二十一:第二形態・憑依型異形
暦は本能でその場を離れようとした。が、相手の方が早かった。
気づいた時には足を掴まれ、盛大に転ばされる。
「ぶっ!」
ロボの足に絡みついていた黒い手だ。受け身が取れたのは本当に幸運だった。
「暦!」
異変に璃桜が気づいたようだった。
「な、何ですか? 何事ですか!?」
「動くな!! ロボは破壊したけど異形が地中に潜ってる! 下手に動くと引き摺り込まれる!」
暦はやけになって璃桜と茜に叫んだ。いや、下手に突っ立っていても捕まるときは捕まるのだけれど。
「相手は」
璃桜が冷静に聞く。
「わからない。地面の下に潜んで生き物とかロボとか、動くものを捕まえて動けなくするタイプの異形だ、よっ!」
上半身を起こして、暦は足に絡みついた手を撃つ。一本の手が盛大に飛び散り死んだ。自由は得られたがのんびりしていられない。
今度は少なくとも十数本の腕が伸びてきた。
「やっぱ変だと思った! 私が簡単に倒せるなんてどうかしてると思ってたよ!」
「あ、あわわ……。どうしましょう……」
「落ち着け、飛鷹。きみは私から離れないように」
「で、でもでも! 暦さんが」
「ここからでも援護はできる。……いざとなったら救難信号を送ってきみだけ鳥居の外へ出ろ。私達への心配は一切不要だ。いいな」
「……っは、はい」
茜は覚悟を決めたようだった。
無数に伸びて来る手をかわし、暦はロボの残骸から距離を取ろうと動く。
ぱっと起き上がってがむしゃらに発砲しながら手をやり過ごす。撃っても撃ってもきりがない。
立ち上がっても他の手が暦の足を引っ張り転ばせる。そのたびに撃って殺して立ち上がるが、同じことの繰り返しでは攻めに転じることができない。
「っくそ、乱入なんていつものことだけどさ……」
依頼にあったロボあるいは異形の破壊を実行している最中に、乱入されることはよくあることだ。そのたびに切り抜けてはきたが、今回ばかりは生きた心地がしない。
璃桜の援護が見込めないからだ。茜を守らなければならない以上、どちらか一人は茜の近くにいなければいけない。
加えて相手は地中で息をひそめているのだ。地上に出て来てくれればやりやすいのに。
「璃桜! 飛鷹さんを鳥居の外へ避難させて! 済んだら戻って私と戦闘!」
「了解。死ぬなよ」
「わかってるさ」
後ろで茜の声が聞こえたが、それを一切無視した。今は取材に応じている余裕がない。優先すべきは若き記者の安全だ。
「暦さん! 終わったら、たくさんお話を聞かせてもらうんですからねー!!」
「快くお引き受けしますとも!」
死ぬな、という茜の激励だ。暦は笑って、目の前の見えない敵に立ち向かうことにした。
改めて状況を確認する。
目の前には武力ロボの残骸。これはもう動かない。
それを取り囲むように、また自分を捕らえようとする無数の黒い手が地中から伸びている。ほとんど無傷の地面からすり抜けている。そういう性質を持つんだろうが、意外にも実弾は効いた。
二十組ほどの手のうち半分は武力ロボを取り囲み、残りの半分は暦を狙ってくる。
異形の襲撃は暦を捕まえようとするだけで武器を持たない。それだけが救いだった。
うごめく手を全てかわし、手を撃って数を減らす。が、地中の本体がいるからか、撃っても撃ってもまた生まれて来る。それどころか一本消し去ったら二本生えて来る。
こうなれば、地中の本体を引きずり出して破壊するのが最善といえる。暦は頭の中で戦闘を思い描く。強い爆発物でもって地面を破壊すれば勝機は見えて来る。あとは戦力の璃桜が戻るまではとにかく生き残ることだ。
「…………んな」
暦は間抜けな声を漏らした。相手の力を見くびっていた自分を呪う。
後ろでロボを囲んでいた手が行動に出る。
攻撃する手段を持たない異形が力を得るとしたら、どんな方法をとる?
攻撃する手段を持つ何かを、その手で操ってしまえばいいのだ。
武力ロボはじっくりと無力化されていたのだ、あの異形によって。
だから暦が対峙した時は、本来の力を発揮することができずあっさりと打ち負かされてしまった。
異形はそれが狙いだったのだ。完全に無力化したロボであれば、手中に収めることができる。
暦がロボを破壊することを最初から見越していたんだ。何という策略家だろう。
暦もロボも、はめられたのだ。




