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第120話 接続先

「……封鎖から四日後、内部の環境維持設備の作動を確認。その後、照明と通路の隔壁にも変化があり、数日遅れて警備装置の活動が報告されている」


 俺が手記に添えられた表を読み上げると、セレナは別の記録を開いた。確認された日付のほかに、監視員が異音を聞いた時期も書き添えられている。エドガーが長年の報告を集め直した理由は、こうした細かな違いを確かめるためだったのだろう。


 表の下には、いくつもの枠を線で結んだ図があった。施設名らしい文字のほかに、応答がなかった接続先や、別の経路を探したことを示す注記が残されている。


「アレン、この線は施設同士のつながりを表しているの?」


「それに近いと思う。直接応答が得られなかった時に、別の設備を経由して接続を試みた記録らしい。ただ、実際にどこまでつながったのかは分からないな」


 セレナは図と俺が訳した内容を見比べ、必要なところを控えていく。俺も続きを確かめていたが、接続先についての注記を見つけて手を止めた。


 中継先。


 王都の地下で見た表示が頭に浮かんだ。あの時、装置は何度も接続先を探していたように思う。


「イシュラ様。王都の地下でフィアナと装置に近づいた時にも、接続先を探しているような表示が出たんです」


「お前たちが北方へ移動した時のことか?」


「はい。操作員の検索と認証が進んだ後に、こんな文字が現れました」


 俺はセレナから紙を受け取り、覚えている表示を書き記した。


『LINK TARGET』


『NORTHERN RELAY』


「上は接続先。その下が『北方中継』です」


 イシュラは地図へ目を向け、セレナも手記の図と俺が書いた文字を見比べた。


「王都の装置が、北方にある中継先を探していたということ?」


「そう読める。ただ、実際に接続できたかどうかは分からない。表示が次々に切り替わって、最後まで確認する余裕がなかったからな」


 あの時はフィアナが何かに強く引かれるような感覚を訴え、俺が彼女を支えて装置へ近づいた。その後、仲間たちと分断され、気づいた時には北方の施設へ移動していた。


「表示と移動が関係していた可能性もあるけど、あの場所で何が起きたのか、まだ分かっていないんだ」


「北方中継という名前を、こちらで見かけたことはないのか?」


 ヴァレクに尋ねられ、俺は首を横に振った。


「いや。ハルヴァでも、同じ名称は見ていないと思う」


「なら、古い封鎖記録から探す必要があるな」


 イシュラが地図を引き寄せると、ヴァレクはエドガーの記録に残る地名を確認し始めた。現在とは呼び名が異なる場所もあるらしく、セレナが史料庫で控えてきた資料も使いながら照合を進めている。


 俺はその間に手記の注記を調べた。


 中継先への接続を試みた形跡は、ほかの施設にも残されていたらしい。しかし、エドガーは通信が回復したことを確認できず、中継先の場所も突き止めていなかった。


「……誰かが、離れた場所から装置を動かしている可能性はないのか」


 ヴァレクが地図から顔を上げた。


「遠隔操作ってことか?」


「ああ。封鎖の内側へ誰も入っていないのに設備が動き始めるなら、外から指示を出す仕組みがあってもおかしくないだろう」


 情報をやり取りする仕組みがあれば、設備へ命令を送ることも技術的には考えられる。ただ、通信できることと、実際に遠隔操作されていたことは別だ。


「可能性はあるな。でも、今の記録だけじゃ判断できない。設備が自分で復旧を試みていたとしても、似た動きになるかもしれない」


「今のカシュラみたいに、施設を利用しようとする連中がいた可能性もあるよな」


 ガルドの言葉に、イシュラは頷いた。


「現在のカシュラは警戒すべきだ。だが、エドガーが調べた異常は今の争いより遥かに古い。誰かの操作があったとしても、それはカシュラの問題とは切り離して考える必要がある」


 ヴァレクも異論はないようで、手元の控えに一つ書き加えた。


「まずは中継先の正体を調べるか。古い記録に名称や位置が残っていれば、手掛かりになる」


「ええ。王都で見た表示とも照らし合わせたいわ」


 セレナは俺が書いた文字を控えに写し、原文のまま残しておくことにした。古代文字の意味が分かっても、何を指しているかまでは分からない。訳した名前から場所を決めつけるより、同じ表示がほかに残っていないか確かめた方がいいだろう。


「史料庫の記録を優先しよう。封鎖された施設には手を出さず、分かるところから調べてほしい」


 イシュラの指示にヴァレクが頷いたところで、隣のフィアナが俺へ声をかけてきた。


「……ねえ、アレン。王都で神託が続けて届いた時のこと、覚えてる?」


「ああ。最初はいくつもの光が見えて、その後に三つの光が順番に現れたんだったな」


「うん。その後に王都が崩れる光景を見たんだけど、ずっと気になってることがあるの」


 フィアナはセレナが書き留めた日付へ目を向けた。


「王様に報告した時、地下で何かが先に目を覚ましたように感じたって話したでしょう? あれが、いつから起きていたことなのか知りたいんだ」


 俺たちは王都で崩落が始まった日を知っている。だが、それより前に地下の設備が動いていたのか、どの程度の異常が起きていたのかまでは分かっていない。


「エドガーは、外からは見えない場所で起きた変化を、監視記録から調べていたんだよね。王都でも同じように、私が神託を受けた日と地下で異常が確認された日を比べられないかな」


「なるほどね」


 セレナは新しい紙を引き寄せ、フィアナへ向き直った。


「神託の日付は王城へ出した報告に残っているはずだし、地下の異常についても、調査に携わった人たちの記録があると思うわ」


「でも、異常が見つかった日と、本当に動き始めた日は違うかもしれないんだよね」


「ええ。そこは分けて整理しましょう。はっきりしないところは、無理に埋めない方がいいわ」


 フィアナは頷いたが、まだ何か考えているようだった。


「神託で見たものと、施設で感じたものが同じだとは思っていないよ。ただ、あの時は神託が続けて届いて、見えるものも変わっていったでしょう。何か理由があったのなら、私も知りたいの」


 その言葉を聞いて、セレナは筆を置いた。


「フィアナ自身は、何を見たのか覚えているのね」


「うん。光がどんなふうに見えたのかも、順番も覚えてる。私の記憶だけじゃ分からないことでも、ほかの記録と比べたら何か見つかるかもしれないから」


「そうね。それなら、王都へ照会する内容を一緒に考えましょう。あなたが感じたことは、ほかの人には代わりに説明できないもの」


「ありがとう、セレナ」


 フィアナは少し表情を緩め、セレナが書き始めた項目を覗き込んだ。神託の日付を確かめながら、光の見え方についても補足している。


 イシュラは二人のやり取りを聞いてから、フィアナへ声をかけた。


「王都側で記録を照合できれば、北方で起きた異常と比較する際にも役立つだろう。覚えている範囲で協力してもらえるか?」


「はい。私にできることなら、お伝えします」


「助かる。ヴァレク、北方側も同じように調べてほしい。各氏族への照会が必要なら、こちらで手配する」


「ああ。まずは史料庫に残っているものから確認しよう」


 リーネも身を乗り出した。


「ラウネでも、見張りの人たちが音や光の変化を報告してるよ。父さんたちに頼めば、古い記録も調べられると思います」


「ヴァルドには私から伝えておこう。ただし、現地の監視に支障が出ない範囲で構わん。必要な人員は向こうで判断してもらう」


「はい」


 オスカーは地図に並ぶ封鎖地点を眺めていたが、話が一段落したところで口を開いた。


「記録を調べるのはいいが、確認のために封鎖を開けることだけは避けたい。外から変化が見えなくても、内部が安全とは限らんからな」


「それは徹底する。現地の判断で立ち入ることも認めない」


 イシュラが答えると、ガルドも頷いた。


 ハルヴァの施設では、封鎖が破られた後に哨戒体や黒い獣が現れ、奥では統制体二体との戦闘にもなった。俺たちが対処できた相手もいるが、すべての所在を確かめられたわけではない。


 エドガーの時代にも、戦士たちが倒しきれないまま姿を消した存在がいた。封鎖の内側に何が残っているのか分からない以上、記録を確かめるためだけに入口を開ける危険は冒せなかった。


 必要な項目を控え終えると、セレナは紙を二つの束に分けた。一つは古代施設の接続先と封鎖記録、もう一つはフィアナの神託と王都地下の異常についてだ。両者の関係はまだ分かっていないので、最初から一つの出来事としてまとめないようにしているらしい。


「アレン、王都で見た表示の原文は、このまま控えておいてもいい?」


「ああ。ただ、俺の記憶を頼りに書いたものだから、そのことは添えておいてくれ」


「分かったわ」


 セレナは頷き、英語表記の横に注記を書き加えた。


 俺も手記の残りへ目を通したが、接続先の記録に続いて、装置へ試した操作が詳しく書かれている。操作条件まで含まれているようなので、そこで読むのを止めた。


「イシュラ様。この先は操作の記録が多いようです」


「分かった。残りは内容と扱いを確かめてからにしよう。今日はここまでだ」


 俺は開いていた頁を確かめ、手記を閉じた。イシュラが箱へ戻す間も、セレナとフィアナは神託の日付を整理している。


 最初に見えたいくつもの光と、その後に現れた三つの光。王都が崩れる光景を見た日も含め、フィアナは覚えていることを一つずつ伝えていた。


 机には、二枚の紙が並んでいる。片方には、王都地下の装置が示した『NORTHERN RELAY』という文字。もう片方には、フィアナが神託を受けた日付が書き込まれていた。


 王都で崩落が始まったのは、最後の神託から二日後だった。だが、それは地上で被害が現れた時期であって、地下の設備がいつから動き始めていたのかを示すものではない。


 フィアナが最初に離れた光を見たのは、さらに前のことだ。


 神託が告げていたのは、これから起きる王都の災厄だけだったのか。それとも、俺たちがまだ知らない地下の変化を、フィアナはすでに感じ取っていたのだろうか。

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