第102話 十五歩の空白
手前の統制体が、閉じかけた隔壁へ向かって歩き始めた。
奥にいるもう一体も動いている。隔壁の開口部は人が二人並んで通れる程度まで狭まっており、あの巨体が抜けるには幅が足りないものの、頭部から放つ光を防げるわけではなかった。
「リーネ、まず手前のやつを引き離す。岩片を外すのはその後だ」
「分かった。合図を待つ」
「奥の一体にも気をつけてくれ。俺が引きつけている間に、隔壁へ近づいてくるかもしれない」
リーネは頷き、操作装置の横へ身を寄せた。
岩片は左側の扉の下に深く噛み込んでいる。内側から取り除く必要がある以上、その間は統制体を近づけるわけにいかなかった。
俺は隔壁の脇から顔を出し、手前の個体の動きを窺った。
縦長の発光部がこちらへ傾く。
すぐに身を引くと、細い光が隔壁の縁を穿ち、破片が肩先を掠めていった。古代の隔壁だけあって一撃で壊れる様子はないが、表面には深い傷が残っている。
王都で学んだとおり、光を見てから避けていては間に合わない。
床に散らばっていた小石を土魔法で浮かせ、頭部へ向けてまとめて放った。統制体が顔を逸らし、腕で破片を払い落とそうとした隙に、隔壁の開口部を抜けて左側へ踏み込む。
内部の通路は隔壁よりずっと幅があった。左右の壁沿いに大型の統制体が一体ずつ通れるほどで、中央の床には一定の間隔で金属質の継ぎ目が走っている。
頭上では細い白色照明がまばらに点いているものの、壁際には暗い部分が多い。足元に散らばった壁材を避けながら進むと、床下から鈍い音が返ってきた。
岩盤を踏んだ時とは違う、少し空洞を感じさせる響きだったが、確かめている余裕はなかった。
統制体が長い腕を振り下ろしてきたため、剣を斜めに当てて軌道を逸らし、風で身体を押しながら左脇を抜けた。刃と外殻が擦れて火花が散り、右手に重い痺れが残る。
そのまま通路の左側を奥へ進むと、統制体もこちらを追って向きを変えた。
隔壁から十分に引き離したところで振り返る。
狙いどおり、手前の個体は俺を追ってきている。ただ、もう一体は違った。
奥の統制体は右側の壁に沿って歩き、俺と最初の個体を避けるように隔壁へ近づいていた。
王都でも、統制体はこうして相手の配置を崩してきた。目の前の敵を追う個体がいる一方で、別の個体が退路や後衛を狙う。
俺がリーネを外側へ残した意味も、見抜かれているのかもしれない。
「リーネ! 奥のやつが右側から近づいてる。作業に入ったら長居するな!」
「分かった!」
目の前の統制体が再び腕を振るう。
俺は床に落ちた石材を持ち上げ、その軌道へ差し込んだ。砕けた石が一瞬だけ打撃を逸らし、身体を逃がす時間を作ってくれる。
続けて足元へ破片を送り込むと、相手は右脚を引き、踏み込みを変えた。
一度目の妨害を覚えたらしい。
今度は長い左腕を横へ伸ばし、隔壁へ戻る経路を塞いでくる。その内側へ入ろうとすれば、頭部の発光部がこちらを追った。
俺は石材をもう一度動かし、統制体が踏み直した瞬間に風を叩きつけた。
巨体が僅かに傾き、立て直すために一歩下がる。
その間、右側を進んでいた統制体は、まだ隔壁から離れた壁際で足を止めていた。頭部を細かく動かし、俺と手前の個体の位置を確かめているようだった。
すぐに隔壁へ踏み込んでくる気配はなく、手前の一体も十分に引き離せている。今なら、リーネが岩片の状態を確かめ、危険が迫れば引き返すだけの余裕はありそうだった。
「リーネ、今なら動ける! 石を頼む!」
「分かった!」
リーネが壁陰から出て、開口部を抜けてきた。
左側の扉の下へ身を屈めると、カシュラ兵の残した鉄の棒を拾い、岩片と床溝の間へ差し込む。いきなり力を加えず、噛み込んだ位置を確かめてから少しずつ持ち上げようとしていた。
俺は統制体を引きつけながら、時折そちらへ目を向けた。
「動きそうか!」
「上側は少し浮く! でも、下がまだ引っかかってる!」
「無理にこじるな。扉まで傷める!」
返事とともに鉄の棒が動き、岩片の一端が僅かに持ち上がった。
その時、右側で止まっていた統制体が再び動き始めた。
最初は壁沿いに進んでいたが、すぐに通路の中央へ向きを変える。長い脚で距離を詰めながら、頭部の発光部を隔壁へ向けた。
俺がリーネの作業開始を合図した時には、すでにこちらの動きを見ていたのだろう。
「リーネ、作業を止めろ! そっちを狙ってる!」
「分かった、戻る!」
彼女はすぐに工具を離し、開口部へ向かった。
だが、外側へ抜けようとしたところで、天井近くを小さな黒い影が横切った。
哨戒体だった。
奥の通路から飛んできたらしく、統制体の頭上を抜け、そのまま隔壁の狭い開口部を通過する。
リーネが外側へ踏み出しかけた瞬間、哨戒体は通路の向こうで向きを変えた。
前面の発光部が白くなる。
「伏せろ!」
リーネは即座に身体を沈め、隔壁の厚い縁へ身を寄せた。
細い光が頭上を通過し、操作装置のある壁を穿つ。破片が飛び散ったが、彼女はすでに射線から外れていた。
それでも、外側へ出る道を哨戒体に押さえられた。
狭い開口部から射線を通せる位置を取られ、無理に飛び出せば次の照射を受ける。
リーネは退避を中断し、内側の厚い扉を遮蔽物に使った。
だが、今度は右側から統制体が近づいてくる。
彼女が身を隠している左の扉へ直接近づく代わりに、通路の中央へ寄り、頭部の向きを変えながら射線を探っていた。
俺は土魔法で石材を持ち上げ、その脚へ叩きつけた。
幾つかは外殻の継ぎ目に当たったものの、相手は進路を僅かに変えただけで歩みを止めない。
しかも、目の前の統制体が俺の戻る方向へ身体を寄せてくる。
二体の大型兵器が別々の位置を押さえ、その間を哨戒体が埋めていた。
リーネは隔壁の内側へ戻る判断をしたものの、退避先を失ったことで動ける範囲が限られている。
「リーネ! 俺がそっちへ戻る。動けるようになったら外へ!」
「分かった!」
俺は目の前の統制体の腕を剣で逸らし、その下を抜けようとした。
しかし、相手はすぐに反対側の腕を伸ばし、進路を塞いでくる。頭部がこちらを追ったため、風で身体を押して間合いを外すと、今いた床へ光が走った。
人工の板材が穿たれ、足元から熱い破片が跳ねる。
その間にも、隔壁へ向かった統制体は距離を詰め、すでにリーネの間近まで迫っていた。
彼女は相手の頭部を警戒し、左側の扉に身を寄せている。
そこへ統制体が一歩横へ動いた。
縦長の発光部が、隔壁の陰から僅かに見えるリーネの身体を捉える。
白い光が強まり始めた。
充填照射。
リーネもすぐに気づき、扉の外側へ逃れようとしたが、哨戒体が開口部へ向きを変えたため、踏み出しかけた足を引く。
外へ出れば哨戒体の射線に入り、内側に残れば統制体に狙われる。
俺と彼女の間には、十五歩以上の距離があった。
その途中を、手前の統制体が塞いでいる。
風魔法で全力の加速をかけても、あの光が放たれる前に辿り着けるとは思えなかった。
分かっていた。
それでも、踏み出さない理由にはならなかった。
足元に散らばっていた砕石を土魔法で寄せ、踏み込みの支えにする。そこへ力をかけるのと同時に、ありったけの魔力を風へ流した。
目の前の統制体が腕を伸ばしてくる。
避けようとした瞬間、奇妙な感覚に襲われた。
飛び散っていた石片の輪郭が、やけにはっきり見える。
伸びてくる黒い腕も、その向こうで強まっていく白い光も、妙にゆっくりと感じられた。
音が遠ざかる。
世界が止まったようだった。
次に自分の足元を意識した時には、身体がすでに手前の統制体を抜け、その先へ進んでいた。
何が起きたのか分からない。
ただ、踏み込んだつもりの距離を遥かに越え、二体目の統制体が目前に迫っていた。
頭部の光は、もう放たれようとしている。
俺は左へ身体を倒し、土魔法で相手の右足元に転がっていた石材を押し上げた。
踏み出した脚が僅かに傾いたところへ、通路の右壁へ向かう横方向に風を叩きつける。
普段なら、この巨体を大きく動かせるほどの力は出せない。
だが、統制体は足元を崩された姿勢のまま、右側の壁へ向かって吹き飛んだ。
黒い外殻が人工の壁へ激突する。
直後、充填された白い光が放たれた。
照射はリーネのいた場所を外れ、斜め上方の壁を貫いた。壁材が砕け、天井との境にあった太い人工の支持部まで抉られる。
轟音とともに破片が降ってきた。
俺は急いで勢いを殺そうとしたが、身体が予想以上の速度で進み、右脚へ強い負担がかかった。
足元の砕石を土魔法で寄せて踏ん張ったものの、止まりきれずに肩を壁へ打ちつける。
鈍い痛みが走り、息が詰まった。
「アレン!」
リーネの声が近くから聞こえた。
「無事か!」
「私は大丈夫! アレンこそ……!」
「後だ! まだ動いてる!」
壁に叩きつけられた統制体が、長い腕を床について身体を起こし始めていた。
右側の腰部装甲が大きくずれ、黒い外殻には亀裂が走っている。だが、頭部の発光部は消えていない。
俺は剣を構え直した。
全力で風と土魔法を使ったはずなのに、魔力を消耗した感覚が妙に薄い。
肩と右膝は痛み、呼吸も乱れている。
それなのに、魔法だけはまだ十分に使えそうだった。
足元の破片へ意識を向けると、ほとんど力を込めないうちに石材が持ち上がり、思った位置で止まった。
普段ならもっと集中が必要な操作だった。
何だ、これ……。
考える間もなく、背後から光が走った。
最初に俺を抑えていた統制体が、こちらへ照射してきたのだ。
頭部の向きを見て身体を捻ると、さっきまで立っていた床が穿たれ、人工の板材が砕けた。
壁際へ逃れたところへ、損傷した統制体も立ち上がる。
二体とも健在だった。
通路の奥に残った個体は左側へ移動し、俺とリーネを同時に見通せる角度を探っている。一方、壁に叩きつけた方は傷んだ腰を庇いながら、俺の退路を塞ぐ位置へ出てきた。
あの衝撃を受けても、動きが大きく鈍ったわけではないらしい。
「リーネ、隔壁の陰にいろ! 俺が離れるまで出てくるな!」
「分かった! 外の哨戒体は私が何とかする!」
彼女は開口部の外側に浮かぶ哨戒体を見上げ、短剣を構えた。
哨戒体は距離を保ちながら狙っていたが、隔壁が途中まで閉じているため、内側のリーネを直接捉えられる位置は限られている。
リーネはその狭さを利用した。
扉の陰から身体を半歩だけ出し、哨戒体が発光部を向けるとすぐに引く。光が壁を穿つ間に位置を変え、次の照射を誘った。
狙いが外れた哨戒体は、射線を確保しようと開口部の中央へ寄ってきた。
その瞬間、リーネが踏み込んだ。
短剣が下面の継ぎ目を捉え、哨戒体の身体が大きく傾く。狭い隙間では横へ逃れる余裕もなく、そのまま扉の縁にぶつかったところへ、彼女はもう一度刃を押し込んだ。
発光部が消え、黒い機体が床へ落ちる。
リーネはそれを確かめると、すぐに隔壁の陰へ戻った。
しかし、外へ出ることはできなかった。
通路の奥に残る統制体が移動し、開口部を正面から見通せる位置を取っている。リーネが扉の陰を離れて外側へ抜けようとすれば、その一瞬を照射されるだろう。
彼女もそれを分かっているらしく、無理に動かず、俺のいる方向を確かめていた。
その間に、壁際の統制体が迫ってくる。
右腰の外殻がずれているためか、身体を捻る時に僅かな遅れがあった。ただ、腕の動きは変わらず鋭く、頭部もこちらを追っている。
俺は足元の石材を浮かせ、相手の右脚へ送り込んだ。
統制体はすぐに脚を引き、破片を避ける。
先ほども同じ妨害を受けている。関節を狙われると踏み込む位置を変えることまで覚えているようだった。
ならば、その動きを利用する。
引いた脚の先へ石材を回り込ませ、さらに反対側の足元へも破片を送る。統制体は右脚を大きく踏み直して石を砕いたが、その瞬間に風を叩きつけると、傷んだ腰が僅かに傾いた。
そこへ剣を向けたものの、相手は長い腕を床について姿勢を保ち、頭部をこちらへ向け直してきた。
発光部が強まる。
俺は攻撃を中断し、壁側へ間合いを外した。
細い光が足元を走り、床板の継ぎ目を削り取る。さらに奥に残る統制体も射線を合わせてきたため、低い破片を飛び越えながら位置を変えるしかなかった。
二体の照射は互いを避け、俺が逃げ込もうとする場所を順番に潰している。
無理に一方へ踏み込めば、もう一方に狙われる。
俺は損傷した統制体の右側へ回り込み、奥の個体から見て、その巨体と重なる位置へ入った。
これなら、少なくとも真っ直ぐには照射できない。
奥の統制体もすぐに左へ移動を始めたが、射線を取り直すまでには僅かな時間がかかる。
その間に腰部の隙間へ剣を向けると、目の前の個体はすぐに身体を捻り、左脚を引いて間合いを外した。
さらに長い右腕が横から伸び、俺の肩を狙ってくる。
腕の下を抜けたところで、奥の統制体が頭部を向けたため、攻撃を断念して離れるしかなかった。
光が走り、目の前の統制体のすぐ脇で床が砕ける。
人工板材の端が浮き上がり、その下に黒い空間が一瞬見えた。
ここは岩盤の上に直接床を敷いているわけではないらしい。
板材の下には別の構造があり、その一部が照射で傷んでいる。
俺は浮き上がった板を避け、壁寄りのまだ無事な場所へ足を移した。
統制体は構わず踏み込んでくる。
傷んだ右腰を守るため、剣を向けるたびに身体を捻り、左脚を引く。その動きは二度続けて確認できた。
俺はもう一度、右腰の継ぎ目へ踏み込んだ。
相手が左脚を引いたところで、床に転がっていた薄い石片を足首の内側へ送り込む。統制体は踏み込みを変えようとしたが、石片が邪魔をしたことで重心を戻すのが僅かに遅れた。
そこへ風を叩きつけると、巨体が左へ傾き、腕を伸ばして壁を掴もうとする。
だが、先ほどの照射で割れていた表面が崩れ、鋭い指は石材を抉っただけだった。
統制体が片膝をついた。
俺は腰部の隙間へ剣を突き込み、刃の周囲へ風を集中させた。
金属が裂けるような音が響き、内部で硬いものが砕ける。
それでも統制体は止まらず、左腕を横から伸ばして俺の肩を掴もうとしてきた。身を捻って避けたものの、鋭い指が外套を引き裂き、皮膚を浅く切った。
剣を抜いて後退しようとすると、奥の統制体がすでに照準を合わせていた。
頭部の向きから、狙われているのは俺の退く先だ。
そのまま下がれば撃たれる。
俺は逆に一歩踏み込み、膝をついた統制体の右脇へ潜り込んだ。
細い光が背後を通過し、人工の床板を貫く。硬いものが砕ける音とともに足元が大きく震えたが、俺は姿勢を低く保ったまま、目の前の統制体の動きを追った。
腰と左脚を損傷しているにもかかわらず、相手はなお起き上がろうとしている。頭部だけは俺を追い、次の照射に備えて向きを変え始めていた。
首の付け根に、外殻が重なり合う細い隙間が見えた。
俺は風で身体を押し上げ、統制体の肩へ足をかける。
相手が上体を起こそうとしたところへ、土魔法で石片を腰の破損箇所へ送り込み、動きを妨げた。
姿勢が戻らないうちに首の付け根へ剣先を差し込むと、刃の周囲へ集中させた風が、これまでとは比べものにならない速さで応じた。
剣先が黒い外殻の奥へ入り込む。
統制体が頭を振ろうとしたが、先に刃を押し込み、装甲の継ぎ目へ入り込んだ石片を土魔法で押し広げた。
内部で何かが砕ける。
頭部の発光部が激しく明滅し、巨体から力が抜けた。
倒れ始めた肩から飛び退くと、黒い外殻が床へ叩きつけられ、大きな衝撃が通路に伝わった。
統制体は一度だけ腕を動かしたものの、それきり静止した。
頭部の光も消えている。
俺は剣を構えたまま様子を確かめたが、もう起き上がってくる気配はなかった。
ようやく、一体を止めた。
肩と右膝の痛みが増しており、深く息を吸うと脇腹まで鈍く響く。裂かれた外套の下では肩の傷から血が滲み、剣の刃にも細かな欠けができていた。
それでも、魔法を使い切った時の重い疲労感はない。
むしろ、まだいくらでも使えそうな感覚がある。
何が起きているのかは、相変わらず分からなかった。
「アレン!」
隔壁の方からリーネの声が響いた。
「一体は倒した! もう一体に気をつけろ!」
「うん、見えてる!」
俺は倒れた統制体から距離を取り、奥へ目を向けた。
残る一体は、通路の左寄りに移動していた。
俺が戦っている間も照射を繰り返していたため、周囲の床板には幾つもの穴が開き、壁との接合部まで大きく削られている。
特に中央付近の損傷がひどい。
人工の板材が割れ、その下にある格子状の支持部が露出していた。さらに奥には、照射で断ち切られた太い部材が斜めに垂れ下がっている。
先ほどまで平らだった床が、ところどころで高さを変えていた。
統制体が一歩動くたび、床下から鈍い音が返ってくる。
「リーネ、隔壁の外へ戻れ! 床が危ない!」
「分かった! アレンも早く!」
彼女は厚い扉の陰から開口部を確かめ、外へ抜けようとした。
その瞬間、残る統制体が頭部を向けた。
リーネはすぐに身を引き、隔壁の内側へ戻る。
相手は開口部を正面から狙える位置を取っていた。途中まで閉じた扉の陰なら射線を避けられるが、外へ抜けるには必ず開口部を横切らなければならない。
隔壁まではそう遠くないが、その途中には照射で大きく損傷した床板が広がっていた。左側の壁沿いならまだ歩けそうだったものの、そこは統制体の正面に近い。
無理に駆け抜ければ、今度は俺が狙われる。
リーネも状況を見ており、外へ飛び出そうとはしなかった。
俺は剣を構えたまま、統制体の頭部の向きを追った。
相手は俺とリーネを見比べるように僅かに向きを変え、それから通路の中央へ一歩踏み出した。
足元で、床板が軋む。
剥き出しになった支持部の一つが、重みに耐えかねたように沈んだ。
それでも統制体は歩みを止めず、頭部の発光部をこちらへ向けた。
縦長の光が、ゆっくりと強くなり始める。
俺はリーネのいる隔壁と、目の前の損傷した床を見比べた。
残る一体を避けながら、どうやって彼女のところへ戻るか。
考えている間にも、足元の継ぎ目がまた一つ、鈍い音を立てて開いた。




