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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
最終章
97/98

大好き、だよ

 そこは、真っ白な世界でした。


「でも、今は違うよ! もう色付いてるんだ、芽生えてるからね……だから、大丈夫! 」


「……なにを言ってるのか……ぐすっ、わかりません」


 崩壊寸前の世界、その中心である祈りの塔だったのですが、いつの間にか周囲の石壁までが白く染まり始めており、透けてしまった壁の向こうに見えるのは、ただひたすらに真っ白な……雪の銀世界と例えるには、少しばかり無機質で、あまりに空虚な空間だったのです。


 いま、この世界に存在する命は、私を含めてたったの四人……ロボ君と、それに泣き縋るばかりのサーラ、あとは倒れたままに動かない剣姫さん……もう、終焉も近いのです、目の前に迫っているのです……なのでサーラが、この世界の(あるじ)であるはずの彼女が、何もせずに、何も出来ずに座り込んでいても、人の彼氏にしがみ付いて……ん? おいこら調子に乗るな、そろそろ離れなさい、泣いてたってあげないからね、それは私のだからね、というかシャキッとしなさいよ、仮にも神さまなんでしょ、まだまだやる事は残ってるんだからね、サーラがそんなんじゃひっくり返せないじゃない……ほら、しゃんとして、サーラも端っこ持ちなさいよ。


「しかし、俺もよく分からんな……なぁサクラよ、いったい何をするつもりなんだ? 」


 ほほぅ、ロボ君にも分からないですか、なんだか気分が良いよ、なんとなく勝った気がするね、ワハハ……あ、痛い、いたいからやめて、ぷりちーな耳が取れちゃうから……てかおかしいやろ! いとしの彼女やぞ、もっと丁重に扱いなさい! あと、なんで顔の傷だけ消えてないの? 魂的なダメージも治ったんじゃないの?


「……お前が好きだと言ったからだろう……まぁ、嫌なら消せない事もないが」


「うぅん、そっちの方がロボ君らしいよ……ちょっとだけ見てみたい気もするけど……いひっ、それは後のお楽しみにしとくね」


「なにを言ってるのか分かりません」


 おっとごめんね、そろそろ説明しないと時間も無いよね……あれ、なんかサーラ機嫌が悪い? なんとなく不機嫌さが滲み出てる気がしないでもないよ? というか離れなさい、ロボ君から離れなさい、あげないって言ってるでしょ。


「この世界はもうすぐ消えちゃうけど、もうそれは止められないよ、だから、後のことは他の人に任せます」


「分かりません」


 いや、そんなに口を尖らせてもね、迫力無いからね? というか私も逆の立場ならそう言っただろうけどね、でもちょっと待って、ちゃんと説明するから最後まで聞いてね。


「たとえ世界が無くなってもね、真ん中に芯だけは残るはずだよ、だから私達が芯になるの、日記にするの……この世界が生まれてから、今日までの出来事を……そこに生きた命と思い出と、全部ぜんぶ、纏めて残しておくの……そしたらね、それを見た他の神様が、いつかきっと、私達を世界に戻してくれるから、もっと大きな世界になるだろうけど、その隅っこにね、私たちを住まわせてくれるから」


「……随分と希望的な観測ですね、ですがそんなことはあり得ません、確かに、この世界の記憶を残す事は、それ自体は可能でしょうけれど……もしも神世の国から誰かがここにやって来たとして、前の世界の残滓など気にするはずもありません……むしろそれは邪魔なノイズです、世界構築する上での不純物にしかならないのです、あらかじめ排除するのが当然なのです……わざわざそんな無理をしてまで私達を復活させるなどと、余程に上位の神か、あるいは相当に気まぐれでお調子者の……」


「だまって」


 はいストップお黙りなさい、怒られちゃうからね、サーラ怒られても知らないよ? というか、ひょっとしてまだ気が付いてないの? さっきからずっと見られてるのに。


「心配なのは分かるけどさ、大丈夫だから、もう追いついてるから……ロボ君がいるってことは、そうだったんだよ、(しおり)だったんだ……神さまのね、この日記を読んでる神さまのね、目印だったの」


「サクラは、さっきから何を言っているのですか、まるでもう結果が出ているかのよう……な……あれ? なんで……まさか……そんな……」


 突如として、私達の頭の中に全てが流れ込んできました……これは神さまの声なのでしょうか……莫大な情報量ではあったのですが、それは不思議と苦痛を伴うようなこともなく、むしろ、何やら安心感に包まれるような……すやすやと眠る赤ちゃんを見守る母親のように、優しい温かさに満ちたものだったのです。


「……なるほど、俺とこいつを日記のガワにするんだな」


 ロボ君が、ずりずりと倒れた剣姫さんを引きずってくる……うん、あのね、もう少し丁重にね、扱ってあげてね? その人はある意味、私のおばあちゃんでもあるんだからね? ……あ、剣姫さん、鏡台になっちゃった。


「……サクラ、始めましょうか」


「うん、サーラも元気でね……あれ? 元気でねって、なんかおかしいかな? ……うーん……」


「またね、とかでいいだろう……どうせすぐに目が覚める、実際は何億年か知らないが、感覚的には一瞬だろうからな」


 世界の中心の小さな鏡台の前、ロボ君は私達二人をそっと抱きしめた。


 本当はさ、独占したい温もりではあるんだけどね……まぁ許してあげましょう! でも、今回だけなんだからね? 何度も言うけどハーレムルートは存在しないからね? そこんとこ理解してる? ロボ君や、君のことだよ?


「また、直ぐに逢えますよね……サクラ、その時に……言わせてください」


「いいよ、何でも聞いたげる、今まで言えなかった事とかさ……でも、こっちだって今までのこと、色々と文句を言うからね? 怒るからね? 覚悟だけはしといてよ」


 向かい合って目を合わすと、どちらからともなく吹き出してしまうのです……だってさ、二人ともおんなじ顔してるんだもの、やっぱり笑っちゃうよね。


「まったく、ケンカしたいのか仲良くしたいのか……おかしな奴らだな……まぁ、そんなところも好きなんだが」


 きゅっ、と強く抱きしめられた。


 だけど、消えてゆく世界と共に、どうやら私達の身体も薄れ始めたようで……彼の腕から力が抜けてゆくのが……その温もりが薄れてしまうのが、少しだけ寂しくて……私は少し背伸びして、最後に彼を求めたのです。


 薄れてしまったせいなのか、半分だけの柔らかさと温かさ、いや、このキスが半分なのは、サーラと分け合ったからなのかな?






「……相変わらず、いやらしいですね、サクラ先輩は」


「ふがぁっ!?」


「ですが、少しだけ見直しました……また、逢いたいですね、僕も」


 シャーリーくん。


「うふふ、もちろん逢えますわ、なにしろ、わたくしとサクラさんの絆は、けっして切れない赤い糸で繋がっているのですもの」


 あぁ、ハナコさん。


「……サクラ、最後までよく頑張ったね、それでこそアタシの孫ってもんだよ……ばーちゃんも鼻が高いってもんさ」


 ……うん、おばあちゃん、わたし、頑張ったよ……最後まで笑えたよ……こうしてみんなと、笑えるよ。


 きっと、次に目が覚めて、新しい朝がきても、私達は出逢えるはずなのです、だって、こんなに素敵な人達なんだもの……みんなと、ロボ君と……また、一緒に。




 でも。




 なんとなく心配だから、ちょっとだけズルしておこう……いや、まさかね? 変なことするわけじゃないよ? ハハハまさかまさか、そんな悪い事するわけ無いじゃん? 私ですよ? あり得ませんことよ? ……まぁ、ただちょっとね? ハナコさんの言葉で思い付いたんだけどね、ロボ君の小指の辺りにね? 今のうちにね、赤い糸的なものをね? キュキュッと結んどこうかなー、なんてね? 神さま空間にいる今ならね、それも可能なんじゃないかなーってね……うへへ、このくらいなら許されるはずだよね、だって私はさ、結構頑張ったと思うんですよ、ね? 自分へのご褒美がね、少しくらいあったって良かろう的なアレですよ、はいロボ君ちょっと手を出して、大丈夫、痛くしないからね……ん? あれ? ……これって、もしかして。


 あはは。


 なーんだ。



 


 私は、運命なんて、これっぽっちも信じていません。


 だけどね、あなたのことは、なぜか信じてしまいます。



「大好き、だよ」

















明日にはなんとか終わりそうですばい。

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