二十八:最後の弾丸
数はおよそ三十。もしかしたらそれ以上いるかもしれない。きっと、ビルの出入り口や裏口には必ずロボが潜んでいて、万一逃げられたとしてもそこで迎撃するところまで用意されているだろう。
「暦さん!! 逃げてください!!」
「無駄ですよ、茜嬢。あなたがたを捨てて逃げたら、彼女のギルドの信頼は大きく損なわれる。暦嬢はそれを望まないはずですからねえ!」
「っ、暦さん、この人の言ってることは無視していいんです! わたし、誓約書書いてますから! わたしが死んだって、あなたは何にも悪くないんですから!!」
こんな時でも、茜は暦を心配してくれる。その心にひそかに感動しながら、暦は冷静に、茜へ返す。
「だめですよ、茜さん。百歩譲ってあなたが良くても、ここには璃桜とレアがいます。戦う力を持たないあなたに任せては、それこそギルドとしての名がすたります」
「でも……!」
暦は考えた。無駄口をたたいて時間を稼ぎながら、たった一丁の拳銃とわずかな魔窟探索のためのアイテムを駆使して、無数にはびこるロボを倒さなければならない。
額に冷たい汗が伝う。足がすくんでいる。本当は今にも逃げ出したい。現実逃避したい。
声が震えないよう、気づかれないよう、必死に平静を保った。落ち着いていればいるほど、茜の不安も消せる。三波に余裕を見せつけられる。
「……こよみ」
後ろで、かすかに自分を呼ぶ声がした。暦は振り向かず、耳を傾ける。
耳を澄ませていなければ、聞こえない声だ。
「こよみ」
何を言いたいの? 聞こえているから、教えて。
「――わたしを、撃て」
振り向きたい衝動をおさえた。その真意は一体何なの?
「きみの手で、わたしを撃て」
――でも、撃ったらあなたが痛いじゃない。
そんなためらいを踏みにじり、三波の操るロボたちは一気に距離を詰めてくる。せっかくの銃を撃たないのは、なるべく無傷のまま捉えて、三波自身の手で傷つけたいからだろう。
「暦さん!!」
茜の悲鳴だ。ぶうん、と風を纏いながら、無数のロボが暦を捕まえにやって来る。その大群は暦にとってある種の恐怖を与えた。
「暦」
切なげに呼ぶ声が耳に入りこんでくる。
ぎゅっと瞼をとじ、刹那に考えを迷わす。
すると、ふと頭の中に真新しい記憶が再びよみがえった。
暦は本能で端末を起動し、そのデータを拳銃データに落とし込む。
もう無数のロボが目の前に迫っている。ああもう、と暦は璃桜に振り向き、泣きそうになるのをこらえながら銃口をつきつける。
暦の顔が葛藤に歪む。それに対して、璃桜は穏やかに微笑んでいた。それを待っていたかのようだった。
「――ごめん、璃桜!!」
ロボの手が暦に触れるよりわずかに速く――――
暦は、璃桜に向けて、
引き金を引いた。




