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第25話 奇跡の可能性

「言わずとも僕には分かる」第25話です。

お読みいただきありがとうございます。


 せっかく作ったチャンスが…!

ここでしくじったら全てパーなのに!

だけど案内員達に姿を晒したらおしまいって条件がどう考えても厳しすぎる…!

頼む、奇跡…!

奇跡よ起こってくれ!


 ——奇跡。

その言葉の意味を知りたい。

部室の中に居る野郎どもが、突然腹がギュルギュルと鳴って用を催したり、突然推し配信者の生放送が迫っていることを思い出しておたおたしたり、突然恋人から別れたいとメッセージが入って面を食らったり、突然家族から祖父母の体調が急変したと電話が来て血の気が引いたり、全員が泡食ってバラバラとどこかへ消えていく確率。

学校で火事が起きたりとか武器を持った不審者が入ってくるとか学校にいる人全員が当事者になるような大袈裟すぎるラインではなく、蒼井さんだけがここに取り残される確率。

それは何パーセントだろうか。

一パーセントもある?

そんなの考えてみたいか?

答えは否。

言い切れはしないだけで起こり得ないことを奇跡という。

だから僕はこの言葉が嫌いなんだ。

そんなものに縋って何になる。

奇跡を願うなんてどうかしていた。

この状況を潜り抜けるには自分でどうにかするしかない。

何かあるはずだ。

諦めるなんて僕らしくない!

僕はその手で夢を掴むと決めたら最後まで抗い続けないと気が済まない。

どんなに恥をかいても、どんなに無謀でも、誰にも理解されなくても、だ。

途中でやめたくなるような苦しい努力でも厭わない。

僕は行動力バカなんだ。


 胸をドンと叩き自分を奮い立たせていた僕の耳にそれは飛び込んできた。


『ブツ、ザ、ザザー』


 最初は何か分からず、その音がスピーカーから出てきていると気付くのは一拍遅れた。

耳障りなノイズ。

数秒間流れると直ぐに消えた。

最初はテスト放送かと思った。

だがその後も何も無く、誰かが放送するわけじゃないらしい。

故障?

分からない。

だがこれが僕にとって唯一の武器になるということに今、気付いた。


 これだ!

これしかない…!


 僕は踏み面から立ち上がりこっそりと階段を降りると今日一番のスピードで西側校舎まで再び走っていった。


 ~~~


 生徒会が管理してる放送室。

もちろん誰でも立ち入れる所ではない。

昼休みに音楽を流したり、避難訓練や緊急放送、『○○さん、先生がお呼びです。職員室まで来てください。』みたいな呼び出しなど決まった要素でしか使わないので普段は鍵がかかっていて立ち入るには生徒会の承認が必要だ。

でも僕は誰からかは忘れたがこんな噂を聞いたことがある。

音楽室や科学室などの西側校舎にある特別教室は改修タイミングが遅れている関係で部屋内の設備も古いままだ。

中でも重要なのは掃除用具のロッカー。

鍵が付いているタイプで東側校舎の刷新された掃除用具入れとは全くの別物だ。

だが施錠はされないままロッカー内のフックに鍵が引っかけられている。

これがとんだ代物で、何とその鍵で放送室の鍵穴も回ってしまうらしいのだ。

放送室も西側校舎にあるので未改修のせいで錠前が古いのが原因かもしれないが、そんなことはどうでも良い。

とにかく今の僕には好都合。

そして西側校舎の中でも美術室。

ここは先生の鍵の閉め忘れが多くてかなり高い確率で不法侵入できる。


 僕は息せき切ってたどり着いた美術室の前、扉に手をかける。

戸を横に引っ張ると滑らかに開いた。


 ほら、やっぱり開いた。

あの先生何度注意されてもボーっとしてるから気を付ける気が無いんだ。

ま、こんな学校の美術室に侵入したからと言って何を盗めるわけでもないだろう。

そこは同感だ。


 そう思って美術室に踏み入る。

ロッカーに近づくと僕はあることに気付いた。

ロッカーが開いていたのだ。

しかもほとんど全開。

それが僕に妙な引っ掛かりを与えた。


 掃除した人が締め忘れたのか?

まあ多分それだけなんだろうけど…。

にしてもこんな開け具合なのを普通見逃すか?

超急いでてそんなことも気にならなかったのかな。

なんか気持ち悪い。

…でもここで引き返す理由にはならないな。


 僕は鍵を取っ掴んで再びダッシュ。

美術室のある三階から一階の放送室の近くまで来ると足音を忍ばせた。

放送室は生徒会室の真隣だ。

万が一にも誰かに入る所を見られるわけにはいかない。

だが、曲がり角から生徒会室を伺っても誰も出入りする様子が全く無い。

油断は出来ないが今日は人が少ないのか、何か取り込み中なのか、何なのか知らないがこれも好都合だ。

やはり風は僕に吹いているのかもしれない。


 気配を殺して歩み寄り放送室の錠前に掃除用具入れの鍵を差し込む。

やや固かったが確かに開いた。

中に飛び込んで扉をそっと閉める。

もちろん誰も居ない。

居たら困るがさっきのノイズが出てからまだ五分も経ってないので、さっきのはやはり故障だったのだと思う。


 僕はさっそく操作卓に近寄り『主電源』『全校舎』と手書きのメモが張り付けてあるボタンを順々に操作し後は『送話』と書いてある赤いボタンを押すだけになった。

マイクに口を近づけると僕は唾を飲んだ。


 これをやったら僕はどうなるんだろうか。

絶対にやばいのは確かだが、正直想像が付かない。

停学かもしれないしもっと重い処遇かもしれない。

だが、僕は行く。


 ボタンをグッと押し込むと、頭上の『放送中』というランプが赤く光った。


「あーえっと。

 大事な書類…残留届!

 残留届を出してない部活があります。

 サッカー部、野球部、バスケ部、卓球部、ソフトボール部、陸上部、剣道部。

 提出してない部活の活動は認められません。

 各部活員は全員生徒会室まで至急来てください!

 会長も激怒してます!

 生徒会室に今すぐです!」


 良し!

これでいい!

逃げろ!


 放送を切ると僕は放送室を出て全力で足を動かした。


「おいこら、てめえ待て!」


 生徒会室から出てきた誰かが僕の背中に大声を掛けたが僕はわき目も振らずにとにかく走った。

部屋を出て長い廊下を抜けて反対側の階段を下り外に出ると部室棟の非常階段までずっと。


「いった!」


 非常階段の踊り場で僕は派手に転んだ。

普段の運動不足で足がもつれたのだ。

だが、ここまで来れば安心のはず。


 追いかけて来る足音は校舎の階段を下る頃にはもう聞こえていなかったが、無我夢中だったのもありここに戻って来て僕は初めて息を整えることができた。

ズボンを捲って階段の角で擦った膝を見ると割と生々しい傷ができていた。

だが、痛みは感じない。

それほどに目は瞠って拳に力が入っていた。

僕はいつか千夏からもらった絆創膏を財布から取り出すと贅沢に二枚とも貼った。

そうじゃないと隙間ができて血が漏れてしまったから。

だいぶ黄ばんでいたが紙包装がきっちりしていたので清潔感はある。

貰った時に千夏がせっかくあげたんだから絶対に使え、と言ったので存在は頭の片隅にあったが使えて良かった。

でも一度に二枚使ったことを言うとそれはそれで何か言われるかもしれない。

聞かれても枚数のことは内緒にしておこう。


 ふう、と息が落ち着いて周りに気がいくようになると“それ”に初めて気づいた。


「あれ、残留届?

 私出したと思うんだけど…。」


「でも生徒会、ああ言ってる。

 あなた、出してない。」


「おかしいな~。

 絶対に出したのに。」


「いいから早く行くぞ。

 みんな、迷惑かかる。」


 一番手前の部屋から女子二人組が会話をしながら出てきて連絡通路のある部室棟廊下の方へ歩いている。

この部室はソフトボール部で多分、部長と副部長だ。

他にも続々と部室から人が出てきていて、中には小走りの人もいる。

もちろんサッカー部の部室からも。

その様子を僕は角から覗いていたがこの二階の部室だけでは無く上も下もドタバタと人が飛び出てくるのが聞こえる。

当然だ。

この学校の半分以上の運動部を生徒会室に呼びつけたのだ。

全部で百人近い。


 ソフトボールの部長に多分非は無いし僕は迷惑を超えた大迷惑人間だろう。

やばいことをした。

だが、狙ってやったことだ。

後先は何も考えていない。

今だけの高嶺にあと一歩でたどり着く所まで来たぞ。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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