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ロボ君と私的情事  作者: 露瀬
第4章
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わたくし、腕力には少々自信がありますの

「け、警戒するって、言ったよね」


「してるだろう」


 はい、してないね、してません。もし仮に、彼は彼なりに注意警戒してるのだとしても、ガバガバですわこれ、なに遊んでんだよ、ビーチボールパンパンしてんじゃないよ、城作ってんじゃないよ、というかみんな、せめて水着はやめなさい、緊張感皆無かよ、私もだけど。


「サっクラちゃーん、いっくよー」


 天高くジャンプした栗原さんから、そおれっ、と撃ち込まれたビーチボールは……ん? ちょっとまて、これほんとにビーチボール? なんか違って! あばばっ!


「はいっ! 」


 ごずん、と重い音を響かせ、ピンク色の鉄球が、割り込んできたハナコさんの腕から離れて……鉄球だこれ! なんやこいつら、アホの集まりか!


「サクラさん、警戒は怠っておりませんわ、ご安心くださいませ」


「良い、笑顔です」


 うん、ありがとね、でもハナコさんも満喫してるよね? ……まぁ、そりゃね? いつ来るかも、本当に来るのかも分からない敵に備えるってのもね、しんどい話ではあると思うよ、でも、相手は少なくとも16人、全部騎士なんでしょ? こっちの騎士はロボ君とハナコさん、たった二人だよ?


 そう、そうなのです、たった二人なのです。現在、このビーチには、消えたなんとか先輩を除き、七人の侍が居るはずなのですが……でもね、確実に味方だって言えるのは、戦力として数えられるのは、実際のところ、その二人だけなんだよね。


 栗原さんやビッ毛のおじさま達は、正直、まだ信用できないし……ひょっとしたら敵に回る可能性だってあるのだ、シャーリーくんは、私のためになんか戦ってくれないだろうし、なんとか先輩は……もう居ないものとして処理します。


 あとは、アシナガさん達忍者戦者が四人ほど。でも、騎士を相手に、彼女達の戦闘力を当て込むことも出来ないのです……ううん、どう考えても、これって不利じゃない? 不味くない? いや、ロボ君が強いのは知ってるけどさ、囲まれてから、わーって感じに攻められたら、私なんか、すぐにドナドナされちゃうような気がするんだけど……いっそ穴掘って埋まってようか? マテ貝のごとく。


 でも、とりあえずはこの危険地帯から離れておこう、あんなのに巻き込まれたら、昨日のスイカになっちゃうからね、あれ、美味しかったな……てちてちと砂浜を移動した私は、もこたんとふたりで砂遊び中の……なんか立派な城だな、これロボ君が作ったの? あ、仕上げはもこたんなのね、うわぁ芸達者だ……うむむ、この才能、何かに役立てられないものか……あ、いや、それは置いとこう、ともかく私は、その辺りの不安をロボ君に相談したのです。


「なんだ、そう心配するな、任せておけと言っただろう? 役割分担はもう出来てるんだ、華村は守り、俺が攻める……正直、助かるよ、お前を預けられるなら、俺は敵に集中出来る……そっちに関しては、まぁ、得意分野だからな」


 うん、なんか物騒だけどね、でも、ロボ君だって怪我してるんでしょ? 治らないんでしょ? シャーリーくんが言ってたよ、壊れてるって……いくさの時はどうだったか知らないけど、今は違うんだから、あんまり無茶はして欲しくないよ、どちらかというと、そっちの心配なんだからね? ロボ君分かってる? どうせ分かってないだろうから、ちゃんと言っておくよ。


 ちゃんと、とは言いましたが、もちろん私のトークちからでは、モヤモヤとしたこの気持ちの、半分も伝わらないことでしょう。これがハナコさんやシャーリーくんなら、エスパーじみた洞察力で、きちんと意を汲み取ってくれるのでしょうが……うぬぬ、難しい、なんか超すごい魔法の言葉でも無いものか。


「……そういえば、前に言った事があったか? 全騎士を投入されたら、お前を守りきれないって……あれは、お前を守りながら戦うのは、って事だぞ? 今は違う、華村が居るなら、殲滅できる」


「そ、そうじゃ、なくって、さ……ううん、もう、そうじゃなくて」


 ぐぬぬ、違うったら、なんで分かってくんないかな、これ以上深く考えると、また私の嫌なとこが出てきちゃうんだけど……自覚したくないから、あんまり掘り下げたくないんだけど。


「ろ、ロボ君に、ケガとか、して欲しくない……危ないこと、して欲しくない……酷いことも、して欲しくない、よ」


 ああ、ほら言っちゃった、私の我儘だ、ずるいところだ……彼だけはって、どうしても思ってしまう、どこかで思ってる、やだなぁ、自己嫌悪だよ、シャーリーくんに嫌われてるのも、こういうところ、見透かされてるからなんだろなぁ。



「俺は、お前が好きだ」


「ふえっ? 」


 は? は、なに? なに突然、なに、なにですか。


「別に、悪いことじゃない、恥じる必要もない、遠慮もしない……誰だってそういうもんだし、お前もそうだろ? だから俺は、お前に危害を加える奴がいるならば、容赦もしない、俺に出来ることで対処する、排除する、それについて罪悪感なんてものは覚えないし、もちろん恐怖もない……ただな」


 私の身体を、砂のお城に押し付けて、ぐい、と接近してくるロボ君なのです、うわ、ま、また……だから、ちょっと近いってば! に、逃げ……あ、これダメだ、城がある、城ドンされてる! 逃げらんない! もこたん助けて! あ、こら、どこ行くの、裏切り者! もこたんの裏切り羊! ……あ、うわわ。


「なんだ、今日は逃げないのか? 」


 逃げない、というかですね、逃げられないというかですね、あ、あわわ、ちか、ちかちか。


「……逃げても、良いんだぞ」


「に、逃げらんない、よ」


 そうなのだ、逃げられないのだ。背中だって砂のお城に押し付けられてはいるのだけれど、別に力は込められていないし、普通に動けるし、城ドンされてる腕にも、全然隙間はあるし、ちょっと顔をそむければ、ロボ君の唇は簡単に回避出来るでしょう……だけど、逃げられないのです、だから、仕方ないのです、今の私に出来ることは、黙って眼を閉じる他にないのです。


「そうか、良かった……実はな」



 どのくらいだろう、数秒か、数十秒か、それとも数時間だろうか、体感では、たっぷりと時が流れた気がする。そして、ようやくに解放された私のくちびるは、どこか名残惜しそうに、少しだけ、彼の方に移動した。


「それが、いちばん怖かった」


 眼を開くと目の前に見えたのは、なにか少しだけ、照れ臭そうなロボ君の笑顔。あ、初めてだね、こんな顔……なんだ、案外可愛いじゃん、年相応に見えるよ? えへへ、なんだか嬉しいな、やっぱりおんなじだよね、同級生だもんね……ねぇ、ロボ君……あのさ、わたしもね。


 ごずん。


 いかにも重い音を響かせ、ロボ君の後頭部に鉄球が命中した。


「そこまでは、許しておりますが……腹立たしいことに違いは、ありませんのよ? だからといって、ね」


 のしのし、と歩いてきたのはハナコさんだ、足元にもこたんを連れている、どうやら彼女が、私の危機をハナコさんに伝えてくれたらしいね、良かった、逃げたわけじゃなかったんだね、信じてたよもこたん。


「本番には少し早いが、いいだろう、前哨戦だ……その小さな布切れで、どこまで動けるか試してやる」


 遠慮なく取っ組み合いを始める二人に、私は何か安心してしまい、くすくすと笑いながら、砂のお城にもたれかかったのですが。


「サクラさま、申し訳ありませんが、遊びは終わりです」


「うわぁ! 」


 ズボッと、お城の中から、アシナガさんが頭を出した。な、なになに、なんなの? どっから出てくんのよ、というかいつからいたの? もしかして、ずっと見てたの?


「ハナコ様、天領騎士団がこちらに向かっております、いえ、それは予定通りなのですが……」


「何事ですか、報告は手早く明瞭になさい」


 珍しく口ごもるアシナガさんを、険しい表情のハナコさんが咎める。なんだろう、嫌な予感がする、予想より人数が多いとか? それとも、まさか他のテンプル騎士団? 派閥があるとか言ってたし、ダゲス達かも。


「……奉公基準監督署が、たった今、西京からの離脱を宣言しました、光学迷彩にて、秘密裏に移動していた模様です、指導官が50名、戦闘執行官も10名……すでに島内かと」


「な、なんですって!?」


 え、まじで? なにそれ聞いてない、てか、島内? もう居るって事? ……ちょっと、それって、ねぇ、もしかして。


「やられたな、これは手を組んだか」


 ですよねー、タイミングばっちしだもんね……やだなぁ、どんなコラボしてんのよ、まさか皆んなでピッチリスーツ着てんじゃないだろうな。


「……アシナガ、銀の抜刀機を遣います、議会の承認は必要ありません、衛星を起動なさい」


「は、ですが、それは……」


「起動なさい」


 私の背後、首だけで一礼し、アシナガさんは砂に溶けた。そのせいで私は、空っぽになってしまったお城に倒れ込み、砂まみれになってしまうのです。


「あぶっぺ、ぺっ、ぺっ」


「あぁ、サクラさん、大丈夫ですか」


 慌てて駆け寄るハナコさんは、私の手を取り立ち上がらせると、念入りに砂を払って……うん、ちょっと念が入りすぎてるよ? もう落ちたからね、離れようね。


「う、うん、あの、ハナコさん、銀のって、なに? それって、大丈夫なの、なにか問題が……」


「あぁ、いえ、心配はいりません、華村家の剣を遣うだけです……どうせ、わたくしにしか扱えないのですから、誰に遠慮する必要もありませんわ」


 うわぁ、なんだろう、嫌な予感がする……なんなら、さっきまでより嫌な予感かも知れないよ、大丈夫だろうか、ハナコさん、暴走したりしてないだろうか、見た目は美少女なのに、中身は怪獣ゴリラだもんなぁ。


「もしかして『女王を守る森の銀(セイブ・ザ・クィーン)』か……振れるのか? お前に」


「ええ、もちろんですわ」


 ニッコリと笑う彼女は、その名の通り、花のような可憐さではあるのですが。


「わたくし、腕力には少々自信がありますの」


 ですよねー、知ってる知ってる。


 ……ホントに大丈夫かなぁ。




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