番外編そのごの5 儀礼が苦手な伯爵夫人
自己紹介だけでどんだけ掛かってんすかって言う苦情は
自覚してるのでお控え頂けると嬉しいです。
「ねっ義姉さま…空腹の胃を押さないで…!!」
「もおー。何でアローディエンヌは私にデレデレしないのかなあ…」
「あの、若様…義妹姫様の顔色がお悪いんですが」
「あれえ、アローディエンヌ、お腹減った?」
「……」
やっと離されて私は涙目で義姉さまを睨んだ。
頬を赤くするんじゃないわ!!
睨んでるんだよ!!
私みたいなモブが睨んでも傍から見たら全く怖くないだろうけどな!!
今だけ迫力欲しい!!
「……義姉さまが全力で加減なく抱き着いてこの私の体が平気だとでも?」
ええ、義姉さま相手に男女差とか存在しないわ。
さっきに思い知ったわ。まだ腕がプルプルしてる!!
くっそう!!悪役令嬢VSモブ男だと勝利は何時でも義姉よね…!?
それでもだなあ、睨まずにはいられないのよ!!
勝ち目が有ろうと無かろうと!!
「…え、えへへ?……ご、ごめんね?」
「仰せの通りとても空腹です。
義姉さまが…私を悪戯に巻き込んでくださったお陰で」
おお、我ながら怖い声…。
怒りが混ざってるせいか、7倍増されたくらい声が怖いな…。
それにしても義姉さまは兎も角どうして誰もビビってないんだろう。
この声実は怖く無いの?私がおかしいの?
「す、凄いわ、滅茶苦茶迫力のあるお声ね…この国に来てから1,2を争う迫力がお有りね。
バルトロイズ様も迫力あったけど…並ぶわね。とっても強そう」
「ドリー、君はどうしてこう要らんことを言うんだ」
何か思ってた感想と違うんだけど…。
誰だバルトロイズ様って…何か聞いたことあるけど何だっけ…。
この頃記憶力が低下気味だわ…。
と言うかこの特殊な状況で頭が働かない。
そして、私全然強く無いんだけどね。
男になってもヒョロいし貧相だし武芸とか魔法の嗜みも無いし…。
声だけは何故か確かに殺人犯してそうなレベルで強そうよね…。
どうなってんのこの体?何で?
物事にはバランスとか分相応ってものがあるでしょ?
絶対この声ってもっとこう…何て言うのかしら。
暗い過去のある迫力ある柄の悪ーいお兄さんとか、全身傷だらけの超恐そうで実際恐ーい悪役に相応しい声よね…。
絶対モブ面の声じゃない…。
顔だけなら悪の手下モブにならなれるかも…?
でも声がドス効いてて下っ端の声じゃないし怖い…。
「ねええ、黙らないでえ?」
「……」
「じゃ、じゃあご飯食べようねえ?ご機嫌直してね?」
義姉さまが涙目でしがみ付いて来た。
…一応今度は加減しているけど、べったり…。
「……それで私の機嫌が直るとでも?」
「え?おねだり?何が欲しいの?何でも言って?」
「別に物は要りません、反省してください二度としないって」
「…えーと、やだあ」
はああ!?
やだあ!?
やだあだと!?
「……義姉さまァ!?」
「だってだってえ、気に入ったんだもん」
気に入ったんだもんじゃねええええ!!
私は心の底から嫌がってるの分かってんのかあああ!!
しかしやっぱりこの声怖ああああ!!
「……ねえルーロさま、アレッキア様ってあんな感じだったかしら?
もっと何かこう、孤高のお姫様みたいな…触れれば燃やすみたいな…」
「概ね有ってる」
「あの殿方…アローディエンヌ姫様?とお話されている姿は…随分違うんだけど」
「慣れろ」
「えええええ?ああ?ううん?
て言うか、私…あの殿方が義妹姫様ってのがよくまだ分かってないんだけど?
どうして義妹姫様って呼ばれてるの?渾名?」
「じゃあ理解しなくていいから覚えて」
「何でよそんな無茶苦茶な」
……あっちも何か無茶振りをされているわ…。
気の毒になってきた。
「……あの、ご令嬢…?」
「はひっ!?」
正面から話しかけたのに、凄く飛び上がられてしまった…。
やっぱりこの声怖いわよね!
うん自信が…自信を付けてどうする、私。
「…私、義姉…私と居る何時もは義兄ですが、とにかくこのアレッキアのせいで姿を変えられたんです。
本来は女なので…義妹で結構です」
「わあい、アローディエンヌが私の名前呼んだあ」
どうでもいいな!!更にきつく腕にしがみ付かないで欲しい!
しかもやっぱり剥がせない!!
さっきと同じく全力で掴んで引き剥がそうと頑張ってるのに!!
何時もは考えないが、今切実に男女の力の差が欲しい!!
どうして男の姿でもやられっぱなしなの!?
理不尽だわモブって!!
話がややこしいから引っ込んでてくれ、義姉さま!!
「………」
彼女の青紫色の綺麗な目が見開かれて、高速で義姉さまと私を交互に何回も見た。
ブンブン音がしそうなくらい首を振ってるけど、大丈夫かしら。
人体ってこんな素早く動くのか…。
運動神経は良さそうだけど、この人もチートなのかしら?
義姉さまみたいな…こう、底知れない感じのチートっぽさは感じないけど…。
優秀な人であることは間違いなさそうね…見た目普通の美人さんなご令嬢だけど。
まあ私は所詮モブだから分からないわね…。
それにしても、何かこの令嬢の雰囲気、どこかで見たような…。
誰かに似てるわね。
……ううん…この表情の動かし方…私の数少ない知り合いにとても似ている…。
喉元迄出かかってるのに思い出せない…。
うーん、誰だー!!
「え、…本当に殿方が…貴方様が義妹姫様!?
仕込み芸とかじゃなくてですか?!何処かに本人はお隠れでとかじゃなくてですか!?」
「……その仕込み芸とやらだったら良かったのだけれど」
ええ、この異常な空間に驚く貴女が普通の感性で嬉しいわよ、
薄紫の令嬢…ドリーさんだっけ。
私姫じゃないけど。
て言うか仕込み芸…現代日本でいうドッキリみたいなもん?
此処にも有るの!?
発想が…結構変わってるわね。
「ねえねえ、とりあえずご飯にしようよアローディエンヌ。怒ると良くないよ?」
「誰のせいですか誰の!!」
「二人も摂っていくんだろう?」
「いえ俺達は…」
「頂きます!!頂きますけど…ううん、何をどうして令嬢が殿方に変わるの…?」
其処は気になるわよね。でも知らない方がいいわ。
知りたくなかった。何かが減ったわ。
「……遠慮と言うものを…大体朝食は採っただろ」
え、やだもう帰ってしまうの!?
止めて!!
この義姉さまとふたりっきりと言う恐ろしい未来しか待ってそうにない空間に私を置き去りにしないで!!
ああ、ろくな目に遭わされる気がしない!!
朝食でも何でもいいわ。時間を稼がなきゃ!!
明日の朝までに!!
日付変わったら速攻解かせてやるからな!!
今度は女装のモブ男じゃなく男装のモブ女になるし!!
まだ…多分、見た目には…きっとマシ!!
「いえ、是非二人とも一緒に朝食を!むしろ居て下さい!!
最早義姉さまと二人だと不安でしょうがない!!」
「ひ、ひどいよおー、アローディエンヌう」
義姉さまの目がうるうるしているが知った事か!!
こっちが涙目になりてーわよ!!
「義姉さまは黙ってて下さい、
空腹で無いのならコーヒーでもお茶でも用意させます!!甘いものはお好き!?」
「甘いものも朝食も昼食も夕食も大好きですわ!!」
「遠慮しろ!!」
良かった令嬢の方が単純な感じで!!
と言うか、食いしん坊?
確かに女性らしい体型だけど…私ももっと食べるべきかしら。
もっと食べて運動した方がいいわね…。
少なくともこの男の姿で義姉さまを引き剥がして逃げる力くらいは欲しい…。
…って何考えてるの。
もうこれが終わったら男の姿になんて絶対ならないんだから!!
絶対…って、寝てる時に変えられたんだっけ…。その際に服をあああああ!!
ど、どうしたらいいの!!
すり減っていくわ、私の尊厳とか心とか倫理観色々おおお!!
「……それにしても凄いわ…あのアレッキア様をやり込められる方なんて…」
どういう意味かしら、令嬢…。
いや、別にやり込めて無いけど。
まだ頬っぺた膨らましながら私の腕にぶら下がってるし。
「ドリー、とりあえず君まだ自己紹介してないから」
「あ…そうでしたわね」
ルーロ君に突かれ、こほん、と咳払いをした薄紫の令嬢はカーテシーを…
「痛あぁっ!!」
取ろうとしたらしいけど、悲鳴に変わった。
…ごおんっ、て床が鳴った…。
でっかい音…。どんな勢いでぶつけたの。
…カーテシーで膝曲げすぎて両膝打つ人初めて見たわ。
膝大丈夫だろうか…石の床じゃなくて良かった…。
あの勢いだと絶対血塗れになってる所じゃないかしら…。
「あの、大丈夫?」
「…気にしないでやって下さい…本当に誠に申し訳ございません。
彼女はドートリッシュ・ムニエ・モブニカです」
「ルーロさま痛い痛い!!」
「君は…本当に君はこういう細かい所で本当に…!!」
何処から出したのか、ルーロ君の手に黒い石板が有った。
膝を付いたドートリッシュ嬢の顔にそれをぐりぐり押し付けている。
おお、裏の彫ってある面が痛そう…。
何かしら、あのごつい石板。ノートPCくらいの大きさで…石板。
魔法のアイテムか何かかしら。
全然分からん…。
タブレット端末みたいな使い方だとカッコ良さそうだけどどうなのかしらね…。
ええと、とりあえず…苗字違うからこの二人は姉弟じゃない。
やっぱカレカノなのね。
「と、とにかく…止めてあげて?」
優しい声を出したつもりだけど、本当に怖いなこの声…。
そして私の喋り方がこの声にすこぶる似合わないから止めたいけど、
どうしても癖で出ちゃうな…。
もっと粗野な感じの喋り方が似合いそうな怖い声なのに、余計に不気味だわ。
モブ男(18)で怖い声かつ女の喋り方ってどんなモブよ。恐怖よ。
要らんわそんな個性。
「うう、有難うございます義妹姫様ー」
石板ぐりぐりから抜け出したドートリッシュがお礼を言ってきた。
うーん、『いもうとひめさま』って呼び方止めてもらえないだろうか…。
位も無いし、そんな呼ばれていい見た目でもないし、今男(モブ面)だし。
うっ、結構経つから何だか言い出し辛い…。
「…ええと、ルーロ君とはカレカノ?なの」
「え、かれかの?」
「…こ、恋人とか、婚約者?」
しまった、またやってしまったわ。
此処の言語じゃない言葉言っちゃった…。
駄目ねえ、世間知らずも有っていいか悪いかが判断しにくい…。
「いえ、俺の妻です」
「そう妻……妻!?妻ぁ!?」
え、この美少年ルーロ君の妻ってこのドートリッシュ嬢が!?
え!?え?
どう見ても彼は15,6歳にしか見えないけど、妻帯者!?
この世界の適齢期っていつ!?
マジか!?そりゃ攻略対象じゃないよ!!
いや、お似合いだけどね!?
でもこの歳なら普通お付き合い中とかじゃないの!?
義兄さまに丸め込まれて意味の分からない立ち位置の私が言うのも何だけどさ!!
謎の少年伯爵と令嬢の関係が明らかにされました(笑)
伯爵夫人ってノリじゃないですね、ドリーは。
次回、やっと朝食です。




