第17話 作戦会議要請
「言わずとも僕には分かる」第17話です。
お読みいただきありがとうございます。
四時間目の数学Ⅰが終わった。
正弦定理を学んだ。
直接登れない崖上までの距離を知りたい時はsinを使うらしい。
だが、直接登れないなら下から距離を考える必要あるか?
知りたいのは登山道の長さでどうしても崖の高さを知りたいのなら登り終わってから崖上から巻き尺を垂らせば良いじゃないか。
…。
ていうかそもそも見上げずとも高嶺の花が二輪ともこの教室に咲いてる。
Sinもcosもtanも必要ない。
今だけは標高ゼロメートルだ。
今だけは…。
新学期一日目という事で今日は午前中まで。
後期の行事予定表と保険関連の書類だけ渡されてホームルームもあっという間に終わり放課後に入った。
半数ほどの人は日直の号令が済むと続々と教室を去る。
福島も密やかに「じゃあな~、頑張れよ~。」とだけ言い残して帰っていった。
もう半分は部活など午後の活動に備えて教室で昼飯を取ったり雑談なりスマホでゲームしたりと様々だ。
僕ものらりくらりと帰り支度をする振りでさりげなく自席から例によってギャラリーに囲まれた転校生二人の動向を探っている。
ホームルームが終わってからの僕は平静を装ってこそいるが、口は乾き胸の内に激しいざわつきが起こっていた。
ここでの選択を間違えちゃいけない。
パニクってデカいアクションを起こすよりとにかく様子を伺うんだ。
注意深く見ていれば他人目の無い所で二人と接触できるチャンスはきっと来る。
そうしてジッとしていると早速動きがあった。
斑鳩さんだ。
教室後ろのドア付近で立ち話をしていた所に廊下から現れた十人ほどの男女グループに声を掛けられ何ターンか言葉を交わした後、彼らと一緒に教室を出た。
僕はそれを確認すると席を立ちこっそりと彼らの後を尾ける。
ここまでは想定通り。
今は渡り廊下を抜け西側校舎二階、化学室や音楽室、国際交流室の並ぶ廊下を歩いている。
斑鳩さんと調子よく話す彼らは僕に気付く様子も全く無く順調だ。
だが、問題はここから。
もう事態はどう転ぶか分からない。
ぶっつけ本番。
咄嗟の機転でもなんでも使って何とか斑鳩さんを“あそこ”に誘導しなければならない。
何とか…!
~~~
「はい、出てきましたステップ気候。
ステップ気候は乾燥帯ですからね?
何がとは言いませんが出ますから教科書よく読んでください。
穴埋めでどの地域が~とか。」
白い眉毛の東雲先生は気怠い口調でそう言った。
クーラーの効いた涼しい教室にエロス皆無のハスキーボイスを囁く先生。
あまりに睡眠に適した環境なので受業が始まって十五分なのにも拘わらず教室を見渡すと既に十人ほどが意識を刈り取られていた。
斑鳩さんはと言うと相変わらず凛としている。
背骨に大樹のような芯が伸びていて一切ブレの無い姿勢を涼しい顔でキープしたまま授業を静かに聞いていた。
一方で蒼井さんだが、なんと普通に板書をノートに写している。
制服のウエストを改造する子なら受業なんて上の空でスマホを隠れて弄っているか、普段のエネルギッシュな振る舞いの反動で居眠り軍団に加わっても良さそうなものだったがそれは僕の無礼な思い込みだったみたいだ。
初対面時のひまわりみたいな明るさとのギャップが凄い。
だが、僕はさっきの出来事で頭が一杯でその魅力に思いを馳せることは出来なかった。
この二時間目が始まる直前に聞いた仮転校のことだ。
僕は開いた地理の教科書を眺めてるように見せかけて焦点を文章に合わせてはなかった。
受業なんかどうでも良い!
マジでやばい…!
あーやばい!
斑鳩さんがワンチャン今日までって…!
まだ喋ったことも無いのに?
もうこんな人、僕の人生で二度と出会えないかもしれないのに!
何もせずにこのまま転校されて終わりは嫌だ…!
そうなるくらいならもう玉砕覚悟だ。
放課後になったら人の目のある所だろうと特攻するしかない!
それなら校門か?
いや、出来れば屋内の方が良いな——。
ブー。
悶々としていた所で僕のズボンのポケットが震えた。
こっそりスマホを取り出して見ると福島からのラインだった。
何かと思って横目で見るとニヤついている福島。
机の天板の下に隠した僕のスマホを見るように視線で訴えかけてくる。
またコイツのバカげたお遊びだろう。
僕、本気で二人を狙っているってこいつに言ったよな?
わざと妨害してきてるのか?
僕が苦しんでいるのを楽しんでいるのか?
だとしたら余計に質が悪い。
今真剣に告白タイミング考えてるんだから邪魔するな!
僕はやつを睨みつけた。
だが福島は怯むことなくむしろよりゲスな目つきを返してきた。
こいつ許せねえ~!!
もう確信犯だ!
〇すぞ!
思い付く限りの罵詈雑言を書き込んでやろうと僕は通知をタップしてトーク画面を開いた。
だが、福島から来ていたメッセージは僕の想定とは違うものだった。
《俺はあの二人の放課後の行動知ってるぞ。
知りたいよな?
一旦作戦会議しようじゃねえか。》
僕がスマホを見たのを確かめると福島はすかさず手を挙げた。
「すみません、トイレに行ってきます!」
「いいぞ~行ってこい。」
あっさり東雲先生のOKをもらうと福島はこちらを一瞥もせず廊下の方へ消えていった。
なんであいつがあの二人の事を?
なぜ今になってそんなこと?
作戦会議って僕のために?
僕を翻弄するための嘘か?
だが今は藁にも縋る状況だ。
喉まで込み上げる言葉を全て飲み込んで僕も腕を高く上げた。
「おう神崎、お前もか。
ええぞ~。」
気づいた先生がそう言うと僕もトイレの方へ向かった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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