、おい。
「訳が分からない…」
「うふふふふー、いい声だよーアローディエンヌ。
戻るまでずっと傍で囁いてね…」
この怖い声が!?
義姉は耳までおかしいんじゃないの!?
ちょっとべたべたしないで!!胸むっちゃ有るな!当たるんですけど!
本来の私の貧相加減が悲しいくらいだよ!!
「そうだ、次はデートしようね」
「えっ…この姿と怖い声で?」
義姉さま正気かよ。
このモブ面で怖い声とよく外に出かけようと思うな?
勇者パーティに道聞かれてもいいくらいモブ面なのに!!
仮に出かけたとしても、オーラが違いすぎて女王と臣下(とても下っ端)位にしか見えないわよね。
そう言えば前出かけた時もそうだったな…。
『えっ、えっ、えっ!?何でモブ面のお前がそんなイケメンの傍に!?』みたいな…。
5度見位されたんだっけ。
…まあ、正直言えば若干不愉快だったけど。
自分のモブさは分かってるし。
「何で?怖くないよ?」
「私は心から怖いと思っていますが」
「いい声なのにい」
うん、分かった理解した。
義姉とは趣味が全く合わねえ!!
「わあー、素敵なお屋敷ねえ、とっても高そう!!」
「有数の公爵家の別邸だからな」
「こんなお近くに別邸だなんて贅沢ねえ」
「…中心部から駅馬車20駅停留所の何処がお近くなんだ…」
「調度品もお高そうね…緊張するわ…絨毯も素敵…汚したらどうしましょう浮けないかしら…」
「いや、普通にしっかり踏みしめて歩けよ!!」
その時、声がするのが聞こえた。
若い女の子の声と、若い男の子の声…。
通いの侍女の声じゃない…初めて聞く声ね。
…何か、すっごく所帯染みた会話…。
いや、え。嘘、誰か来たの!?
次回、あの伯爵夫妻が襲来…と言うか家の中に入って来てますね。
感動の初対面にはなりません。次こそ朝食を食べられるか。
そして通いの侍女さんと料理人さんは忍者か何かなのか、全く気配が無いですね。




