13.義妹の瞳
お読み頂き有難うございます。
普通でない人が普通の人に出会う話です。
僕の義理の妹は可愛い。
少し黄色がかった灰色の髪の毛も、深い青の大きな目も、そばかすの有る小さい鼻も、噛みしめるのが癖の赤い唇も、動きにくい表情も全てが可愛い。
アローディエンヌは僕をおざなりに扱いながらも、絶対に僕を放り出さない。
どんなに甘えても、放り出さないんだ。
どんな言葉にも返事をくれる。
滅多なことでは動じない濃い青の目に、少しの愛情を込めて僕を見る。
僕にとっては掛け値なしの愛情を込めて。
その事実を確信するだけで幸せになれるんだよ。
おぞましい魅了が効かないのに、愛情を込めてくれるんだ。
両親は大嫌いだ。
こんな厄介な能力を与えておいて、僕を守らない。
お蔭で昔は随分酷い目に遭わされたな…。
物陰に引きずり込まれるのは日常茶飯事。
下卑た目を態度を常に顕にされて、恐怖しかなかった。
泣いて叫んで引き離されて、また同じことが起こる。
アイツらの…特に気持ち悪さに拍車をかけたのは…顔もだけど、彼らの背負う…いびつな模様で塗られた何かを強制的に見せられること。
幼い頃は何の事か分からなかったから余計に恐怖だった。
5歳の時、雨の器の茂み。
襲われた僕を見つけてくれて、王子様のように助けてくれたアローディエンヌ。
「だれかー!!
おんなのこがおとこのこに、ここの茂みでおそわれてるー!!」
大人に助けられてから…僕は泣いた。泣きまくった。
だっていつもそうだった。
今日は良くても明日は?
また誰かに襲われるの?
もう嫌だ。
どうしてこんなことが続くんだ。
子供だったから泣くしかできなかったんだよね。
大人は僕を遠巻きに眺めるだけ。
彼らにとっても僕は頭痛の種だったんだろうね。
いつもそうだった。
でも、その日は違った。
そんな僕に寄ってきたアローディエンヌはハンカチを差し出したんだ。
構わずワンワン泣く僕に、彼女はちょっとイラッとしたように言った。
「助けてあげたのに、何よそのたいどは」
ちょっと偉そうに、ぺちんとおでこを叩かれたんだ。
…普通にされた。
僕に見とれるとか、惚けるとかしてない。
寧ろ迷惑そうだ。
その事実が信じられなくて、余計に涙が出た。
青い目をした、僕のただ一人のお姫様。
あのとき、アローディエンヌと目が合わなかったら、
逢わなければ。
とっくの昔に心が壊れるか、
体の何処かが誰かに奪われて欠損していただろう。
自分で首を掻き切ったかもしれない。
魅了の効かないアローディエンヌ。
僕が心の底から欲しいと願ってやまなかった彼女は、僕の義理の妹となった。
あの目を求めて、焦がれて、
熱病の様にあの頃は彼女を常に欲しがった。
まあ今でもそんなに変わらないんだけど…
ちょっとだけ幼少期は激しかったんだよ。
後悔はしてないけどね。
両親はこれ幸いと厄介な僕をアローディエンヌに押し付けた。
まだ4歳だったのに、アローディエンヌは大人びた子供で、驚くほど根気よく僕の面倒を見た。
それを良いことに、僕は何処までも年下の子供のように甘えた。
でも彼女は決して僕を見放さない。
魅了が効かない彼女を寄越してくれたことを初めて神に感謝した。
彼女なしでは生きていけない。
そう思うようになるのは三ヶ月と経たなかった。
僕は男にも女にもなることが出来る。どちらも僕であり、私である。
でも、アローディエンヌは女の子だから、相手は男の子がいいだろう。
だから『僕』でいたいと考えた。
小さいなりに色々考えたんだよ。
出来るだけ彼女と一緒の時は男の姿を取った。
でも
「そのドレスとかみがたではとのがたに見えませんわよ。
それと、れいじょうのしぐさはりっぱですね。おみごとです」
そ…そうだけどさあ。
あれはショックだったなあ。
結構泣いたらアローディエンヌがかなり困った顔をしてた。可愛かった。
でもアローディエンヌの言葉は正しい。
まだ4歳の彼女の言葉は、親の言う事なんかよりいつも常識的だった。
僕は考えた。
今まで女の子として育てられたから、男の子の仕草じゃ変なんだ。
いや、女の子でも男の子でも有るし…。
今までは親の言うことを聞いていたけど…その時から男として生きたいとしか思えなくなった。
僕は親に形だけ頭を下げて、貴公子としての教育も受けることにした。
性に合ったのだろう。
令嬢教育なんかよりとても楽しかった。
出来る出来ないじゃなくて、興味が湧かなかったんだよね、令嬢教育って。
そして、出来るだけアローディエンヌを呼ぶ。
大体泣いたら連れてきてもらえるし、くだらない事でも呼びたかった。
ずっと傍に居てほしい。
一日中一緒に居れて楽しかったなあ、あの時は。
「ゆりはきらい」
アローディエンヌはたまに分からないことを言う。
でもちゃんと僕は聞く。
あの時、アローディエンヌに百合は絶対贈らないと心に決めた。
でも、アローディエンヌは花の好みを言ったわけじゃないらしい。
どうやら違う意味のようだった。
「おひめさまどうしのれんあいなんてごめんだわ」
…やっぱりか。
女の子同士では嫌だと思っていたらしい。僕の思った通りだ。
僕の今の格好は女の子だ。男の子がいい。
体を変えても、恰好が女の子じゃアローディエンヌには男の子だと思ってもらえない。
こんなドレスを脱ぎたかったけど、子供では拒否権が無い。
僕は必要な時に必要な恰好がしたかった…。
アローディエンヌが好きなのは王子様だって聞いたのもその時だった。
「き、きらぴかりんお月さまのお話のおうじさまかしら…」
あの童話に憧れてるんだ。
年相応な所も有ったんだね。可愛いよアローディエンヌ。
だから暇が有れば童話を一緒に読んだなあ。
強いのと、乙女を一途に思ってる所が好きなんだって。
アローディエンヌをずっと想ってる所は僕と一緒だったけど…。
「でもショーンさまは好きではないけど。会ったこともないし」
でもショーンは絵本と一緒の王子だ。
アローディエンヌに興味を持たれるなんて生意気だ。ムカつく。
その時からショーンには殊更冷たくすることにした。
出来れば悔しがらせてイビってやるためにたくさん勉強した。
元々アイツは嫌いだったから丁度いい。
それに、強くならないといけなかったし。
それと、話の後で僕は…母の趣味で庭にも生やしている百合を、一掃するよう庭師に言いつけたんだったかな。
いや、燃やしたんだっけ?
生えてる草を燃やすのって加減が分かり辛くって…結局他も焼いたっけ?
懐かしいな。
まあ、あんなゴテゴテした庭は嫌いだったからすっきりしていいよ。
そして僕は強くなるために頑張った。
あの諸悪の根源、魅了を抑えようと努力した。
抑えられるようになった時。
良かったですわね、って、嬉しそうにアローディエンヌが言ってくれたことは忘れない。
あのアローディエンヌがちょっと微笑んでたんだよ!!
抱き着いたら暑いって言ってたけど。
嬉しかったなあ。
「アレッキア、お前はいつもえらそうだぞ」
「あっそう」
「ぼくはおうじなんだからな、ちゃんとうやまえ」
一つ下の従弟は本当にうざったい。
別にお前が何かを頑張って王子になれたわけでもない癖に…。
憎まれ口を叩く割にショーンは…ちゃんと魅了を和らげているにも関わらず、こっそり下卑た目を向けて来ていた。
変な暗い模様をべたべたと背後に貼り付けて…。
分からないとでも思っているのかな。
僕は人の視線には敏感になっていると言うのに。
あんなバカ王子に憧れる余地もないくらい、アローディエンヌのカッコいい王子様にならなきゃ。
そしてお姫様にしてあげるんだ。
でも、アローディエンヌは慎ましい。
「なりたくないなりたくない!!そんなめっそうもない!!」
何故望まないの?
君は何が欲しいの?
未だに解らないんだ、アローディエンヌ。
君を得るには何を贈ったらいいんだろ?
何を言えば君は僕を好きになるのかな?
「義兄さま」
その少しの愛情は、いつ沢山に変わってくれるのかな。
どうしたら君に向けるこの思いに気付いてくれるんだろう?
小さい頃から色々やらかしてます、悪役令嬢。




