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第23話 同行者たち

9/23 全体的に推敲し文章をアップデートしました。(内容は変更なし)

 セレス修道院へ向かうことが決まった翌日、俺は朝から冒険者ギルドへ顔を出した。


 最初に確認したのはガルドの予定だった。


 北東方面へ出ている大規模な商隊護衛は予定通り続いており、帰還は早くても二週間以上先になるという。こちらは十日ほどで出発する方向で準備を進めているため、今回は日程が合わない。


 来てもらえれば心強いのは間違いないが、白金級だからといって必要な時にいつでも呼べるわけではない。それに、今分かっている範囲では、ガルドがいなければ成立しない調査でもなかった。


 次に探したのはミラとユリウスだった。


 受付で聞くと、幸い二人とも午前中の依頼を終えて戻ったばかりで、二階の休憩室にいるらしい。階段を上がると、窓際の机でミラが弓の弦を確認し、その向かいではユリウスが遅めの朝食を取っていた。


「お疲れさまです」


 声をかけると、ユリウスが匙を持ったまま顔を上げた。


「お、アレン。仕事探し?」


「いえ。今日は二人に頼みがあって来ました」


 ユリウスはそこで食べる手を止め、俺の顔を見た。


「先に聞くけど、それ日帰りで終わる話?」


「まだ何も言ってないですよ」


「俺とミラが揃ってるところに来て『頼みがある』って言われたら、近所の薬草採取には聞こえないだろ」


「軽い話ではなさそうね」


 ミラも弓から顔を上げたので、俺は周囲を見回した。


「少し込み入ってます。場所を変えましょうか」


 奥の小部屋が空いていたため、三人でそちらへ移る。


 扉を閉めて席につき、俺は二人が参加するか判断できる範囲で、ここ数日の調査について説明した。


「百八十年ほど前に、エレノア・セルディアという聖女がいたそうです。その人の記録に、フィアナさんがエルムの地下で経験したこととよく似た内容が見つかりました」


 二人の表情から、それまでの軽さが消える。


「白い場所とか、あの時フィアナが話してたやつ?」


「はい。光や、言葉じゃない意味が直接入ってくるような感覚も似ています」


 さらに調べた結果、エレノアが晩年に長く滞在していたセレス修道院が判明し、現地を確認することになった。ただし修道院そのものはエレノアの死後も長く使われ、閉鎖されたのは七十二年前であること、理由も人口減少や施設統合とされていて、エレノアとの直接の関係は確認されていないことまで伝える。


 ミラは少し考えてから、腕を組んだ。


「今分かってる範囲では、古い修道院を調べに行く仕事ってことね」


「そうです。ただ、中がどうなってるかまでは分かりません。建物の一部が残ってることだけは確認されています」


「エルムの地下みたいなものがある可能性は?」


 ユリウスの問いには、正直に答えるしかない。


「分かりません。あるという証拠はないです」


「ないって証拠もない?」


「それもないです」


「一番困るやつだな」


「俺もそう思います」


 安心させるためだけに、安全だと言うつもりはなかった。


「もし同じようなものが見つかったら?」


「その場の勢いでは入りません」


 ミラの問いにはすぐ答えられた。


「セレナさんとも決めてます。エルムの施設を思わせる構造や設備が出てきたら、まず止まって状況を確認する。それでも危険が読めなければ、一度戻ります」


「セレナって、セレナ・ヴァイス?」


 ユリウスが聞いた。


「知ってるんですか?」


「会ったことはないけど、名前は聞いたことあるよ。遺構専門の金級だろ」


 ミラも頷く。


「私も名前だけなら知ってる。今回の調査はその人が中心?」


「そうです。数日前に近郊の遺構で一緒に仕事しましたけど、現場でも信用できる人ですよ」


「アレンが実際に組んでそう言うなら、その点は問題なさそうね」


 ミラはそこで話を進めた。


「期間は?」


「修道院まで片道五日から七日です。現地での調査と天候の遅れも考えて、二週間前後は見ておいた方がいいと思います」


「出発は?」


「十日ほど先です」


 ミラは自分の予定を思い返すように少し黙り、やがて頷いた。


「それなら今受けてる仕事は整理できるわ」


「俺も大丈夫だな」


 ユリウスも続ける。


「誰が行くんだ?」


「今決まってるのは、俺とフィアナさん、セレナさんです。二人にも来てもらえれば五人になります」


「ガルドは?」


「北東方面の長期護衛から戻れないので、今回は不参加です」


 ユリウスが小さく息を吐いた。


「そっか。あの人がいると前はかなり楽になるけど」


「そうね。でも、帰ってくるまで待つほどの理由もないでしょう」


 ミラの言葉に俺も頷く。


「ガルドさんの代わりを誰か一人にやってもらうつもりもありません。それぞれが得意なことを組み合わせる形にしたいと思ってます。細かい役割は、全員揃ったところでセレナさんと確認する予定です」


「分かった。私は受ける」


 ミラの返事は早かった。


「エルムのことが関係してるなら、なおさら事前に知ってる人間がいた方がいいでしょうし」


「俺も行くよ」


「ありがとうございます。正式な依頼は大神殿からギルドを通して出ます。明日、神殿で全員揃って条件を確認する予定です」


「了解」


 ユリウスは頷き、止めていた食事へようやく手を戻した。


     ◇


 翌日の午後、俺たちは大神殿の会議室へ集まった。


 ベルナールとフィアナ、セレナが先に来ており、ミラとユリウスが入ってくると、フィアナの表情が少し明るくなる。


「ミラさん、ユリウスさん。来てくださったんですね」


「アレンから聞いたわ。しばらく一緒になりそうね、フィアナ」


「はい。よろしくお願いします」


「俺もよろしく、フィアナ」


「よろしくお願いします、ユリウスさん」


 ベルカからエルムまで一緒に行動している三人に、改まった自己紹介は必要なかった。


 一方、セレナとは二人とも初対面になる。


「セレナ・ヴァイスよ。二人のことはアレンから聞いてる」


「ミラ・セイン。よろしく、セレナさん」


「ユリウス・フェルナー。よろしく。名前は前から聞いてるよ」


「どんなふうに?」


 セレナがすぐ聞き返した。


 ユリウスが一瞬だけ黙る。


「……遺構調査で有名な金級冒険者、って」


「今、何か省いたでしょう」


「気のせいじゃない?」


「まあいいわ。変な噂があるのは知ってるから」


 セレナはそれ以上追及せず、空いている席を示した。


 全員が揃ったところで、ベルナールが机へ地図と依頼に関する書類を広げる。


「ミラ殿、ユリウス殿にはアレン殿から概要を聞いていただいているとのことですので、重複する説明は省きます。不足している点はこちらで補いますが、まずお二人には今回の調査を、大神殿からの正式な依頼としてお願いしたいと考えております」


「受けます」


 ミラが答え、ユリウスも頷いた。


「俺も受けます」


「ありがとうございます」


 ベルナールは依頼期間と帰還予定、修道院までの経路について必要な部分だけ確認した。


 ミラはすぐ地図へ身を寄せる。


「この村までは今も荷車が通るのよね?」


「はい。ここまでは現在も使われている街道です。その先から古道へ入ります」


「水場は?」


「途中に二本の川があります。ただ、一方は時期によって水量が変わるとのことです」


「なら、そこは当てにしすぎない方がよさそうね」


 ユリウスは別の場所を指した。


「この辺りで道が使えなかった場合、迂回はできる?」


「古い地図なら南側へ抜ける道があるわ」


 答えたのはセレナだった。


「ただ、今も通れるかは分からない。そこは着く前にミラにも見てもらいたい」


「分かった」


 二人がそれぞれ違う場所を確認していく。ミラは進路と周囲を、ユリウスは道が塞がれた場合の逃げ方を先に見ていた。


 必要な情報が一通り共有されたところで、セレナが地図の横へ一枚の紙を置く。


「じゃあ、現地での役割を合わせておきましょう」


 全員の視線が集まった。


「修道院と遺構については私が中心になって見る。建物や設備をどこまで調べるか、続けるか止めるかも基本的には私が判断する。ただ、急に戦闘になった時まで私が全部決めるつもりはないわ」


 セレナが俺を見る。


「その場合は、前にいるアレンの判断を優先する。近郊の遺構でも、その方が早かったから」


「分かりました」


 調査と戦闘では、見ているものが違う。緊急時まで全員がセレナの指示を待つより、前で状況を見ている俺が判断した方がいい場面もあるだろう。


「ミラは進路と周辺の確認。必要なら追跡もお願いするけど、先行する距離は地形を見て決めて」


「分かった。見えなくなるほど離れるつもりはないわ」


「それでいい」


 次にセレナはユリウスを見る。


「ユリウスは火力だけじゃなくて、足止めと退路の確保を優先してほしい。特に古い建物の中では、どこが支えになってるか分からないまま大きく崩したくない」


「分かった。まず止める方を考えるよ」


「必要なら火力も使って。使わないって話じゃないから」


「そこは分かってる」


 アレンやミラへ向けるほど雑ではないが、過度に構えた様子もない。初対面の相手としては、そのくらいの距離がユリウスには合っているように見えた。


 最後に、セレナはフィアナへ向き直る。


「フィアナは治癒と支援。それから、遺構に入って何か感じたら、曖昧なものでもすぐ言って。頭痛でも違和感でもいい」


「はい」


「無理に意味を探さなくていいから、そのまま教えて」


「分かりました」


 フィアナは治癒役であると同時に、この調査のきっかけになった現象の当事者でもある。本人にしか分からない変化が起きる可能性がある以上、それも重要な情報になる。


「フィアナを一人にする状況は作らない方がいいわね」


 ミラが言った。


「そうね。ただ、ずっと五人で固まって歩く必要もない。街道を外れたらミラが少し先、アレンが本隊の前。ユリウスは中央から後ろ寄りで全体を見られる位置。私は調査内容に合わせて動くけど、フィアナの近くから全員が離れる形にはしない」


 道幅や視界で変える必要はあるものの、基本の配置としてはそれで問題なさそうだった。


 セレナは一度紙へ目を落とし、今度は全員を見回す。


「それと、一番大事なことを先に決めておくわ」


 部屋の空気が少し変わった。


「エルムで見た黒い獣と同じものを確認した場合は、その場で撤退。フィアナの頭痛や、あの時と同じ反応が急に強くなった場合も止める。地下への入口や、施設に似た構造を見つけても、見つけた勢いでは奥へ進まない」


 誰からも異論は出なかった。


「もう一つ。誰かが撤退を決めた時、その場では議論しない。理由を聞くのは安全な場所へ戻ってから」


「まだ調べられそうでも?」


 ユリウスが確認する。


「戻る。現場では、その人にしか見えてない危険があるかもしれないでしょう」


「セレナさん自身が続けたくても?」


 俺が聞くと、セレナが少しだけ目を細めた。


「……戻るわよ」


「今、少し間がありましたけど」


「気のせいじゃない?」


 さっきのユリウスと同じ返しだった。


 ユリウスが笑いかけたが、ミラが先に地図へ視線を戻したので、それ以上話は広がらなかった。


 ベルナールはやり取りが収まるのを待ってから、帰還予定日と連絡が途切れた場合の対応を確認した。俺たちが一定以上遅れた場合は、大神殿とギルドの双方から捜索を出せるよう、ルミエル側で手配しておくという。


 装備や食料、予備品についてはまだ詰める部分が残っているが、これで向かう五人と、それぞれが担う役割は決まった。


 出発までは十日ほどある。


 あとは五人で動く前提で、必要なものを揃えていけばよかった。

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