第24話 どんだけ行くねん
「言わずとも僕には分かる」第24話です。
お読みいただきありがとうございます。
…先約が何かは知らないけどまだ三十分あるなら勧誘会の方は割と余裕見て帰ろうとしたってことだよな。
だとしたら地味に“したたか”なのかもな。
まあ僕は腹黒いのも歓迎だけど。
そういう子もハーレムには必要だ。
自分で誘っておいてそんな風に考えていたがすぐに頭をぶんぶん振った。
自分の置かれた状況の厳しさを改めて肝に銘じると変装を外して僕は駆け足で水泳部の方へ向かった。
プールは体育館の横にある。
ここからだと東側校舎に戻って体育館の連絡通路を使わずとも、一階から一度校庭に出て近くまで歩いて行った方が早い。
フェンスがあるからほとんど見えないけど枠下の僅かなスペースから覗いたり、声を聞いたりして蒼井さんがまだいるかどうかを確認しよう。
人目に付きにくい大きめの植木の下が良い。
そう思いながら荒い息で通用口をくぐって校庭に出る曲がり角に差し掛かった時、ちょうど体育館に併設してる部室棟の方へ向かう蒼井さんと出くわした。
誰か来るのは足音で分かっていたがまさかだった。
すれ違いざまに思わず声が出そうになった。
何とか堪える。
十人ほどの案内役も当然一緒だ。
斑鳩さんの時よりも運動部の比率が高く熱気が凄い。
「やっぱり水泳部にするんですか?」と一人が蒼井さんと話している。
僕は再びある程度距離を保ったまま一行の後をこっそりと尾け始める。
「んー、まあね。」
蒼井さんは明るく返事をした。
取り巻きは蒼井さんに夢中で僕には見向きもしなかったことは取り合えず救いだった。
プールの方から歩いて来たのを見るとちょうど水泳部の見学が終わったという所だろうか。
水泳部は本命だけあってやはり結構長くいたな。
ここで鉢合わなかったら学校中の運動部の活動場所をしらみつぶしに回っていただろうからそれもありがたい。
風が来ている。
斑鳩さんの方が上手くいった流れがまだ続いているのかもしれない。
「でも他の部活も少し見させて欲しいなー!」
ん?
「はい!それはもう是非見ていってください!
兼部でもなんでも大歓迎です!
まずはサッカー部はどうですか!?」
「ん、いいね。」
蒼井さんと話してる奴は眉に二本細い剃り込みを入れているが他は取り立てて特徴の無い男。
よく見ると僕の席の前の奴だった。
そいつに並んで歩いて「行きましょ、行きましょ。」と蒼井さんを炊きつけているのは二重顎のツーブロックでもみあげに寝癖が付いているやや小柄なポッチャリ。
前の席の隣の奴だ。
こいつら余計な事言いやがって。
なんか雲行きが怪しくなってきた。
「その後は是非野球部に来てください!」
「次はバスケ部!」
「その先は卓球で決まりですよね?」
他の取り巻きも蒼井さんに捲し立てた。
「うん、行く行くー!
今日は時間あるからたっぷり見るよ!」
おーい!
見すぎだろ!
水泳に決まったんだからそれでいいじゃん!
蒼井さんも全然渋らないな。
斑鳩さんとは全く逆のパターンだ。
まずいぞ。
これはまずい。
一行が学校の敷地の端にある部室棟の方へすたすた歩いていくのを僕は指をくわえて陰から見ていることしかできなかった。
~~~
もう様子見を始めて十分は経った。
マネージャー勧誘を受けていた蒼井さんの様子はというと相変わらず明るいが終始のらりくらりとした態度で入部するんだかしないんだかその意志は曖昧なまま。
それに当てられて剃り込み眉とポッチャリ、他のサッカー部員も一層勧めたてるのでまだ長引きそうだ。
今僕がいる非常階段から遠巻きに聞いていても部室内の沸き立ちが強くなっているのが分かる。
他の部活員もいる手前、本当は十五分で終わらせないといけないんだろうがこれじゃまた予定通りにはいかないんじゃないんだろうか。
それに斑鳩さんの時とは違って蒼井さんは他の部活にも意欲的に向かおうとしていてさっきの会話の野球、バスケ、卓球に加えて既にソフトボール、陸上、剣道が確定。
他にも行く可能性だって全然ある。
全部終わるのを待ってるんじゃ絶対に斑鳩さんのとの約束に間に合わない。
ここで足止めを食らう限り事態は悪化する一方だ。
僕は深く息をつくと宙に目線をさまよわせた。
何か手を考えなければならない。
そこで部室棟から十メートル程離れた校門の方をふと見るとあるものが目についた。
正面玄関の脇に止まっている黒塗りのラージセダンだ。
今この高級車の持ち主がこんな学校なんかに来てるのか?
…いや、決まってる。
斑鳩さんしかいない。
迎えの車を待たせてるってことだよな。
やっぱマジで時間が無い…!
直ぐにでも蒼井さんから取り巻きを引きはがさなきゃいけない。
だけどどうやって…!?
本人に帰る意思が無いと尚更厳しい…!
考えるんだ僕!
何か使えるものは無いか?
何か——。
その後も視線をきょろきょろと転がしても都合よく手がかりが見つかるだなんてことは無く、時間だけが無為に過ぎていく。
あれから五分が経ちサッカー部の勧誘の時間は終わりのはずだが、やはりまだ部室から蒼井さんは出てくる気配は無い。
まるで傾いた船の錨鎖が体に巻き付き沈むと酸素を求めてもがく様に僕は階段の角で息を詰まらせていた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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