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第26話 違和感と焦燥

「言わずとも僕には分かる」第26話です。

お読みいただきありがとうございます。

「分かった、倉庫ね。

 ありがとう!」


 蒼井さんはあっさりと首を縦に振った。

話が終わると彼女は部室を出て僕が教えた方向へすたすたと歩いていく。

斑鳩さんで手間取ったのに比べてすごい呆気ない。

先ほど、僕は部室に誰も居なくなったのを確認するとその場で当惑していた蒼井さんに話しかけた。

変装した僕を見た時は流石に身構えられたが「水泳部で説明し忘れたことがある。一瞬顔を出して欲しい。」と伝えると「あ、水泳部の人ね!」とすんなり警戒を解いて何事も無く終わった。

チョロ過ぎて逆に心配になる。

素直な人なんだろう。

それも良い。

とにかくこれで二人を落とすための条件は全て揃えた。

今頃蒼井さんも到着して倉庫の中で待っていてくれている。

恐らく二人とも無言で気まずい雰囲気だろうが、そこは僕が中和しよう。

夏休み二十四時間耐久配信で鍛えた僕のオーラルフィールドとトーク力を見せてやるぜ…!


 誰かが戻ってくる前に僕も部室を出て変装を外す。

耳元からサングラスを取るその手は震えている。

僕は鼻息を荒くして浮き立つ心に精一杯おもしを効かせていた。


 さっきの放送室の件で校内は棒で突かれたハチの巣みたいになっているはず。

誰が僕を探しているか分からない。

誰にも見つからずに倉庫にたどり着かないとここまで積み上げた意味が無くなる…!


 やがて震えが静まるとマスクと一緒にポケットに収めた。

僕はこれまで以上に慎重に移動を始めた。

ゆっくりと確実に。

木の影、曲がり角、植え込みの中等、人の気配を感じる度にあらゆる物陰に身を隠した。

部室棟から一度出て西校舎に入り直しさっき使ったのとは違う通用口を出る。

そうして西校舎のピロティまでやって来た。

ここは裏庭に面している唯一のスペース。

この奥に倉庫がある。

もう目と鼻の先だ。

だけど僕はまだ気を緩めてはいなかった。


「——。」


 だから僕は咄嗟に近くの柱へ身を隠すことができた。

話声が聞こえたのだ。

三人の男女がピロティの反対側の角でつるんでいる。

ぱっと見チャラそうな雰囲気のグループだ。


 なんでだよ!

あと少しなのに!


 だが、少し様子がおかしい。

よく見ると男子二人はつるんでいると言うよりか怒られているようだ。

その女性は小林先生だった。


「…がってたでしょ!」


 みたいに言葉端だけしか聞けなかったがそれなりに強めの語気で何かを叱っている。

直ぐに説教は終わると二人はニヤニヤしながらこちらへ歩いて来た。

僕は柱の陰でこいつらの視界に映らないように横に足を滑らせた。


「あーあ、やっぱダメだったか。」


「俺らがナンパし始めた瞬間に小林来やがったよな。

 まるで誰かが直ぐに俺たちの事チクったみたいに。」


「センコーもあのねーちゃんにナンパするつもりだったんじゃね?

 俺たちに先にやられてくやちいね~(笑)」


「百合かよ(笑)

 引くわ~(笑)」


 と二人は話していた。


 あぶねえ~!

蒼井さんそこでナンパされてたのかよ!

あのねーちゃんって蒼井さんのことだよな!?

小林先生いなかったら終わってたじゃん!

僕にあんなDQNを追い払うなんて無理だった。

マジ危ない。

蒼井さんこんな一瞬で声かけられるとかちょっとモテ過ぎだよ…!

もうあと少しなんだから余計なドキドキは要らない!


 小林先生は二人が行ったのを見届けると息を吐いて項垂れていた。


「転校初日から校内でナンパだなんて。

 キャピキャピした子だけれど女子高出身で慣れてる感じもなさそうだったし不安だわ。」


 いい先生だな。

校長やあの茶道の先生とは違ってこの人は自分の仕事に誇りをもってやってるのが分かる。

実際、小林先生は意気込みが強くなりがちだけどクラスでの人気も高いしな。

今僕も隠れ支持派になったわ。

マジで助かった。


 僕は固く握った自分の拳を見つめた。


 そしてもうこれで分かった。

やっぱり今日はツイてる。

必ず二人とも落とせるって確信がある。

だから自信を持とう。


 小林先生がそこを離れたのを確認すると僕は堂々と倉庫の前まで歩いた。

腕は大振りで得意げな顔だ。

しかしその自信は強がりだった。

この時、僕の胸の内にはもやもやとした気持ち悪い焦燥感が渦巻いていた。

それを見て見ぬ振りをしていたのだ。

成功させるには何かが足りない気がする。

ノブを回し倉庫を踏み入るとそこには僕の違和感を裏付けるような光景が広がっていた。

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