第9話 知らない方の宮沢先輩
「言わずとも僕には分かる」第9話です。
お読みいただきありがとうございます。
「やっぱりお前も見たいんじゃねえか。」
「お前がハーレムを馬鹿にしてくるからだわ。」
それを聞くと福島は軽く眉を持ち上げて目線を正面に戻した。
『そういう風に聞こえてるのか。
やっぱこいつ面白いな。』
僕らは学校を目前にしておいて寄り道をした。
まだ時間に余裕があるのを差し置いても不毛だと思ったが、成り行きで着いてきてしまった。
「お、宮沢先輩の家あったぞ。
あの赤い屋根だ。」
十字路に差し掛かると福島が左の曲がり角に構えた家に指先を向けた。
宮澤と書かれた表札は御影石でできているし、面積も都心のアパート一棟と同じくらいはありそうだ。
庭も広くて仲町の中では最上位の様相を呈している。
意外と金持ちだったんだな宮沢先輩、と思った。
だが僕が周りを見渡してもそれっぽいカーブミラーはどこにもない。
「どこにあるんだ?
その部屋が見えるミラーは。
この十字路のミラーじゃとても家の中が映る角度にはならないぞ?」
「あれ、おかしいな~?」
福島がどこかとぼけた態度で不細工にキョロキョロとするので、僕はこいつのくだらない遊びに付き合わされているのではないかという疑念がほとんど確信に変わった。
もう勝手にやってろと福島に言いかけたその時、玄関のドアがガチャと開いた。
宮沢先輩!?
このままでは宮沢先輩の近所をうろつくストーカー紛いの不審者となってしまう。
福島のシャツの袖を掴み、近くにあった小さいゴミ置き場の空いたスペースに飛び入って身を隠した。
「相変わらずすごいスタイルだな。」と福島がニヤリとして言った。
確かに。
顔は別に僕の好みじゃないけど高校の中でもかなりのグラマラスボディだと言える。
僕は基本的には顔のタイプを一番重視してるが、ハーレムなら一人くらいそういう枠が欲しくて声を掛けた覚えがある。
まあ他と同じく長続きしない結果だったわけだが。
というか寧ろ宮沢先輩は世間に疎く僕が学校の色んな女子にアプローチしているという情報を最初は一ミリも知らなかった。
後々知った時には「この汚物人間」等と強めに罵られた。
やっぱり先入観が好印象な所だけだった分、イメージ通りじゃなかった時の落差がデカいという事なのかもしれない。
「なんか今日の宮沢先輩、制服違く無いか?」
そう言われて僕は改めて彼女の姿を物陰から覗く。
すると確かに緑丘高校の深緑のスカートではなく、青っぽいストライプ柄の見知らぬスカートを身に着けていた。
うちの高校は公立だし複数のスカートを取りそろえるようなお洒落度は無かったはず。
「あんなスカートうちの高校にあったか?」
と福島に確認する。
「いや…。
聞いたことがある。
宮沢先輩は双子らしいって。
違う学校なんだろうが、あんなに瓜二つとはな。
あれが一卵性ってやつか。」
「マジか!
初めて聞いた!」
いくら何でも似すぎだろ。
同一人物にしか見えない。
掛けてる眼鏡まで同じような気がする。
双子の神秘性に胸を突かれながらも、どこかぼんやり眺めていた僕だったが次の瞬間、目が覚めるような考えが脳裡をかすめた。
いや、という事は…。
待てよ?
宮沢先輩は元々彼女にしたかった人の一人だったが振られて諦めていた。
でも別人という事はこの目の前に居る宮沢先輩は僕のことを汚物だと知らない?
ならもう一回チャンスがあるじゃないか。
双子で性格が似てるならイケる。
この前の経験を活かせば失敗は繰り返さない。
僕はすくっと立ち上がって福島の方へ向き直った。
「おい福島渉。
覗きなんかもうどうでもいい。
俺ちょっと行ってくるわ。
先生には電車の遅延で遅れるとでも言っておいてくれ。」
やっぱり今日は良い予感がしてたんだよ!
声作って来て正解だった!
「そっか~。
じゃあ俺は先に行くぞ。」
と呑気に言う福島を置き去りにして僕は緑丘とは反対方向へ進むもう一人の宮沢先輩を追った。
~~~
「すみません。(吐息強め)」
僕は宮沢先輩の進行方向へ先回りして曲がり角から出てくると爽やかに話しかけた。
走ったせいで弾む息は気合で隠す。
飽くまでも偶然のすれ違いを装うのだ。
「私最近この辺に引っ越してきたばかりで道に迷ってしまいまして。
緑丘高校に行きたいんですが教えてもらえませんか?」
——ドクンドクン。
めちゃくちゃな嘘だがそんなことは当然もう一人の宮沢先輩は知らない。
内容よりもその声に滲む端正な質感に思わず彼女が頬を緩めたのを僕は見逃さなかった。
オーラルフィールドが効かないタイプでは無さそうだ。
ダメなら一応撤退を視野に入れていたがこれまで効かなかった女性はいない。
みんなが骨抜きになるに決まっている。
「緑丘高校ですね。
姉の通ってる高校です。
私が通って来たこの道を真っすぐ進んで突き当りで左に曲がるとスグ正面に見えますよ。」
なるほど、妹だったのか。
宮沢先輩(妹)は朗らかに教えてくれた。
「ありがとうございます。」
そう言って僕は彼女の前でフラっとよろめいて見せた。
「大丈夫ですか?」
立ち替わって差し迫る表情で彼女は心配の眼差しをこちらに向けた。
もちろん作戦だ。
「すみません。
こんなに可愛いお姉さんが親切にしてくれるものでちょっと感動してしまいました。」
「ちょっと何言ってるんですか?(笑)」
口では突き放すような語気があるものの、小躍りするような仕草はまんざらでもないと僕に分かりやすく教えてくれる。
もう一押し。
「学校なんてはっきり行ってだるいんですよ。
それより今はお前のことが気になる。」
彼女が泳がせている視線。
それが僕の目と合うまで一拍待ってから僕は決め台詞を言い放つ。
「俺と一緒に遊ぼうよ。」
最後までお読みいただきありがとうございました。
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