17.君は僕と共にある
お読みいただき有難うございます。
取り合えずこれで悪役令嬢パートは終わりです。
さて、帰るか。
目的も達成できたことだし、階段も軽快に下りられるね。
登るときとは気分が段違い。気持ちいいよ。
しかも出る時には声は止んでいたし、良かったな。
薬の匂いのおかげで喉から喰らうんだっけ、あの鳥。
賢い鳥だよ。幾ら嗜好品でも暴れて煩いのは嫌だろうしね。
それにしても鳥番はどうやってあの鳥を仕込むんだろうね。
グロテスクな事は興味ないけど、知識としてちょっと興味あるな。
火事で生き残ってたら聞いてみるか…あの陰気なフードを被った鳥番に。
あの悪趣味な飲み物の礼も言わなきゃね。
ああ、そんな事よりこの火事でアローディエンヌはさぞ不安だろう。
早く帰って慰めなきゃ。
きっと心細くて怖がってる。
僕に泣きついてくれちゃうかもしれないな。
未だ燃えている森の中を暫く機嫌良く歩いていると、人影に出くわした。
ボロボロな見た目になっているけど…もしかして…。
「…アレッキオ…!?」
あ、やっぱりだよ…。面倒くさいのに会っちゃったよ。
まあ、この人は王宮を出てほっつき歩いてる変わり者だから、
生き残るのは自明の理だったな。
下手な王族より生き残りスキル持ってるもんね。すっかり忘れてた。
そう言えばあの屑の取り巻きだったっけ…?
いや取り巻くほど居なかったな。
何故か叔父上も信奉者だっけ。本当に謎だな。
まさか呪われてるの?
「叔父上」
「その姿は…いや、ロージアを知らないか!?」
「今目の前にいる身内でなくて、他人の小娘の心配ですか。流石ですね」
甥が便宜上でも挨拶しようとしてる時にそれ?
取り合えず不愉快な名前が出たので嫌味を言っておいた。
「……っ、すまない。だが、心配で…」
「まあいいですけど。別に俺は怪我も負ってませんし、心配するほどでもないんでしょう」
「…お前を放っておいたのは、親族として謝る」
「そうですね、過去は変えられませんね」
あの悍ましい昔、僕が泣こうが喚こうが…結局は放置した大人だったからな。
まあ、多少庇ってくれたことは有ったけど。
数える程だけだけど、それ位はマシな人だった筈なのに。
屑には入れ込むんだねえ。
「何度でも謝る…だからロージアの行方を知っているんだろう!?」
「知りませんよ」
「ロージアは赤い髪の男を追いかけて行ったと聞いたんだ!!」
ふーん、その程度は誰か見てたんだな。
誰も追いかけてはこなかったけど、追いかけて来てたなら無駄な犠牲が出てたし良かった。
でも何で叔父上に言うかな。
誰だろう。困るなあ。面倒くさいなあ。
叔父は悪い人ではないけれど、相変わらず声は大きいし煩い。
激高されても興味がないことだし、煩い事この上ない。
「赤毛の男なんて他にも山程いるでしょう。
大体俺はあの女に婚約者を取られたんですけど」
「……それは」
「叔父上もロージアとやらのご機嫌取りがてら手を貸して下さったんですよね、
その節はどうも」
「…違っ…わないが」
うーん、愚直な人だね相変わらず。
それにしても…昔はまだ普通のひとだと思っていたのに…。
やっぱりあの屑女に骨抜きにされているのかな。
アイツも『魅了』とか持ってたんだろうか?
気持ち悪いからあんまり見ないようにしてたし、気にもしてなかったな。
「俺よりも王族の血が濃い叔父上は何をしにここにいらしたんですか?」
背の少し低い叔父を見下ろして、僕は微笑んだ。
叔父の肩が強張っているのが分かる。
まあ、あんまり会わなくても…腐っても身内だからね。
案外真面目な事は知っているよ。
まあ、性に合わないけど…此処は痛い所を突いておこうか、今後の為に。
「叔父上の選択肢はみっつ。
ひとつ、このまま王宮へ引き返し、消火活動の指揮を執り、他の王族や貴族の安否を把握して保護する」
「ッ」
「ふたつ、このまま一人で逃げる」
「そんなことはしないっ!!」
声が大きいんだから怒鳴らなくても聞こえるって…。
いちいち叫ばなくてもいいよ。
そうだろうね。なんだかんだ王族の中では珍しく責任感が強い人だから。
「みっつ。居るか居ないかも分からないク…小娘を探して、燃え盛る森で焼かれて無駄死にする…」
指を折って数えてみせると、叔父は悲壮な顔をしていた。
どう考えても叔父が選ぶべきなのはひとつめ。
そんなこの世の終わりみたいな顔されてもね。
自分でも分かっているんじゃないか。
どう考えてもみっつめは選べないでしょ?
分かってるんなら答えの後押しに僕を利用しないでほしいよ。
フェアじゃない。
「アレッキオ、お前の手を貸してはくれないか」
「……は?」
…一瞬返事が出来なかった。
え?僕?僕に言ったの?僕の手を貸せって?
何を言ってるの叔父上。絶対しないよ、その選択は…。
「嫌ですね。俺にはたった一人の義妹を助けに行くと言う選択肢しかありません」
「そんな…頼む、ロージアは」
何でそこまであの屑に入れ込んでるんだろ…。
しつこいなあ。
まさかと思うけど、本気で恋愛してたの?
……有り得ない…。居たでしょ、好きなひとが。
忘れたの叔父上?
「あんなのより俺には義妹の方が大事だし大事だし大事です。
都合のいい時だけ身内面するなって自分の信条はお忘れですか?」
「……」
何だっけ、王様が叔父上にしょーもないこと吹っかけて喧嘩して、キレた叔父上が宣言したんだっけ。
えーと、仲が良かった婚約者が居たけど王様の身勝手で勝手に解消されて、縁も所縁も得も無い他国に婿に行けって言う気紛れだったかな?
王妃も恥も外聞もなくベラベラ喋ってたな。自慢気に。
これだから風来坊気質は困るだの、身内は助け合うべきだの、王族の自覚が無いだのと…。
本当に恥知らずかつ自分勝手な一家だよ、あの王家は。
王妃はまた似たような性根の悪いのを据えてるし。
あー、血が繋がってるのが嫌になるね。
あのお茶会だったかは本当に胸糞悪い情報しか無かったな…。
役に立つのがまたどうしようもないけど。
「俺は傍系王族としての義務は果たしてきましたよ?
叔父上は逃避行楽しかったですか」
「……」
あんな家に生まれて常識人な時点で可哀想なひとなんだけどねえ、叔父上。
本当にろくでもないよ。
「もう一度逃げるには、遅すぎましたね?」
「王宮へ、戻る」
…やっとかあ。
長い、長すぎるよ叔父上…。
さっさと決断してよ…。
「流石敬愛する叔父上いや、次代の国王陛下」
「……ロージアは、幸せだったのか」
ええ、空気読んでよ叔父上。
…またあの名前とかか、名前自体に罪は無いけどイラッと来るよ。
何でそんな夢見る瞳なの…。おかしいよ。
あの屑に執着する意味ある?ホントに呪われてるの?
…これかな、『目くらましの霧:軽度』って奴。
呪いの類…だけど…何これ。変な名前…。
今は気が向かないけど、気が向いたら叔父の呪いの件も調べといた方がいいかな。
「人の幸せなんて人それぞれですよ。じゃあ失礼します」
僕が頭を下げると、フラフラと叔父上は王宮の方へ歩いて行った。
ああもう、やっと行ってくれたよー。
僕の立場上叔父がどっか行かないと動けないからね…。
形式上でもね。次代の国王陛下だからね。敬わないとね。
あー疲れた。これでやっと愛しい可愛い僕のアローディエンヌの元へ帰れる。
察しの悪い身内に付き合うと、本当に疲れるよ。
何の為にこの急いでいる僕の時間を費やしてやったと思っているんだろうね。
…魅了の効きにくい身内である彼が幸せであらんことを祈っているのに、
本当に悪い叔父上だよ。
ああ、アローディエンヌ。
僕頑張ったよ!!
やっと計画の半分は遂げたからね!!
小さい頃から思い描いてたことがもう少しで叶いそうだよ!!
移動魔法覚えといてよかったなあ。
火の手が上がってるから僕の属性も効果上がって、魔法が使いやすい。
早く帰ってきたのが意外みたいでビックリしたみたいで、
アローディエンヌが駆け寄ってきてくれた。
早く帰ってくるって言ったからね!
僕はアローディエンヌに約束したことは守るよ!
ああ、アローディエンヌは僕の安否を気遣ってくれた!
嬉しい!優しい!珍しいよ!!
そしていつもよりも可愛いよ!!
いつも可愛いけどね!!
あんまり嬉しかったもんだから…唇にキスしたかったけど…やめておいた。
屑女と口移ししちゃったから、後で口をゆすいでから唇にキスをしよう。
アローディエンヌが汚れちゃう。
うん、浮気じゃないんだよー。
でも頬とかならいいかな。
アローディエンヌは混乱して悲壮な顔をしていた。
独りで怖かったね。不安なんだね。でももう大丈夫だよ。
「…義兄さま、ロージアは」
「何か見えたかな?アローディエンヌ」
優しいね、可愛いひと。
もう気にしなくてもいいんだよ。
アローディエンヌを悩ます奴は、何処にもいないから。
「もう、他に誰も居ないの?」
オロオロと、アローディエンヌは不安そうに言った。
あのアローディエンヌがオロオロしてる!!
やった!表情が少しずつ変わってきている。
誰が見ても分かるように動いてるよ!
勿論無表情に近い君も可愛かったけど、表情があると本当に可愛いね!!
元々感情豊かな子だからね!顔に出にくいだけで。
あの童話のように、悪い魔法が解けたかのようだよアローディエンヌ!!
ああ、やっぱりあの屑を始末してきて本当に良かった!
これで僕の事を沢山考えてもらえるね!!
僕の事で頭を一杯にしてくれる日も来たりするかなあ。
お姫様の呪いを解くのは王子様。
まだ地位は手にいれてないけど、まあそれはその内。
アローディエンヌの王子様になる為に、頑張るからね?
「そうだよ、アローディエンヌ。僕と君のふたりだけだ!」
しかも抱きしめ返してくれたし…。
うわあ、絶対に離さないからね!!
ああ…まずい。今日は本当に幸せが一杯。
倒れそうだよ!倒れてる場合じゃないけど!!
ああ、これが一番だね!!
アローディエンヌは僕の腕の中。
君は僕と共にある!!
初めて王弟(旅人)が出てきましたね。
これで攻略対象揃い踏み出来ました。




