第4話 巡礼団
10/16 全体的に推敲し文章をアップデートしました。(内容は変更なし)
正式な依頼書がギルドへ届いたのは、その日の夕方だった。
受付で渡された紙は普段の依頼票より一回り大きく、仕事内容や期間、報酬に加え、予定外の延泊や経路変更が生じた場合の扱いまで記されていた。
受付脇の席を借りて目を通し、最後に報酬額を確認したところで、思わず数字を見直す。
「……高いですね」
「でしょう?」
向かいにいた受付の女性が、なぜか少し得意そうに答えた。
「払うのは神殿ですよね」
「紹介する側としても、条件のいい仕事なら安心なんです」
「それはわかります」
俺は依頼書へ視線を戻した。
内容は、聖女フィアナ・エルシェを中心とする巡礼団の護衛。予定期間は二十一日で、ルミエルから西街道を進み、四つの教区を巡る。途中では比較的大きな町を二つ通り、村や小神殿にも立ち寄る行程だった。
同行する神殿兵は八名、治癒術師が二名。神殿側の実務を取りまとめるベルナールのほか、数名の神官や世話役がおり、護衛には冒険者四名が加わる。
小さな巡礼団を想像していたが、荷馬車や必要な物資まで含めれば、それなりの規模になりそうだ。
「西街道で、何か変わった情報は来ていますか?」
「今のところは。商人も巡礼者も普段から使う道ですし、最近になって魔物が増えたという報告もありません」
「それなら、この報酬は護衛対象の重要度も考慮しているんでしょうね」
「そうだと思います。聖女様に何かあれば、大変なことになりますから」
神殿が十分な護衛を揃えようとするのも理解できる。巡礼者に人気のある聖女が移動するとなれば、魔物だけでなく人が集まりすぎることへの備えも必要だろう。
「ほかの冒険者は決まってるんですか?」
「ええ。白金級の方も一人いらっしゃいますよ」
「白金級?」
「ガルド・レイスさんです」
名前を聞いて、思わず顔を上げた。
「……『灰熊』のガルドですか」
「ええ。ご存じですか?」
「もちろんです」
白金級の冒険者自体が少ないうえ、『灰熊』は大型魔獣の討伐や危険地域での長期護衛で実績を残している。俺が冒険者登録をした頃には、すでに二つ名で呼ばれていたはずだ。
活動地域が違うので会ったことはないが、名前くらいは何度も耳にしていた。
「そこまでの人が同行するんですね」
「神殿も慎重に準備しているんでしょうね」
「ガルドさんが一緒なら、随分心強いですね。俺たちの出番がなくなるかもしれません」
半分冗談で言うと、受付の女性は笑った。
「白金級一人で、馬車の前後左右を全部守れるわけじゃありませんよ」
「ええ。特に夜は人数が必要ですからね」
強い冒険者がいても、護衛対象の側を離れられない場面はある。長い隊列で何かが起きれば、前後の連絡や避難の誘導も必要になるだろう。
今回の編成なら、神殿兵と冒険者で役割を分けることになりそうだ。
俺は改めて依頼書を確認した。
期間は三週間。報酬は十分で、予定外の危険へ対応した場合の追加報酬についても条件が示されている。経路は既存の街道が中心で、現時点では特別な危険情報もない。
受けるにあたって、気になる条件は見当たらなかった。
それに、フィアナが受けた神託のこともある。
崩落の三日前に宿を名指しして閉鎖を求め、事故の夜には「西へ進め」と告げたという。神託が何を示しているのかは分からないが、巡礼に同行すれば、その後に何が起こるのかを自分の目で確かめられる。
「受けます」
依頼書を受付へ戻すと、女性は特に驚いた様子もなく頷いた。
「そうすると思ってました」
「そんなに分かりやすかったですか?」
「結構」
どの辺りでそう判断したのかは聞かないことにした。
「明日の昼に、同行者の顔合わせと行程説明があります。場所は大神殿の南棟です」
「分かりました。よろしくお願いします」
必要な手続きを済ませてギルドを出た時には、すっかり夕方になっていた。
ルミエルでの最初の仕事は、思っていた以上に大きなものになりそうだった。
◇
翌日、指定された部屋へ入ると、すでに何人かが集まっていた。
昨日通された応接室よりかなり広く、中央の長机には西部一帯の地図が広げられている。窓の近くでは神殿兵らしい男たちが話しており、壁際には大きな武器や荷物がまとめて置かれていた。
扉を閉めたところで、机の向こうにいた大柄な男がこちらを見た。
「アレン・クロイツか?」
「はい」
四十歳前後に見える男で、短く刈った髪には灰色が混じっている。厚手の革鎧越しにも分かるほど肩幅が広く、壁際には俺の剣よりはるかに大きな大剣が立て掛けられていた。
「ガルドさんですか?」
「おう」
男が立ち上がると、俺より頭一つ近く高かった。
白金級冒険者、『灰熊』のガルド。
本人は気負った様子もなく、こちらへ手を差し出してきた。
「話は聞いてる。二十で金級だってな」
「はい。よろしくお願いします」
握手を返すと、大きな手でしっかり握り返された。
ガルドは俺の装備を眺め、腰の剣と軽装の防具に目を留めた。
「随分軽いな。前で斬り合う装備にしちゃ」
「攻撃を正面から受け続けるつもりはないので」
「避けるのか?」
「それもありますけど、相手の足場や体勢を崩してから斬ることが多いですね。風と土の魔法も使います」
「なるほど。力比べはなるべく避けるわけだ」
「勝てる相手なら付き合いますけど、無理にやる理由もないですから」
ガルドの口元がわずかに上がった。
「いいな。俺も勝ち方にこだわる方じゃねえ」
こちらの装備と短い会話だけで、戦い方のおおよその方向を掴んだらしい。あの巨体で大剣を扱う人物だからといって、力任せに戦うわけではないようだ。
「昨日、崩れた宿にも入ったそうだな」
「少しだけです」
「崩れかけた建物に入って、『少しだけ』で済ませる奴は大体ろくでもねえ」
「ガルドさんなら入らなかったんですか?」
「入るに決まってるだろ」
「なら、同じじゃないですか」
口にしてから、初対面の白金級に言うには少し遠慮が足りなかったかと思った。
だが、ガルドは一瞬目を丸くしたあと、声を上げて笑った。
「違いねえな!」
「ガルドさん、会ったばかりの人を困らせないでください」
横から落ち着いた女の声が聞こえた。
赤褐色の髪を後ろでまとめた女性が、壁際で弓の弦を確かめている。動きやすそうな軽装の防具を身につけ、腰には短刀といくつかの道具袋を下げていた。
女性は弦から手を離すと、こちらへ軽く頭を下げた。
「ミラ・セインです。銀級で、索敵と遠距離からの援護を担当します」
「アレン・クロイツです。よろしくお願いします」
「こちらこそ。私が先行して道を確かめることも多いと思いますので、気になることがあれば教えてください」
「分かりました」
彼女は頷き、弓を壁際へ戻した。
「あと一人、冒険者がいるんですよね?」
「ユリウスという魔術師です。そろそろ来ると思いますけど」
ミラが扉へ目を向けた。
「時間ぎりぎりになることが多いんです」
その言葉が終わる頃、廊下から早足の足音が近づいてきた。
扉が開く。
「まだ始まってないよな?」
入ってきたのは、青い外套を羽織った青年だった。
明るい茶髪で、手には長杖を持っている。
「集合時刻は過ぎたけど」
ミラが壁の時計を見た。
「一分だろ?」
「一分でも遅刻は遅刻」
「相変わらず細かいな」
「四年言って直らない方の問題でしょ」
青年は悪びれた様子もなく肩をすくめたが、そこで俺に気づいた。
「ああ、君がアレン?」
「はい。アレン・クロイツです」
「ユリウス・フェルナー。銀級の魔術師だ。よろしく」
「よろしくお願いします」
差し出された手を握る。
「魔法剣士って聞いたけど、何を使うんだ?」
「風と土が中心です。剣や足場に合わせて使うことが多いですね」
「なるほど。なら俺とは役割が被らなそうだな。俺は攻撃魔法と地形制御が中心だから、遠距離はミラと俺である程度見られると思う」
ユリウスは長杖を壁際へ置きながら続けた。
「まあ、最近は荷馬車まで巻き込むような撃ち方はしないから安心してくれ」
「自分から言う?」
ミラが呆れた顔をする。
「昔の話だろ」
「四年前ね」
「十分昔だ」
俺が笑うと、ユリウスはこちらへ向き直った。
「本当に今はちゃんとしてるから」
「そこは道中で確認します」
「信用ないな?」
「今日会ったばかりなので」
「それもそうか」
軽い調子で笑いながら、ユリウスは空いている椅子を引いた。
ミラが弓の確認に戻ると、彼も荷袋から小さな帳面を取り出し、持ってきた地図と見比べ始めた。普段からこうした仕事を一緒にこなしているのだろう。
ほどなく、神殿兵側との挨拶も済ませた。
巡礼中の護衛全体を指揮するのは、ローデンという三十代半ばの男だった。姿勢も話し方も堅実で、冒険者の意見を聞くことにも抵抗がないらしい。
「護衛全体の指揮は私が執ります。ただし、魔物への対処や野営地の危険判断については、冒険者の皆さんの経験も必要です。気づいたことがあれば遠慮なく報告してください」
ローデンは地図を広げ、隊列の基本配置についても説明した。
ミラは先行警戒、ガルドと俺は状況に応じて前後へ動ける位置を取る。ユリウスは荷馬車や護衛対象を見渡せる場所から、遠距離の敵や地形への対処を担当する予定だった。
「ただし、森林や狭い道では配置を変えます。必要があれば、その都度相談しましょう」
「分かりました」
俺たちが頷いたところで、ベルナールが部屋へ入ってきた。
「皆様、お待たせしました」
挨拶を終え、顔合わせはそのまま行程の確認へ移った。
◇
説明された道筋は、依頼書から大きく変わっていなかった。
ルミエルを出発して西街道を進み、三日目に最初の町へ到着。その後はいくつかの村や小神殿へ立ち寄りながらさらに西へ向かい、十日前後で今回の巡礼では最も遠い教区へ入る。
帰路は一部別の街道を使う予定だった。
「今回の巡礼について、皆様に共有しておきたいことがあります」
ベルナールが地図の西側へ手を置いた。
「概要は事前にお伝えしていますが、フィアナ様は先日、新たな神託を受けられました。内容は『西へ進め』というものです」
「場所や目的の指定はないんですか?」
ユリウスが尋ねた。
「ありません」
「西といっても広いな」
ガルドが腕を組む。
「その通りです。ですから、以前から予定していた西部巡礼の行程を大きく変えずに進む方針です」
ベルナールは地図を指しながら続けた。
「道中で異常が見つかれば確認しますが、神託に何らかの意味があると決めつけて、危険な場所へ踏み込むつもりはありません」
「何もなきゃ、それが一番だな」
ガルドが言うと、ベルナールも頷いた。
「ええ。ただ、崩落した巡礼宿については、事故の三日前に閉鎖を求める神託がありました。あちらの調査も続けています」
「故意に壊された可能性は?」
「今のところ、そのような痕跡は確認されていません」
ベルナールの答えを聞き、ガルドはそれ以上追及しなかった。
俺も昨日聞いた話を思い返していた。
崩落した建物を前もって名指ししていた神託と、今回の巡礼に関する言葉。どこまで関係しているのかは分からないが、神殿が慎重になる理由は理解できる。
「フィアナ様ご本人からも、神託についてお話しいただきます」
ベルナールが入口へ目を向けた。
扉が開き、フィアナが入ってきた。
白を基調とした礼装に身を包み、短い銀髪もきれいに整えられている。昨日、応接室で会った時と同じ姿だったが、今回は護衛の顔合わせということもあり、俺たちも全員立ち上がって迎えた。
「皆様、本日はありがとうございます」
フィアナは一礼して席へ着き、神託について静かに話し始めた。
「私からお伝えできることは、あまり多くありません。神託は眠っている間に受けることがあるのですが、今回も『西へ進め』という意味だけが伝わってきました」
「意味だけ、というのは?」
ユリウスが身を乗り出した。
「声として聞こえるわけじゃないのか?」
「はい。言葉を聞いた覚えはないのに、何を伝えられているのかは分かるんです。うまく説明できないのですが……」
フィアナは少し考え、言葉を選びながら続けた。
「夢の中で、突然その意味が分かるという感じです」
「その時、周りには何か見えるものがあるんですか?」
ミラが尋ねた。
「白い場所です」
「白い場所?」
「はい。とても広くて、ほとんど何もありません。時々、光や模様のようなものが見えることもあります」
俺は少し気になり、フィアナへ尋ねた。
「神託を受ける時は、いつも同じ場所なんですか?」
「たぶん、同じだと思います」
「たぶん?」
「広すぎて、比べられるものがほとんどないんです。だから、同じ場所なのか確かめようがなくて」
「なるほど」
本人にも判断できないのだろう。
夢の中で広い白い場所に立ち、どこからともなく意味だけが伝わってくる。
それがどういう現象なのかは分からないが、少なくともフィアナは実際にそのような経験をしているらしい。
「今回、何か目印になるものは見えましたか?」
「いいえ。特にありませんでした」
フィアナが答えると、ベルナールが話を引き取った。
「神殿としても、神託にこちらから意味を付け加えるつもりはありません。皆様には通常の護衛を基本とし、道中で気になることがあれば共有していただきたいと思っています」
全員が頷いたところで、説明は具体的な旅の準備へ移った。
荷馬車の台数、食料と水、宿泊予定地、悪天候で進めなくなった場合の予備日。それに、野営時の見張りや隊列の組み方も確認していく。
「この区間は、全て馬車で通れる想定ですか?」
ミラが地図の途中を指した。
「先月の雨で路肩が崩れたと聞いています」
ローデンが資料を確かめる。
「復旧したという報告はあります。ただ、到着前に状態を確認します」
「危なければ迂回する方がいいですね」
「ええ。そのつもりです」
ユリウスは積み込む水と燃料の量を確認していた。
「水は魔法でも出せますけど、全員分を毎日賄う前提にはしないでください。何かあった時に魔力が残ってない方が困るので」
「そのつもりはない」
ガルドが頷いた。
「魔術師を井戸代わりにするような旅は長く続かねえ。水は普通に積め」
「珍しくガルドさんと意見が合いました」
ミラが言うと、ガルドが眉を上げた。
「俺が普段まともじゃねえみたいに言うな」
「そんなこと言ってませんよ」
「顔に書いてあるぞ」
ミラが少し笑い、ユリウスも肩を揺らした。
ローデンはその間に水袋の数を確認し、世話役へ必要な量を書き留めさせている。
互いに軽口を交わす余裕はあるが、仕事の確認が滞ることはなかった。
俺も野営に使う装備と自分の荷について確認し、必要になりそうなものを控えておいた。
説明が一通り終わったところで、ベルナールが立ち上がった。
「出発は四日後の朝です。出発までに各自の準備を済ませてください。前日の夕方には、荷と行程の最終確認を行います」
全員が頷き、打ち合わせは終了となった。
◇
ほかの冒険者たちと一緒に部屋を出ようとしたところで、後ろから呼び止められた。
「アレンさん」
振り返ると、フィアナがこちらを見ていた。
「少しだけ、お時間いいですか?」
「ええ」
ガルドは俺たちを一度見たが、特に何も言わず廊下へ出ていった。ミラとユリウスも後に続き、ベルナールは机で書類の整理を始めている。
「何かありました?」
尋ねると、フィアナはさっきまでの整った表情を少し緩めた。
「依頼を受けてくださったんですね」
「ああ、そのことですか。正式な条件を見て、受けることにしました」
「昨日は、まだ決めていないと仰っていたから」
「条件も悪くなかったですし、神託のことも気になっています」
フィアナが小さく頷いた。
「ありがとうございます」
「仕事として受けたんですから、礼を言われることでもないですよ」
「それでもです」
そのまま話を終えてもよかったが、俺には先ほどから気になっていることがあった。
「一つ聞いてもいいですか?」
「何でしょう」
「さっき話していた、白い場所のことです」
フィアナの表情がわずかに変わった。
「何か気になることが?」
「それを見る時、怖くはないんですか?」
フィアナは少し考え、視線を落とした。
「……怖いですよ」
思っていたより迷いのない答えだった。
「最初は、神様がおられる場所なのだと思っていました」
「今は違うんですか?」
「分かりません」
フィアナは自分の指を重ねるようにして、ゆっくり続けた。
「誰もいない広い場所に一人でいて、誰が伝えているのかも分からないものが、突然頭の中へ入ってくるんです。目を覚ませば神託だったと思えます。でも、その中にいる時は……何が起きているのか、自分でも分からなくて」
最後は少し声が弱くなった。
「それは怖いでしょうね」
そう答えると、フィアナが意外そうに顔を上げた。
「……そう思いますか?」
「ええ。周りに誰もいなくて、何が起きているのかも分からないんでしょう。俺だったら落ち着かないと思います」
神から言葉を受けられるのだから、喜ぶべきことなのかもしれない。
だが、実際にその場所へ立つのはフィアナ本人だ。神託を受けていない俺には想像することしかできないが、怖いと感じる理由は十分に分かった。
フィアナはしばらく俺を見てから、小さく息を吐いた。
「皆さん、神様のお言葉を聞けるなんて素晴らしい、と仰るんです」
「外から見れば、そう思う人も多いでしょうね」
「アレンさんは言わないんですね」
「俺は実際に見たことも聞いたこともありませんから」
答えると、フィアナが少しだけ笑った。
事故現場でも、先ほど大勢の前で話していた時にも見せていなかった表情だった。
「でも、だから行きたいんです」
「西へ?」
「はい」
今度は迷わず頷いた。
「怖くないわけではありません。でも、何も分からないまま次の神託を待っているのも嫌なんです。行けば何か分かるかもしれませんし」
神殿に言われたから巡礼へ出るだけではないらしい。
少なくとも、本人なりに確かめたいことがあるようだった。
「俺も、分からないことをそのままにしておくのはあまり好きじゃないので、気持ちは分かります」
「だから依頼を受けたんですか?」
「それもあります」
「それも?」
「報酬も大事ですから」
フィアナが一瞬きょとんとしたあと、小さく笑った。
「そこは普通なんですね」
「仕事なので」
廊下の向こうから、フィアナを呼ぶ声がした。
「フィアナ様!」
彼女はすぐに顔を上げ、姿勢を正した。
「はい、今行きます」
その声を聞いて、俺は少し驚いた。
話している時には随分普通の女の子だと思っていたが、神官に呼ばれると自然に聖女らしい振る舞いへ戻っている。
フィアナもこちらの視線に気づいたらしい。
「何です?」
「大変そうだなと思って」
「……大変ですよ」
小さな返事だった。
フィアナは扉の方へ向かいかけたが、途中で振り返った。
「四日後から、よろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いします、フィアナさん」
俺が答えると、彼女は小さく頷いて部屋を出ていった。
俺も荷を持ち上げ、机の上に残されていた地図へ目を向けた。
四日後には、あの西街道を進むことになる。
白金級のガルド、弓使いのミラ、魔術師のユリウス。ローデン率いる神殿兵と、神託を受ける聖女フィアナ。
顔合わせを終えたばかりだが、護衛の仕事についてはそれぞれ経験がありそうだった。準備さえ整えれば、予定された行程を進むことに問題はないだろう。
ただ、フィアナが語った白い場所のことは、まだ頭に残っていた。
神託を受ける本人でさえ、何が起きているのか分からないという。
俺にも答えがあるわけではないが、西へ向かう道中で、何か手掛かりが得られるのだろうか。
そんなことを考えながら、俺は地図から目を離して部屋を出た。




