第8話 異色の遍歴
「言わずとも僕には分かる」第8話です。
お読みいただきありがとうございます。
寂れた駅前を少し離れるとこじんまりとした住宅街が現れる。
僕の学校はその中にあった。
まさにザ・郊外。
こんな感じの景色は多分全国どこにでもあるんだろうな。
ほら、この右手の通りなんか二階建てのモダンチックな家が四軒並んでいて、その奥に少し手の込んだ庭のある和風の家、その向かい側は駐輪禁止と書いてあるポールを正面に等間隔で並べた幅の広い茶色いアパート。
画像検索かけたらここ以外にも似た通りが数件はヒットしそうなもんだ。
僕はつかつかと歩いている途中、ふと喉に違和感を感じたのでおもむろに鞄からヘリウムガス缶を取り出して使った。
僅かだった残量を使い果たしてその缶はゴミとして鞄のインナーポケットに差し込んだ。
ここに来てもう一回ガスを使うのには理由がある。
オーラルフィールドの効果時間は当然ガスの効果時間と同じなので本来大した時間持たない。
だが継ぎ足して定期的に何度も吸う事でしばらく維持することができる。
そうすることで条件を満たす限り理論上は半永久に発動が可能だ。
だが維持とは別に問題があって、喉の負担がデカすぎて二時間も使ったら休憩を取らないとダメなのだ。
終わったらその日は必ず声が枯れるくらいの負担だから最低でも十分は欲しい所。
学校で誰かに声を掛ける時は大体放課後になりがちというのがあるので普段は温存していざというタイミングを見極めて使う。
昨日は陽菜との通話中に一回休憩せざるを得なかったが、今日は取り合えず登校中は問題なく維持できると思っていた。
だが今の所何もない。
普通の住宅地の中にある学校は当然何の変哲もない普通の学校。
顔面偏差値も別に低くも高くもないし可愛い子にはもう全員フラれてる。
一時間前は校外でとびっきりの美少女が僕の前に現れるかも、とか思ってたけど。
僕の予感は外れていたってことだな。
だから、本当は声を維持しても多分もう意味がない。
そろそろ学校に着いてしまう。
今は八時三十分か。
なんだかんだ、いつもと同じくらいの時間になりそうだな。
はあ。
あー、マジで帰りたい。
まだ門をくぐっても無いけどさ。
「よう。
久しぶり!
七月以来だな。」
そう聞こえるや否や後ろから誰かがガシっと僕の肩に手を回した。
突然の出来事に僕は思い切り飛び上がった弾みで前へ倒れこむ。
重力に引っ張られた頭が地面と衝突しかけたが、ギリギリ手を滑り込ませることができた。
色々危ない…。
「おい。
だ、大丈夫か?」
這いつくばる僕にツンツンヘアの男がそう言って手を差し伸べる。
百七十センチの僕より少しだけ背が高く、スラっと細長い手足で半袖ワイシャツが多分学校一似合うスポーティな容姿。
彫が深いそのモテ顔でこちらへ心配の眼差しを送っている。
僕はその気遣いをなおざりに自分の手で起き上がった。
「福島渉。
馴れ馴れしいぞ。」
「そのフルネーム呼び!
完全に蒼汰との高校生活思い出したわ~。
お前連絡してもエックツもミンスタも全然反応無いし生きてて良かったよ。」
「うっせえ。」と僕は目にかどを立てたがこいつは全然怯む様子がない。
「お?
今日は最初からイケボやってるんだな?
イカスぜ。」
よいしょなのか?
冷笑なのか?
マジなのか?
こいつの言ってることはいつも掴み所が無い。
「冷やかしうざいんだよ。」
「彼女はどうなんだ?」
と思ったらもう話題を変えてきた。
こいつは会話のキャッチボールを知らない。
一方的に豪速球か変化球の投球練習をするだけでキャッチャーは溜まったもんじゃない。
高校に入って唯一話すようになったのがこの男だが僕はいつも振り回されている気がしていた。
夏休みが終わって少し肌が焼けたこと以外は何も変わってない。
向こうは僕のことを友達だと思っているようだが僕は正直鬱陶しく感じている。
「お前が知ってるやつはもう別れた。
次に付き合ったリスナーにも昨日フラれたわ。
デートのタイミング見極め過ぎたのがあんな悲劇を生むとは。」
「学校じゃダメだったから次はリスナーってわけか。」
こういう所がな。
福島はヘラヘラしながらデリケートな話題にずかずか踏み入ってくる。
「何が悪いんだよ。
オーラルフィールドを存分に活かせる場所だろうが。
これを上手く使えば必ずハーレムに繋がる。
学校がダメなら俺にはもう配信しかない。」
僕はイライラしながら答えた。
すると、福島は漸くそのぴりついた空気を感じ取ったのか、一拍会話に間を空ける。
「何て言うか…。
皆お前の声に惚れてるのは確かだよな。」
「そう!
ガチでそれ!」
福島の言葉に僕は反射的に弾んだ声で同調した。
「四組の桜井や二年で巨乳の宮沢先輩、ロリキャラで人気な藤堂、学校で一番人気な高梨先輩も一度はお前の彼女だったしやっぱり魅力はあるわ。
後はどれだけそれが作り物だとバレないかが勝負だな。」
「本当にそうなんよな。
俺の考え的にはこのオーラルフィールドって維持し続けるのに二つの条件があると思ってて、まず一つ目は定期的にガスを使うこと。これについてはデート中であろうと上手くトイレって言って抜け出せばこの問題は基本的にクリアできるが一つだけ気を付けないといけないことがあって、それは映画館とかライブとかそういう抜け出しにくいコンテンツ。これらをデートプランに組み込むと最悪の事態になる可能性がある。実際それで途中でオーラルフィールドが切れて台無しになったパターンもある。だがそう言う時は事前に断っておけばいいだけの話で、ここまでの経験でどうやったら気まずくならずにデート内容を変えられるかなんて僕にとっては考えるまでも無い朝飯前のことだ。続いて二つ目の条件のことだが…。」
僕がペラペラと持論を語っている間、福島はニコニコと相槌を取って静かに聞いていた。
まるで舌が良く回る生意気な子供をあやすように。
気に入らない。
そういう態度に気付いた僕が押し黙るようになると福島はやっと口を開いた。
「そういえば、夏休みは何してたんだ?」
「…配信。」
「お~。
俺は陸上部の合宿やってたぞ。
あと、山梨BBQと家族で江の島行ってきた。
BBQはクラスのやつ結構いたし、蒼汰も出来れば来てほしくて誘ったんだけどな。
一応メッセージは見てくれただろ?」
「見たけど俺はそんなの全然興味ない。
やりたい奴が勝手にやればいい。」
僕が吐き捨てると福島も少しの間、口を閉じた。
沈黙もしんどいがこいつとはもう喋りたくない。
幸い、次の角を曲がればもう学校の正面だ。
時間は多少早いけどまあ構わないだろう。
「にしても配信継続してやってんだな?
凄いじゃねえか。」
まーた喋ってくる。
学校に居る時もそうだが僕と一緒に居る時は一層騒がしい気がする。
「別に今の時代普通だろ。
お前も偶にしてるじゃん。」
「それは見てくれてんだな(笑)
いや~、ミンスタとかで適当にしゃべくるのとは違うだろ。
ユーチューブは全世界に向けてやってるっていう感じじゃん。
仲間内でやってるのよりやっぱすげえって。
今登録者どのくらいいるんだ?」
「なんでそんなことお前に話さないといけねえんだよ。」
「はは。
そうやって不機嫌にしてるといいことないぜ?
せっかく良い情報持ってきてやったのによ。」
良い情報?
もしかして美女の友達を紹介してくれたり?
その魅惑的な言葉に心が動きかけた。
だが、こいつの下手に出るのは嫌だ。
よく考えれば福島の趣味なんて良くは知らないがこんな陽キャなんだから、どうせ僕とは全く考えが違うだろう。
そういう意味でも僕の知りたい情報を持ってるわけがない。
「…興味ねえ。」
「お前の元カノの宮沢先輩の話なんだけどよ。
あの人の家って学校の近くなんだよ。
だから、いつもと同じならまだ家は出てないし着替えもこれから。
で、ここからがマル秘情報なんだが、部活の先輩から聞いた話だと実はカーブミラーであの人の自室が覗けるらしいんだよ。
つまり、宮沢先輩の生着替えが見れるかもしれないぜ?
今ならまだ間に合うかも。
行ってみようぜ。」
そう僕に耳打ちしてゲスな笑みを浮かべる福島。
どっちみち話すのか。
しかもマジで大したことない情報。
時間の無駄だったわ。
「だから興味ねえって。
しつこいぞ。
しかも別にネットでそんなのいくらでも見たいの見れるだろ。」
「そうか。
分かった。
じゃあこれから俺一人で行ってくるわ。
ハーレムを目指してる割に生の女の裸も見たことない奴だもんな。
器の小さい男だぜ~っとお。」
最後までお読みいただきありがとうございました。
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