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早智さんは諦めない!  作者: じいちゃんっ子


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そんな渾名で呼ばせない。

 中学の卒業式から10日過ぎ、雄一君と運命の出会いを果たした私だったが、あの日から4日、彼と会ってない。


 隣の部屋に居るのは分かっているが、用事もないのに会いに行くなんて、そんな度胸ある訳がなかった。


 そんな気持ちを抱えた水曜日、私は友人二人と高校の制服を受け取る為、学校近くにある指定の洋服店へ来ていた。


「どう?」


「似合う、美幸可愛い!」


 着替え室のカーテンが開き、友人の一人有珠田(うすだ)美幸は片腕を首に回してポーズを決めた。

 明るい性格で容姿も優れた美幸は絵になる。

 きっと高校でも人気者の地位を確立するだろう。


「栞、終わった?」


「うん、どうかな?」


 隣のカーテンが開くと、はにかんだ笑顔の女の子が姿を現した。

 もう一人の友人、加太栞。

 少し小柄、縁無し眼鏡の瞳が可愛い。

 小動物みたいな彼女も中学同様、人気者になるだろう。


「似合うよ栞可愛い!」


「ちょっと美幸…シワになるよ」


 美幸が栞の身体を抱きしめる。

 うん、美少女二人が戯れる姿は絵になるよ。


「早智は?」


「私は家で着るから」


「なんで?」


「なんでも」


 二人ほど似合わない、私が着たら惨めになる。


「ほらほら」


「ちょっと美幸」


「はい制服」


「栞まで…」


 美幸に背中を押されて着替え室に入る。

 これは着替えないと終わらないやつだ。


「…狭い」


 小さなスペースに身体を押し込め、栞から受け取った制服の箱を開ける。

 真新しい制服をハンガーに掛け、着替えを始めた。


「おっと…」


 身体を何度もぶつけながら着替えを済ませる。

 制服のサイズは大きかった。


「ど…どうかな」


 着替えを済ませカーテンを開く。

 二人は私を見て言葉を失っていた。


「…やっぱり似合わないよね」


 その反応で十分だ。

 サイズがピッタリだった美幸や栞と違い、私の制服はブカブカ。

 合格発表の後、制服の採寸に一緒に行ったお母さんが店の人に言ったのだ

 中学の制服みたいに3回も買い換えるのは勘弁だから大き目にしてと。


「に…似合う!」


「本当に…早智、モデルみたいだって!」


「お世辞はいいよ」


 そんな必死にならないで。

 自分の姿は自分が一番分かってる。

 制服を箱に戻し、再び着替えを済ませた私達は店を後にする。

 今から近くのショッピングモールで昼ごはんを食べに行く。


「あ、小佐さん」


「…今崎くん?」


 洋服店を出て少し歩いていると今崎雄一君が私を呼び止める。

 まさかこんなところで会えるなんて。


「小佐さんも制服を?」


「え…ええ…」


 ダメ、緊張で言葉が上手く出て来ない。


「そっか、僕は今日が採寸なんだ。

 急がないと入学式に間に合わないから」


「そ…そうでございますか」


 情けない、この前は上手く喋れたのに、外という環境のせいだ。


「あの今崎さんと言いましたか?」


 隣にいた栞が今崎君に話掛けた。


「そうですけど」


「小佐さんと、どういったご関係です?」


「関係って?」


「答えて下さい」


 美幸までどうしたの?

 早く二人を止めたいが、上手く声が出ない。


「4日前に小佐さんの隣に引っ越して来たんです」


「つまり単なる隣人ですね」


「そうだよ。

 まだここに知り合いが居なくて、つい話掛けてごめんね」


 美幸は雄一君を伺うように見つめる。

 雄一君ごめん、二人に悪気は全くないの。

 私に勇気があったなら…


「こっちこそごめんね今崎君、私達何か誤解してたみたい」


「大丈夫、小佐さんまたね」


「…はい、また」


 言葉を絞り出し、雄一君に頭を下げる。

『気にしないで』彼はそう言った気がした。


「なんかごめん」


「ごめんね」


「いいよ、私は大丈夫だから」


 雄一君の後ろ姿が見えなくなると二人が私に謝った。

 でも悪いのは私、ちゃんと説明出来てたらよかったのに。


 その後、ショッピングモールにあるイタリアンレストランに入り、注文を済ませる。

 後で頑張って雄一君の家に行ってさっきの事を説明をしよう。

 そればかり考えていた。


「早智、今崎君って本当に単なる隣人?」


 ドリアを突きながら美幸が聞いた。


「そうよ」


 私はピザをぱくつきながら返す。

 他に説明のしようがない。


「本当に?

 また男の子に揶揄われたりとかして、早智が傷つくのやだよ」


 フォークでパスタを丸めながら栞が呟いた。


「大丈夫だって」


 二人共そんな心配しないで。

 確かに揶揄われたが、そんなに傷ついてない。

 どちらかというと、私のデカい身体が人の注目を集めてしまう方が気になってしまう。


 あのアホが広めた渾名なんか、高校に入れば言う奴も減って行くに違いない。

 高校入試の時に聞こえたヒソヒソ声。


『あれがカーネル…』


『…マジでけえ』

 アイツらが落ちてる事を祈ろう。


「でも彼、格好良かったね」


「うん確かに」


 二人はうんうん頷いている。

 さすがお目が高い。


「今崎君だっけ、どこの高校?」


 なんで美幸が食いつく?


「私達と同じ三国谷だけど」


「へえ試験の時見なかったわ」


「あのね」


 栞まで、入試に集中してなかったの?


「引っ越しの都合で編入試験だったそうよ。

 だから私達とは別の日だったの」


 編入試験で高校の入学式に間に合う学校が三国谷しかなかったから決めた、お母さんからそう聞いた。


「三国谷を編入で合格?

 それって凄くない?」


「凄いよ、天才じゃん」


「確かに…」


 そういえばそうだ。

 三国谷高校は偏差値が72あって市内でもかなり難しい学校。

 更に編入となれば合格は更に難しくなるだろう。


「早智、知らなかったの?」


「まだ一回しか会った事ないし」


「あんな格好いい男の子が隣の家に居て、たった一回?

 連絡先の交換もしなかったの?」


「うん…忘れてた」


 呆れたように美幸は言った。

 本当は携帯を取り出せなかったの、ハードルが高過ぎるよ。


「仕方ないよ、だって早智は」


「そうだった、ごめん」


「良いってば美幸」


 私は男子が苦手と言いたいのだろう。

 否定はしない、でも本当に苦手なのは、男女問わずヘラヘラ調子に乗ってアホに同調する奴等だ。


「カーネルじゃんか」


「げ…」


 嫌な奴にあってしまった、まさかアホもここに来てたなんて。


「カーネルって?」


「コイツの渾名、デカいだろ?

 だからカーネル」


「うわ酷え」


 アホの隣に居た男子も笑う。


「ちょっと止めなよ」


「迷惑になるでしょ」


 美幸と栞が立ち上がる。

 二人共アホが大嫌いだった。


「なんだカダフィとムスカ、お前等いつもカーネルと一緒だな」


「なんだカダフィとムスカって?」


「加太だからカダフィ、有珠田だからムスカ、カーネル繋がり、上手いだろ」


「ハハハ」


 アホ共は益々調子に乗る。

 私は何を言われても構わない、でも親友にまでそんな事を言うなんて…


「…何が面白いんだ」


「あぁ?」


 アホの後ろから感じる凄まじい殺気。

 まさか、なんで彼が?


「今崎君…」


「ごめんね、たまたま店内で見かけて」


 今崎君は殺気を収め、私に笑った。


「なんだテメエ?」


「関係ねえだろ」


 アホ共が今崎君に凄んだ。


「関係ないか…ならお前は彼女達と関係あるのか?」


「お…俺はカーネルと保育園からの腐れ縁だ」


 アホは何を言ってる?

 よく見ればアホの足元が震えてる。

 家で父さんが母さんに睨まれてる時みたい。


「まさか怯えてるの?」


「何だと?」


「誰がだ…」


 思わず出た言葉にアホ共はまた凄むが、勢いは完全に失われていた。


「そうよ、アンタ早智にフラレたからって女々しいのよ!

 幼馴染?だったら何よ。

 幼馴染はみんな結婚しなきゃ行けないって、アンタ本当に思ってるの?

 頭大丈夫?」


「大丈夫なはずないよ、それなら私達の高校を不合格になってないから」


「言うわね…」


 なんか凄い。

 よほど溜まっていたのか。


「お前ら!」


 秘密を暴露されたアホがこっちに来た。

 もう一人は…


「付き合いきれねえ!」


 帰ったか。


「俺はつまらん事を吹聴する奴が大嫌いなんだ」


「は?」


「謝れ…小佐さんに」


「お、お前に関係ないだろ」


 凄い殺気。

 母さん、いやそれ以上かも。


「止めないと」


「うん、早智お願い」


 二人が呟いた。


「雄一君止めて!」


「小佐さん…」


 雄一君が殺気を引っ込めると、私達を注目していた店内の人達の空気が緩んだ。


「あああぁぁ…」


 アホは店から逃げ出した。


「…僕も帰るよ、ごめんね小佐さん」


「ううん、助けてくれてありがとう」


 今崎君は静かに店を出ていく。

 彼に何があったんだろう?

 家に帰ったら母さんから聞こうと思った。


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