↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/31

第7話 誰のための英雄?

「言わずとも僕には分かる」第6話です。

お読みいただきありがとうございます。

 あなたへのおすすめでなんで《Zack 皇(すめらぎ)》が出てくるんだよっ。


 汗だくで手すりに掴まったオッサンがため息をつきながらハンカチで額の汗を拭く。

それを見るなり顔を険しくした大学生のギャル。

背中を向けてスマホを左手の人差し指でいじり続ける。

窓に向けて膝立ちしてロールスクリーンを上げ下ろしして遊ぶ小学生をギロリと睨みつけるOLぽい女性。

しばらく見なかった間も朝の緑丘線急行は特に何も変わっていない。

相変わらずどんよりとしたオーラが充満しているが、僕はそんなの気にしない。

それよりこれだ。

サムネは《聴くだけで堕ちる》と顔が下半分で見切れていて且つマスクを着用している男がこちら(カメラ)の方へ囁くようなポーズ。

Youjubeを開いてホームの一番上に出てくる動画がなぜこいつなんだ!?

Zack 皇(すめらぎ)は登録者六千人ほどの中堅でジャンル自体だけは僕と同じイケボを売りにしているストリーマー。

こいつは自称ハスキーな声らしいが僕からしてみたらハスキーでもなんでもない。

ただ吐息を多く使っているだけのだみ声のオッサンだ。

本当にオッサンかどうかは知らないが多分汚いオッサンだろう。

なぜなら見ててキッツイ所が多すぎるからだ。

中途半端に目元晒してオーラだけイケメン感出してくるところとか。

金持ちアピか?という感じの機材自慢もうざい。

ショートの切り抜きも質が悪くて数うちゃ当たる作戦がスケスケの割に承認欲求は一丁前。

サムネのセンスも悪いし。

僕のを見て勉強してもらいたいね。

自分の動画は確かに良く見返すが僕がこいつと似ているってことかYoujubeよ。

全然違うだろ。


 僕はこめかみを抑えながら舌打ちした。

多分周りから見たら陰鬱とした空気を放つサラリーマン中心の満員電車軍団の一員に見えていただろう。

不本意だが。


 電車に揺られてもう数分程。

後およそ十分で学校の最寄りに到着する。

イヤホンを取り付けて外界との接点を断つと僕はYoujubeでエゴサを始めた。

自分のチャンネルに動画とアーカイブがズラッと並んでいる。

一番上に表示される最新動画をタップした。

時間があればできる限り全てのコメントに良いねを付けるのが僕の日課だった。


 昨日の動画にはどのくらいコメントついてるかな?

最近百くらいで高止まりしてるから二百とかいってくれてると嬉しいんだけど。


 《~♪

満天カードマン♪》


 え、広告!?


 予想外の出来事に虚をつかれて声が出かけた。


 あ、規約の更新かなんかで自動更新一回停止したんだっけ?

今月分のプレミアムになってなかったか。

しくったな。

家帰ったらやっておこう。

広告はコスパが悪い。

確かにサブスクは少し値は張るけど動画収益から十分にペイできるレベルではある。

僕はこのYoujube戦国時代を生き残らないといけないんだから、こんなものにイチイチ時間を割いてられない。

時間は有限なんだ。

有効活用できない人間が勝てるわけない。


 《いきなりですが今満天カードに申し込むと八千円相当のポイントがゲットできちゃう♪

満天カード、皆様のおかげでナンバーワン♪》


 …。

早くスキップさせろよ。

十五秒は長い。

その間に二十個は良いねできるぞ。


 《キャー!》


 アングルが変わって女性が満天カードマンに向かって叫んでいる。


 《その声はA子さん!》


 《どこもメリットがあってどのカードにしたらいいのか分からない!》


 A子と呼ばれる女性は怪人役であろう着ぐるみを来た男に無理やり抱き寄せられている。


 《満天カードマン!

助けて、もうあなたしかいないの!》


 ——!


 A子が声を張り上げたその言葉に僕は思わず固まった。

もう広告をスキップできる秒数は過ぎているのにも拘わらず僕は指の動きを止めて小さい画面の中で行われる白々しいヒーローショーを呆然と見ていた。


 《お前はペイヘイ大魔王だな!》


 満天カードマンは怪人に指先を向けて糾弾する仕草を取る。


 《へっへっへ。

入会したらポイントゲットならウチだってやってるぜ。

しかもお前より二千多い一万ポイント!

A子さんはもらった!》


 そう言ってA子を連れ去ろうとする怪人へ向けて満天カードマンは勢いを付けて殴りかかった。


 《満天カードは負けてない!

満天カードは最初は八千ポイントだけどポイントの還元率が違う!

ポイントがザクザク溜まる!

還元を加味して使えるポイント総額の平均値はなんと一万三千ポイント分なんだ~!

(他社平均一万千ポイント)》


 《ぐわあ。》


 売り文句をこれでもかと詰め込んだラッシュ攻撃に怪人は倒れ、満天カードマンにお姫様抱っこされたA子はその顔を見上げた。


 《ありがとう!

流石、満天カードマン!》


 《安心と実績の満天カードで決まり!》


 満天カードマンが目元を挟むようにダブルピースを決めた絵で広告は終わった。

間を空けず、数日前に徹夜で編集した僕の最新動画“新!大人のASMR”が再生される。

好評だったシリーズの第二弾という事で気合を入れて収録したはずなのに、僕はさっきのヒーローショーが気になって「今日は寝かさないから覚悟しろよ」と流れてくる自分の声が耳に入らなかった。


 ヒーローとかダサいんだよ。

やってて恥ずかしいと思わないのか?


 悪の手からヒロインを助けるヒーロー。

広告が終わってしばらくしてもその気取った英雄の姿が頭にこびりついて忘れたくても離れない。

僕はつり革に捕まって立っているのに段々と貧乏ゆすりが大きくなった。


 …この広告もカードを作らせて財布のひもを緩ませようって魂胆だろ?

その結果借金で苦しむ人だっているのにな。

ヒーローとかほざきながら所詮自分のことだけ。

他人は知ったこっちゃない。

利用するか利用されるか。

なら僕だって賢く生きてやる。


 僕はハッとした。

なんて下らないことにムキになっていたんだろう。

気持ちを無理やり抑え込むとコメント欄を開いた。

数分、日課を続ける。

僕は握りしめた光る板に集中するあまり、「仲町駅、降車口は右側です。」といつの間にかアナウンスがかかっていたのに最初は気づかなかった。

セリフの終わり際をイヤホン越しにかろうじて拾った時には既に人混みを避けて扉の方に向かった人がぽつぽつとホームに出ていくのが見えた。

急いで網棚から自分の鞄を取り出して何とか電車を降りた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

もしよろしければ、ブックマーク・評価いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。