第20話 このままじゃ終われない…!
「言わずとも僕には分かる」第20話です。
お読みいただきありがとうございます。
その後は先生も静かになりあっさりと全員で礼をして終わった。
茶道部に決めたかどうか、みたいな会話はしてなかったけどもう終わりそうな雰囲気してるな。
まだ十五分くらいだけどもう次に行きそうだ。
いや、普通に考えれば部活入るか決めるのは全部回った後に聞けばいい話か。
…それと、僕もここに居続けるのはマズイ。
移動しなければ。
あの階段の曲がり角が良い。
そこに身を隠してまた様子見するか…。
だけど、このままじゃジリ貧でどうにもならない。
次の部活に行くまで間、どこかで何とかして斑鳩さんとサシで喋る機会を作らないと…!
僕はサッと忍び足でその場を離れた。
斑鳩さんと茶道部の人がありがとうございました的な会話をしているのが背中の方から聞こえる。
その時だった。
「て、亭主方もやってみませんか?」
先生の切羽詰まった声が聞こえた。
「え?
ですが私、次の部活のご案内も控えてますので…。」
斑鳩さんは戸惑うように言葉を返した。
「そこを何とか…
そ、その流れるような振る舞いはここにいる皆さんもまだ見たいと思っているはず…!」
「ちょっと待てよ!」
先生がのっぴきならない雰囲気で斑鳩さんに頼み入るがそこに金髪が口を挟んだ。
「もう約束の十五分は過ぎてる!
お前らの好き勝手で斑鳩さんの時間の使い方決めるんじゃねえよ!」
チーズ野郎もそれに続いて口を開く。
「そうですよ!
次が詰まってるんだから順番は守って貰わないと!」
食い気味に振りかざされた正論。
案内人達の中で一人だけ、細長で切れ目の男だけがそれに反応して視線を落とした。
斑鳩さんはその男の様子を横目で伺っていた。
喋り出そうとするのを待っていたように見えた。
だが、ついにため息をついて軽く肩を落とすと斑鳩さんは「それは違うと思います。」と一同に告げた。
「え!?
どういうことですか!?」
チーズは慌てふためいて斑鳩さんに問い詰めた。
それを見て観念したように細長の男はようやく沈黙を破る。
「斑鳩さんは今日、一時には帰らないといけないらしい。」
「は!?
お前、城戸!
一時って後十五分しかねえじゃねえか!
どうなってんだよ!
斑鳩さんのアポ取り含めてお前ら天文部が勧誘会の幹事やるって言ったよな!?」
金髪はそう言って城戸さんに詰め寄る。
城戸さんは俯いたまま答えた。
「いやなんども連絡は取ろうとしてミンスタの方に何度もDM送ったんだ。
でも全然返答返って来なかった。
結局、今日蒼井さん経由でやっと連絡ついたけど聞いたら十三時までという…。」
「城戸。
そんな言い訳して本当は伝えてなかっただけだろ!?」
「いや、そんなはずは…。」
視線を泳がせた後に、城戸さんは覇気のない声で「あれ、どうだったっけ…?」とポケットをまさぐり始めた。
やがて見つけたスマホを夢中でスクロールしている。
「絶対そうじゃねえか!
使えねえ。
これだから天文部はカスなんだよ。
星なんか眺めて何になるんだ?
むしろ星ばっか見てっとその内、頭の周りに星が回っちまうんだよ。」
「は、ははは!
上手い、上手い!
馬になるよ、ヒヒーン。」
チーズが両手を馬脚に見立てて前脚を鳴らす仕草で金髪をおだてた。
城戸さんは金髪の煽りに勢いよく首を巡らせて反論する素振りを見せていたが、刺々しさが削がれてそれを呆然と眺めていた。
「なんだこいつ。」
なんだこいつ。
僕もそう思う。
業務用冷凍庫の一番奥みたいに冷たい空気の中、金髪はそのかじかむ口を辛うじて動かす。
「悪りい、こいつは、気にすんな。
これで太鼓叩けてると思ってやがる。」
「ハハハ。」
斑鳩さんが笑った。
可愛い。
その場にいた大半もそのピュアで清艶な笑みに見惚れて空気も温かくほぐれた。
だがチーズはお構いなしに騒ぎ立てる。
「いや笑ってるよ田村君!
僕のギャグで斑鳩さん笑ってる、田村君!」
「てめえ調子のんじゃねえよ!」
二人の寸劇に見かねた先生が荒々しい口調で切り込む。
「ちょっと、ふざけてる場合じゃないでしょ!
斑鳩さんはもう時間が無いんではないですか!?」
「お前は黙れよ!
お前は絶対に黙れ!
元はと言えばてめえがまだ何か斑鳩さんにして欲しいとかふざけたこと抜かすからだろ!
…ていうか、城戸もなんでそんなこと今まで黙ってたんだよ!」
「もう順番も決まっているから伝えてもしょうがないと思って。」
「何てめえの判断で決めてんだ!」
「伝えた所で斑鳩さんのスケジュールが何か変わるのか?
もうじゃんけんで順番決めたんだからそれで充分だろ。
次はもう英語部で決まってるし。」
じゃんけんなのかい。
順番、センスあるなと思ってたのに。
「え、英語部はどうなんですか?
良いんですか?」
と先生は取り巻きの中の一人、緩いウェーブ、ミディアムヘアでそばかすが少し目立つという見た目も英語部っぽい人に声を掛けた。
「あ、まあ。
私たちは、良い、ですけど…。」
「よ、よし、決まりだ
斑鳩さん、さあ準備を——。」
!
僕は盗み聞きを辞めてその場をとっさに離れた。
遠くで足音が聞こえた気がしたのだ。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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