↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/140

第5話 西へ

10/16 全体的に推敲し文章をアップデートしました。(内容は変更なし)

 出発の日は、思っていたより静かに始まった。


 夜明け前に宿を出ると、冒険者街はまだ薄暗く、夜通し開いていたらしい酒場にだけ灯りが残っていた。荷を運ぶ商人や店先を掃く者とすれ違いながら、俺は大神殿へ向かう道を歩いた。


 背負い袋には着替えと雨除け、水袋、簡単な治療道具などを収めてある。三週間分の食料や野営道具は荷馬車へ積むことになっているので、自分で持つのは道中ですぐ使うものが中心だ。


 剣と短剣を含め、装備は昨夜のうちに確かめてある。それでも長く街を離れるとなると、何か忘れていないか気になるものだった。


 大神殿の南門へ着く頃には東の空が明るみ始め、門前に並んだ三台の荷馬車の周囲では、神殿兵や世話役たちが忙しく動いていた。


「早いな」


 荷馬車の脇から声をかけてきたのはガルドだった。


「ガルドさんも」


「年寄りは朝が早えんだよ」


「四十一でそれを言ったら、もっと年上の人に怒られますよ」


「そん時は逃げる」


 ガルドは笑い、大剣を背負い直した。


 近くではミラが矢筒の留め具を確かめ、手元に残す矢と荷馬車へ積む予備を分けている。どの束から使うかまで世話役に伝えており、準備に抜かりはなさそうだった。


 その反対側では、ユリウスが長杖に身体を預けて大きなあくびをしていた。


「眠そうですね」


「眠いよ。日の出前集合は人間向けじゃないだろ」


「昨日は早く寝なかったんですか?」


「寝た寝た」


 離れたところから、ミラが顔も上げずに口を挟んだ。


「酒を三杯飲んでからね」


「三杯くらい、寝付きには影響しないだろ」


「じゃあ、どうして毎回眠そうなの?」


「朝が早いからに決まってる」


 ミラは呆れたように首を振り、矢筒を荷馬車へ載せた。


 四年も一緒に仕事をしていると聞いていたが、こういう細かなところまで互いに把握しているらしい。


 俺も野営用の毛布と予備の衣類を荷馬車へ移していると、すぐ横で馬が強く鼻を鳴らした。


 一頭が落ち着かない様子で首を振り、何度も前脚で地面を掻いている。御者が宥めながら手綱を持ち直したものの、しばらくするとまた同じ動きを繰り返した。


「どうした?」


 ローデンも気づき、こちらへ歩いてきた。


「さっきから機嫌が悪くて。普段はこんな馬じゃないんですが」


 御者が首筋を撫でても、馬は落ち着かない。


 ガルドが腹回りを覗き込もうとしたところで、南門の方から声が聞こえた。


「少し待ってください」


 フィアナだった。


 白い長衣の上に薄手の外套を羽織っている。神殿内で着ていた礼装より裾が短く、歩きやすいように仕立てられていた。


 付き添いの神官へ一言断ってから、彼女は馬の脇へしゃがみ込んだ。


「フィアナ様?」


 神官が戸惑ったように声をかけたが、フィアナは腹帯の辺りを見ていた。


「この革紐、捻れていませんか?」


 言われて御者も屈み込む。


 腹帯につながる革紐の一本が、金具の手前で半回転していた。荷を積み直した時に捻れたらしく、その部分だけ馬の腹へ強く当たっている。


「ああ、これか。すみません、気づきませんでした」


 御者がすぐに留め具を外し、革紐を直して締め直した。


 馬は何度か鼻を鳴らしたものの、前脚で地面を掻くのをやめ、御者に首を撫でられるままになった。


「よく分かりましたね」


 俺が言うと、フィアナは立ち上がりながら服についた土を払った。


「家では馬を飼っていませんでしたけど、牛はいましたから。紐が擦れて嫌がるのは似ているんです」


「なるほど。馬具まで分かるとは思いませんでした」


「そんなに意外ですか?」


「神殿で会った時の印象とは、少し違いますね」


 フィアナは自分の服を見下ろし、それからこちらへ顔を上げた。


「村にいた頃は、もっと汚れる仕事もしていましたよ」


「それは頼もしいですね」


「……何だか、まだ意外だと思っていません?」


 少し疑わしそうな顔をされたところで、ローデンが出発前の確認を始めると告げた。


 俺たちも荷馬車の前へ集まった。


 冒険者が俺、ガルド、ミラ、ユリウスの四人。ローデンをはじめとする神殿兵八人に、治癒術師二人、ベルナールを含む神官や世話役が数名。そして巡礼の中心となるフィアナ。


 三台の荷馬車を含めれば、小さな隊商ほどの規模になる。


 ローデンは人数と荷の確認を終えると、地図を広げた。


「市内では隊列を縮めます。西門を出た後、ガルド殿とアレン殿は前方へ。ミラ殿には必要に応じて先行警戒をお願いします。ユリウス殿は中央付近で、前後のどちらにも魔法で支援できる位置を取ってください」


「了解」


 ユリウスが頷いた。


 先ほどまでの眠そうな様子はなく、地図の街道へ目を向けている。


「神殿兵は荷馬車の前後と左右を守ります。フィアナ様には基本的に一台目の馬車付近にいていただきますが、道中ずっと乗っていただく必要はありません。ただし、異常が起きた場合は私か護衛の指示に従ってください」


「分かりました」


 フィアナも素直に頷いた。


 最後に車輪や荷の固定を確かめ、ローデンの合図で一行は南門から市街へ出た。


 ◇


 朝のルミエルは、すでに多くの人で賑わっていた。


 巡礼団だと気づいて道を空ける者もいれば、立ち止まってフィアナへ頭を下げる者もいる。子供を抱いた女性が胸元で手を組むと、フィアナも馬車のそばから穏やかに会釈を返していた。


 つい先ほど、馬の腹帯を確かめるために地面へしゃがんでいた姿を思い出す。


 聖女としての振る舞いはすっかり身についているようだが、フィアナ自身は村での暮らしを忘れていないのだろう。


 やがて西門が近づき、俺たちは門兵の確認を受けて街の外へ出た。


 白い城壁の先には街道が伸び、石畳はほどなく踏み固められた土へ変わった。両側には朝露の残る畑が広がり、遠くでは農作業を始めた人々が鍬を止め、巡礼団を眺めている。


 街の喧騒が遠ざかるにつれて、馬の蹄と車輪の音がよく聞こえるようになった。


 俺はガルドと並んで先頭寄りを歩き、時折後方を振り返った。


 三台の荷馬車は一定の間隔を保ち、神殿兵たちもそれぞれの位置についている。今のところ、隊列の動きに問題はなさそうだった。


「どうだ、ルミエルでの初仕事の気分は」


 ガルドが尋ねてきた。


「まだ街を出たばかりですからね」


「そう言うな。三週間も一緒にいりゃ、嫌でも互いの癖が分かってくるぞ」


「ガルドさんの癖もですか?」


「俺のは分かりやすい。飯を食って寝る。敵が来たら斬る」


「それだけなら楽そうですね」


「だろ?」


 笑いながらも、ガルドの視線は道の先と左右の畑を行き来していた。


 俺も街道脇に目を向ける。


 人通りの多い道ではあるが、畑の向こうには低い林が続いている。まだ魔物が出るような場所ではなさそうでも、荷馬車を連れている以上、周囲への警戒は必要だった。


 ◇


 午前中は順調に進み、昼前には街道脇の開けた場所で休憩を取ることになった。


 ミラが先の道を確かめて戻り、神殿兵たちが馬へ水を与えている。ユリウスは荷馬車の車輪を眺めながら何か話していたが、問題はなかったらしく、ほどなく近くの木陰へ腰を下ろした。


 最初は馬車に乗っていたフィアナも降りてきた。


 世話役から自分の荷を受け取り、歩きやすいように外套を直している。


「午後は歩くんですか?」


 水を飲みながら尋ねると、フィアナは頷いた。


「はい。ずっと座っていると、かえって身体が固まってしまうので」


「聖女様なら、もう少し馬車でゆっくりするのかと思っていました」


「またそれですか」


 フィアナが少し呆れたようにこちらを見る。


「私だって、村にいた頃は毎日歩いていましたよ。畑仕事もしていましたし」


「朝も牛のことを話してましたね」


「ええ。家畜の世話や薪運びもしていました。弟が二人いるので、あの子たちの面倒を見ることも多かったですし」


「弟さんが二人いるんですね」


「はい。うるさいのが二人」


 そう言いながら、フィアナは少し楽しそうに笑った。


「でも、今も手紙はくれるんです。下の子なんて、いつも同じようなことばかり書いてくるんですよ」


「何て?」


「いつ帰ってくるの、って」


 フィアナは笑っていたが、最後の言葉だけ少し声が小さくなった。


「なかなか帰れないんですか?」


「そうですね。神殿の仕事もありますし、村はルミエルから離れていますから」


 彼女は水袋を持ち直し、街道の向こうへ目を向けた。


「でも、手紙はちゃんと返しています。二人とも、私より字が上手になったって自慢してくるんです」


「それは見せてもらわないと分からないですね」


「そうなんです。今度帰ったら、ちゃんと比べようと思ってます」


 少し得意そうに言うので、俺も笑った。


 そこへ、装備の確認を終えたミラが近づいてきた。


「フィアナ様、午後は歩かれるんですか?」


「はい。そのつもりです」


「それなら、外套の裾だけ気をつけてください。森へ入ると枝に引っかかることがあるので」


 フィアナは自分の裾を見下ろした。


「このくらいでも引っかかりますか?」


「道の上なら大丈夫だと思います。でも、街道を外れると意外と引っかかるんです。私も昔、踏んで転びましたから」


「ミラさんでも?」


「私でもです」


 ミラは笑い、自分の外套を軽く持ち上げて見せた。


 それから、少しだけ声を落とした。


「それと、フィアナ様。一つお願いしてもいいですか?」


「何でしょう?」


「これから三週間、一緒に旅をするでしょう? よければ、フィアナって呼んでもいい?」


 フィアナは一瞬驚いたようだったが、すぐに表情を和らげた。


「はい。もちろんです」


「ありがとう。私にも気を遣わず話してくれていいからね」


「分かりました、ミラさん」


 ミラは頷き、今度はこちらへ目を向けた。


「アレンも、呼び捨てでいい?」


「はい。俺は構いません」


「アレンの方は、無理に合わせなくていいよ」


「ありがとうございます。しばらくは今の方が話しやすいので」


「そっか。じゃあ、それで」


 それ以上は気にした様子もなく、ミラは矢筒を背負い直した。


 フィアナも隣で水袋をしまっている。


「そういえば、アレンさんは冒険者になる前、何をしていたんですか?」


「冒険者になる前ですか?」


「はい。二十歳で金級なんですよね。いつから剣を使っているのかなと思って」


「子供の頃から習ってました。魔法も一緒に。十三くらいから冒険者の仕事を手伝い始めて、正式に登録したのが十五です」


「十五歳?」


 フィアナが目を丸くした。


「ずいぶん早いですね」


「登録できる年齢ではありましたから」


「そういうことじゃありません。うちの村では、十五歳なんてまだ大人に怒られてばかりですよ」


「俺も怒られてましたよ」


「何をしたんです?」


「勝手に危ない仕事について行ったりですね」


 フィアナはしばらく俺を見ていた。


「……今も、あまり変わってないんじゃないですか?」


「どういう意味です?」


「危ない場所を見つけると、自分から入っていくところです」


 どうやら、巡礼宿での救助のことを言っているらしい。


「あの時は、中に子供がいましたからね」


「それは分かっています。でも、建物が崩れかけてたんでしょう?」


「そうですね。実際、出た直後に入口も崩れました」


「……危なかったんじゃないですか」


 フィアナの表情が少し真剣になった。


「危険だとは思ってました。だから一緒に入った冒険者とも相談して、動かす瓦礫を選んだんです」


「それでも、怖くはなかったんですか?」


「もちろん怖かったですよ。崩れたらどうしようもないですから」


 俺が答えると、フィアナは少し意外そうな顔をした。


「そうなんですね」


「怖いものは怖いです。ただ、あの子たちの場所も分かってましたし、何とか助け出せそうだったので」


 フィアナは頷き、しばらく考えるように水袋の紐を指で弄んでいた。


「……私も、助けられると思ったら無理をしてしまうので、気持ちは少し分かります」


「そこは、お互い気をつけないといけませんね」


「そうですね」


 珍しく素直に意見が一致したところで、ローデンから出発の声がかかった。


 ミラが立ち上がり、フィアナの外套を一度確かめる。


「大丈夫そうね。道が悪くなったら教えて」


「ありがとう、ミラさん」


 フィアナは頷き、一台目の馬車の方へ戻っていった。


 俺も荷を背負い直し、ガルドの待つ先頭へ向かった。


 ◇


 昼を過ぎる頃には畑が少なくなり、街道の両側へ低い林が近づいてきた。


 反対側から二台の荷車とすれ違い、徒歩の商人らしい三人組も通っていった。人の往来はまだあるが、道が緩やかに曲がる場所では、木々に遮られて先まで見通せない。


「この辺り、魔物は出ますか?」


 ガルドへ尋ねると、彼は街道脇を見ながら答えた。


「狼系と小鬼ならいるな。ただ、人通りが多いから、でかいのは滅多に出ねえ」


「小鬼なら群れが気になりますね」


「ああ。だが、見つけたからって追い回す必要もねえぞ」


「分かってます。護衛が優先ですから」


「ならいい」


 ガルドは頷き、木々の間へ目を向けた。


 俺も反対側を確かめる。


 道端には獣の足跡や折れた枝が残っていたが、今のところ新しく荒らされたような場所は見当たらない。


 しばらくして、前方の確認へ出ていたミラが戻ってきた。


「少し止めたい」


 声をかけられ、俺とガルドは歩調を緩めた。


「何かありました?」


「右側に小鬼らしい足跡がある。少し古いけど、この先の林へ続いてる。それと、曲がり角の向こうだけ鳥が少ない」


 ミラが指した方へ耳を澄ます。


 まったく鳴いていないわけではないが、確かに街道が曲がった先からは、鳥の声がほとんど聞こえてこなかった。


 ガルドが後方へ片手を上げると、ローデンはすぐに隊列を止め、神殿兵へ周囲の警戒を指示した。


「俺たちで見てくる」


 ガルドが言うと、ミラは左右の林を見比べた。


「私はここから両側を見る。アレン、ガルドさんと前をお願い。右から回り込むのがいたら知らせる」


「分かりました」


 俺はガルドと並び、曲がり角へ向かった。


 街道は緩く右へ曲がり、両側から木々が迫っている。剣の柄へ手を置きながら十数歩進んだところで、湿った毛皮に似た臭いが鼻についた。


 ガルドも気づいたらしく、ほとんど同時に足を止める。


 右側の茂みが揺れた。


 現れたのは、人間の子供ほどの背丈しかない人型の魔物だった。灰色がかった皮膚に痩せた手足、手には石の穂先を括りつけた粗末な槍を持っている。


 その後ろでも枝が動き、さらに三体が姿を現した。


「小鬼だな」


 ガルドが低く言った。


 見えるのは四体だが、林の中にも物音がある。群れの全体が出てきたわけではなさそうだった。


 先頭の一体が俺たちを見つけ、短い叫び声を上げる。


 ガルドが背中の大剣を抜き、俺も剣を鞘から滑らせた。


 ◇


 先頭の小鬼は、粗末な槍を構えたまま俺へ突っ込んできた。


 体格の割には速いが、踏み込みに合わせて槍をまっすぐ突き出してくる。俺は半歩だけ左へずれ、穂先を通り過ぎさせてから内側へ入り、肩口から斜めに剣を振り下ろした。


 小鬼が勢いのまま倒れる。


 続いて二体が左右へ分かれ、一体はガルドへ、もう一体は俺へ向かってきた。


 こちらへ来た小鬼は短い刃物を振り上げていたが、足元への注意がない。


 俺は踏み込んでくる位置へ少量の魔力を流し、土をわずかに盛り上げた。


 小鬼のつま先が引っかかり、前のめりになったところへ剣を合わせる。刃が胸元へ入り、そのまま地面へ崩れた。


 横では、ガルドの大剣が重い音を立てて振り抜かれていた。


 向かってきた小鬼は一撃で倒され、道端へ転がっている。


 剣の大きさを考えれば、もっと大振りになると思っていたが、踏み込みから刃を戻すまでの動きに無駄がなかった。あの重さの武器を正確に扱えるだけの技術と腕力があるのだろう。


「何だ、もう終わりか?」


 ガルドが剣を構え直した。


 残る一体は、俺たちの前で足を止めていた。


 林の奥から小鬼の声が重なると、その一体も踵を返し、茂みの中へ逃げ込んでいった。


「追いますか?」


「いや。向こうから来ねえなら放っとけ」


 俺も同意見だった。


 林の中にはまだ複数の個体がいるようだが、ここで奥まで追いかければ巡礼団から離れてしまう。荷馬車を通す道が確保できれば十分だろう。


 後方へ合図すると、ローデンが神殿兵二人を伴って近づいてきた。


「状況は?」


「小鬼です。四体出てきて、三体倒しました。残りは林へ逃げていますが、奥にはまだ何体かいると思います」


 俺が答えると、ローデンは周囲を確かめた。


「追撃はしません。護衛を前方へ厚くして、そのまま通過します」


「それがいいだろうな」


 ガルドも頷いた。


 ミラが少し遅れて戻ってくる。


「左側へ回り込んだのはいない。右の奥には三、四体くらい動く音がしたけど、街道から離れていってる」


「分かりました。では、隊列を進めます」


 ローデンは神殿兵へ指示を出し、前方の警戒を一時的に増やした。


 俺たちは倒れた小鬼を街道の端へ寄せ、もう一度林の様子を確かめてから荷馬車を呼び寄せた。


 しばらく進んでも、新しい小鬼の姿は見えなかった。


 曲がり角を抜けて見通しのいい場所へ出ると、ローデンは隊列を元の配置に戻した。


 一台目の馬車のそばを歩いていたフィアナが、こちらへ目を向ける。


「怪我はありませんか?」


「大丈夫です」


「ガルドさんも?」


「かすり傷もねえよ。あの程度なら心配いらん」


 ガルドが答えると、フィアナはほっとしたように頷いた。


 ユリウスも長杖を持ったまま近づいてくる。


「結局、俺の出番はなかったな」


「近づいてくる前に終わりましたからね」


「一応、魔法は準備してたんだけど」


「使わなくて済んだならよかったじゃない」


 ミラが言うと、ユリウスは肩をすくめた。


「それはそうだけどさ。初日なんだから、少しくらい働いたところを見せたかったんだよ」


「誰に?」


「新しく組むアレンに」


 俺は思わず笑った。


「魔法なら、これからいくらでも見る機会があると思いますよ」


「そうだな。じゃあ、その時に見せるか」


「その時も、必要なければ温存してね」


 ミラが釘を刺すと、ユリウスは分かっていると答えながら持ち場へ戻っていった。


 フィアナも馬車のそばへ戻り、俺はガルドとともに先頭へ出た。


 小鬼との接触で少し時間を使ったものの、街道の状態は悪くない。このまま進めば、日が落ちる前に予定の野営地へ着けるだろう。


 両側の林は次第に低くなり、木々の隙間から西へ続く道が見え始めた。


 ガルドが肩越しに荷馬車の位置を確かめ、歩調を少し緩める。俺もそれに合わせ、後方の隊列が間延びしない速さを保った。


 三台の荷馬車が、車輪を軋ませながらゆっくりと後に続いてくる。


 俺たちは西へ向かう街道を、そのまま進んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。