↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/31

第5話 恍惚の物憂げ

「言わずとも僕には分かる」第5話です。

お読みいただきありがとうございます。

 次の日。


「おはよう。」


 僕はやや日和り気味に挨拶する。

昨日ぶりに普通の地声に戻っていた。

リビングに来た千夏は正面に座った僕を見るなりムスっとした顔で「…はよう」と呟く。

二人きりの沈黙が流れる。

気まずい。

千夏は僕のことが嫌いなのはずっと前から知っているが昨日の一件でさらにそれが強まった気がする。

もう早く食べきってしまおう。

僕は残ったコーンフレークを牛乳と一緒にサッと喉へ流し込んだ。


「あれ?

 ママとパパは?」


 と千夏は部屋を軽く見回しながら言った。


「両方とも今日は仕事で朝早いってこの前言ってたよ。」


「あ、そういえば!

 忘れてた!

 私自分の弁当作らないといけなかったのに!

 …て、これ…?」


 千夏が見つけたのはテーブルの上に置いてあるお弁当。

僕が作ったものだ。

普段料理なんてしないからほとんど冷凍食品だけど。


「お兄が作ってくれたの?」


「千夏がここで母さんと話してる時に、じゃあ弁当作らないとって自分で言ってたのに今朝は起きてこなかったから…。

 今日僕しかいないんだからしょうがないだろ。

 我慢してよ。」


 そこで会話が滞ると再び居心地が悪くなってきたので「ご馳走様。」を言って席を立った。

忘れずにサッと食器を片付ける。


 そそくさと自分の部屋の方へ歩いていく僕の背中に千夏は後ろから声を掛けた。


「お兄、ありがと…。」


 絶対何か言われるとは思っていた。

だが、覚悟してたのとは裏腹にしおらしいセリフ。

振り向くと千夏はこちらに少し歩み寄ってばつの悪そうにしていた。


 !?

どうしたんだ?

急に態度変わるのガチで分からない…。

今日は機嫌良いのか?

昨日のことは忘れた?

…でも、逃げるなら今だ。


 少し面を食らいながらも再び粛清対象にされる前に「お、おう」とそっと言い残して足早にその場を去った。


 僕が部屋に戻ると千夏は作ってもらったお弁当を見つめていた。

『そういう所はキモくない…。

 そういえば、ママとその話してる時にお兄がいたのってリビングだっけ?』


 千夏はなんか引っかかる感じがしたが登校の準備が手つかずなことを思い出し、深くは考えず適当にこしらえた納豆ご飯を口に運んだ。


 ~~~


 はあ。

めんどくさい。

マジで学校行きたくない。

配信業で食っていく予定だし、学校の可愛い子には前期で大抵声かけてダメだったしで、もうあんまり行く価値ない。

ほぼ常にぼっちなのもだるい…。

でも…。

百人ハーレムを目指す男ならそれくらいの孤独に負けたくない。

ここで不登校になるのは負けな気がする。

それに見逃しているだけで可愛い子がまだいるかもしれないし、マジでめんどくさいけど一応行こう。


 僕は憂鬱を堪えてチェアを立つとクローゼットから緑丘高校の制服を引っ張り出した。

うっすらと被っていた埃を払う。

着替え終わるとパジャマはベットに放り投げた。

その足で洗面所へ。

うがいを済ませると、同じコップに今度は瓶からスプーンで掬った塩を入れて再び水を注いだ。

その時、プルルとポケットで僕のスマホのアラームが鳴った。


 アラーム…?

ん、あ、そうか。

今日は学校だよな。

消し忘れてたわ。

じゃあ塩水うがいもやらなくていい。

夏休み毎日配信だったからつい癖でオーラルフィールドの準備しちゃってた。


 歯磨きを始める。

だらっと俯いて重い目蓋をこすりながら鏡に映る自分を見た。


 うわ、クマが凄い。

昨日も大して寝れてないからな。

目元が真っ暗過ぎて笑える——。

——と思った。


 …でも待てよ。

逆にそれが結構イケてる?

配信界隈でもアンニュイ系とかダウナー系とかの人気はバカに出来ないからな。

寝不足のこの気怠そうさが良かったりするのか?


 クマをさすってみる。

口に歯磨きを咥えながら鏡に決め顔を見せてみたりする。

するとだんだん自信が付いて来た。


 あ、そうか!

千夏もこれを気に入って機嫌が良かった可能性もある!

ていうかそうに決まってる!

じゃなきゃ昨日あんなに怒ってたのに急に優しくなる理由が無い。

なるほど、そういうことか~。

やっとわかったよ。

それなら一応今日だけはやっておこうかな!

オーラルフィールド!

もし良い女子に出会えたらこれまでの子よりうまくやれるかもしれない。

そう考えたら確かにそんな予感もしてきた。

なんか今日は良い日になるかも。

よし、それなら早速準備しよう。


 善は急げ、だ。

僕は歯磨きをサッと終わらせると足早に自分の部屋へ向かった。

机の上の中身が残ってるヘリウムガスの缶をパッと手に取った。

鼻をつまみノズルを咥える。

プッシュボタンに指を添えて一秒ほどだけ押し込んだ。

するとあら不思議。

形容するには困るほどに特徴の無い凡声が絶世のイケメンボイスに変わった。

個人の意見だが男でも十人に一人は惚れてしまうくらいのレベルではある。

僕ならこんな声の奴惚れてしまう。


 ううん、ううん、と咳払いして自分の甘い声音を確かめる。

最後までお読みいただきありがとうございました。

もしよろしければ、ブックマーク・評価いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。