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第23話 嘘の上塗り

「言わずとも僕には分かる」第23話です。

お読みいただきありがとうございます。

「斑鳩さん、さっきの茶道は見事でしたね。」


 痛々しいサングラス、マスクを身に着けた男が不意に現れ、虫唾の走るしゃがれ声で話しかけてくる。

斑鳩さんは後ずさりを何とか一歩に留めて「え、ええ。」と苦い顔でとっさに相槌を打った。

だが彼女は直ぐに調子を整える。


「ですが、あの場にいたのなら私の話もお聞きになったのでは?

 今日は予定がありますので恐れ入りますがお先に失礼させて頂きます。」


 だよな。

ここはそう言われるに決まってる。

だけど、さっきからめっちゃ考えても何も良い口実が思い浮かばなかった。

さっきの独り言も気になってるし。

取り合えず、ここはでたらめを言って引き留めるしかない。


 隣を横切ろうとする斑鳩さんの方へ僕は向き直る。


「ちょ、ちょっと待ってください。

 僕、あなたより茶道が上手い人を知ってます。」


「何です?」


「ですから、あなたより優れた茶道家を知ってます。

 斑鳩さんも素晴らしかったですが、よりすごい人を。」


 めっちゃ嘘だ。

オーラルフィールド使ってたらドクンドクンってやかましかっただろうな。


 斑鳩さんは僕のセリフを聞くと一変、険しい顔になり空気をざらつかせた。


「それがどうかしたんですか?

 いることにはいるでしょう。

 それに茶道で優れているとかいないとかそういうことを気にすること自体がナンセンスです。

 型は相手への誠意を示すための入口であってそれだけを丁寧にすればいいというものじゃ…。」


 やばい。

地雷踏んじゃったか?


 だが言葉を続けようとして斑鳩さんは表情を僅かに曇らせた。


「ただ私より優れてる人だなんて、いるならぜひ見てみたいものですけど。」


 いや、来た!

釣れたぞ!


「僕の知り合いにいまして、今日連れて来ることもできますがどうでしょう?

 会いたくはないですか?」


「…。

 確かに興味はあります。

 でも今日は予定があると申し上げたはず。

 またの折に是非誘って頂ければ。

 では、また。」


 ちょっと!

今日までの可能性があるからこっちは焦ってるのに!


「いや、その人も今日しか都合が合わないみたいで。

 そこを何とか曲げて貰えませんか?」


「なんでそんなに…。

 あなた怪しいですね。

 服装も。」


 やばい!

不審に思われたら作戦がパーになってしまう。


 斑鳩さんはもう今にも大声で目前のゲロボイスの不審者を告発してもおかしくない程、眉をひそめ肩を強張らせている。

僕はその鋭い目線に尻込みさせられるともう何も次に出すべき言葉が見つけられずに立ち尽くして目が泳ぎかけた…その時だった。

僕の脳裡にある可能性が閃いた。


 そうだ。

さっきの茶道部の体験の時。

蒼井さんから斑鳩さんに勧誘会のことを連絡してもらったと天文部の奴が言っていた。

そういえばそれは蒼井さんと斑鳩さんの接点は無いという情報とは矛盾する発言だ。

この謎を強引に推理するのであれば…、完全に無関係ではなくて二人は清峰でも一際目立つ存在でだからこそお互い同族嫌悪するような、なんとなく鼻につく関係だったのではないか?

ラインでも友達かもリストに名前があることはお互い知っているがあえて登録はしない、ちょっと気まずいアレが二人の間でも起こっていたのかも。

そして同じ学校に偶然仮転校することになり、天文部の奴の催促を受けた蒼井さんが重い腰を上げて斑鳩さんにメッセージを入れた、という可能性がある。

ただ、それなら話したことないとまでは言わないで知り合い、とかその辺で説明してもいいような気がするけどそこは人間関係だから言葉の綾というかフィーリングの所もあるよな。

この仮説なら一応筋は通るし、蒼井さんの存在を利用すれば足止めもできるかもしれない。

試してみるか。

というか、試すしかない。


「そういえば、蒼井さんも野球部の勧誘を受けていたみたいですよ。

 二人とも大人気ですね。

 流石です。」


「蒼井さん…?

 なぜ急に蒼井さんの話?」

 蒼井さんの名前を出した途端、斑鳩さんの目の色が変わった気がした。

ほんの少し視線を落としたのを僕は見逃してはいない。


「いえ、さっき校門で見たんです。」


「校門?」


「はい。

 野球部と言ったら校門前の広場でやってる筋トレ。

 緑丘の名物ですからね。

 始めたら一時間ぶっ続きですよ。

 一人でもメニューに付いてこれなかったら連帯責任で校庭を全員ダッシュは見ごたえ抜群。

 蒼井さんの食いつきも良かったし、斑鳩さんにも一目見てもらう価値はあるかな~と思って。」


 これも真っ赤な嘘。

だが、帰りたくても蒼井さんのことを避けてるならこれは嫌なはず…!


 斑鳩さんは唇を引き結んでやきもきした後、肩を軽く沈めてこちらに視線を戻した。


「先ほどの数寄者の話、よく考えたら私あと三十分位は余裕があります。

 それまでに連れてきて頂くことはできるんですか?」


「数寄者?」


「あなたが言っていた茶道が上手い方の事です。」


 来た!

やっぱり蒼井さんを敬遠してるんだ!

でも三十分!?

短!

でもやるしかない!


「は、はい。

 まあ大丈夫です。」


「分かりました。

 こちらで呼びに来て頂くのを待っていれば良いですか?」


「いや、その人もそれなりに有名人なので、そうですね。

 校舎裏の倉庫で待ってもらえますか?」


 僕はこの西側校舎裏、草むらや木々の中にポツンと建っている倉庫を窓越しに指さした。

鉄骨造っぽい躯体に格子に閉ざされた窓が正面と裏側に一つずつあるタイプの古ぼけたものだ。

布基礎はコケに覆われており、軒の出の方までツタが伸びている。

中は埃っぽいと断定できるほどの手つかず具合が外見にしっかり表れていた。


 にしてもなんであそこ?という気持ちを飲み込むように「分かりました。」と言って斑鳩さんは倉庫の方に向かった。


 よし!

あとは蒼井さんだけだ!


 斑鳩さんが立ち去ったのを確認してガッツポーズ。

だが、さっきの会話で少し気になることもあった。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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